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3話 野球観戦で“バット”な展開に。
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「こいつは“バット”な展開になりそうだな……」
そう呟いたのは、駄洒 麗(だじゃ れい)、35歳フリーター。
別に誰かとトラブルになったわけでも、悪いニュースを聞いたわけでもない。
今日彼が向かうのは、人生初の――プロ野球観戦だった。
「なあ麗、チケット余ってんだけど、一緒に行かね?」
そう声をかけてきたのは、麗の高校時代の同級生・谷川だった。
彼は野球一筋で育ち、今では地元企業で営業部長をしている。
休日になると、決まって野球観戦に出かけるのだという。
「たまには外の空気も吸ったほうがいいぞ。お前、ここ最近ずっと引きこもってダジャレばっか考えてるんだろ?」
図星だった。
とはいえ、プロ野球のルールすら怪しい麗は、気が乗らなかった。
が、「弁当代出すからさ」の一言で、見事に心が傾いた。
「つまり、無料で昼飯がついてくる野外エンタメイベント……」
彼の中で“野球観戦”のイメージが「経済的にうれしい昼行事」に変換された瞬間だった。
⸻
スタジアムに到着すると、谷川は興奮した面持ちでタオルとメガホンを渡してきた。
「これ振って応援しろよ!気分上がるぞ!」
「これ……サッカーの応援と似てるな」
「違うよバカ、こっちは野球だって!」
麗は周囲の熱気に若干圧倒されていた。
ビールを片手に盛り上がる観客、うちわを振って選手に声援を送る女性グループ、カップルでユニフォームを着て自撮りする若者たち。
「……これはもう、宗教だな」
麗は思わず呟いた。
試合が始まり、ピッチャーがボールを放る。バットが空を切る。
「ストライークッ!」
主審の声が響く。谷川が叫ぶ。
「よっしゃナイスボール!次も攻めろ!」
麗もなんとなく拍手をした。
しかし、数十分が過ぎると、彼の集中力は薄れてきた。
ボールが飛ぶ。誰かが走る。アウトだのセーフだの言われても、意味が半分もわからない。
彼は徐々に別の楽しみを見出し始めた。
「“ファウル”って、“不運”とも読めるな……ファウルボール=不運な球……いや、やっぱ違うな……」
ダジャレだ。
スタジアムという新しい言葉の宝庫を前に、彼の脳内回路が回転を始めた。
「バット……“悪い”って意味もあるし……“バットマン”はヒーローだけど、野球のバットは……いや、関係ないな……」
彼は野球観戦そっちのけで、言葉の海を泳ぎ始めた。
そんな中、事件は起きた。
⸻
5回表、麗が弁当に手を伸ばしていたその時――
「カキーン!」という音とともに、打球が高く舞い上がった。
「ファウルボールです!」という場内アナウンス。
そして――
「うわああっっ!!」
隣にいた谷川が急に立ち上がり、麗の顔に何かを被せた。
「麗!かがめ!危ない!」
次の瞬間、鋭い衝撃が麗の後頭部のすぐ上をかすめていった。
ボールが背後の座席に「バチン!」とぶつかり、周囲がどよめいた。
「……あっぶな……マジで“バット”な展開になるとこだった……」
麗は震える指で頭を撫でた。
冷や汗が首筋を伝う。
谷川が半笑いで言った。
「お前、顔面でファウルキャッチするとこだったぞ」
「笑い事じゃねぇよ……てか、今のボール、“ファウルボール”ってことは、俺にとっては“不運ボール”だろ……」
麗がそう返した時だった。
「……あ……」
彼の脳内に、一筋の光が差した。
“野球観戦でバットな展開に。”
「それだ……!」
「え?」
「俺、今日のダジャレ、決まったわ」
「ダジャレ……?あんな死にかけた後に考えるの!? お前マジで何かズレてんぞ……」
「“バット”は野球のバットでもあり、“悪い”のバッドでもある。
つまり今日の一件は、**“バットな展開”**なんだよ!二重の意味で完璧すぎる……!」
興奮して汗まみれのユニフォームを握りしめる麗を見て、谷川は呆れたように笑った。
「……俺、お前といると人生に意味がなくなるわ」
「逆だよ。意味しかない」
そう言い切る麗の表情は、妙に澄み切っていた。
⸻
試合は終わり、彼らは観客の波に押されるようにスタジアムを後にした。
夜風が心地よく、街の灯りが滲んでいた。
谷川がぼそっと呟いた。
「……なあ、また来るか?」
「え、野球?」
「そう。今度はファウルキャッチじゃなくて、ホームランの歓声を聞かせてやるよ」
麗はしばらく考えてから答えた。
「そのときは、“ホームラン級のダジャレ”考えてやるよ」
谷川は小さく吹き出した。
「じゃあ、次は“スリーアウト・ダジャレチェンジ”ってのも期待してるわ」
「それ、俺のセリフ取るな」
2人の笑い声が、夜のスタジアム跡に響いた。
⸻
帰宅後、麗はさっそくスマホのメモに書き込んだ。
「野球観戦で“バット”な展開に。」
今日もダジャレが、一日を締めくくる。
言葉はいつでも、彼を生かしている。
人生がどんなに不器用でも、どれだけピンチでも――
「笑い」に変えられるなら、それは最高に“華麗”な人生だ。
