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その5. 金曜の夜*

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 そうして手をきゅっと握られる。ここまでされて、受け身のままではいられなかった。指を絡めて手をつなぎ返す。

「行きましょう」

 そう言って、歩き出した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ホテルの部屋に入りドアを閉めると、カチリ、とロックされる音が響いた。それが合図のように、健斗は先に部屋に入った美晴を背後から抱きしめる。

「美晴さん……」

 うなじに口付けながら名前を呼ぶと、くすくすと笑われた。

「シャワー浴びてから。ね?」

 そうなだめる声が甘く聞こえるのは気のせいでは無いのだろう。試しに彼女の耳たぶを軽く囓ると、「んっ」と小さくため息が漏れた。

 別にシャワーなんか浴びなくても

 そう言って押し倒したい気持ちはやまやまだが、初めて体を合わせる相手に無理強いはしたくない。その代わりとばかりに彼女の肩を軽く引いてこちらに向かせると、唇を重ねた。ぽってりと少し厚めの彼女の唇を、ここぞとばかりに堪能する。次第に開いていく唇から舌を入れると、すぐに絡み合った。

「ふっ……、ん……」

 鼻に抜ける声。ピチャピチャと湿った音が互いの口内に響く。支えるつもりで健斗が美晴の背中に手を回すが、それは自然と下に降りて尻を掴んだ。男とは違う、柔らかい美晴の体。健斗の腰と美晴の腰が合わさって、お互いに押し付けあい、擦り合わさる。

「も……、待って」

 すっかり力が抜け、健斗にしがみつくだけになった美晴がようやく唇を離し、ストップをかけた。人差し指を健斗の唇に置くと、ふわりと笑う。

「すぐ戻るから、待っていて」

 そうしてゆっくりとバスルームに消えていった。

「やべぇ……」

 扉が閉まるまで目で追ったあと、どさりとベッドに腰を掛け、健斗は自分の顔を手でおおう。耳まで真っ赤になっている自覚がある。股間が熱く己を主張していた。

 コンビニ店内で眺めるだけだった憧れの人。食事をしたことで一気に距離が近付いたと思ったら、まさか二人きりだとこんなに妖艶になるとは思わなかった。

「ベッドの中では娼婦ってか」

 言った途端、自分の言動が脂でギラついた親爺のようだと思い、慌てて頭を振る。

 落ち着きなく待っていると、バスローブに身を包んだ美晴が戻ってきた。交代するようにバスルームに飛び込み、大慌てで汗を流す。腰にタオルを巻いた状態で戻ると、ベッドに腰掛けていた美晴の横に並ぶように座った。

「美晴さん……」
「はい」

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