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第二章 二人の距離
16.初めてのおうち訪問
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暗く重苦しい時期が過ぎて、受験が終わった。滑り止めの私立校と、本命の公立と。自分の実力とあわよくばの運も試して、その結果、私は何とか二校とも受かることができた。
「先生、受かりましたっ」
本命の合格発表のあと、中学に戻り職員室で報告する。
「よくやったな。で、他の生徒は?」
「一組の倉沢と、三組の佐々木君も受かりました」
その報告に、それぞれの担任も拍手する。発表には怖くて一人で見に行ったけれど、掲示板の前で俊成君と佐々木君、二人に会った。お互いに受かった喜びと、これからよろしくねなんて挨拶して一旦別れたんだけれど、この様子だと二人は学校には戻ってないのかな。
今日は公立の合格発表日で、そのため自由登校になっていた。報告はきちんとすることと言われていたけれど、電話で済ます生徒もいる。ちなみに圭吾は私立を受けて、早々に受かっていた。だから今日は登校せずに家にいるはず。早く会って圭吾にも報告したかったけれど、昨日熱っぽいって言っていた。風邪引いちゃったのかな。ちょっと心配。
結局、圭吾は本格的に風邪を引いてしまったということで、そのあと二日間ほど顔が見れないままになっていた。私が彼に会えたのは、合格の嬉しさもいい加減おさまった、三日後だ。
◇◇◇◇◇◇
「じゃ、これが二日分のプリントね」
今日の授業が終わると同時に真由美が学級委員を連れてきて、彼から配布物を受け取ると、そのまま私に手渡した。
「これは?」
「小林君の休んでいた分のプリント。緊急性は無いけれど、家に行く口実くらいにはなるでしょ?」
「そういうわけで、よろしくな」
学級委員は私や真由美と同じ地区の子だから、圭吾の家からは離れている。あきらかに助かったという顔をして、彼はそそくさと帰ってしまった。
……ってことはつまり、圭吾の家に行くのは、私? 圭吾の家に、会いに、行く。
「ま、真由美っ。なんでっ? え?」
事情が飲み込めて、一気に鼓動が早くなった。そんな、彼の家をいきなり訪ねるなんて、無理。絶対に、無理!
「だから、プリントを届けに行くんだってば。家に行ったことないんでしょ? チャンスよ、チャンス!」
「って、なんのチャンスよーっ」
真由美が私の応援をしてくれていることはよく分かっている。けれど、彼女は時々こうやって暴走した。学校来られないほど風邪引いて寝込んだままの圭吾に会うって、それはまずいんじゃないんだろうか?
「あずさ、分かっていないわね。体弱っている人間は、ちょっと心も弱っているのよ。そんなときに彼女がお見舞いに行けば、また感動されるに決まっているでしょ?」
妙に眼をきらきらと輝かせて、真由美が力説する。その自分に酔いしれたかのような口調に、逆に聞いている私のほうが落ち着いてきた。……んー。だんだん分かってきたぞ。
「真由美ちゃん、そのシチュエーションは昨日テレビでやっていたドラマから? それとも今はまっているっていう、マンガのほうから?」
聞いた途端、真由美はいたずらが見つかった子供のようにびくついた。
「ばれた?」
「分かりやす過ぎ」
緊張した分ちょっときつめに言ってみる。でもさすが親友。全然気にすることも無く逆に胸を張って言い返してきた。
「三日も学校休んでいれば小林君だって寝ているの飽きてくるって。行ってあげなよ、あずさ。途中までついて行ってあげるからさ。ね?」
そういって真由美はにやりと笑う。確かに私も圭吾のことは心配だ。メールアプリの反応も鈍いし、スタンプの返信ばかりで要領を得ない。だから家に行くチャンスって言えばチャンスなんだと思う。思うけど、私使って楽しむつもりが見え見えだよ、真由美。
「真由美にも好きな人がいたら、私だって応援してあげられるのにね」
応援、の部分を強調して、わざとらしくため息をついてみた。
「私はまだいいよ。こうやってあずさのとか、他の人の恋愛に口出しているほうが面白いもん」
きっぱりと言い切って、真由美は教室を見渡した。
「沙希ちゃん、ねえ、小林君の家って近いんだよね? この子に家までの行き方教えてやってくれない?」
「行くの? あずさ」
「うん。……ごめんね、教えてくれる?」
沙希ちゃんも交えて話をしながら、私はこっそりと本気のため息をついた。バスケ部の高野君。真由美のこと好きなんだって結構有名な話なんだけどな。当の本人がこれだから、私も上手く話を持っていくことができない。なんとかならないかなぁ。
