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第十八章 リンゴ狩り
第六話 妖精達からの贈り物 新たな加護と称号を得て
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妖精達の大歓声を背に、バーナードらは妖精の城に戻った。
そしていつもの宴会が開かれる。
妖精達は何かあれば、すぐに大広場で宴会を開くのがならいのようだった。
そして、お土産に山盛りのリンゴを持たせられる。
あの“黄金のリンゴ”である。
ご機嫌な妖精女王は、満面の笑みを浮かべて言った。
「ほんに、ご苦労であった。これでわらわの珠のような肌が守られるぞ。よくぞやってくれた。褒めて遣わす」
バーナードはまるっと妖精女王のことを無視していて、傍らの妖精王子に軽く頭を下げた。
「それでは、失礼する」
明日からまた仕事である。宴会に出ている時間はない。
これから人の国に戻り、ユスタニア渓谷から屋敷へ戻らなければならないのだ。
もうさっさと明日に備えて寝てしまいたかった。
妖精王子とその妃セリーヌは、微笑みながら言った。
「妖精達を、そしてリンゴの木を守ってくださってありがとうございました。僅かばかりですが、私達から“加護”を贈らせて頂きます」
妖精王子が軽く手を振ると、バーナード、フィリップ、マグル、そしてディーターの体が一瞬淡い輝きを放った。
後に、鑑定の水晶珠で知ったのだが、全員に“妖精の恩人”“妖精の守護者”という称号と、“黄金のリンゴの加護”がついていた。
マグルは「僕、加護や称号をもらうのは初めてだ」と感激していた。
バーナードはそんなワケの分からない“黄金のリンゴの加護”など貰っても、嬉しくともなんともないと思っていた。
実際、その加護は、リンゴとリンゴを使った料理が通常の百倍美味しく感じられ、更には肌が常に瑞々しくなるという、女性達には垂涎の美容効果を持っていた。
妖精女王が「ずるいずるい」と唇を尖らせて言っていたところを見ると、妖精王子にしか授けられない加護らしい。
小脇にリンゴの袋を抱え、人の世界に戻ろうとする四人に、妖精女王が言った。
「来年の秋も、よろしく頼む」
どうも、ムクドリ達は毎年秋に襲来するらしい。
今年倒したとしても、来年にはまた復活する恐ろしい存在らしいのだ。
そして毎年のように、妖精達とムクドリ達は、“黄金のリンゴ”を巡って争い続けるのだった。
聞かなかったことにして、バーナード達は自身の屋敷に帰還した。
その翌日には、おのおのの屋敷の前にうず高く積まれた真っ赤なリンゴの入った箱が三十箱以上届いた。
これも、妖精達の御礼の品らしい。
「こんなに食べられるはずがないだろう」
バーナードは呆れた。ちなみにフィリップの屋敷の前にも、そしてマグルの屋敷の前にも同じようにリンゴの箱が置かれていたらしい。
ディーターの分については、バーナードの屋敷に併せて届けたと手紙が入っていた。意外と律儀である。
ムクドリに突っつかれ、怪我をしたディーターは、ポーションでその傷を癒していた。だが、ところどころ、毛が少しハゲていた。
当然、近衛騎士団に小さな仔犬と化したディーターを手渡しに、少年姿のバートが行った時には、物凄く近衛騎士達に睨まれることになったのだった。
そしてディーターの引き渡しと共に、ディーターが受け取った山盛りのリンゴもまた、近衛騎士達に引き渡された。
また、食べきれない量のリンゴを渡されたバーナードとフィリップは、王立騎士団の騎士達にリンゴを配り、そして王太子殿下にもリンゴを献上した。
大人の頭ほどもある大きなそのリンゴは、食べたものの肌をツヤツヤとさせる効果と、うっすらリンゴの香りが肌から立ち上る芳香効果があることが分かると、おのおのの贈与・献上先であっという間に女性達に食べ尽くされた。
王立騎士団、近衛騎士団に配られたリンゴは、騎士達が喜んで食べ、この二つの騎士達もまた一様に、非常に肌が滑らかに美しくなったことで、“美肌の騎士団”と密かに異名を取ることになるのはまた別の話である。
近衛騎士のジェラルドは、何故かたくさんのリンゴと共に戻ってきた黒い仔犬のディーターを抱きしめた。
「危ない真似をしては駄目だよ」
そのつぶらな緑色の瞳を覗き込みながら言う。仔犬はジェラルドの頬をペロリと舐めた。
ジェラルドは、仔犬が鳥に突っつかれたと聞いた時、引き渡しに来た黒髪の少年バートを、思い切り大人気なく睨みつけてしまった。
仔犬のふさふさの黒い毛が、見ればところどころでハゲている。ポーションで癒して傷は治したという話だが、こんなハゲるまで突っつくなど、よほど狂暴な鳥ではないか。
なぜそんな鳥の前に、こんなかわいい仔犬をさらしたのだと、今でも思い出すだけで頭にくる。
ディーターは、綺麗な顔を未だ不機嫌そうにしているジェラルドを見て、そして赤いリンゴを見て「ワン」と吠えたのだった。
このほっぺたが落ちそうなほど甘くかぐわしい香りを放つリンゴを、是非、彼に食べて欲しかった。そして喜んでもらいたかった。
愛しい番を喜ばせるためなら、少々危険な目に遭おうとも、何でもしてやりたいとディーターは思うのだった。美味しいと一言でも言ってもらえたら。それでどんな苦労も報われる。
