駄洒 麗のダジャレ記録

グルメスパイザー・ポンクラッシュ

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2話 カレー食って、華麗に決めろ!

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駄洒 麗(だじゃ れい)、35歳。
アルバイト歴15年目、正社員歴ゼロ。
夢も未来もカラカラに乾いた人生だが、唯一彼が毎日こだわって続けていることがある。
それは、ダジャレを考えること。
たとえ一銭の得にもならなくても、たとえ誰にも笑ってもらえなくても。
言葉をいじり、音を重ね、意味をねじる――その瞬間にだけ、麗は生きていると感じる。

この日もまた、朝の目覚ましがけたたましく鳴り響く。
「……あー、目覚ましの音ってさ、もう音の暴力だよな。いっそ“目暴まし”とか書いたほうがいいんじゃ……」
寝ぼけながら、麗は半分無意識にダジャレをつぶやいた。

冷蔵庫は空。財布の中もスカスカ。
昨日のたこ焼きが夕食兼朝食だったようなものだ。
「今日はちゃんと何か食わねぇとな……」
そう思いながら、スマホで求人アプリを開き、日雇いバイトをチェックする。
あった。某イベントホールの設営作業。
時給1200円。昼食なし、交通費なし。
「交通費ないのに、“遠くまで行くのは無理”って話よな。ムリ遠……トークまでいくのが無理……いや、これはイマイチか」
つぶやきながら、タオルと手袋をカバンに詰め、麗は出かけた。



現場は灼熱だった。
ホールの中は空調も止まり、まるでサウナのような熱気。
スタッフの中に知り合いはいない。誰とも話さず、黙々とステージの骨組みを運ぶ。
1時間ごとにペットボトルの水を一本飲んで、また作業。

「暑い……汗が止まらん……脇の下がまるで……滝……いや“ワキたき”とか、いや全然だめだ……」
麗は汗だくの作業の合間も、頭の中で言葉を組み立てていた。
ダジャレはどんな苦境でも、思考を逃避させてくれる。

13時。休憩時間になった。
弁当は、出ない。
「水だけかい……どこかで飯食うか……」

会場の隣には、場末感ただよう食堂があった。
暖簾が古びて色褪せているが、香ばしいスパイスの香りが鼻をくすぐる。
「……カレーか?」

ふらふらと引き寄せられるように入ると、やたら大柄なマスターが出迎えた。
「らっしゃい!カレーしかないけどいいかい!」
「……最高です」

注文から3分で出てきたカレーは、いわゆる“町のカレー”だった。
レトルトのルウに少し手を加えただけの、なんてことない一皿。
だが、麗には――たまらなかった。

「……うまい……この安っぽさが逆に、沁みる……!」
一口ごとに、身体中にスパイスが染みわたるようだった。
そして麗の脳裏に、ふとひらめきがよぎった。

「……これだ……“カレー食って、華麗に決めろ!”」

言った瞬間、自分で鳥肌が立った。

「食って、くって、くって……そして、華麗に決める! なんてパワーワード……! 完璧じゃないかこれ……」

興奮して言葉が止まらない。
カレーを口に運ぶ手が止まらない。
脳内で何度も何度も繰り返し響く――

「カレー食って、華麗に決めろ!」

食後、満足気な顔でレジを済ませると、マスターが話しかけてきた。
「気に入ったかい?うちのカレー」
「はい、今日一番幸せでした」
「はは、それはよかった。でも顔、なんかキマッてるな」
「華麗に……ですかね」
「……お客さん、さてはダジャレ好きだな?」

ビンゴだった。

「ちょっとやってるんですよ、趣味で」
「そいつぁいい。あんた、毎日来なよ。うちのカレーとあんたの言葉、相性良さそうだ」

麗はふいに、自分の人生が少しだけ明るくなった気がした。
たかが一皿のカレー。だがそこには、言葉が宿った。意味が生まれた。
ダジャレが現実と交差した瞬間だった。



帰宅後、麗はスマホのメモアプリを開くと、今日のダジャレを力強く打ち込んだ。

「カレー食って、華麗に決めろ!」

その一言が、今日という一日を特別なものに変えていた。

人は大きな夢や目標ばかり追いかけがちだが、
たった一つの言葉で、人生は鮮やかに変わることもある。

「よし、明日はもっとスパイス効かせたやつ、考えよう……!」

麗は布団に潜り込むと、満腹の腹をさすりながら、静かに目を閉じた。
言葉の魔法を信じる男は、今日も幸せの余韻に包まれて眠りにつくのだった。
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