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第1章 騎士団長と不吉な黒をまとう少年
第3話 横暴な騎士団長
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黙り込んでしまった僕の前で、怒りの表情を見せているヴェルディ騎士団長。それを見守る見習い神官達は、怯えて身を寄せ合って震えていた。
戸口から、副神官長のテラが姿を現した。
「騎士団長殿、突然、どうなさったのです? 何かその子が問題でも起こしましたか」
「テラ、お前は気づかなかったのか。先ほどの茶の味に」
「………」
「気づいていただろう、お前も」
苛立たし気に彼は舌打ちすると、僕の腕を掴んだ。
「……?」
驚いている僕を引きずるようにして、彼は部屋をずんずんと歩いていき、廊下を抜け、階段を降り、神殿前に停められている馬車の扉を開くと、僕を馬車の中に押し込めた。
自分も乗り込んで、扉を閉める。
御者に出発するように命じる。
そこまでの動作は非常にスムーズだった。
動き出した馬車の中で、僕は呆然としていた。
「……あの、神殿に戻りたいのですが」
その言葉を無視して、ヴェルディは言った。
「お前はまだ見習い神官だな。その服装だと正式採用はまだなはずだ」
そう。見習い神官と、正式採用された神官の服装は違う。見習い神官の服は青色だった。正式採用された神官は純白の衣装なのだ。
「……そうですが」
「正式採用になっていないのなら、良かった。本採用のものを引き抜くのは難しいからな。お前は、神殿には返さない」
「……」
僕は目を大きく見開いた。
「え?」
「私の従者にする。側に控え、私のために茶をいれろ」
「抗議します!! 横暴ではないでしょうか。僕は見習い神官です。なんであなたのためのお茶くみ係にならないといけないんでしょうか!!」
そう抗議した僕の胸元をぐいと掴んだ。獰猛な笑みを浮かべて、彼は真近で僕をのぞきこむ。
「いいか。私にはそれが許される権力がある。たかが見習い神官を引き抜いて、この私の従者にしてやるのだ。どちらの方が待遇が良いのか、明らかだろう」
「……見習い神官の仕事は楽しいですよ」
僕がぼそりと言うと、彼は吐き捨てるように言った。
「あんな井の中の蛙で、何がわかる。他の仕事などしたことがないだろう」
それは否定できない。赤子の時からの神殿育ちだった。かつ、前世も神殿の住人でしたから。
でも、神殿は僕にとって居心地の良い場所なのだ。
僕が黙り込んでいると、彼は腕を組み、馬車の窓の外を流れる景色をじっと眺めていた。
その青い瞳が、何を見て、何を考えているのか、僕にはわからなかった。
馬車は、ヴェルディの屋敷に到着した。
前世の僕は、何回かヴェルディの屋敷には来たことがあった。
神官長時代も、学生時代も、仲が良かった僕を招いて歓待してくれたのだ。
また、彼には足の悪い妹がいて、彼女の治療のためにも訪れていた。
だから、ヴェルディの屋敷を見て、僕は懐かしい気持ちがした。
後ろからもう一台馬車がやってきて、その馬車から慌てて副官の若者が下りてくる。
「置いていくなんて、ひどいです、団長」
そう言われても、ヴェルディはまったく意に返さない様子で、僕の手を引いて屋敷の中に入った。
「ハンス」
屋敷に入るなり、すぐさま近づいてきた執事に、僕を引き渡す。
「私の従者見習いにしろ。教育はお前に任せる」
ハンスと呼ばれた中年の、ピシッとした身なりの男性は、ヴェルディの突然の命令にも顔色を変えず、一礼して主人の命令を承っていた。
こんな突然の命令でも、承っちゃうんだ。
僕はそのことに驚いていた。
どこの馬の骨ともわからない、不吉な色合いの見習い神官を、自分の従者にするって……
おかしいと思わないのかな。
普段からヴェルディはこうした横暴な命令をしていて、彼に仕える周囲の人々はそれに慣れているのかもしれない。
僕は執事のハンスと女性の召使に案内された。従者の服に着替えるようにと。
このままあの横暴な騎士団長の従者になるのだろうか。いや、攫われるように連れてこられたのだから、きっと神官長や副神官長達が取りなして、また神殿に戻れるようにしてくれるはず。それまでの辛抱だと思うことにした。
だが、結論からいうと、神殿のとりなしはなかった。
見習い神官が、騎士団長の従者になる。それは、傍目から見ると出世のように見えるらしい。