ハフハフと息をさせる、そんなディーターの頭を優しくジェラルドは撫でるのだった。
そしていつもの宴会が開かれる。
妖精達は何かあれば、すぐに大広場で宴会を開くのがならいのようだった。
そして、お土産に山盛りのリンゴを持たせられる。
あの“黄金のリンゴ”である。
ご機嫌な妖精女王は、満面の笑みを浮かべて言った。
「ほんに、ご苦労であった。これでわらわの珠のような肌が守られるぞ。よくぞやってくれた。褒めて遣わす」
バーナードはまるっと妖精女王のことを無視していて、傍らの妖精王子に軽く頭を下げた。
「それでは、失礼する」
明日からまた仕事である。宴会に出ている時間はない。
これから人の国に戻り、ユスタニア渓谷から屋敷へ戻らなければならないのだ。
もうさっさと明日に備えて寝てしまいたかった。
妖精王子とその妃セリーヌは、微笑みながら言った。
「妖精達を、そしてリンゴの木を守ってくださってありがとうございました。僅かばかりですが、私達から“加護”を贈らせて頂きます」
妖精王子が軽く手を振ると、バーナード、フィリップ、マグル、そしてディーターの体が一瞬淡い輝きを放った。
後に、鑑定の水晶珠で知ったのだが、全員に“妖精の恩人”“妖精の守護者”という称号と、“黄金のリンゴの加護”がついていた。
マグルは「僕、加護や称号をもらうのは初めてだ」と感激していた。
バーナードはそんなワケの分からない“黄金のリンゴの加護”など貰っても、嬉しくともなんともないと思っていた。
実際、その加護は、リンゴとリンゴを使った料理が通常の百倍美味しく感じられ、更には肌が常に瑞々しくなるという、女性達には垂涎の美容効果を持っていた。
妖精女王が「ずるいずるい」と唇を尖らせて言っていたところを見ると、妖精王子にしか授けられない加護らしい。
小脇にリンゴの袋を抱え、人の世界に戻ろうとする四人に、妖精女王が言った。
「来年の秋も、よろしく頼む」
どうも、ムクドリ達は毎年秋に襲来するらしい。
今年倒したとしても、来年にはまた復活する恐ろしい存在らしいのだ。
そして毎年のように、妖精達とムクドリ達は、“黄金のリンゴ”を巡って争い続けるのだった。
聞かなかったことにして、バーナード達は自身の屋敷に帰還した。
その翌日には、おのおのの屋敷の前にうず高く積まれた真っ赤なリンゴの入った箱が三十箱以上届いた。
これも、妖精達の御礼の品らしい。
「こんなに食べられるはずがないだろう」
バーナードは呆れた。ちなみにフィリップの屋敷の前にも、そしてマグルの屋敷の前にも同じようにリンゴの箱が置かれていたらしい。
ディーターの分については、バーナードの屋敷に併せて届けたと手紙が入っていた。意外と律儀である。
ムクドリに突っつかれ、怪我をしたディーターは、ポーションでその傷を癒していた。だが、ところどころ、毛が少しハゲていた。
当然、近衛騎士団に小さな仔犬と化したディーターを手渡しに、少年姿のバートが行った時には、物凄く近衛騎士達に睨まれることになったのだった。
そしてディーターの引き渡しと共に、ディーターが受け取った山盛りのリンゴもまた、近衛騎士達に引き渡された。
また、食べきれない量のリンゴを渡されたバーナードとフィリップは、王立騎士団の騎士達にリンゴを配り、そして王太子殿下にもリンゴを献上した。
大人の頭ほどもある大きなそのリンゴは、食べたものの肌をツヤツヤとさせる効果と、うっすらリンゴの香りが肌から立ち上る芳香効果があることが分かると、おのおのの贈与・献上先であっという間に女性達に食べ尽くされた。
王立騎士団、近衛騎士団に配られたリンゴは、騎士達が喜んで食べ、この二つの騎士達もまた一様に、非常に肌が滑らかに美しくなったことで、“美肌の騎士団”と密かに異名を取ることになるのはまた別の話である。
近衛騎士のジェラルドは、何故かたくさんのリンゴと共に戻ってきた黒い仔犬のディーターを抱きしめた。
「危ない真似をしては駄目だよ」
そのつぶらな緑色の瞳を覗き込みながら言う。仔犬はジェラルドの頬をペロリと舐めた。
ジェラルドは、仔犬が鳥に突っつかれたと聞いた時、引き渡しに来た黒髪の少年バートを、思い切り大人気なく睨みつけてしまった。
仔犬のふさふさの黒い毛が、見ればところどころでハゲている。ポーションで癒して傷は治したという話だが、こんなハゲるまで突っつくなど、よほど狂暴な鳥ではないか。
なぜそんな鳥の前に、こんなかわいい仔犬をさらしたのだと、今でも思い出すだけで頭にくる。
ディーターは、綺麗な顔を未だ不機嫌そうにしているジェラルドを見て、そして赤いリンゴを見て「ワン」と吠えたのだった。
このほっぺたが落ちそうなほど甘くかぐわしい香りを放つリンゴを、是非、彼に食べて欲しかった。そして喜んでもらいたかった。
愛しい番を喜ばせるためなら、少々危険な目に遭おうとも、何でもしてやりたいとディーターは思うのだった。美味しいと一言でも言ってもらえたら。それでどんな苦労も報われる。
ハフハフと息をさせる、そんなディーターの頭を優しくジェラルドは撫でるのだった。
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