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第十三章 失われたものを取り戻すために
第十二話 魔術師達のギルド(下)
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アレドリア王国の魔術師ギルド長レーベンは「協力が必要なことがあれば何なりとお申しつけ下さい」と言って、副ギルド長と共に退室した。
それで、部屋の中には魔術師ルティと、アルバート王子の二人が残された(ルーシェはアルバート王子の胸元に小さな竜の姿のまま潜んでいる)。
魔術師ルティは三十代の痩身の男で、どことなく神経質そうな様子があった。
彼はアルバート王子に軽く頭を下げた後、ラウデシア王国が現状得ている情報をすべて提供して欲しいと言った。調査には当然それが必要だろうと王子は事前に用意していた、ラウデシア王国で魔術師から聞いた話をまとめた書きつけと、自分が現地で見たものを口頭で伝える。
「ラウデシア王国で起こっている事象は厳密には“召喚”の中断状態になります。サトー王国の術者がその召喚者であるなら、召喚者は“召喚”を途中で止めたために、あのような“消失”状態になっているのでしょう。今の状況を回復するためには“召喚”の途中状態にある対象物を、同じ場所に“到着”させるか、若しくは別次元に待機状態のまま置かれている対象物を再度“召喚”する方法をとるしかないでしょう。前者はサトー王国の術者でなければ出来ないでしょう。だから、事象の解消には、後者の別次元を漂う対象物を再“召喚”するしかないのではないかと思います」
アルバート王子の胸元に隠れていた小さな竜姿のルーシェは、あまりにも話が難解になっていたので、目をパチクリとしていた。難しくてよく分からない。
しかし、アルバート王子は魔術師ルティの話についていっていた(ルーシェ曰く「さすが俺の王子は天才だ!!」)。
「次元を漂う対象物を再“召喚”するなんてことが出来るんですか」
「幸いにも、今回の対象物は非常に巨大で、空間を歪ませるほどの規模です。事実ラウデシア王国の北方地方で起きた異変はあまりにも規模が大きかったが故に、我々アレドリア王国の魔術師がすぐに知覚できるほどのものでした。規模が小さかったのなら、次元を漂う対象物を見つけることは至難であったでしょう」
「規模の大きさが幸いしたということですね」
「そうなります。ただし、大きな問題が一つあります」
魔術師ルティは、ラウデシア王国で発生している“消失”発生の事象の話を聞いてから、ずっとその解決法について考えてきた。結局、事象解消には“消失”していたものを元の場所に戻すしかない。そしてその元の場所に戻すことは、サトー王国の術者が使った魔力と同じくらいの、桁違いの魔力量を消費するしかないのだ。
「次元を越える、これほど規模の大きな“召喚”魔法を行うためには、桁違いの大量の魔力が必要になります。そんな魔力がどこにあるのでしょうか」
「…………」
黙り込むアルバート王子の胸元で、小さな紫竜が囁くように鳴いた。
「ピルルルゥ(“魔素”だ)」
アルバート王子もそれを分かっている。異世界からやって来た者達が、空気中にある膨大な“魔素”を使えばそれが出来るだろう。ルーシェは昔から、空気中の“魔素”を貯め込んできた。そしてルーシェだけでは足りないと言うのなら、前世からの友人だというハルヴェラ王国のリン王太子妃や、カルフィー魔道具店の三橋友親の協力を仰ぐことも出来るはずだ。
「膨大な魔力の当てはあります」
魔術師ルティは、アルバート王子の言葉に目を見開いた。
「本当ですか」
「はい。ただ、何人かの者達に協力を仰がなければならないでしょう。これから急ぎ、連絡を取ってみます。ですが、“召喚”魔法は誰がふるって下さるのでしょうか」
魔術師ルティは笑んで、自分の胸元に手をやって言った。
「勿論、この私が行います」
アルバート王子は、ハルヴェラ王国のリン王太子妃に、魔法を使った通信で急ぎ連絡を取った。魔法を使用する通信は非常に高度な魔術と大量の魔力が必要だったが、魔術師ルティが手配してくれた。なお、通信の秘密も担保されているとルティは言ってくれた。そしてリン王太子妃に協力を要請したところ、彼女は即座に快諾する。あまりにも即決なので、伴侶の王太子に相談しないで勝手に決めていいのだろうかと、アルバート王子の方が考え悩んでしまったくらいである。
問題は、カルフィー魔道具店のトモチカの方であった。
カルフィー魔道具店に連絡したところ、店員から、トモチカは長期の休暇を取っていると伝えられる。それではカルフィー魔術師と話がしたいと頼んでも、カルフィー魔術師は忙しいので応対出来ないと、連絡を切られてしまった。
そのあまりにも素っ気ない応対に、アルバート王子の胸元にいた小さな竜は頭を傾げ、それから言った。
「ピルルゥピル。ピルピルルルゥ(なんかおかしい。トモチカのところへ行ってみようよ)」