給金ももらえ、貴族の従者ならば、その生活のすべてを貴族の主人が面倒を見てくれる。
飢えることもなく、十分な教育を受けさせてもらえる。
だから、僕は神殿に戻されることはなかったのだった。
戸口から、副神官長のテラが姿を現した。
「騎士団長殿、突然、どうなさったのです? 何かその子が問題でも起こしましたか」
「テラ、お前は気づかなかったのか。先ほどの茶の味に」
「………」
「気づいていただろう、お前も」
苛立たし気に彼は舌打ちすると、僕の腕を掴んだ。
「……?」
驚いている僕を引きずるようにして、彼は部屋をずんずんと歩いていき、廊下を抜け、階段を降り、神殿前に停められている馬車の扉を開くと、僕を馬車の中に押し込めた。
自分も乗り込んで、扉を閉める。
御者に出発するように命じる。
そこまでの動作は非常にスムーズだった。
動き出した馬車の中で、僕は呆然としていた。
「……あの、神殿に戻りたいのですが」
その言葉を無視して、ヴェルディは言った。
「お前はまだ見習い神官だな。その服装だと正式採用はまだなはずだ」
そう。見習い神官と、正式採用された神官の服装は違う。見習い神官の服は青色だった。正式採用された神官は純白の衣装なのだ。
「……そうですが」
「正式採用になっていないのなら、良かった。本採用のものを引き抜くのは難しいからな。お前は、神殿には返さない」
「……」
僕は目を大きく見開いた。
「え?」
「私の従者にする。側に控え、私のために茶をいれろ」
「抗議します!! 横暴ではないでしょうか。僕は見習い神官です。なんであなたのためのお茶くみ係にならないといけないんでしょうか!!」
そう抗議した僕の胸元をぐいと掴んだ。獰猛な笑みを浮かべて、彼は真近で僕をのぞきこむ。
「いいか。私にはそれが許される権力がある。たかが見習い神官を引き抜いて、この私の従者にしてやるのだ。どちらの方が待遇が良いのか、明らかだろう」
「……見習い神官の仕事は楽しいですよ」
僕がぼそりと言うと、彼は吐き捨てるように言った。
「あんな井の中の蛙で、何がわかる。他の仕事などしたことがないだろう」
それは否定できない。赤子の時からの神殿育ちだった。かつ、前世も神殿の住人でしたから。
でも、神殿は僕にとって居心地の良い場所なのだ。
僕が黙り込んでいると、彼は腕を組み、馬車の窓の外を流れる景色をじっと眺めていた。
その青い瞳が、何を見て、何を考えているのか、僕にはわからなかった。
馬車は、ヴェルディの屋敷に到着した。
前世の僕は、何回かヴェルディの屋敷には来たことがあった。
神官長時代も、学生時代も、仲が良かった僕を招いて歓待してくれたのだ。
また、彼には足の悪い妹がいて、彼女の治療のためにも訪れていた。
だから、ヴェルディの屋敷を見て、僕は懐かしい気持ちがした。
後ろからもう一台馬車がやってきて、その馬車から慌てて副官の若者が下りてくる。
「置いていくなんて、ひどいです、団長」
そう言われても、ヴェルディはまったく意に返さない様子で、僕の手を引いて屋敷の中に入った。
「ハンス」
屋敷に入るなり、すぐさま近づいてきた執事に、僕を引き渡す。
「私の従者見習いにしろ。教育はお前に任せる」
ハンスと呼ばれた中年の、ピシッとした身なりの男性は、ヴェルディの突然の命令にも顔色を変えず、一礼して主人の命令を承っていた。
こんな突然の命令でも、承っちゃうんだ。
僕はそのことに驚いていた。
どこの馬の骨ともわからない、不吉な色合いの見習い神官を、自分の従者にするって……
おかしいと思わないのかな。
普段からヴェルディはこうした横暴な命令をしていて、彼に仕える周囲の人々はそれに慣れているのかもしれない。
僕は執事のハンスと女性の召使に案内された。従者の服に着替えるようにと。
このままあの横暴な騎士団長の従者になるのだろうか。いや、攫われるように連れてこられたのだから、きっと神官長や副神官長達が取りなして、また神殿に戻れるようにしてくれるはず。それまでの辛抱だと思うことにした。
だが、結論からいうと、神殿のとりなしはなかった。
見習い神官が、騎士団長の従者になる。それは、傍目から見ると出世のように見えるらしい。
給金ももらえ、貴族の従者ならば、その生活のすべてを貴族の主人が面倒を見てくれる。
飢えることもなく、十分な教育を受けさせてもらえる。
だから、僕は神殿に戻されることはなかったのだった。
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