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第77話 災い転じて
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「なんだと!?対象の監視にあたっていた衛星からの通信が急に途絶えた!?」
夜中に緊急用のスマホが鳴り、出ると人工衛星との通信や信号が途絶えたと報告される。
ほぼ同じタイミングで超高エネルギーの反応が成層圏で検知されたらしく、それが影響ではないかと言っているが、詳しい原因は不明な様だ。
「仕方ない」
私はベッドから起き上がり、慌てて出かける準備をする。
本来、私は人工衛星のトラブルに関して責任を取る立場にはない。
だが現在、此方の請け負っている業務――ある人物の監視に使用中であるため、そのトラブルを無視する訳にはいかなかった。
仮になにも出来なくとも、少なくとも出来る限りの事をしましたよというアピールだけはしなければ。
そうでなければ、後々ライバルに付け入る隙を与えかねない。
「出かけられるんですか?」
「ああ、ちょっとトラブルがあってな」
妻に急用が出来たと告げ、私は車に乗り込む。
「ん?今度はなんだ?」
支部に向かっている途中、再び緊急用のコールが鳴る。
それに出ると、相手は――
「高梨か?どうした?」
――部下の高梨だった。
彼は縁故採用なので与えられた役職は高いが、余りにも無能だったため、現在は監視の責任者として対象の張り込みという単純な仕事に就かせていた。
他の仕事は任せられないからだ。
「なに!?安田孝仁が接触して来た!?」
どうやら早々に監視がバレてしまった様だ。
高梨の無能め。
そう罵りたい所だが、いくら彼が無能だとはいえ、この速さで見つかるのは尋常ではない。
恐らく、安田孝仁が魔法を使って此方の監視を発見したというのが正解なのだろう。
「それで?奴は何と?なに、私に会わせろ?」
どうやら対象は、私との面談を希望している様である。
「今日の朝10時に支部に来る?」
相手は朝の10時に私に会いに来るつもりの様だ。
「なに?いやなら家の方に行くだとぉ!?まさか貴様!私の家の住所を教えたのか!?」
電話の向こうで、高梨が半泣きになりながら謝って来る。
何処の世界に、監視している相手に上司の住所を教える馬鹿がいるというのか?
信じられない無能だ。
「くそっ!分かった!その時間にはちゃんと支部にいるから、家には行くなと言っておけ!」
家には家族がいる。
あの魔法使いが何をするか分かった物ではない以上、支部で私が対応した方がはるかにましだ。
「家族には……まあ不安にさせる必要はないか」
家を出るよう連絡しようかとも思ったが、家族に何かする気ならそもそも私に予告なく動いている筈だ。
つまり、家の事は確実な面談の為の脅迫に過ぎない。
なので一々、家族に避難させる必要はないだろう。
「しかし、相手から接触を求めて来るとはな……」
わざわざ面談を求めて来ると言う事は、相手には交渉の意思があると言う事だ。
「悪くはない」
相手は相当な力を持つ魔法使いである。
ヘルハウンドが始末されたのは痛かったが、彼を上手く帝真グループへと引き入れる事が出来れば、余裕でお釣りが来るレベルだ。
――ふと、監視していた人工衛星のトラブルは彼が原因ではという考えが脳裏を過る。
が、バカな考えと直ぐにそれを振り払った。
いくら優秀な魔法使いだとは言え、衛星軌道上にある衛星をどうこうできる訳もない。
そこまで行くともう怪物である。
「帝真一《みかどしんいち》への報告は、交渉が終わってからでいいだろう」
手柄を丸々横取りされないとも限らないので、上役への報告は後回しにする。
仕事中に相手がいきなり来たと言えば、文句は言ってこないだろう。
臨機応変に対応して、グループに貢献する訳だしな。
「上手く交渉できれば、私のグループ内の立場もより盤石な物になるというもの」
ヘルハウンドが始末された時は、厄介な事になったと考えた物だが。
まさに災い転じて福となす、だ。
