大正銀座ウソつき推理録 文豪探偵・兎田谷朔と架空の事件簿

アザミユメコ

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第四章 啼いて血を吐く魂迎鳥

第七話 憐憫㈠

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「それで、『わらべ屋』とかいう一座の調べはついているのか?」
「ざっくりとなら。座長と副座長は老夫婦で、その他に十二人。計十四人の集団で全国を巡業し、各地で見世物小屋の興行を打っている」

 兎田谷うさいだや先生は甘酒を片手に、鶯出うぐいで巡査の問いに答えた。
 酒を呑んで、祭りを楽しんでいるふりをしなければ聞き込みの際に怪しまれる──と仰っていたが、真偽は不明だ。

「直近の行程だが、十二月三十日は神田の五十稲荷、大晦日は小伝馬町の祖師堂にいたらしい。その前は関西を回っていたみたいだね」
「慌ただしいな。年末年始は見世物も書き入れ時か」
「そして先の予定は、一月二日は九段の靖国神社、三日は門前仲町の黒船稲荷、四日に移動してまた五日から地方巡業に戻るそうだ」
「アンタが言っていたとおり、本当に案外近くにいそうじゃないか。それで、今日は?」

 先生もこればかりは予想外だったようで、頬を掻きながら言った。

「いやぁ、それがさー、なんと元日は湊稲荷みなといなりにいるらしいんだよ」

 巡査と小弟は、思わず顔を見合わせる。

「我々が最初にいた場所でございますね……」
「全国を捜すどころか、派出所から歩いて行ける距離かい」

 縁日が夜開始だったため他の神社に移動してしまい、ちょうどすれ違いである。

 午前の時点ではまだぽつぽつと露店があるのみだった。
 仮設小屋を組む準備がされていたが、どうやらあれが我々の目的地だったようだ。まさに灯台下暗しである。
 聞き込みをしていた時間が朝でなければ、わずか数十分で依頼を達成していたかもしれない。

菖蒲あやめさんの手紙のなかにも、湊稲荷に関するものがあったよな」
「はい。六通目でございますね」

 六通目の絵葉書には、歌川広重『江戸自慢三十六興』に含まれる『 鐵砲洲てっぽうずいなり富士詣』の浮世絵が印刷されていた。
 日附ひづけ印は銀座にある京橋郵便局。
 そして、数え唄の六番目とも重なる。

 ──六つ村々鎮守様

 『村の鎮守ちんじゅ』とは一番目の一の宮と同じく、固有の神社を指すものではない。自分の生まれ故郷を護る氏神のことだ。
 竜子りょうこの娘、菖蒲は七五三を湊稲荷で祝っていた。ならば彼女にとっての鎮守様も京橋の産土神に違いない。

 六通目で故郷の東京に戻っているということは、やはり先生の推測どおり数え唄の順に移動して葉書を投函しているのは間違いないようだ。
 目的はいまだ不明であるが、第三者である我々が手紙を読んだのは偶然に過ぎない。やはり母の竜子に宛てたメッセージなのだと考えるのが自然であろう。

 鶯出巡査は「助けを求めているのではないか」と予想していたが、暗に自らの居場所を知らせる必要性──現在、ひどい環境に身を置いているのだとしたら、決して突飛な発想ではない。
 見張られているとか、閉じ込められているなど、嫌な想像はいくらでもできた。

 しかし、巡査自身の態度も少々気にかかる。単なる勘だけではなく、なんらかの裏付けがあり、さらに隠し事をしているように小弟には思えた。
 だが、先生の尋問でも口を割らなかったのをみるに、簡単には話してくれなさそうである。

 幼少時に火傷を負い、事情があったとはいえ親に売られてしまった。そんな生い立ちの娘がさらに哀れな境遇にいるなど考えたくはない。
 できれば杞憂であってほしかった。

 目の鼻の先にいたのも驚きだが、加えて明日は靖国神社だ。
 どうしたって『十は東京招魂社しょうこんしゃ』の一節が頭に浮かんだ。

「もしその娘が菖蒲あやめさんだったとして、十通目の手紙をだすなら……明日が絶好の機会ではないでしょうか」
「そうか? 手紙を出すだけなら、帝都にいるうちはいつでもできるぞ」
「う、たしかにそうですね……」

 交通の便がよい帝都なら、靖国周辺の郵便局に寄ろうと思えばいつでも実行できる。
 年末にいたという小伝馬町や神田にしても九段下のすぐ近くであり、その際に出すのも充分可能な距離であった。
 鶯出巡査に指摘されたとおり、日時を絞るのはなかなか困難のようだ。

「まあ、まずは噂の太夫たゆうが本人かどうか確かめよう。合っていたらもう手紙を追跡する必要もないし、依頼は終わりだよ」

 様々な思案を巡らせながら、我々三人は午前中に詣でたばかりの湊稲荷へ戻った。


 🐾🐾🐾


 見世物小屋の設営は、今朝見かけたときよりずっと進んでいた。
 すでに木材は組み終わり、通りに面した入り口側に巨大な布看板が垂れさがっている。オカルト雑誌の表紙に似た筆致の色鮮やかな絵が、風にはためいていた。

 一座の目玉は、さきほど先生が話していた『人間発火娘』。そしてもう一つ『野鳥娘』なる出し物があるらしい。
 左右に大きく描かれた姿は、とても人とは思えない。怪奇小説に出てくる怪人そのものであった。
 
 右側には、首から下だけ野鳥の体を持ち、木に掴まっている少女。こちらが野鳥娘だろう。
 そして左側は、皮膚は赤くただれて口から火を噴いている女が、蛇のような下半身で人間の女を絞めつけている図であった。

 人間発火娘──
 どのような芸なのか想像もつかない。このような化け物が、本当に我々の探している菖蒲なのだろうか。

 描かれているのはただの創作に過ぎないと理解しているが、おどろおどろしい絵から、写真で見た聡明そうな娘の面影は見つからなかった。
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