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第一章
第十二話 いらない愛
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夜、私は食事をとりながら、リザンヌから報告を受けた。
新入りの奴隷が、午前中十個、午後に十五個の低級ポーションを作ったという。
低級ポーションは一個銅貨二十枚ほどである。銅貨百枚で銀貨一枚になる。
新入りの奴隷は、もう少しで自分の購入価格を稼ぎそうだった。
その言葉を聞いて、マンセルもクランプも肩をすくめた。
「儲けになるならいい」
大きなテーブルにつき、皆で食事をとっている。セスは彼らの言葉を聞いても口答えすることなく、大人しく食事をとっていた。
彼は目が見えないため、おぼつかない様子ではあったが、ナイフとフォークを使い、食事をとっていた。
マンセルとクランプも、私が奴隷として買ってから、彼らにもテーブルマナーを叩き込んだために、今では慣れた手つきでナイフやフォークを使いこなしている。
食事を進めながら、私は今後の方針を告げた。
「リザンヌはセスに、今後もポーションを作らせて頂戴。魔力の質もいいから、上級ポーションまで彼は作れるようになると思うけど、無理はさせないように」
上級ポーションと聞いて、マンセルとクランプはギョッと顔をあげた。
上級ポーションは大きな怪我を治すことのできる、冒険者には必須の薬だ。だが、その値段は高価で一つが銀貨二十枚もする。
それで、二人の獣人は改めて、セスに視線をやった。
私は口元に笑みを浮かべた。
「元手なんてすぐに取れるわよ」
そう言って、私はワインを飲み干した。
自分の部屋に戻ると、私はベットに飛び込んだ。
ふわふわの寝具の感触が気持ちいい。
ちゃんとリザンヌが毎日、シーツを取り替えてくれる。
私は食事と寝床にはお金をかけることにしてきた。
そうした贅沢をしなければ、何のために生きているのかわからない。
私はこの食事とふかふかのベットのために、一生懸命に働いているのだ。
戸口から音がした。
見ると、セスがそっと部屋に入ってくる。
彼は一人で階段を上れたようだ。
「来なさい、セス。眠るわよ」
私は歩いてくるセスの手を引いて、その身を抱きしめた。
彼は大人しく私のされるがままになっていたが、戸惑っている様子だった。
若い男の身である。
性的に奉仕もさせず、ただこうしてぬいぐるみのように抱かれて眠ることには疑問があるのだ。
「……よろしいのでしょうか」
彼がそう言うのを、私は小さく笑って言った。
「いらないと言ったでしょう。側にいるだけでいいわ。私は、いらないから」
その言葉が、彼を傷つけることを知っていた。
きっと彼は、ザックリとそのプライドを傷つけられ、見えない処でたらたらと血を流している。
かつての彼は、美しく気品があり、娘達は彼の愛を求めて群がった。
誰もが彼の褥に侍りたがった。彼に恋焦がれた。
あの冷たい心を持つ、美しい王太子に。
でも、彼は可哀想なエヴェリーナに対して、一度として、その情けを与えることもなかった。
口づけすら、彼は婚約者のその娘に許さなかった。
可哀想な、可哀想なエヴェリーナ。
彼女は恋に焦がれて、そして八年前にその心は死んでしまったのだ。
だから、王太子の愛など、もういらないのだ。
だいたい、彼は私の愛玩物。
私が可愛がることがあったとしても、それは愛玩物に対するものであるだけだった。
新入りの奴隷が、午前中十個、午後に十五個の低級ポーションを作ったという。
低級ポーションは一個銅貨二十枚ほどである。銅貨百枚で銀貨一枚になる。
新入りの奴隷は、もう少しで自分の購入価格を稼ぎそうだった。
その言葉を聞いて、マンセルもクランプも肩をすくめた。
「儲けになるならいい」
大きなテーブルにつき、皆で食事をとっている。セスは彼らの言葉を聞いても口答えすることなく、大人しく食事をとっていた。
彼は目が見えないため、おぼつかない様子ではあったが、ナイフとフォークを使い、食事をとっていた。
マンセルとクランプも、私が奴隷として買ってから、彼らにもテーブルマナーを叩き込んだために、今では慣れた手つきでナイフやフォークを使いこなしている。
食事を進めながら、私は今後の方針を告げた。
「リザンヌはセスに、今後もポーションを作らせて頂戴。魔力の質もいいから、上級ポーションまで彼は作れるようになると思うけど、無理はさせないように」
上級ポーションと聞いて、マンセルとクランプはギョッと顔をあげた。
上級ポーションは大きな怪我を治すことのできる、冒険者には必須の薬だ。だが、その値段は高価で一つが銀貨二十枚もする。
それで、二人の獣人は改めて、セスに視線をやった。
私は口元に笑みを浮かべた。
「元手なんてすぐに取れるわよ」
そう言って、私はワインを飲み干した。
自分の部屋に戻ると、私はベットに飛び込んだ。
ふわふわの寝具の感触が気持ちいい。
ちゃんとリザンヌが毎日、シーツを取り替えてくれる。
私は食事と寝床にはお金をかけることにしてきた。
そうした贅沢をしなければ、何のために生きているのかわからない。
私はこの食事とふかふかのベットのために、一生懸命に働いているのだ。
戸口から音がした。
見ると、セスがそっと部屋に入ってくる。
彼は一人で階段を上れたようだ。
「来なさい、セス。眠るわよ」
私は歩いてくるセスの手を引いて、その身を抱きしめた。
彼は大人しく私のされるがままになっていたが、戸惑っている様子だった。
若い男の身である。
性的に奉仕もさせず、ただこうしてぬいぐるみのように抱かれて眠ることには疑問があるのだ。
「……よろしいのでしょうか」
彼がそう言うのを、私は小さく笑って言った。
「いらないと言ったでしょう。側にいるだけでいいわ。私は、いらないから」
その言葉が、彼を傷つけることを知っていた。
きっと彼は、ザックリとそのプライドを傷つけられ、見えない処でたらたらと血を流している。
かつての彼は、美しく気品があり、娘達は彼の愛を求めて群がった。
誰もが彼の褥に侍りたがった。彼に恋焦がれた。
あの冷たい心を持つ、美しい王太子に。
でも、彼は可哀想なエヴェリーナに対して、一度として、その情けを与えることもなかった。
口づけすら、彼は婚約者のその娘に許さなかった。
可哀想な、可哀想なエヴェリーナ。
彼女は恋に焦がれて、そして八年前にその心は死んでしまったのだ。
だから、王太子の愛など、もういらないのだ。
だいたい、彼は私の愛玩物。
私が可愛がることがあったとしても、それは愛玩物に対するものであるだけだった。
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