と、そんな風に考えていたのだが――
災いは更なる災いを呼ぶだけであると、私はこの後知る事になる。
夜中に緊急用のスマホが鳴り、出ると人工衛星との通信や信号が途絶えたと報告される。
ほぼ同じタイミングで超高エネルギーの反応が成層圏で検知されたらしく、それが影響ではないかと言っているが、詳しい原因は不明な様だ。
「仕方ない」
私はベッドから起き上がり、慌てて出かける準備をする。
本来、私は人工衛星のトラブルに関して責任を取る立場にはない。
だが現在、此方の請け負っている業務――ある人物の監視に使用中であるため、そのトラブルを無視する訳にはいかなかった。
仮になにも出来なくとも、少なくとも出来る限りの事をしましたよというアピールだけはしなければ。
そうでなければ、後々ライバルに付け入る隙を与えかねない。
「出かけられるんですか?」
「ああ、ちょっとトラブルがあってな」
妻に急用が出来たと告げ、私は車に乗り込む。
「ん?今度はなんだ?」
支部に向かっている途中、再び緊急用のコールが鳴る。
それに出ると、相手は――
「高梨か?どうした?」
――部下の高梨だった。
彼は縁故採用なので与えられた役職は高いが、余りにも無能だったため、現在は監視の責任者として対象の張り込みという単純な仕事に就かせていた。
他の仕事は任せられないからだ。
「なに!?安田孝仁が接触して来た!?」
どうやら早々に監視がバレてしまった様だ。
高梨の無能め。
そう罵りたい所だが、いくら彼が無能だとはいえ、この速さで見つかるのは尋常ではない。
恐らく、安田孝仁が魔法を使って此方の監視を発見したというのが正解なのだろう。
「それで?奴は何と?なに、私に会わせろ?」
どうやら対象は、私との面談を希望している様である。
「今日の朝10時に支部に来る?」
相手は朝の10時に私に会いに来るつもりの様だ。
「なに?いやなら家の方に行くだとぉ!?まさか貴様!私の家の住所を教えたのか!?」
電話の向こうで、高梨が半泣きになりながら謝って来る。
何処の世界に、監視している相手に上司の住所を教える馬鹿がいるというのか?
信じられない無能だ。
「くそっ!分かった!その時間にはちゃんと支部にいるから、家には行くなと言っておけ!」
家には家族がいる。
あの魔法使いが何をするか分かった物ではない以上、支部で私が対応した方がはるかにましだ。
「家族には……まあ不安にさせる必要はないか」
家を出るよう連絡しようかとも思ったが、家族に何かする気ならそもそも私に予告なく動いている筈だ。
つまり、家の事は確実な面談の為の脅迫に過ぎない。
なので一々、家族に避難させる必要はないだろう。
「しかし、相手から接触を求めて来るとはな……」
わざわざ面談を求めて来ると言う事は、相手には交渉の意思があると言う事だ。
「悪くはない」
相手は相当な力を持つ魔法使いである。
ヘルハウンドが始末されたのは痛かったが、彼を上手く帝真グループへと引き入れる事が出来れば、余裕でお釣りが来るレベルだ。
――ふと、監視していた人工衛星のトラブルは彼が原因ではという考えが脳裏を過る。
が、バカな考えと直ぐにそれを振り払った。
いくら優秀な魔法使いだとは言え、衛星軌道上にある衛星をどうこうできる訳もない。
そこまで行くともう怪物である。
「帝真一《みかどしんいち》への報告は、交渉が終わってからでいいだろう」
手柄を丸々横取りされないとも限らないので、上役への報告は後回しにする。
仕事中に相手がいきなり来たと言えば、文句は言ってこないだろう。
臨機応変に対応して、グループに貢献する訳だしな。
「上手く交渉できれば、私のグループ内の立場もより盤石な物になるというもの」
ヘルハウンドが始末された時は、厄介な事になったと考えた物だが。
まさに災い転じて福となす、だ。
と、そんな風に考えていたのだが――
災いは更なる災いを呼ぶだけであると、私はこの後知る事になる。
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