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第5幕 ~不要な罰~
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『報告です。社内試験に受かって、今月からトルコ支社に勤務することになりました!』
数年来やりとりのなかった愛からメッセージがきた。
華の家族との連絡は、路空のスマホに着信があることになっていて、やりとりの一切を彼が担当しているので、華自身は知らないが。
御殿上階の廊下で、じっと、路空はその画面を見つめる。
愛は金融アナリストとして証券会社で働いている。
その海外支店へ――栄転の形となる。
――よかったね。おめでとう!
と、華なら返しそうな一言を打ち込んだところで廊下に立ち止まる。
その要因を作った男がやってきたからである。
「う~ん、アンスンエンシスですか。素晴らしい季節の花が手に入りました。ぜひ華さんのお部屋に飾りましょう。ふふふ、この香りが華さんの高貴さを余計に引き立てるかと思うと、それだけで、隣町の花屋さんまで足を運んだかいがあったというもの……」
とまぁ、普段はただの変わり者なのだが。
ちゃちゃっとスマホをその眼鏡の前にふって彼の意識をここに戻してやる。
「なんですか路空。たった今美しいもので満たされている私の視界を無粋な文明機器などで塞がないでいただきたいのですが」
路空と、この男、湊とは犬猿の中でもある。
「いちいち目くじらたてんなって。お前の手柄で事が進んだのを、報告しようってんだからさ」
「ならばすぐに済ませなさい。回りくどいです」
餌をちらつかせても冷静なところが癇に障るのだ。
いつもなら買い言葉を返しているが。
「——ま、いいや。華の妹が無事トルコに行っちまうのは事実だしな」
湊の目が目の奥が細くなる。
「――そうですか。私はただ、きっかけをつくったにすぎませんが――しかし、作戦はいつでも完璧です」
くいっと眼鏡を持ち上げるポーズも、ついでに鼻につくが。
「けっこう薬に浸かってんじゃねーかと思うわ、この感じ」
「でしょうね」
愛が違法薬物に手を出していることが、上記のメッセージのどのあたりから明白かを説明すると少し、長くなる。
愛が華の香水を盗んだ後、湊は、密かにそれを薬物を紛れ込ませたものと取り換えた。
それはトルコの麻薬組織が唯一の生産元である。
よって大量に得るためにはトルコに渡らなければならない。
そのために愛は海外支店への希望を出したのだ。
トルコという国は、麻薬が全面的に禁止されている。
放っておいてもその行く末は見るも明らか――。
「とにかく彼女には華さんの視界に入らない、遠くに行っていただきたかったですからね」
路空は頷き、その場を後にしようと階段へ足を向ける。
昼下がりの、いつも通りの仕事の報告。
のはずだった。
ところが。
「そうだったんですね……。愛ちゃんがトルコに」
階段から上がって来た華と鉢合わせしてしまったことから、事態はややこしくなる。
「お前っ。今日は収録で遅くなるんじゃなかったのかよ?」
路空の追求に華はこくりと頷く。
「そのはずだったんですけど。思ったより順調に進んで、早く終わって」
湊が進み出て、自ら屈み込んだ。
「申し訳ありません、華さん、路空のタイミングミスで、こんな話を――」
だが華はゆっくりと首を振る。
「いいえ。これは、わたしも聞くべきことだと思います」
しん、と静まった廊下に、路空が見れば、華は黙って床の一点を見つめていた。
そんな彼女に湊が歩み寄る。
「華さん。大丈夫ですか? 震えています」
「いえ。今になって、後悔なんかしません。でも――」
右手で左腕をぎゅっと抑えながら、華は呟く。
「改めて。こんなにも深く、みなさんを巻き込んでしまったことが、感じられて」
「はぁ。ったく。まだそんなこと言ってんのかよ」
路空は大きく息を吐き、湊に支えられている華の眼前へ身を乗り出す。
「どうすんだ。じゃここでやめんのか?」
「それは……」
「依頼人のお前がしっかり覚悟持たなきゃ、俺たちは一歩だって動くことできねーんだぞ」
やれやれと、横で湊が小さく息を吐く。
「路空。一般の方々にとって我々の仕事の遂行過程はつらいものなのです。あなたも少しはそういった配慮を――」
顔を上げ路空が湊に淡々と告げたのは一つの事実だった。
「華のペースにあわしてたら、あの泥沼家族、一生のさばってるままだぜ」
「路空……!」
珍しく湊が言葉に詰まったタイミングで、華がおずおずと切り出した。
「すみません。少し、一人にしてください……」
数年来やりとりのなかった愛からメッセージがきた。
華の家族との連絡は、路空のスマホに着信があることになっていて、やりとりの一切を彼が担当しているので、華自身は知らないが。
御殿上階の廊下で、じっと、路空はその画面を見つめる。
愛は金融アナリストとして証券会社で働いている。
その海外支店へ――栄転の形となる。
――よかったね。おめでとう!
