麗しの殺し屋御殿

妃月未符

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終幕 ~頭の中の銃弾~

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 国際ラウンジ全体が見渡せる、上階のフロア。 
 まだ騒ぎが広がっていない、一角に移動して。

 ベンチに座り込むようにした華の背中を、凪が撫でる。
 彼はケア係としてつきそってくれているようだ。

「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ。深く息を吸って、吐いて。——そう、じょうずだ」

 華は凪の声のままに、呼吸を落ち着けていく。

 あんな茶番を演じてはみせたものの。

 正直なところ、内心ずっと、震えていた。

「とても綺麗だった。驚いたよ。よく頑張ったね」

 凪の優し気な声が徐々に、恐怖を和らげ、今ここにいる感覚を、華は取り戻していく。

「ふう……ありがとう凪くん。だいぶ、落ち着いた……」


 五人の殺し屋に、いよいよ本番に入ると告げられ。
 華にも一役をになってほしいと、頼まれた。

『相手方を煽ってほしいのです。存分に』

 そう言った碧の、内容に反する優し気な瞳。

 この服に、メイクを施してくれてくれたのは路空だ。

『思いっきりやれ。言いたいことぜんぶぶちまける勢いでいくんだ。いいな』

 ——ありがとう。みんな……。

 ——きっと、だいじょうぶ。うまくいく……。

 何度も胸を撫でている傍らで凪が、スマホで仲間と連絡をとるのが聞こえる。

「路空くん。そちらはだいじょうぶ?」

 凪に身を寄せ、華はどうにかスマホの向こうで戦闘中の路空の声を聞き取ろうと苦心する。

『ああ、凪。悪いんだけどぎりぎりだ。一般人も何人か俺らを取り押さえようとしてる。
 あのクソ親父はなりふりかまわず暴れてるし。このままだと無関係者にも被害が出る』

「なるほど。つまり」

『応援、頼めるか』

「ふむ……」

 ちらりと、凪は華を見やる。

「華ちゃんを今の状態のまま一人残していくのは、僕は不安を感じるな」


 さらさらと、暖かな手が華の頭を撫でる。

『司令塔の碧にいが、代わりにそっちに向かってる』 

「ふぅむ」

『凪、一瞬でいい。隙がほしいんだ。お前ならできるだろ。あいつの動きを止めてくれ。
 ほかの人間を巻き添えにするわけにはいかねー』

「わかった。今いくよ」

 スマホを切ると、凪は華に向かい合う。

「華ちゃん。ここにいて。もうすぐ碧にいさんが来るからね」

 スマホからの声は所々しか聞こえていないが、状況は察した華がこくりと頷いた。

「わたしは……だい、じょうぶ、だよ」
「うん。嘘が下手だね。相変わらず。……一人にしてごめんね。碧にいさんが来るまで、深呼吸を続けて。心を落ち着けるんだよ」
「わかった。凪さん、いってらっしゃい」
「うん」

 綺麗な笑顔を見送った直後、華は。

 暴れまわる階下の父を、見下ろした。

「……」

 やみくもに暴れまわる彼はもはや、獣と化している。

 罪悪感を振り切るように首を振り、視線を戻した。

 ――もうじき、終わる。

 ――みんなのおかげでようやくわたしは、自由になれる――。

 そう念じるように唱えた時だった。

「死ね」


「お前がいてなんになる?」
「世の中の害悪だろう」
「家族の役にも立てないクズが」

 ――誰?

 どこからか声がするが姿が見えない。
 これは。
 御殿の自室に赤字で書かれたおどろおどろしい文字が。
 自室のドアの上に仕込まれたナイフが、蘇る。

 自分を狙っている第三者——“暗殺者”だ。
 どこまででも追ってくる。
 家族より執拗な相手だと勘が告げていた。
 逃げなくては。と思いベンチを立ち直後、ふらりと視界が揺れた。

 華の長い夜の幕開けだった。
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