はじまりはガシャポンで!

米と麦

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77.宣戦布告-1

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 透き通った馬の背を鬐甲から腹に向かって掻っ捌く。液状の肉体を裂いたところで手応えは薄く、切った先からぐにゃりと形を変えてはすぐさま再生していった。

「投擲含め、物理はほぼ無効です!!副隊長は!?」
「こっちも同じだ!!……クォーツ、属性攻撃はどうだ!?」
「十段階で火炎が一、風がニ、氷が五!!雷が八で効果覿面だが、あいにく魔力不足でそこまで数を打てん。できれば得意な氷に全ブッパしたいところだ!!」
「いやお前、宮廷魔導士ならそこはもうちょいイケんだろ!!」
「ここに来るまでに魔法を使いすぎたホワイトアウトしすぎたもんでな!!」

 テオドアが小さく舌を打つ。馬鹿野郎と言ってやりたかったが、彼自身その魔法に世話になった分際なのでどうしようもない。あの様子ではおそらく魔力回復薬も持っていないのだろう、普段羽振りの良い戦い方を好むクォーツが珍しくかなり節制した戦い方をするのを見て、テオドアは渋い顔をする。

「フェリクス、お前の方は大丈夫か!?」

 はたと心配になり王子に声をかける。自分達は護衛として選ばれているだけあって、それなりに戦には慣れている。しかし彼はどうだろうか。皇族としてある程度の武術も教養の一つとして身につけているが、実戦経験は乏しいはずだ。

「ああ、その、割と大丈夫……なようだ……?」

 回答が疑問符で終わったのが気になり、彼の方を振り返る。テオドアはものの数分で自分の行いを後悔した。
 驚くことに一角獣たちは、フェリクスに対して攻撃らしい攻撃を仕掛けていなかった。彼の周りにはただの一匹が、やたらしつこく服の裾を引っ張って泉の方に連れて行こうとしているだけだ。その一匹はテオドアに見られていることに気づくと慌ててフェリクスを放し、申し訳程度に軽く小突いてすぐさまクォーツの方に逃げていった。まるで小細工を隠す小心者のようだ。
 護衛陣がやれ頭突きだ突進だを一身に食らっているのが嘘みたいに、王子には清々しいほどのハンデが施されていた。フェリクスが、それはもうものすごくやりづらそうに視線を逸らす。

「あの……なんかすまない……よく分からないんだけど、彼らは僕には危害を与える気はあまりないらしい」

 多分ローアルデの純潔だからかな…一角獣だし――そう続いた言葉を聞いてカチンときた。たしかに一角獣といえばローアルデの象徴であり守護神獣として民から祀られている。しかし、しかしだ。

「おまっ、それ……っ!!」
「なんだそれずるくないか!?」

 テオドアが喉元まで出かかって飲み込んだ言葉を、代わりにクォーツが叫んでくれた。凸凹コンビにしては異国血ゆえか珍しくツッコミで一致した瞬間であった。


「っっだぁ~~っ!!んだよもう腹立つなあ!!副隊長、こいつら回復までしてきましたよ!!反則だろ!!」

 遠くでジミルが苛立ちをあらわにする。物理攻撃しかできないながら頑張って善戦していたらしい。

「ある程度弱らせられても、あの泉から噴き上げてる水に戻ると全回復するみたいです。さっきまで鈍かった動きが嘘みたいだ。これじゃ俺らには勝ち目がないですよ!!」

 ……なるほど、あそこから生まれただけあって、あの凄まじい勢いの水壁の中にも入れるらしい。ジミルの報告を聞いて、テオドアにふと考えが浮かぶ。

(ジミルはいいことを教えてくれたな)

 純潔の王子を執拗に泉へ連れて行こうとする一角獣。彼らは水壁の中と外を自由に往来できる存在。ならば……

「……フェリクス、お前は俺と一緒にクォーツを襲ってるやつらの相手をしてくれ。さっきお前についてた一匹を見つけたい」
「?……あ、ああ、わかった!!」

 テオドアの急な指示にフェリクスが驚く。しかし何か策があるのだろうと、すぐさま応答してくれた。
 王子がクォーツの後方に回ると、読み通り一角獣の一匹が途端に彼に標的を移した。テオドアがにっと片方の口角を上げる。すぐさまフェリクスの方へと駆け出すと、一角獣と王子の間にするりと割って入った。

「クォーツ!!こいつの頭から背中まで凍らしてくれ!!」
「は?ちょ、お前……急に!!」

 困惑しつつも即座に詠唱を始め、的確な位置に攻撃を入れてくれた。さすがは宮廷魔導士と言ったところか。なにやらぷんすか文句を言っているようだがまあ無視でいいだろう。テオドアは迫り来る一角獣をすんでのところで避けると、それの凍ったばかりの背中に飛び乗った。

「!!」

 皆の目が一斉にこちらに集まる。飛び乗られた一角獣はなにが起きたかにわかには理解できず、その場をくるくると回り始めた。

(それもそうか。俺達が水の背中に乗れるなんて思ってないんだから)

「フェリクス!!お前も飛び乗れ!!」

 混乱している今がチャンスとばかりに、テオドアはすぐそばに立ち尽くす王子を呼びつけた。半ば腕を引っ張り上げるかたちで自分の後ろに着席させる。

「!?テオドア、一体!?」
「いいからいいから!!」

 半分液状の一角獣は裸馬同然、否、それ以上に乗り心地が悪い。鞍も手綱もなければしがみつく皮膚は冷たく凍り、足元は水でじゃぶじゃぶ濡れる。おまけに暴れ馬さながら荒れ狂うそれを、テオドアはなんとか操ろうと必死である。

「おーしおしおし……お前の客人も乗ったんだ。いい子だからいうこと聞けよ……フェリクス、こいつのケツかどっか撫でてやって」
「えっ!?…こ、こうか……?」

 言われた通りにフェリクスが一角獣の尻を撫でる。すると先ほどまで興奮状態にあったのが少しだけ落ち着いた。しかし、それも束の間のこと。一角獣はすぐさままた忙しなく動き出して背に乗るテオドア達を振り落とそうとする。

(やっぱり俺がいるとダメか?)

 テオドアが顔を顰める。激しく揺れる一角獣の背はツルツルと滑り今にも落馬しそうだ。

(だがあいにくこちらも譲る気はなくてね)

 かじかむ手で必死にくびにしがみつくと、テオドアは思いきり腹を蹴る。水で出来た身体にはまったく手応えを感じなかったが、それでも効果があったらしい。一角獣は大きく嘶き興奮気味に走り始めた。
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