と、華なら返しそうな一言を打ち込んだところで廊下に立ち止まる。
その要因を作った男がやってきたからである。
「う~ん、アンスンエンシスですか。素晴らしい季節の花が手に入りました。ぜひ華さんのお部屋に飾りましょう。ふふふ、この香りが華さんの高貴さを余計に引き立てるかと思うと、それだけで、隣町の花屋さんまで足を運んだかいがあったというもの……」
とまぁ、普段はただの変わり者なのだが。
ちゃちゃっとスマホをその眼鏡の前にふって彼の意識をここに戻してやる。
「なんですか路空。たった今美しいもので満たされている私の視界を無粋な文明機器などで塞がないでいただきたいのですが」
路空と、この男、湊とは犬猿の中でもある。
「いちいち目くじらたてんなって。お前の手柄で事が進んだのを、報告しようってんだからさ」
「ならばすぐに済ませなさい。回りくどいです」
餌をちらつかせても冷静なところが癇に障るのだ。
いつもなら買い言葉を返しているが。
「——ま、いいや。華の妹が無事トルコに行っちまうのは事実だしな」
湊の目が目の奥が細くなる。
「――そうですか。私はただ、きっかけをつくったにすぎませんが――しかし、作戦はいつでも完璧です」
くいっと眼鏡を持ち上げるポーズも、ついでに鼻につくが。
「けっこう薬に浸かってんじゃねーかと思うわ、この感じ」
「でしょうね」
愛が違法薬物に手を出していることが、上記のメッセージのどのあたりから明白かを説明すると少し、長くなる。
愛が華の香水を盗んだ後、湊は、密かにそれを薬物を紛れ込ませたものと取り換えた。
それはトルコの麻薬組織が唯一の生産元である。
よって大量に得るためにはトルコに渡らなければならない。
そのために愛は海外支店への希望を出したのだ。
トルコという国は、麻薬が全面的に禁止されている。
放っておいてもその行く末は見るも明らか――。
「とにかく彼女には華さんの視界に入らない、遠くに行っていただきたかったですからね」
路空は頷き、その場を後にしようと階段へ足を向ける。
昼下がりの、いつも通りの仕事の報告。
のはずだった。
ところが。
「そうだったんですね……。愛ちゃんがトルコに」
階段から上がって来た華と鉢合わせしてしまったことから、事態はややこしくなる。
「お前っ。今日は収録で遅くなるんじゃなかったのかよ?」
路空の追求に華はこくりと頷く。
「そのはずだったんですけど。思ったより順調に進んで、早く終わって」
湊が進み出て、自ら屈み込んだ。
「申し訳ありません、華さん、路空のタイミングミスで、こんな話を――」
だが華はゆっくりと首を振る。
「いいえ。これは、わたしも聞くべきことだと思います」
しん、と静まった廊下に、路空が見れば、華は黙って床の一点を見つめていた。
そんな彼女に湊が歩み寄る。
「華さん。大丈夫ですか? 震えています」
「いえ。今になって、後悔なんかしません。でも――」
右手で左腕をぎゅっと抑えながら、華は呟く。
「改めて。こんなにも深く、みなさんを巻き込んでしまったことが、感じられて」
「はぁ。ったく。まだそんなこと言ってんのかよ」
路空は大きく息を吐き、湊に支えられている華の眼前へ身を乗り出す。
「どうすんだ。じゃここでやめんのか?」
「それは……」
「依頼人のお前がしっかり覚悟持たなきゃ、俺たちは一歩だって動くことできねーんだぞ」
やれやれと、横で湊が小さく息を吐く。
「路空。一般の方々にとって我々の仕事の遂行過程はつらいものなのです。あなたも少しはそういった配慮を――」
顔を上げ路空が湊に淡々と告げたのは一つの事実だった。
「華のペースにあわしてたら、あの泥沼家族、一生のさばってるままだぜ」
「路空……!」
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「すみません。少し、一人にしてください……」
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