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53話 恐れ
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「ははは!どうしたガルガーノ!逃げてばかりじゃ俺の首は取れないぞ!」
ブレイブが岩から岩に飛び移り、剣を振るって強烈な衝撃波をバカスカと打って来る。
それは大地を抉り取り、地形を大きく変えていく。
「くっ」
その威力は出鱈目だった。
最初の一発を迎撃した際に、神炎で覆った拳にダメージが入る程に。
一々迎撃していたのでは拳が持たない。
そう判断した俺は回避に専念する。
「そういう偉そうなセリフは!俺に攻撃を当ててから言う事だな!」
これ程の威力の攻撃を連発すれば、如何に勇者であろうと消耗は避けられない。
相手から勝手に自滅してくれるのなら大歓迎だ。
このまま回避に専念を――
「しまった!?」
「今更気付いたのか!」
ブレイブの一撃を横に飛んで躱した所で気づく。
奴の斬撃が、地面に大きく陣を描いている事に。
単純な攻撃故、消耗を避ける為冥界の瞳を切っていたのが仇になってしまった。
「受けろ!ジ・ハード!」
ブレイブが跳躍し、着地と同時に陣の中心に剣を突き込んだ。
瞬間、陣が光り輝き。
閃光と衝撃が俺を襲う。
「ぐぁあああぁぁ!」
体を丸め、腕を交差して防御する。
だがその破壊力の前に、俺はあえなく吹き飛ばされてしまった。
「げふっ……く……うぅ……」
吹き飛ばされた俺は大地に強く打ち付けられ、苦悶の呻きを上げた。
全身に突き刺す様な痛みが走る。
致命傷とまではいかないが、相当なダメージを受けてしまった。
「まさかここまで強くなっているとは……」
以前にはなかったブレイブの力、その一撃で奴の力が3年前より遥かに増している事を痛感させられる。
しかし命拾いした。
ブレイブの攻撃は恐るべき破壊力を秘めた物だった。
そのまま100%喰らっていれば、恐らくそこで決着が付いていただろう。
だが奴の攻撃には大量の魔力が混ざっていた。
その魔力に神封石が反応し拡散してくれたお陰で、何とか耐えられるレベルのダメージで済んだのだ。
神炎の時と言い。
今と言い。
枷だった神封石に2度も命を救われるとは、皮肉な物だ。
「く……」
幸運には感謝するが、悠長に寝ころんでいる分けには行かない。
俺は素早く立ち上がり、その場を飛びのいた。
ブレイブからの追撃を躱すために。
衝撃波が俺の目の前を豪快に抉って行く。
避けるのがほんの一瞬でも遅かったら、危うく直撃する所だった。
「俺の奥義を喰らってまだ動けるとは……なかなかやるじゃないか、ガルガーノ。それでこそ殺し甲斐があるってもんだ」
だがそれ以上の追撃は来ない。
ブレイブの口元を見ると、呼吸が乱れているのが分かる。
先程の一撃は相当力の使う技だったのだろう。
それに加えてあの強烈な斬撃の連打。
奴はかなり消耗している様だ。
しかし何かがおかしい。
ブレイブの畳みかける様な攻撃に違和感を感じる。
その戦いぶりは、まるで勝負を焦っているかの様に見えた。
魔王討伐の為パーティーを組んでいた頃は、奴は慎重に事を進める戦闘スタイルだった。
突進はイナバの役割で、奴はこんな力押しをする様な男ではなかった筈だ。
ふと、牢獄でのやり取りを思い出す。
確かブレイブは自身が俺より劣っていると感じていると、そうラキアは言っていた。
つまりこの力押しの戦いは――俺を恐れての事か?
