脱獄賢者~魔法を封じられた懲役1000年の賢者は体を鍛えて拳で全てを制圧する~

榊与一

文字の大きさ
29 / 67

29話 神の炎

しおりを挟む
「どうぞお座りください」

此処はレジェンディアにある教会の一室。
俺ははそこで椅子を勧められる。

教会に連れてこられた時は、やはり罠かとも思ったが。
冥界の瞳で辺りを確認する限り、潜伏者らしき怪しい者は見当たらなかった。

「何故俺の事が分かった」

安物の椅子にドカリと腰を下ろし、単刀直入に尋ねる。
話は手短に済ませたい。

何せ、冥界の瞳を発動させっぱなしだからな。

教会で待ち伏せこそされてはいなかったが。
後から包囲されないという保証がない以上、油断は禁物だ。
俺は警戒の為、不快感を堪えて冥界の瞳を維持し続ける必要があった。

この状態を長時間維持するのは正直きつい。
相手に無駄な時間を与えない意味も含めて、俺はさっさと会話を終わらせるつもりだ。

「お茶を――」

「いらん、さっさと話せ」

「分かりました。神託を受けたのです。今日貴方があそこに現れると神からのお告げを受け、お迎えに上がりました」

「ふざけているのか?」

俺は眉を顰める。
言うに事欠いて、神託と来たか。
どうやら真面に答えるつもりはない様だ。

「下らん事に時間を使うつもりはない」

話す気が無い様なら、力づくで聞きだすまでだ。
あまり乱暴な事はしたくなかったが、俺に関する情報の出所を特定しておかなければ、後々の行動に差しさわりが出てくる。

悪いが、死なない程度に――

「アルアーノ」

椅子から立ち上がろうとしていた俺は、その一言で動きを止め。
驚きから女の顔を凝視してしまう。

「貴方が初めて召喚した使い魔の名です」

苦い思い出が脳裏を過る。
子供の頃から神童と呼ばれていた俺は、幼い頃、調子に乗って異世界の生物を召喚した事があった。
その生物は丸い体にモコモコの毛を纏った愛らしい生物で、俺はそいつに自分の名をもじってアルアーノと名付けている。

だが呼び出した生き物は異世界の環境に適応できず、僅か30分足らずで命を落としてしまった。俺は自らの愚かな過ちの戒めとして、その名を胸の奥底に刻みつけ。以来忘れた事は一度も無い。

「何故その名を……」

これまで、誰かにこの事を話した事は一度たりともなかった。
その名を何故この女が知っている?

「神からのお告げです」

女はにっこりと微笑む。
神託は兎も角、この女には何か特殊な力があるのは間違いないだろう。

「続きを話せ」

俺は話の続きを促す。
暴力に訴えるのは最後の手段として、暫くはしまっておくとしよう。

「神炎と言う物をご存じでしょうか?」

「全ての罪を浄化するという炎だろう」

大聖堂の地下深くに封印され。
終末において、人々を救うと言われている謎の力だ。
それ位は俺も知っている。

「そのご様子では信じてはおられないようですね」

「当然だろう」

そんな物は存在しない。
自らの権威を示す為、神の力を管理しているという事にしておきたい教会のばら撒いたデマだ。
もしそんな力が本当にあったなら、魔王との戦いで行使されていただろう。

「魔王との戦いで行使されなかったのは、その力そのものが人類にとって魔王以上の脅威となり得たからです」

「魔王以上の脅威だと?」

「ガルガーノさんは、原罪と言う物をご存じですか」

「知らん。教会の掲げる物に興味はないんでな」

「人は生まれながらに罪を背負って生まれて来る。と言う物です」

生まれながらに罪を背負う。
なんの嫌がらせだそれは。
だが言いたい事の意味は分かった。

「神の炎が罪を浄化する物なら、罪を生まれながらに持つ人間も浄化対象になると言う事か」

「そうです。神の炎は不浄から人を守る物ではなく、人を不浄から解放する物。つまり、神の身元へと送る為の力なのです」

使えば人間も死ぬから、魔王との戦いでは使えなかったという訳か。
筋は通っている。
まあだからと言って、その存在を真に受けるつもりはないがな。

「そして、聖女リーンはその力を開放するつもりなのです」

「成程。あいつが危険な力を開放する前に、俺にさっさと始末しろと言いたい分けか」

リーンの聖女としての行動は極端だと聞く。
特に罪人に対する姿勢は厳しく、盗みを働いた子供の腕を落としたという話まである程だ。
俺なら絶対そんな女を聖母等にはしないし、教会の中にもその苛烈な行動に反発する者もいるのだろう。

「……このままでは人類が滅びかねません」

口を濁すが。
事実上の肯定の返事と言っていいだろう。

「聖女リーンは、どうやら清めの儀式の前に封印を解く積もりの様です」

もしそれが事実なら、俺は神の炎を手に入れたあいつと戦う事になるな。
魔王と契約した俺はさぞよく燃える事だろう。
まあ本当にそんな物があるとすればの話ではあるが。

「封印解除は3日後。大聖殿への案内は私が致します。どうかご協力を」

「……」

彼女の言葉を裏付ける証拠がなさすぎる。
どう考えても罠だ。
受ける訳が無い。

「悪いが。あるかどうかも分からん、神の炎の話などで――」

「あるよ!神の炎は!」

俺のフードの裾からリピが勢いよく飛び出した。
それを見ても、目の前の女に驚いた様子はない。
どうやらリピの事も知っていた様だ。

「以前長が言ってたよ!人間の教会の地下に、神様から授かった炎があるって!」

ずっとフードの中に隠れていた鬱憤からか、リピは無駄に大声をだす。
五月蠅くて敵わん。
しかし――

「妖精が言うのなら、本当に炎はある様だな」

認めざる得ないだろう。
リピが嘘を付く理由などないのだから。

「良いだろう。その話、受けよう」

罠でないという保証はない。
だが神の炎の話が事実だった場合、かなり不味い事になる。
それでなくとも手強い相手であろうリーンが強化されるなど、全くシャレにならない。それだけは何としても阻止しなくては……

「ありがとうございます」

「別にあんたを丸々信じた分けじゃない」

罠とリーンの強化を天秤にかけた結果。
罠だった場合は、突破して撤退すればいいだけと判断したまでだ。

「それで充分です。そう言えばまだ名乗っておりませんでしたね。私の名はリーンと申します」

「……同じ名か」

リーンと言う名は、そこまで珍しい名前ではない。
とは言え、リーン暗殺の話を持ち掛けた女が同じ名前だと言うのは……おかしな巡り会わせだ。

「ええ。名前のせいで、よく聖女リーンと間違われて困っているんですよ」

まさか、本当は名前が紛らわしいから俺に始末させようという腹じゃないだろうな?
まあ、それはないか。

「では、計画をお話ししますね 」

俺はリーンから計画の全容を聞き。
3日後に備える。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...