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その5. 金曜の夜*

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「あの、ちょっと待ってもらっていいですか」

 このまま抱きしめていたい。そんな気持ちを無理やり抑え込み、健斗は腕をゆるめて美晴から一歩離れた。そしてスマホを取り出す。

 ――その気になった相手をラブホ探しの旅に連れ回して、白けさせることだけはするなよ。

 先週の飲み会で、陽平からはそんなことも教わった。そしてその対応策についても。

 健斗は検索画面を立ち上げると、目星を付けていたホテルの空室状況をチェックする。リンク先の画面が開く間がもどかしい。

「……手慣れているんですね」
「え!? 」

 気が付けば一緒になって画面を覗き込んでいる美晴にそう言われ、焦ってぶんぶんと首を振る。

 学生時代には部活での活躍もあり、そこに惹かれて健斗に寄ってくる女子もいた。数人とは付き合ったこともあるが、女性の扱いに困っているうちにすぐにあちらが飽きて別れる羽目になってしまった。本当に自分のことが好きで付き合ったのではなく、ガタイの良い男枠で選ばれただけな気がしてならない。そして社会人になってからは日々の生活に追われ、あっという間に二年と四ヶ月が経過した。直近での最大の関心事は、この隣で自分に体を傾けている女性だ。そんな彼女に見栄を張りたい気持ちもあるが、ここで手慣れていると誤解されるとろくな事にはならない予感がひしひしとする。

「金曜の夜に飛び込みでホテルに行っても断られるのがオチだって、教えてもらって」
「それって柿村さん?」
「そうです」
「あー、そういうの言いそうですね、彼」

 なぜ今、陽平の話題で盛り上がらなくてはいけないのか。小さくイラついたが、くすくすと笑いながら美晴が腕にそっと抱きついたので、そのイラつきも吹き飛んだ。腕に当たる彼女の胸の感触とほのかに香る甘い匂いで、健斗の鼓動がまた早くなる。

「美晴さん、酔ってますか?」
「ほろ酔いです」

 妙にきっぱりと断言するところが、逆に怪しい。だが、すでに健斗のスイッチも入っていた。酔っているなら尚更のこと、彼女を一人で帰すわけにもいかない。そんな言い訳を心の中で呟きながら、ホテルの空き状況確認と予約を実行する。

「……あの、予約取れました」
「ありがとう」

 健斗を見上げて微笑む美晴の唇が艶めいていて、この場で押し倒してしまいたくなる。

「駅の向こう側なんで、タクシー使いましょうか」
「歩きでいいですよ。タクシー探す時間でたどり着けちゃう」

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