50 / 67
第5幕 ~不要な罰~
2
しおりを挟む
その日の夕暮れ時。
まるで小公女のような小じゃれたケープをまとった少女が御殿の玄関に現れた。
「みなさん、ごきげんよう」
少女——実鳥はあどけなさの残る頬を上気させてぺこりと頭を下げる。
「すまない、学童帰りにどうしてもと聞かないので、連れてきてしまった」
夕飯時で、ダイニングには住人の大半が集っている。
詫びいる碧を前に、湊はくるりと手を回してみせる。
「これはこれは小さなプリンセス。いつでも大歓迎ですよ」
「湊おにいさま、大好き!」
ソファで眼鏡をかけて新聞を読んでいた澄春もにっこりと顔を上げる。
「今日は黄色のリボンなのかい? 素敵だね」
「わぁ、気づいてくれた。さすが澄春おにいさまだね。これ、ラブリー戦士のわたしの推しキャラのカラーなの」
いつものように、夕飯前にボールから手づからデザートを食べていた凪も、小さな来客に近寄ってくる。
「実鳥ちゃん、シュトレンはいかが? とってもおいしいよ。作ったのは路空だけど」
「凪おにいさま。いただきますっ」
「ラブリー戦士ってたしか華ちゃんの――」
「そう! 華おねえさまはみなみちゃんの真似がとってもじょうずなの! おにいちゃんもすごいと思うよね?」
差し向けらえた碧は、あいまいに微笑んだ。
「あ、ああ。……そうだな」
声を出している本人ということを知っているだけに気まずげに顔を逸らしながら。
「このあいだも、みなみちゃん推しグッズいっぱいもらって。今日はお礼に、これを届けにきたんだ!」
実鳥が誇らしげに掲げたビニールの袋には、飴色にすきとおったビーズのブレスレットが入っている。
「へー。ガキにしてはなかなかやるじゃん」
「路空~。わたしガキじゃないもん」
ぷくりと頬を膨らませる妹の頭を撫でながら、かすかに笑いを交えて碧が言う。
「実鳥、一生懸命作ったもんな。——それで、華さんは今?」
瞬間、路空がうっと言葉につまった。
代わりに湊がひきとる。
「すみません。碧さん。実鳥ちゃん。華さんはお部屋にいらっしゃるのですが、その、少し具合が悪いと言いましょうか……」
なにか察するものがあったらしい碧は、小さく頷いた後、実鳥に向き合う。
「実鳥。華さんはお風邪だそうだ。残念だがブレスレッドは、俺たちが渡しておくから、また改めて挨拶にこよう」
「ええ~……。でも、お風邪ならしかたないね……。華おねえさまに、お大事にって、伝えてね」
「偉いぞ。実鳥は優しいな」
「おにいちゃん。やめて。もう赤ちゃんじゃないよ……」
そう言いつつ、兄に頭を撫でられ、実鳥はえへへと頬を緩ませた。
まるで小公女のような小じゃれたケープをまとった少女が御殿の玄関に現れた。
「みなさん、ごきげんよう」
少女——実鳥はあどけなさの残る頬を上気させてぺこりと頭を下げる。
「すまない、学童帰りにどうしてもと聞かないので、連れてきてしまった」
夕飯時で、ダイニングには住人の大半が集っている。
詫びいる碧を前に、湊はくるりと手を回してみせる。
「これはこれは小さなプリンセス。いつでも大歓迎ですよ」
「湊おにいさま、大好き!」
ソファで眼鏡をかけて新聞を読んでいた澄春もにっこりと顔を上げる。
「今日は黄色のリボンなのかい? 素敵だね」
「わぁ、気づいてくれた。さすが澄春おにいさまだね。これ、ラブリー戦士のわたしの推しキャラのカラーなの」
いつものように、夕飯前にボールから手づからデザートを食べていた凪も、小さな来客に近寄ってくる。
「実鳥ちゃん、シュトレンはいかが? とってもおいしいよ。作ったのは路空だけど」
「凪おにいさま。いただきますっ」
「ラブリー戦士ってたしか華ちゃんの――」
「そう! 華おねえさまはみなみちゃんの真似がとってもじょうずなの! おにいちゃんもすごいと思うよね?」
差し向けらえた碧は、あいまいに微笑んだ。
「あ、ああ。……そうだな」
声を出している本人ということを知っているだけに気まずげに顔を逸らしながら。
「このあいだも、みなみちゃん推しグッズいっぱいもらって。今日はお礼に、これを届けにきたんだ!」
実鳥が誇らしげに掲げたビニールの袋には、飴色にすきとおったビーズのブレスレットが入っている。
「へー。ガキにしてはなかなかやるじゃん」
「路空~。わたしガキじゃないもん」
ぷくりと頬を膨らませる妹の頭を撫でながら、かすかに笑いを交えて碧が言う。
「実鳥、一生懸命作ったもんな。——それで、華さんは今?」
瞬間、路空がうっと言葉につまった。
代わりに湊がひきとる。
「すみません。碧さん。実鳥ちゃん。華さんはお部屋にいらっしゃるのですが、その、少し具合が悪いと言いましょうか……」
なにか察するものがあったらしい碧は、小さく頷いた後、実鳥に向き合う。
「実鳥。華さんはお風邪だそうだ。残念だがブレスレッドは、俺たちが渡しておくから、また改めて挨拶にこよう」
「ええ~……。でも、お風邪ならしかたないね……。華おねえさまに、お大事にって、伝えてね」
「偉いぞ。実鳥は優しいな」
「おにいちゃん。やめて。もう赤ちゃんじゃないよ……」
そう言いつつ、兄に頭を撫でられ、実鳥はえへへと頬を緩ませた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる