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第二章 二人の距離
17.圭吾との対話
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「……真由美」
「なに?」
「一緒に、会う?」
「冗談言わないの」
圭吾の家の玄関前で立ちすくみ、真由美のコートを掴んだら、きっぱりと言い返されてしまった。
「じゃあ、もう行くからね。報告は明日聞くよ。頑張れー」
ひらひらと手を振って、真由美が沙希ちゃんと共に去っていく。楽しんではいるかもしれないけれど、人様の恋愛にここまで付き合ってくれているんだもん、本当に感謝だ。
私はカバンを抱きかかえつつ、チャイムを押した。流石に無言で押しかけるのはどうかと思ったので、直前にメッセージを圭吾に送った。でも既読にならなくて、今に至る。寝ているのだとしたら、出ないかもしれない。そうなったらプリント類はポストに入れておけばよいか。
「はい」
インターフォン越しに、圭吾の声がする。
「あ、あのっ、私。……宮崎です」
「あずさ?」
驚いたような声がしたかと思うと音がふつりと途切れ、しばらくして玄関が勢いよく開いた。
「どうした?」
「えっと、プリント届けに」
そういって圭吾に笑いかける。三日間も休んでいたんだ。もっと病人っぽくやつれているのかなと思っていたけれど、見た目は普段と変わらなかった。着ている服もジーンズにセーターで、パジャマじゃない。
「風邪は?」
「治ったよ。今日はサボりみたいなもん。上がって」
圭吾も突然のことに慌てているようで、いつもよりも早口にそういうと、玄関に引き込まれた。
「……お邪魔します」
どうしても小さくなってしまう自分の声に気付き、余計に緊張しながらも家に上がった。
「家の人は?」
「まだ帰ってきていない。俺の部屋、二階だから」
通されて、椅子に座るとそのままちょっと待たされた。
右手にベッド。左手に本棚。サッカー雑誌がぎっしりと詰まっていて、外国人選手のポスターが壁に張ってある。あ、プラモデルも発見。我が家はお父さん以外女だから、こういう典型的な『男の子の部屋』って初めてだ。
そういえば倉沢家も、台所とかリビングとかしか入らないから、俊成君の部屋って見たことないな。ぼんやりとそんな事を考えながら待っていると、マグカップとペットボトルのジュースを手に圭吾が戻ってきた。
「メッセージ送ってくれたの、今読んだ。ごめん、気付かないで」
「ううん。突然だったし」
「ジュース、こんなのしかないけど、いい?」
「うん」
短く答えたあと、短すぎて言葉が足らなかったかなとか考えて一人焦ってしまう。やっぱり人の家は緊張しちゃうよ。
「じゃあこれ、プリントね」
なんとなく間が持たず、がさごそとカバンからプリントを取り出した。
「調子はどう?」
とりあえず、気になっている事を聞いてみる。
「もう全然平気。風邪っていっても元々たいしたこと無かったし。どうせこの時期、学校行っても面白くないしな」
「本当にサボりだったんだ」
「違うよ。一応ちゃんと風邪はひいていたから」
本当はどっちなのか、よく分からなくなってしまった。でも圭吾はもうこの話をする気はないようで、思い出したようにジュースをついで手渡してくれる。
「ありがとう」
お礼を言って受け取ると、一瞬だけ指が触れた。
「あ」
とっさに漏れた自分の声に、うろたえる。指触れただけなのに、過剰反応だ。笑って誤魔化そうとして圭吾をちらっと見てみたら、彼は何も言わずこちらをじっと見つめていた。
えーっと。
なんか、話してくれないのかな。こんなところで会話が切れると、やたらに恥ずかしいんだけど。眼を合わせることも出来なくて、私はジュースを一口飲んだ。
「公立、受かったんだよな」
突然、今まで流れとは関係なく圭吾が聞いてきた。
「あ、うん」
短く答えて、また焦る。もっと何か言わなくちゃ駄目だ。でも、聞いてきた圭吾の態度もいつもとどこか違う感じで、うまく返すことが出来ない。そもそも、受かったって報告したのは三日前のことだ。
何か話そうと思えば思うほど、焦りだけが高まっていく。圭吾はそんな私を見続けながら、ベッドに深く腰掛けた。
「稜和高校って、倉沢も行くんだって?」
「え?」
圭吾の声の低さに、慌てて彼を見つめ返す。
「佐々木君も、一緒だよ?」
「うん。勝久から聞いた」
去年の十一月の、あの嫌な感じを思い出す。なんだろう、かたくなな圭吾の態度。とっさにフォローを入れたのにあっさりと流されて、圭吾の心にそれは届かないのが分かる。
「なに?」
「一緒に、会う?」
「冗談言わないの」
圭吾の家の玄関前で立ちすくみ、真由美のコートを掴んだら、きっぱりと言い返されてしまった。
「じゃあ、もう行くからね。報告は明日聞くよ。頑張れー」
ひらひらと手を振って、真由美が沙希ちゃんと共に去っていく。楽しんではいるかもしれないけれど、人様の恋愛にここまで付き合ってくれているんだもん、本当に感謝だ。
私はカバンを抱きかかえつつ、チャイムを押した。流石に無言で押しかけるのはどうかと思ったので、直前にメッセージを圭吾に送った。でも既読にならなくて、今に至る。寝ているのだとしたら、出ないかもしれない。そうなったらプリント類はポストに入れておけばよいか。
「はい」
インターフォン越しに、圭吾の声がする。
「あ、あのっ、私。……宮崎です」
「あずさ?」
驚いたような声がしたかと思うと音がふつりと途切れ、しばらくして玄関が勢いよく開いた。
「どうした?」
「えっと、プリント届けに」
そういって圭吾に笑いかける。三日間も休んでいたんだ。もっと病人っぽくやつれているのかなと思っていたけれど、見た目は普段と変わらなかった。着ている服もジーンズにセーターで、パジャマじゃない。
「風邪は?」
「治ったよ。今日はサボりみたいなもん。上がって」
圭吾も突然のことに慌てているようで、いつもよりも早口にそういうと、玄関に引き込まれた。
「……お邪魔します」
どうしても小さくなってしまう自分の声に気付き、余計に緊張しながらも家に上がった。
「家の人は?」
「まだ帰ってきていない。俺の部屋、二階だから」
通されて、椅子に座るとそのままちょっと待たされた。
右手にベッド。左手に本棚。サッカー雑誌がぎっしりと詰まっていて、外国人選手のポスターが壁に張ってある。あ、プラモデルも発見。我が家はお父さん以外女だから、こういう典型的な『男の子の部屋』って初めてだ。
そういえば倉沢家も、台所とかリビングとかしか入らないから、俊成君の部屋って見たことないな。ぼんやりとそんな事を考えながら待っていると、マグカップとペットボトルのジュースを手に圭吾が戻ってきた。
「メッセージ送ってくれたの、今読んだ。ごめん、気付かないで」
「ううん。突然だったし」
「ジュース、こんなのしかないけど、いい?」
「うん」
短く答えたあと、短すぎて言葉が足らなかったかなとか考えて一人焦ってしまう。やっぱり人の家は緊張しちゃうよ。
「じゃあこれ、プリントね」
なんとなく間が持たず、がさごそとカバンからプリントを取り出した。
「調子はどう?」
とりあえず、気になっている事を聞いてみる。
「もう全然平気。風邪っていっても元々たいしたこと無かったし。どうせこの時期、学校行っても面白くないしな」
「本当にサボりだったんだ」
「違うよ。一応ちゃんと風邪はひいていたから」
本当はどっちなのか、よく分からなくなってしまった。でも圭吾はもうこの話をする気はないようで、思い出したようにジュースをついで手渡してくれる。
「ありがとう」
お礼を言って受け取ると、一瞬だけ指が触れた。
「あ」
とっさに漏れた自分の声に、うろたえる。指触れただけなのに、過剰反応だ。笑って誤魔化そうとして圭吾をちらっと見てみたら、彼は何も言わずこちらをじっと見つめていた。
えーっと。
なんか、話してくれないのかな。こんなところで会話が切れると、やたらに恥ずかしいんだけど。眼を合わせることも出来なくて、私はジュースを一口飲んだ。
「公立、受かったんだよな」
突然、今まで流れとは関係なく圭吾が聞いてきた。
「あ、うん」
短く答えて、また焦る。もっと何か言わなくちゃ駄目だ。でも、聞いてきた圭吾の態度もいつもとどこか違う感じで、うまく返すことが出来ない。そもそも、受かったって報告したのは三日前のことだ。
何か話そうと思えば思うほど、焦りだけが高まっていく。圭吾はそんな私を見続けながら、ベッドに深く腰掛けた。
「稜和高校って、倉沢も行くんだって?」
「え?」
圭吾の声の低さに、慌てて彼を見つめ返す。
「佐々木君も、一緒だよ?」
「うん。勝久から聞いた」
去年の十一月の、あの嫌な感じを思い出す。なんだろう、かたくなな圭吾の態度。とっさにフォローを入れたのにあっさりと流されて、圭吾の心にそれは届かないのが分かる。
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