ブレイブが俺の事を過大評価しており、その考えを今も引きずっているというのなら……それを利用しない手はない。
「俺を恐れているのか?ブレイブ」
「なんだと!?」
巨大なクレーターの中心に立つ、奴の顔色が変わる。
その豹変ぶりから一目で図星だと分かった。
俺はその反応に、内心ほくそ笑む。
「今の攻撃は必殺の一撃だったんだろ?だが俺には効いていない」
実際は相当なダメージを受けている。
だが平気な振りをして首を振ってコキコキと肩を鳴らし、軽く跳ねて見せた。
もし奴が冷静だったなら、それが強がりだという事は簡単に見抜けたはずだ。
だが俺を恐れ――理由は知らないが、此方の事を過大評価している奴にとっては恐るべき現実に見えている筈。
恐れている相手に必殺の攻撃が効かなかったのだ。
普通なら間違いなく絶望物だろう。
「そんな馬鹿な!勇者である俺の一撃を受けて……そんなはずがあるか!」
奴は激昂して斬撃を放つ。
俺はそれを涼しい顔で躱して見せた。
「ふっ」
「ぬっ……ぐぅ……」
軽く鼻で笑ってやると、ブレイブは悔し気な表情で此方を睨みつける。
そこに演技は見当たらない。
どうやら上手く行きそうだ。
正直なところ、奴から受けたダメージは相当大きい。
それにブレイブの力は想像以上に強化されている。
奴が焦って暴れまわり、疲労している事を差し引いても此方が圧倒的に不利である事に変わりなかった。
もし冷静に事を進められていたなら、俺の勝ち目は薄かっただろう。
だが奴は焦っている。
ならば状況を利用して、有利に事を運ばせて貰うとしよう。
「お前が俺に対して行った卑劣な裏切りを認め、命乞いをするというなら命だけは見逃してやっても構わないぞ。尻尾を撒いて逃げ出す勇者など、殺す価値もないからな」
挑発する。
恐怖と焦りから大振りの攻撃を誘い、カウンターを打ち込む。
仮にそれが出来なくとも、更に消耗を加速させる事は出来るはずだ。
「きっさ……まぁ……」
怒りからかブレイブの表情は鬼の様な形相に変わる。
額には血管が浮き上がり、どくどくと脈動しているのがはっきりと見えた。
そのお冠の具合に、俺はにやりと口の端を歪める。
「さあ。俺が怖くないと言うなら、早く倒して見せろよ。勇者様」
間抜けなミスで相手の大技を受けてしまったが。
運気は此方にあった。
俺は自らの幸運に感謝しつつ、奴の放った斬撃を躱す。
ブレイブが岩から岩に飛び移り、剣を振るって強烈な衝撃波をバカスカと打って来る。
それは大地を抉り取り、地形を大きく変えていく。
「くっ」
その威力は出鱈目だった。
最初の一発を迎撃した際に、神炎で覆った拳にダメージが入る程に。
一々迎撃していたのでは拳が持たない。
そう判断した俺は回避に専念する。
「そういう偉そうなセリフは!俺に攻撃を当ててから言う事だな!」
これ程の威力の攻撃を連発すれば、如何に勇者であろうと消耗は避けられない。
相手から勝手に自滅してくれるのなら大歓迎だ。
このまま回避に専念を――
「しまった!?」
「今更気付いたのか!」
ブレイブの一撃を横に飛んで躱した所で気づく。
奴の斬撃が、地面に大きく陣を描いている事に。
単純な攻撃故、消耗を避ける為冥界の瞳を切っていたのが仇になってしまった。
「受けろ!ジ・ハード!」
ブレイブが跳躍し、着地と同時に陣の中心に剣を突き込んだ。
瞬間、陣が光り輝き。
閃光と衝撃が俺を襲う。
「ぐぁあああぁぁ!」
体を丸め、腕を交差して防御する。
だがその破壊力の前に、俺はあえなく吹き飛ばされてしまった。
「げふっ……く……うぅ……」
吹き飛ばされた俺は大地に強く打ち付けられ、苦悶の呻きを上げた。
全身に突き刺す様な痛みが走る。
致命傷とまではいかないが、相当なダメージを受けてしまった。
「まさかここまで強くなっているとは……」
以前にはなかったブレイブの力、その一撃で奴の力が3年前より遥かに増している事を痛感させられる。
しかし命拾いした。
ブレイブの攻撃は恐るべき破壊力を秘めた物だった。