そう呟いたのは、駄洒 麗(だじゃ れい)、35歳フリーター。
別に誰かとトラブルになったわけでも、悪いニュースを聞いたわけでもない。
今日彼が向かうのは、人生初の――プロ野球観戦だった。
「なあ麗、チケット余ってんだけど、一緒に行かね?」
そう声をかけてきたのは、麗の高校時代の同級生・谷川だった。
彼は野球一筋で育ち、今では地元企業で営業部長をしている。
休日になると、決まって野球観戦に出かけるのだという。
「たまには外の空気も吸ったほうがいいぞ。お前、ここ最近ずっと引きこもってダジャレばっか考えてるんだろ?」
図星だった。
とはいえ、プロ野球のルールすら怪しい麗は、気が乗らなかった。
が、「弁当代出すからさ」の一言で、見事に心が傾いた。
「つまり、無料で昼飯がついてくる野外エンタメイベント……」
彼の中で“野球観戦”のイメージが「経済的にうれしい昼行事」に変換された瞬間だった。
⸻
スタジアムに到着すると、谷川は興奮した面持ちでタオルとメガホンを渡してきた。
「これ振って応援しろよ!気分上がるぞ!」
「これ……サッカーの応援と似てるな」
「違うよバカ、こっちは野球だって!」
麗は周囲の熱気に若干圧倒されていた。
ビールを片手に盛り上がる観客、うちわを振って選手に声援を送る女性グループ、カップルでユニフォームを着て自撮りする若者たち。
「……これはもう、宗教だな」
麗は思わず呟いた。
試合が始まり、ピッチャーがボールを放る。バットが空を切る。
「ストライークッ!」
主審の声が響く。谷川が叫ぶ。
「よっしゃナイスボール!次も攻めろ!」
麗もなんとなく拍手をした。
しかし、数十分が過ぎると、彼の集中力は薄れてきた。
ボールが飛ぶ。誰かが走る。アウトだのセーフだの言われても、意味が半分もわからない。
彼は徐々に別の楽しみを見出し始めた。
「“ファウル”って、“不運”とも読めるな……ファウルボール=不運な球……いや、やっぱ違うな……」
ダジャレだ。
スタジアムという新しい言葉の宝庫を前に、彼の脳内回路が回転を始めた。
「バット……“悪い”って意味もあるし……“バットマン”はヒーローだけど、野球のバットは……いや、関係ないな……」
彼は野球観戦そっちのけで、言葉の海を泳ぎ始めた。
そんな中、事件は起きた。
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5回表、麗が弁当に手を伸ばしていたその時――
「カキーン!」という音とともに、打球が高く舞い上がった。
「ファウルボールです!」という場内アナウンス。
そして――
「うわああっっ!!」
隣にいた谷川が急に立ち上がり、麗の顔に何かを被せた。
「麗!かがめ!危ない!」
次の瞬間、鋭い衝撃が麗の後頭部のすぐ上をかすめていった。
ボールが背後の座席に「バチン!」とぶつかり、周囲がどよめいた。
「……あっぶな……マジで“バット”な展開になるとこだった……」
麗は震える指で頭を撫でた。
冷や汗が首筋を伝う。
谷川が半笑いで言った。
「お前、顔面でファウルキャッチするとこだったぞ」
「笑い事じゃねぇよ……てか、今のボール、“ファウルボール”ってことは、俺にとっては“不運ボール”だろ……」
麗がそう返した時だった。
「……あ……」
彼の脳内に、一筋の光が差した。
“野球観戦でバットな展開に。”
「それだ……!」
「え?」
「俺、今日のダジャレ、決まったわ」
「ダジャレ……?あんな死にかけた後に考えるの!? お前マジで何かズレてんぞ……」
「“バット”は野球のバットでもあり、“悪い”のバッドでもある。
つまり今日の一件は、**“バットな展開”**なんだよ!二重の意味で完璧すぎる……!」
興奮して汗まみれのユニフォームを握りしめる麗を見て、谷川は呆れたように笑った。
「……俺、お前といると人生に意味がなくなるわ」
「逆だよ。意味しかない」
そう言い切る麗の表情は、妙に澄み切っていた。
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試合は終わり、彼らは観客の波に押されるようにスタジアムを後にした。
夜風が心地よく、街の灯りが滲んでいた。
谷川がぼそっと呟いた。
「……なあ、また来るか?」
「え、野球?」
「そう。今度はファウルキャッチじゃなくて、ホームランの歓声を聞かせてやるよ」
麗はしばらく考えてから答えた。
「そのときは、“ホームラン級のダジャレ”考えてやるよ」
谷川は小さく吹き出した。
「じゃあ、次は“スリーアウト・ダジャレチェンジ”ってのも期待してるわ」
「それ、俺のセリフ取るな」
2人の笑い声が、夜のスタジアム跡に響いた。
⸻
帰宅後、麗はさっそくスマホのメモに書き込んだ。
「野球観戦で“バット”な展開に。」
今日もダジャレが、一日を締めくくる。
言葉はいつでも、彼を生かしている。
人生がどんなに不器用でも、どれだけピンチでも――
「笑い」に変えられるなら、それは最高に“華麗”な人生だ。
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