【完結】一夜限りと思ったワンコ系男子との正しい恋愛の始め方

櫻屋かんな

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その12. 笑顔の種類

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「本当にこれでいいんですね」

 予約チケットの発券機の前で、健斗が美晴にそう確認する。今日は土曜日。二人は約束通り、映画館で待ち合わせていた。

 健斗の思い付きで決まった映画デートだが、なにを観るかは美晴に委ねた。そしてリクエストされたのは、本格SF映画。宇宙空間で地球への帰還を目指すような内容だ。健斗からすれば一番気負わずに楽しめるジャンルだが、果たしてデートで観るものなのだろうか。この選択は自分に気を遣ってなのかと、つい勘ぐってしまう。だが、

「久し振りに大スクリーンで観る映画だもの。やっぱりSFでしょう」

 言い切る美晴の表情は爽やかだった。そこでようやく、自分の思い違いに気が付く。

「本当に、観たかったんだ」

 なぜ女性とデートなら恋愛物を観させられる、と身構えたのか。

「駄目だった?」
「いや、嬉しいです。これなら俺も寝ないで観ていられる」
「 ……もしかして、過去に恋愛物観てつまんなくって寝落ちして、怒られた経験有り?」

 妙に具体的に聞いてくるのでつい動揺し、健斗が言葉に詰まって視線を泳がせる。その分かりやすい反応に、美晴が小さく吹き出した。

「やったんだ」
「過去のことはいいから。もう中に入りましょう」

 そう促して、館内へと入ってゆく。こうして日中のデートは始まった。



 映画を見終えると遅いランチを食べ、そのまま二人は通りかかった公園に立ち寄った。繁華街の外れにある公園は最近整備されたとかで、洒落たカフェやドッグランが併設されており、家族連れやカップル、友達同士など様々な人がくつろいでいる。運良く日陰のベンチが空いたので、そこに座ることができた。

「コーヒー、飲みますか?」
「たまには冷たいのがいいな。フラペチーノ、お願いしてよい?」
「了解」

 カフェでフラペチーノとアイスコーヒーを買う。戻ろうとベンチを見ると、それに気付いた美晴が手を振ってくれた。一瞬その笑顔に見惚れてから、歩き出す。

「ありがとう」

 そう言って受け取る美晴にうなずいて、隣に座った。

「美晴さんが冷たい飲み物飲むのを、初めて見た」
「さすがにこの暑さで、外でホットコーヒーは飲まないよ」
「確かに」
「でもコンビニの淹れたてコーヒー、好き」
「それは知ってる」

 九月に入って最初の週末だ。秋の気配はまだ欠片もなく、夏が続いている。すでに夕方にはなっていたが日はまだ明るく、気温も下がる気配がない。冷房の効いているコンビニ店内ならいざ知らず、屋外なら冷たいものが欲しくなる。二人はそれぞれの飲み物を味わいながら、くつろいでいた。

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