麗しの殺し屋御殿

妃月未符

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第5幕 ~不要な罰~

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 華ははやる気持ちを抑えられず、屋敷のリビングのドアを開けた。

「みなさん! 聞いてください。『ラブリー戦士』の第二シリーズの製作が決まっ――」


 どさりと、重みをもって落ちるハンドバッグ。
 新たな仕事が決まった興奮は一瞬にして消え去っていた。


「ろ……く」

 ダイニングには、澄春の手当てを受けている路空の姿がある。
 露わになり、包帯が巻かれている上半身。
 全身に傷やあざがあり満身創痍なのが一目でわかる。

「路空!」

 かけよって思わず触れようとするのを、そっと澄春にとめられて、ようやく我に返る。

「いったいなにがあったの? こんなぼろぼろになって」

「別に。たいしたことねーよ……」

「そんなわけ……」

 この場に全員がそろっていることからも、ただ事ではない気配がひしひしと伝わってきて、それが華の不安に拍車をかける。

「碧さん! 澄春さん!」

 側にいた二人に説明を求めるも、 

「いや……これはですね」

「なんというか、困ったね」

 言葉に詰まった二人の代わりに、キッチンの奥でなりゆきを見守っていた凪が口を開く。

「華ちゃん、心配することはなにもないよ。これは計画通りなんだから」

「計画通り……?」
 
 意味が呑み込めず、華はただただオウム返しに呟くしかない。

 そんな彼女に凪は綺麗に笑いかける。

「うん。路空がぼろぼろにやられたのはあえてなんだ。そういう作戦だったんだよ」

「作戦……? いったい、どういう……」

「凪」
「凪くん……」

 碧が額に手を当て、万事休すとばかりに、湊が吐息をついた。


「もしかして、わたしのせいで……」

 そう気づいた瞬間から、華の視界が涙で曇っていく。

「そんな。そんな……」
 
 がくりと腰を落とし、触れないまでも縋るように路空へと手を伸ばす。

「いや。いやです、こんなこと……」

 その場に充満した重い空気。
 うるさがるように手を振ったのは当の路空だった。

「やめろよ。——なんなんだよ」

 なんだかわからないが。
 わからない感情に、もうれつに苛々した。

「俺は単に仕事をこなしただけだ。お前は顧客だろ。俺を使ってりゃいいんだよ」
「違う‼」

 響いた大声はさすがに予想しきれなかったもので、路空は目を開いた。

 声を発した華は涙の流れるままにしながら、路空を睨みつける。

「たしかにわたしは路空に身内の始末をお願いしてるよ。けど、路空がこんなになるくらいなら……。だったら自分で向かっていく! いきたいよ。それくらいのことはさせてよ‼」

「……ったく。調子狂うんだよ」

 吐き捨てるように言って、路空はふらふらとその場を離れてしまう。

「路空くん、まだ治療は――やれやれ」

 肩を竦め、澄春は華に向きなおった。

「黙っていてごめんね。でも、これも私たちの作戦の内だから――やり方はこちらに任せてほしいんだ」
「——それは……」

 やんわりとだがきっぱりした言葉を、華はゆっくりと飲み込む。

「わかり、ました……」
「華さん。路空のことならご心配なく。体力とがさつ自慢の彼ならすぐに回復いたしますよ。以前もそうでした。保障済みです」
 湊に続き、碧も、華に並びつつ路空の去った方向を見つめた。

「路空にとって、華さんのようなお客様ははじめてで。少し、戸惑っているのかもしれません」
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