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4話 ピーマン、嫌いでもピーっと我慢。
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駄洒 麗(だじゃ れい)、35歳、フリーター、独身。
趣味はダジャレ、特技もダジャレ、夢もダジャレ。
この男、毎日1つのダジャレを考えるために生きている。
言葉遊びのためなら炎天下でも極寒でも働く。
食って寝て働いて、ダジャレをひとつ思いつければ、それがその日の“成果”だ。
そんな麗が、久々に小学生の頃のトラウマと対峙する日が来るとは、誰が想像しただろうか。
⸻
「うっ……出た……」
その日、いつものように日雇いの配送バイトを終えた麗は、格安スーパーで半額弁当を漁っていた。
いつも通りのミックスフライ、安定の焼きそばパン、そして冷やしうどん……と目移りしていたそのとき。
彼の視界の片隅に、緑色の憎いやつが現れた。
「ピーマン入り青椒肉絲弁当……だと……?」
そこには、豪快にピーマンが盛られた弁当が鎮座していた。
しかもタイムセールで150円引き。
金欠の麗にとって、魅力的な数字が踊る。
「ピーマンさえなければ……完璧な弁当なのに……」
そう、麗はピーマンが大の苦手だった。
あの独特な青臭さ、妙な苦味、そして口に広がる草っぽさ。
小学生のころ、母親に「ひと口でも食べなさい」と叱られながら涙目で口に押し込んだあの記憶。
そしてあの時も、逃避するように彼は呟いたのだ。
「ピーマン……ピーマンだけは……無理マン……」
今にして思えば、それが最初の“ダジャレ”だった。
麗は弁当の棚の前で悩んだ。
目の前にあるのは、150円引き。
財布の中はあと600円。これを逃せば、夕食はコンビニおにぎり1個になるかもしれない。
「……俺は……」
彼は弁当を手に取り、決意した。
「大人になるって、こういうことだろ……」
⸻
帰宅後、麗は台所で弁当をレンジに突っ込む。
電子音が鳴るたびに、胸が重くなる。
「ピーマン食うの、何年ぶりだ……?」
湯気を立てる弁当を前に、スプーンを握る手が震えた。
一呼吸。
深呼吸。
「いただきます……」
まずは肉。うまい。
そしてタケノコ。食感がいい。
ごはんも温かい。
――そして、ピーマン。
麗は目をつぶり、ピーマンをひとつ箸で摘んだ。
「あぁ……くる……この匂い……」
口に運ぶ。
噛む。
「……っ!!」
苦味。青臭さ。あの頃の記憶。
小学校の教室、残されて冷めた給食、無言で見守る先生の顔。
「でも……!」
彼はごくんと飲み込んだ。
「……食えた……いや、食った……!」
たったひと切れのピーマン。
だがそれは、35歳の男の20年以上の因縁に終止符を打つ一口だった。
その瞬間――
「ピーマン、嫌いでも“ピー”っと我慢!」
言葉が、閃いた。
「我慢……ガマン……ピーっと……サイレンみたいに……!」
意味なんか曖昧でもいい。
苦手を乗り越えた瞬間に生まれたこの言葉は、紛れもなく“今日のダジャレ”だった。
⸻
翌朝、妙な達成感に包まれた麗は、ふと昔のことを思い出していた。
幼いころ、食卓で母がよく言っていた。
「嫌いなものも、ちょっとずつ慣れていけば、きっといつか食べられるようになるのよ」
あの言葉を、今になってようやく理解できた気がする。
スマホのメモ帳を開き、麗は書き込んだ。
「ピーマン、嫌いでもピーっと我慢。」
そこには、確かな自信と、成長の痕跡が刻まれていた。
⸻
言葉は不思議な力を持っている。
ときに人を救い、ときに人を変える。
たとえそれが、たった一口のピーマンから生まれたものでも。
今日もまた、駄洒 麗は一つ、人生の階段をダジャレで登った。
趣味はダジャレ、特技もダジャレ、夢もダジャレ。
この男、毎日1つのダジャレを考えるために生きている。
言葉遊びのためなら炎天下でも極寒でも働く。
食って寝て働いて、ダジャレをひとつ思いつければ、それがその日の“成果”だ。
そんな麗が、久々に小学生の頃のトラウマと対峙する日が来るとは、誰が想像しただろうか。
⸻
「うっ……出た……」
その日、いつものように日雇いの配送バイトを終えた麗は、格安スーパーで半額弁当を漁っていた。
いつも通りのミックスフライ、安定の焼きそばパン、そして冷やしうどん……と目移りしていたそのとき。
彼の視界の片隅に、緑色の憎いやつが現れた。
「ピーマン入り青椒肉絲弁当……だと……?」
そこには、豪快にピーマンが盛られた弁当が鎮座していた。
しかもタイムセールで150円引き。
金欠の麗にとって、魅力的な数字が踊る。
「ピーマンさえなければ……完璧な弁当なのに……」
そう、麗はピーマンが大の苦手だった。
あの独特な青臭さ、妙な苦味、そして口に広がる草っぽさ。
小学生のころ、母親に「ひと口でも食べなさい」と叱られながら涙目で口に押し込んだあの記憶。
そしてあの時も、逃避するように彼は呟いたのだ。
「ピーマン……ピーマンだけは……無理マン……」
今にして思えば、それが最初の“ダジャレ”だった。
麗は弁当の棚の前で悩んだ。
目の前にあるのは、150円引き。
財布の中はあと600円。これを逃せば、夕食はコンビニおにぎり1個になるかもしれない。
「……俺は……」
彼は弁当を手に取り、決意した。
「大人になるって、こういうことだろ……」
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帰宅後、麗は台所で弁当をレンジに突っ込む。
電子音が鳴るたびに、胸が重くなる。
「ピーマン食うの、何年ぶりだ……?」
湯気を立てる弁当を前に、スプーンを握る手が震えた。
一呼吸。
深呼吸。
「いただきます……」
まずは肉。うまい。
そしてタケノコ。食感がいい。
ごはんも温かい。
――そして、ピーマン。
麗は目をつぶり、ピーマンをひとつ箸で摘んだ。
「あぁ……くる……この匂い……」
口に運ぶ。
噛む。
「……っ!!」
苦味。青臭さ。あの頃の記憶。
小学校の教室、残されて冷めた給食、無言で見守る先生の顔。
「でも……!」
彼はごくんと飲み込んだ。
「……食えた……いや、食った……!」
たったひと切れのピーマン。
だがそれは、35歳の男の20年以上の因縁に終止符を打つ一口だった。
その瞬間――
「ピーマン、嫌いでも“ピー”っと我慢!」
言葉が、閃いた。
「我慢……ガマン……ピーっと……サイレンみたいに……!」
意味なんか曖昧でもいい。
苦手を乗り越えた瞬間に生まれたこの言葉は、紛れもなく“今日のダジャレ”だった。
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翌朝、妙な達成感に包まれた麗は、ふと昔のことを思い出していた。
幼いころ、食卓で母がよく言っていた。
「嫌いなものも、ちょっとずつ慣れていけば、きっといつか食べられるようになるのよ」
あの言葉を、今になってようやく理解できた気がする。
スマホのメモ帳を開き、麗は書き込んだ。
「ピーマン、嫌いでもピーっと我慢。」
そこには、確かな自信と、成長の痕跡が刻まれていた。
⸻
言葉は不思議な力を持っている。
ときに人を救い、ときに人を変える。
たとえそれが、たった一口のピーマンから生まれたものでも。
今日もまた、駄洒 麗は一つ、人生の階段をダジャレで登った。
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