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20.ガルムンド-5
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「蔑称……ですか?」
ビアが繰り返すと、モールはまた大きくため息をついた。
「………ええ。先ほど、ガルムンドは血気盛んな者が多いと言ったでしょう。その気性の荒さ揶揄して、ガルムンド人のことを“狼の血”と呼ぶ者がおります。象徴である狼を皮肉った蔑称です……野蛮で獰猛、遠回しにそう言っているのですね。……そして、“野犬の血”というのは、純然たるガルムンドではない、つまりはガルムンドと他の国の混血者を意味する蔑称になります。“犬”はその派生でしょうな。」
「それじゃあノイマン副隊長は……」
「彼はガルムンド人の父とローアルデ人の母を持つ混血者です。どちらも故人ですがね。……ローアルデは中立国ということもあり、他の二大国と比べ混血者は多い。……まあ、それでも数は知れておりますがね。混血に対する偏見は小さいつもりですが、ゼロではない。特にノイマン様は父方のガルムンドの血が濃く、その特徴が身体にありありと出てしまっている。……人々からの風当たりが強いのも、それが所以でしょう。」
身体的特徴、その意味を考えて、すぐにあの真っ赤な瞳が思い当たる。
「その特徴というのは、彼の目のことを言っているのでしょうか?」
「……ご名答。ビア様は鋭いですね。……歴史の話に戻りますが、三大国は元々、それぞれの始祖たる民族がおりました。そして、彼らは皆とても特徴的な瞳の色をしていた。芽吹く新緑を思い起こさせるローアルデの翠眼。深き海の底のようなルタリスクの蒼眼。猛き炎を煮詰めたようなガルムンドの紅眼……彼らの瞳の色はそのまま国旗へ記されたのです。……その目は普段から人並み外れて瞬いておりましたが、感情が昂った時にはとりわけ輝きを増しました。それはもう、人ならざるものかと思うくらいに。……そしてその特徴は今もなお、始祖の直系子孫やその血がより濃い者に脈々と受け継がれているのです。……我が国で言えばフェリクス王子が直系にあたります。」
フェリクスがそうなのか。言われてみれば確かに、瞳の色ははっとさせられる何かがあった。もっとも、彼の場合はそれ以外のパーツも特注並みに美しいので、そこまで気にならないなかったが。苗字もローアルデだし、まごうことなき直系なのだろう。
「………ビア様はご存知ないかもしれませんが。そして正直、あまりお話しするのも気が進みませんが…念の為。ガルムンド混血者のもう一つの蔑称を教えましょう。……柘榴石。これもまた、彼らへの蔑称にあたります。純血ではない、それに劣る、といった、純血を愛す一部の過激なガルムンド人からの忌避の言葉です。」
「そんな……何でそんなにっ!!」
ローアルデからも、ガルムンドからも疎まれるテオドア。その事実に、なぜかビアの胸が締め付けられる。
「どうして……どうしてそんなに皆、混血に当たりが強いんですか!?ノイマン副隊長が何かしたっていうんですか!?」
思わず声が大きくなる。でも、だってそうだ。テオドアがみんなに何をしたというのか。記憶の中のテオドアは、野蛮さ、獰猛さなんて微塵もない、穏やかで人当たりが良く、優しい青年だ。昨日は少し荒っぽかったが、あれはビアを守る為に仕方のなかったことだ。それこそあの不愉快な二人組の方が、よっぽど野蛮で獰猛じゃないか。なのに、それなのに……
声を荒げるビアに、モールはさらなる追い打ちをかけた。
「残念ながらビア様、ルタリスクやその他諸国に対する蔑称は、少なくともローアルデではありません。ガルムンド、およびその混血に対してのみこのような言葉が頻繁に使われるのです。」
「!?……なん、で………」
衝撃の事実に目を丸くする。なぜそこまでガルムンドを毛嫌いするのか。
「ガルムンドの荒々しい国民性が人々をそうさせるのでしょう。あの国を忌む傾向にあるのは、なにもローアルデにはじまったことではありません。かの国と対立しがちなルタリスクや、何かにつけ圧力をかけられる周辺諸国は、我が国以上にガルムンドを毛嫌いしている。……しかし、昨今はとりわけその差別傾向が酷くなっているのもまた事実。瘴気がより濃くなり、世界の治安、秩序が乱れてきているからでございましょうな。ガルムンドは諸方向に向けて不穏な動きを見せております。それゆえ彼らに対する警戒心が以前より高まっているのです。」
「でも……それはノイマン副隊長は関係ないじゃないですか……」
「ええ、全く関係ございません。ノイマン様は幼い時からローアルデの国民として迎えられ、育ってきた。……しかしビア様。人間というのは実に単純な生き物です。あのお方がどんなにローアルデの民を名乗っても、どんなにローアルデを愛していても、人々は彼の目一つでガルムンドと棲み分ける。……遠き東の国に“人は見た目が九割”という言葉があるそうです。なんとも皮肉めいておりますが、まさにその通りなのでございますよ。」
モールが鎮痛な面持ちで話し終える。ビアは到底納得できなかったが、これ以上話を続けてもどうしようもない気がした。鉛を飲み込んだかのように気分が重い。頭をガツンと殴られたような感覚に、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