そのまま100%喰らっていれば、恐らくそこで決着が付いていただろう。
だが奴の攻撃には大量の魔力が混ざっていた。
その魔力に神封石が反応し拡散してくれたお陰で、何とか耐えられるレベルのダメージで済んだのだ。
神炎の時と言い。
今と言い。
枷だった神封石に2度も命を救われるとは、皮肉な物だ。
「く……」
幸運には感謝するが、悠長に寝ころんでいる分けには行かない。
俺は素早く立ち上がり、その場を飛びのいた。
ブレイブからの追撃を躱すために。
衝撃波が俺の目の前を豪快に抉って行く。
避けるのがほんの一瞬でも遅かったら、危うく直撃する所だった。
「俺の奥義を喰らってまだ動けるとは……なかなかやるじゃないか、ガルガーノ。それでこそ殺し甲斐があるってもんだ」
だがそれ以上の追撃は来ない。
ブレイブの口元を見ると、呼吸が乱れているのが分かる。
先程の一撃は相当力の使う技だったのだろう。
それに加えてあの強烈な斬撃の連打。
奴はかなり消耗している様だ。
しかし何かがおかしい。
ブレイブの畳みかける様な攻撃に違和感を感じる。
その戦いぶりは、まるで勝負を焦っているかの様に見えた。
魔王討伐の為パーティーを組んでいた頃は、奴は慎重に事を進める戦闘スタイルだった。
突進はイナバの役割で、奴はこんな力押しをする様な男ではなかった筈だ。
ふと、牢獄でのやり取りを思い出す。
確かブレイブは自身が俺より劣っていると感じていると、そうラキアは言っていた。
つまりこの力押しの戦いは――俺を恐れての事か?
ブレイブが俺の事を過大評価しており、その考えを今も引きずっているというのなら……それを利用しない手はない。
「俺を恐れているのか?ブレイブ」
「なんだと!?」
巨大なクレーターの中心に立つ、奴の顔色が変わる。
その豹変ぶりから一目で図星だと分かった。
俺はその反応に、内心ほくそ笑む。
「今の攻撃は必殺の一撃だったんだろ?だが俺には効いていない」
実際は相当なダメージを受けている。
だが平気な振りをして首を振ってコキコキと肩を鳴らし、軽く跳ねて見せた。
もし奴が冷静だったなら、それが強がりだという事は簡単に見抜けたはずだ。
だが俺を恐れ――理由は知らないが、此方の事を過大評価している奴にとっては恐るべき現実に見えている筈。
恐れている相手に必殺の攻撃が効かなかったのだ。
普通なら間違いなく絶望物だろう。
「そんな馬鹿な!勇者である俺の一撃を受けて……そんなはずがあるか!」
奴は激昂して斬撃を放つ。
俺はそれを涼しい顔で躱して見せた。
「ふっ」
「ぬっ……ぐぅ……」
軽く鼻で笑ってやると、ブレイブは悔し気な表情で此方を睨みつける。
そこに演技は見当たらない。
どうやら上手く行きそうだ。
正直なところ、奴から受けたダメージは相当大きい。
それにブレイブの力は想像以上に強化されている。
奴が焦って暴れまわり、疲労している事を差し引いても此方が圧倒的に不利である事に変わりなかった。
もし冷静に事を進められていたなら、俺の勝ち目は薄かっただろう。
だが奴は焦っている。
ならば状況を利用して、有利に事を運ばせて貰うとしよう。
「お前が俺に対して行った卑劣な裏切りを認め、命乞いをするというなら命だけは見逃してやっても構わないぞ。尻尾を撒いて逃げ出す勇者など、殺す価値もないからな」
挑発する。
恐怖と焦りから大振りの攻撃を誘い、カウンターを打ち込む。
仮にそれが出来なくとも、更に消耗を加速させる事は出来るはずだ。
「きっさ……まぁ……」
怒りからかブレイブの表情は鬼の様な形相に変わる。
額には血管が浮き上がり、どくどくと脈動しているのがはっきりと見えた。
そのお冠の具合に、俺はにやりと口の端を歪める。
「さあ。俺が怖くないと言うなら、早く倒して見せろよ。勇者様」
間抜けなミスで相手の大技を受けてしまったが。
運気は此方にあった。
俺は自らの幸運に感謝しつつ、奴の放った斬撃を躱す。
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