それにアルバート王子も頷き、二人は大陸南西部に在るというカルフィー魔道具店へ向かうことにしたのだった。ちなみに魔術師ルティは、「私は“消失”の事象を現地で見ておきたいので、先にラウデシア王国へ行きます」と早々に北方の国目指して出立することにしていた。
それで、部屋の中には魔術師ルティと、アルバート王子の二人が残された(ルーシェはアルバート王子の胸元に小さな竜の姿のまま潜んでいる)。
魔術師ルティは三十代の痩身の男で、どことなく神経質そうな様子があった。
彼はアルバート王子に軽く頭を下げた後、ラウデシア王国が現状得ている情報をすべて提供して欲しいと言った。調査には当然それが必要だろうと王子は事前に用意していた、ラウデシア王国で魔術師から聞いた話をまとめた書きつけと、自分が現地で見たものを口頭で伝える。
「ラウデシア王国で起こっている事象は厳密には“召喚”の中断状態になります。サトー王国の術者がその召喚者であるなら、召喚者は“召喚”を途中で止めたために、あのような“消失”状態になっているのでしょう。今の状況を回復するためには“召喚”の途中状態にある対象物を、同じ場所に“到着”させるか、若しくは別次元に待機状態のまま置かれている対象物を再度“召喚”する方法をとるしかないでしょう。前者はサトー王国の術者でなければ出来ないでしょう。だから、事象の解消には、後者の別次元を漂う対象物を再“召喚”するしかないのではないかと思います」
アルバート王子の胸元に隠れていた小さな竜姿のルーシェは、あまりにも話が難解になっていたので、目をパチクリとしていた。難しくてよく分からない。
しかし、アルバート王子は魔術師ルティの話についていっていた(ルーシェ曰く「さすが俺の王子は天才だ!!」)。
「次元を漂う対象物を再“召喚”するなんてことが出来るんですか」
「幸いにも、今回の対象物は非常に巨大で、空間を歪ませるほどの規模です。事実ラウデシア王国の北方地方で起きた異変はあまりにも規模が大きかったが故に、我々アレドリア王国の魔術師がすぐに知覚できるほどのものでした。規模が小さかったのなら、次元を漂う対象物を見つけることは至難であったでしょう」
「規模の大きさが幸いしたということですね」
「そうなります。ただし、大きな問題が一つあります」
魔術師ルティは、ラウデシア王国で発生している“消失”発生の事象の話を聞いてから、ずっとその解決法について考えてきた。結局、事象解消には“消失”していたものを元の場所に戻すしかない。そしてその元の場所に戻すことは、サトー王国の術者が使った魔力と同じくらいの、桁違いの魔力量を消費するしかないのだ。
「次元を越える、これほど規模の大きな“召喚”魔法を行うためには、桁違いの大量の魔力が必要になります。そんな魔力がどこにあるのでしょうか」
「…………」
黙り込むアルバート王子の胸元で、小さな紫竜が囁くように鳴いた。
「ピルルルゥ(“魔素”だ)」
アルバート王子もそれを分かっている。異世界からやって来た者達が、空気中にある膨大な“魔素”を使えばそれが出来るだろう。ルーシェは昔から、空気中の“魔素”を貯め込んできた。そしてルーシェだけでは足りないと言うのなら、前世からの友人だというハルヴェラ王国のリン王太子妃や、カルフィー魔道具店の三橋友親の協力を仰ぐことも出来るはずだ。
「膨大な魔力の当てはあります」
魔術師ルティは、アルバート王子の言葉に目を見開いた。
「本当ですか」
「はい。ただ、何人かの者達に協力を仰がなければならないでしょう。これから急ぎ、連絡を取ってみます。ですが、“召喚”魔法は誰がふるって下さるのでしょうか」
魔術師ルティは笑んで、自分の胸元に手をやって言った。
「勿論、この私が行います」
アルバート王子は、ハルヴェラ王国のリン王太子妃に、魔法を使った通信で急ぎ連絡を取った。魔法を使用する通信は非常に高度な魔術と大量の魔力が必要だったが、魔術師ルティが手配してくれた。なお、通信の秘密も担保されているとルティは言ってくれた。そしてリン王太子妃に協力を要請したところ、彼女は即座に快諾する。あまりにも即決なので、伴侶の王太子に相談しないで勝手に決めていいのだろうかと、アルバート王子の方が考え悩んでしまったくらいである。
問題は、カルフィー魔道具店のトモチカの方であった。
カルフィー魔道具店に連絡したところ、店員から、トモチカは長期の休暇を取っていると伝えられる。それではカルフィー魔術師と話がしたいと頼んでも、カルフィー魔術師は忙しいので応対出来ないと、連絡を切られてしまった。
そのあまりにも素っ気ない応対に、アルバート王子の胸元にいた小さな竜は頭を傾げ、それから言った。
「ピルルゥピル。ピルピルルルゥ(なんかおかしい。トモチカのところへ行ってみようよ)」
それにアルバート王子も頷き、二人は大陸南西部に在るというカルフィー魔道具店へ向かうことにしたのだった。ちなみに魔術師ルティは、「私は“消失”の事象を現地で見ておきたいので、先にラウデシア王国へ行きます」と早々に北方の国目指して出立することにしていた。
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