ビアが繰り返すと、モールはまた大きくため息をついた。
「………ええ。先ほど、ガルムンドは血気盛んな者が多いと言ったでしょう。その気性の荒さ揶揄して、ガルムンド人のことを“狼の血”と呼ぶ者がおります。象徴である狼を皮肉った蔑称です……野蛮で獰猛、遠回しにそう言っているのですね。……そして、“野犬の血”というのは、純然たるガルムンドではない、つまりはガルムンドと他の国の混血者を意味する蔑称になります。“犬”はその派生でしょうな。」
「それじゃあノイマン副隊長は……」
「彼はガルムンド人の父とローアルデ人の母を持つ混血者です。どちらも故人ですがね。……ローアルデは中立国ということもあり、他の二大国と比べ混血者は多い。……まあ、それでも数は知れておりますがね。混血に対する偏見は小さいつもりですが、ゼロではない。特にノイマン様は父方のガルムンドの血が濃く、その特徴が身体にありありと出てしまっている。……人々からの風当たりが強いのも、それが所以でしょう。」
身体的特徴、その意味を考えて、すぐにあの真っ赤な瞳が思い当たる。
「その特徴というのは、彼の目のことを言っているのでしょうか?」
「……ご名答。ビア様は鋭いですね。……歴史の話に戻りますが、三大国は元々、それぞれの始祖たる民族がおりました。そして、彼らは皆とても特徴的な瞳の色をしていた。芽吹く新緑を思い起こさせるローアルデの翠眼。深き海の底のようなルタリスクの蒼眼。猛き炎を煮詰めたようなガルムンドの紅眼……彼らの瞳の色はそのまま国旗へ記されたのです。……その目は普段から人並み外れて瞬いておりましたが、感情が昂った時にはとりわけ輝きを増しました。それはもう、人ならざるものかと思うくらいに。……そしてその特徴は今もなお、始祖の直系子孫やその血がより濃い者に脈々と受け継がれているのです。……我が国で言えばフェリクス王子が直系にあたります。」
フェリクスがそうなのか。言われてみれば確かに、瞳の色ははっとさせられる何かがあった。もっとも、彼の場合はそれ以外のパーツも特注並みに美しいので、そこまで気にならないなかったが。苗字もローアルデだし、まごうことなき直系なのだろう。
「………ビア様はご存知ないかもしれませんが。そして正直、あまりお話しするのも気が進みませんが…念の為。ガルムンド混血者のもう一つの蔑称を教えましょう。……柘榴石。これもまた、彼らへの蔑称にあたります。純血ではない、それに劣る、といった、純血を愛す一部の過激なガルムンド人からの忌避の言葉です。」
「そんな……何でそんなにっ!!」
ローアルデからも、ガルムンドからも疎まれるテオドア。その事実に、なぜかビアの胸が締め付けられる。
「どうして……どうしてそんなに皆、混血に当たりが強いんですか!?ノイマン副隊長が何かしたっていうんですか!?」
思わず声が大きくなる。でも、だってそうだ。テオドアがみんなに何をしたというのか。記憶の中のテオドアは、野蛮さ、獰猛さなんて微塵もない、穏やかで人当たりが良く、優しい青年だ。昨日は少し荒っぽかったが、あれはビアを守る為に仕方のなかったことだ。それこそあの不愉快な二人組の方が、よっぽど野蛮で獰猛じゃないか。なのに、それなのに……
声を荒げるビアに、モールはさらなる追い打ちをかけた。
「残念ながらビア様、ルタリスクやその他諸国に対する蔑称は、少なくともローアルデではありません。ガルムンド、およびその混血に対してのみこのような言葉が頻繁に使われるのです。」
「!?……なん、で………」
衝撃の事実に目を丸くする。なぜそこまでガルムンドを毛嫌いするのか。
「ガルムンドの荒々しい国民性が人々をそうさせるのでしょう。あの国を忌む傾向にあるのは、なにもローアルデにはじまったことではありません。かの国と対立しがちなルタリスクや、何かにつけ圧力をかけられる周辺諸国は、我が国以上にガルムンドを毛嫌いしている。……しかし、昨今はとりわけその差別傾向が酷くなっているのもまた事実。瘴気がより濃くなり、世界の治安、秩序が乱れてきているからでございましょうな。ガルムンドは諸方向に向けて不穏な動きを見せております。それゆえ彼らに対する警戒心が以前より高まっているのです。」
「でも……それはノイマン副隊長は関係ないじゃないですか……」
「ええ、全く関係ございません。ノイマン様は幼い時からローアルデの国民として迎えられ、育ってきた。……しかしビア様。人間というのは実に単純な生き物です。あのお方がどんなにローアルデの民を名乗っても、どんなにローアルデを愛していても、人々は彼の目一つでガルムンドと棲み分ける。……遠き東の国に“人は見た目が九割”という言葉があるそうです。なんとも皮肉めいておりますが、まさにその通りなのでございますよ。」
モールが鎮痛な面持ちで話し終える。ビアは到底納得できなかったが、これ以上話を続けてもどうしようもない気がした。鉛を飲み込んだかのように気分が重い。頭をガツンと殴られたような感覚に、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
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