「ほらあずさ、ぼーっとしない。」
怒られて、慌てて意識を向けた。今は真由美じゃなくて私の心配だよね。うわ、また緊張してきた。
「先生、受かりましたっ」
本命の合格発表のあと、中学に戻り職員室で報告する。
「よくやったな。で、他の生徒は?」
「一組の倉沢と、三組の佐々木君も受かりました」
その報告に、それぞれの担任も拍手する。発表には怖くて一人で見に行ったけれど、掲示板の前で俊成君と佐々木君、二人に会った。お互いに受かった喜びと、これからよろしくねなんて挨拶して一旦別れたんだけれど、この様子だと二人は学校には戻ってないのかな。
今日は公立の合格発表日で、そのため自由登校になっていた。報告はきちんとすることと言われていたけれど、電話で済ます生徒もいる。ちなみに圭吾は私立を受けて、早々に受かっていた。だから今日は登校せずに家にいるはず。早く会って圭吾にも報告したかったけれど、昨日熱っぽいって言っていた。風邪引いちゃったのかな。ちょっと心配。
結局、圭吾は本格的に風邪を引いてしまったということで、そのあと二日間ほど顔が見れないままになっていた。私が彼に会えたのは、合格の嬉しさもいい加減おさまった、三日後だ。
◇◇◇◇◇◇
「じゃ、これが二日分のプリントね」
今日の授業が終わると同時に真由美が学級委員を連れてきて、彼から配布物を受け取ると、そのまま私に手渡した。
「これは?」
「小林君の休んでいた分のプリント。緊急性は無いけれど、家に行く口実くらいにはなるでしょ?」
「そういうわけで、よろしくな」
学級委員は私や真由美と同じ地区の子だから、圭吾の家からは離れている。あきらかに助かったという顔をして、彼はそそくさと帰ってしまった。
……ってことはつまり、圭吾の家に行くのは、私? 圭吾の家に、会いに、行く。
「ま、真由美っ。なんでっ? え?」
事情が飲み込めて、一気に鼓動が早くなった。そんな、彼の家をいきなり訪ねるなんて、無理。絶対に、無理!
「だから、プリントを届けに行くんだってば。家に行ったことないんでしょ? チャンスよ、チャンス!」
「って、なんのチャンスよーっ」
真由美が私の応援をしてくれていることはよく分かっている。けれど、彼女は時々こうやって暴走した。学校来られないほど風邪引いて寝込んだままの圭吾に会うって、それはまずいんじゃないんだろうか?
「あずさ、分かっていないわね。体弱っている人間は、ちょっと心も弱っているのよ。そんなときに彼女がお見舞いに行けば、また感動されるに決まっているでしょ?」
妙に眼をきらきらと輝かせて、真由美が力説する。その自分に酔いしれたかのような口調に、逆に聞いている私のほうが落ち着いてきた。……んー。だんだん分かってきたぞ。
「真由美ちゃん、そのシチュエーションは昨日テレビでやっていたドラマから? それとも今はまっているっていう、マンガのほうから?」
聞いた途端、真由美はいたずらが見つかった子供のようにびくついた。
「ばれた?」
「分かりやす過ぎ」
緊張した分ちょっときつめに言ってみる。でもさすが親友。全然気にすることも無く逆に胸を張って言い返してきた。
「三日も学校休んでいれば小林君だって寝ているの飽きてくるって。行ってあげなよ、あずさ。途中までついて行ってあげるからさ。ね?」
そういって真由美はにやりと笑う。確かに私も圭吾のことは心配だ。メールアプリの反応も鈍いし、スタンプの返信ばかりで要領を得ない。だから家に行くチャンスって言えばチャンスなんだと思う。思うけど、私使って楽しむつもりが見え見えだよ、真由美。
「真由美にも好きな人がいたら、私だって応援してあげられるのにね」
応援、の部分を強調して、わざとらしくため息をついてみた。
「私はまだいいよ。こうやってあずさのとか、他の人の恋愛に口出しているほうが面白いもん」
きっぱりと言い切って、真由美は教室を見渡した。
「沙希ちゃん、ねえ、小林君の家って近いんだよね? この子に家までの行き方教えてやってくれない?」
「行くの? あずさ」
「うん。……ごめんね、教えてくれる?」
沙希ちゃんも交えて話をしながら、私はこっそりと本気のため息をついた。バスケ部の高野君。真由美のこと好きなんだって結構有名な話なんだけどな。当の本人がこれだから、私も上手く話を持っていくことができない。なんとかならないかなぁ。
「ほらあずさ、ぼーっとしない。」
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