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瑛士編4. 御挨拶

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 翌日の土曜日昼下り。彩乃の住む街の駅に俺は降りた。

 十八年前には自分も住んでいた街。当時の家とは中学校を挟んで反対側にあるこの駅を利用した回数は、意外と少ない。それでも記憶の片隅に風景は残っていて、懐かしい気持ちが沸き起こる。俺は散歩をするようにゆっくりとあたりを見回しながら、彼女の家へと向かった。

 駅から真っ直ぐ伸びるバス通り。そこを信号四つ程越えた辺りで右に折れる。住宅街の中に入って地図アプリの誘導にしたがって右へ左へと進んでいくと、遠藤という表札の一軒家を見つけた。小さく息を吸って吐いてから、チャイムを鳴らす。奥からはーいという声が聞こえて、ドアが開いた。

「……はじめまして。あなたが瑛士さん?」

 彩乃をもう少し小さくして、もう少し丸いフォルムにした女性がにっこりと微笑んで、俺を見つめた。

「大浦 瑛士です。はじめまして」

 そう言って頭を下げる。

「お母さん!」

 ぱたぱたと廊下を走る音がして、彩乃が飛び出してきた。今日はこのまま俺の家に泊まるせいか、大きめのバッグを抱えている。彩乃の母はそんな娘を気にする風でも無く、マイペースに俺を招き入れた。

「さあどうぞ上がってちょうだい」
「そんな時間は無いから! 今日は瑛士は迎えに来ただけなの」

 彩乃が慌てて止める姿に、つい笑みが浮かんでしまった。昨夜突然に俺が送った『家まで迎えに行くよ』宣言。それに振り回されているにも関わらず、拒否する選択が彼女の中に無かったのが嬉しい。本人は気付いていない様だけれど。

「あらそうなの?」

 小首を傾げて聞かれたので、こちらもにこりと微笑んで返答した。

「残念ながら。また日を改めてきちんとご挨拶にうかがわせていただきます」

 このまま一気に押し進めたい気持ちはやまやまだけれど、流石にこれ以上彩乃に心理的な圧はかけたくない。

「そう。それなら彩乃、お父さん呼んできて」
「えー」
「ほら早く」

 渋々奥へと引っ込む彩乃の後ろ姿を目で追うと、直ぐに男性が一緒にやって来た。

「はじめまして。彩乃の父です」
「大浦 瑛士です。お嬢さんと真剣にお付き合いさせていただいております」

 そう自己紹介をして、頭を下げた。

「そうなのか?」
「うん」

 確かめられて、目をそらしながらうなずく彩乃が可愛い。つい見とれたら、クスクスと笑い声が聞こえた。

「今日はこのまま彩乃と出かけてしまうんですって」
「忙しないな」
「いいでしょ! 今日は本当に迎えに来ただけなの」

 焦った表情の彩乃。その姿に段々と罪悪感がわいてしまい、素直に謝った。

「すみません。迎えに行きたいって俺が我がまま言ったんです」

 早く会いたくて。待ちきれなくて。
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