78 / 96
第78話 変わり身
しおりを挟む
「孝仁、母さん行くけど……本当に大丈夫」
母さんがベッドに寝る俺を心配そうに見つめる。
「だ、大丈夫。心配しないで」
ごほごほと、ちょっと咳をしつつ俺は母さんに返事した。
当然だが、俺は風邪などひかない。
仮にひいたとしても、魔法で一瞬で治せるしな。
つまりこれは仮病だ。
昨日はしゃぎ過ぎて、風邪を引いたって体の。
――目的は今日の学校を休むため。
こういう時、相手に余計な時間を与えれば与えるほど碌な事にはならないのが相場である。
だから早々に動かなければならない。
その為、風邪を引いた事にして学校を休むのだ。
「そう、温かくしてゆっくり休んでおくのよ。お昼用のおかゆは鍋に入ってるから。それと、母さん出来るだけ早く帰ってくるからね」
「ごめんね、母さん……でも、心配しなくて大丈夫だよ」
「じゃあ行って来るわね」
「行ってらっしゃい」
母さんが仕事に出かけた後起き上り、俺は一言呟く。
「腹が立って来たな」
と。
何故、嘘で母さんを心配させなければならないのか?
そう考えると腹が立って仕方がない。
全ては帝真の奴らのせいだ。
いっそ、片っ端から皆殺しにしてやろうかという気分になってしまう。
いかんいかん。
怒りに飲まれてはダメだ。
怒りは判断を鈍らせる。
必要なら大量虐殺でも何でもするが、怒りに任せてそれをするのだけは絶対にアウトだ。
やるなら冷静にいかないと。
取り返しのつかない事になりかねない。
「気分を切り替えて行こう」
俺は自分の髪を一本引き抜き、そしてそれに蘇生魔法をかける。
モルモット共を使っての蘇生魔法のテスト中——体を真っ二つに裂いて、片方だけで蘇生した時——俺はふと、残りの半身にも蘇生魔法を掛けたらどうなるのだろうか?という疑問が頭に浮かんだ。
当然疑問が浮かんだら即テストする。
相手は所詮モルモットなので、遠慮する必要もない。
で、やってみたところ、見事に残り半身の蘇生にも成功する。
どうやら本人が生きていても、魔法による蘇生は有効な様だ。
不思議な魔法である。
まあ何にせよ、これで――
分身が作り放題!
……とか思ったのだが、残念ながらそうはいかなかった。
何故なら、中身が無かったからだ。
あ、中身ってのは内臓って事じゃないぞ。
精神。
もしくは、魂って奴である。
そのため後から蘇生させた体は生命活動こそしている物の、それ以外の意識を伴う様な反応が一切ない状態だった。
要は植物状態。
もしくは生きたお人形さんって所だな。
だがお人形さんにも、お人形さんなりの使い道がある。
例えば、俺の代わりに風邪で寝込む役とか。
「母さんが思ったより早く帰って来た時、俺が居なかったら心配させてしまうからな」
そんなに時間をかけるつもりはないが、万一長引いた時の保険としてこいつを置いて行く。
「じゃあ留守番頼んだぜ」
俺は蘇生魔法で生み出した、中身の入っていない抜け殻に自分の着ていた寝間着を着せ、そのままベッドへと放り込む。
「まあ大丈夫だとは思うけど、念のためタリスマンも身に付けさせておくか」
ダメージの心配?
まさか。
タリスマンを装着させたのは、意識がないって事で、早く帰って来た母が心配して救急車を呼ぶ可能性を考慮してだ。
その場合病院に運ばれる事になるから、搬送先が分かってないと困るだろ?
いやまあ、そんな事には絶対ならないとは思うが。
一応念のため。
「さて、じゃあ行くか」
俺は汚れてもいい拷問用の服に着替え、帝真グループの支部へと向かう。
佐藤という男と面談する為に。
母さんがベッドに寝る俺を心配そうに見つめる。
「だ、大丈夫。心配しないで」
ごほごほと、ちょっと咳をしつつ俺は母さんに返事した。
当然だが、俺は風邪などひかない。
仮にひいたとしても、魔法で一瞬で治せるしな。
つまりこれは仮病だ。
昨日はしゃぎ過ぎて、風邪を引いたって体の。
――目的は今日の学校を休むため。
こういう時、相手に余計な時間を与えれば与えるほど碌な事にはならないのが相場である。
だから早々に動かなければならない。
その為、風邪を引いた事にして学校を休むのだ。
「そう、温かくしてゆっくり休んでおくのよ。お昼用のおかゆは鍋に入ってるから。それと、母さん出来るだけ早く帰ってくるからね」
「ごめんね、母さん……でも、心配しなくて大丈夫だよ」
「じゃあ行って来るわね」
「行ってらっしゃい」
母さんが仕事に出かけた後起き上り、俺は一言呟く。
「腹が立って来たな」
と。
何故、嘘で母さんを心配させなければならないのか?
そう考えると腹が立って仕方がない。
全ては帝真の奴らのせいだ。
いっそ、片っ端から皆殺しにしてやろうかという気分になってしまう。
いかんいかん。
怒りに飲まれてはダメだ。
怒りは判断を鈍らせる。
必要なら大量虐殺でも何でもするが、怒りに任せてそれをするのだけは絶対にアウトだ。
やるなら冷静にいかないと。
取り返しのつかない事になりかねない。
「気分を切り替えて行こう」
俺は自分の髪を一本引き抜き、そしてそれに蘇生魔法をかける。
モルモット共を使っての蘇生魔法のテスト中——体を真っ二つに裂いて、片方だけで蘇生した時——俺はふと、残りの半身にも蘇生魔法を掛けたらどうなるのだろうか?という疑問が頭に浮かんだ。
当然疑問が浮かんだら即テストする。
相手は所詮モルモットなので、遠慮する必要もない。
で、やってみたところ、見事に残り半身の蘇生にも成功する。
どうやら本人が生きていても、魔法による蘇生は有効な様だ。
不思議な魔法である。
まあ何にせよ、これで――
分身が作り放題!
……とか思ったのだが、残念ながらそうはいかなかった。
何故なら、中身が無かったからだ。
あ、中身ってのは内臓って事じゃないぞ。
精神。
もしくは、魂って奴である。
そのため後から蘇生させた体は生命活動こそしている物の、それ以外の意識を伴う様な反応が一切ない状態だった。
要は植物状態。
もしくは生きたお人形さんって所だな。
だがお人形さんにも、お人形さんなりの使い道がある。
例えば、俺の代わりに風邪で寝込む役とか。
「母さんが思ったより早く帰って来た時、俺が居なかったら心配させてしまうからな」
そんなに時間をかけるつもりはないが、万一長引いた時の保険としてこいつを置いて行く。
「じゃあ留守番頼んだぜ」
俺は蘇生魔法で生み出した、中身の入っていない抜け殻に自分の着ていた寝間着を着せ、そのままベッドへと放り込む。
「まあ大丈夫だとは思うけど、念のためタリスマンも身に付けさせておくか」
ダメージの心配?
まさか。
タリスマンを装着させたのは、意識がないって事で、早く帰って来た母が心配して救急車を呼ぶ可能性を考慮してだ。
その場合病院に運ばれる事になるから、搬送先が分かってないと困るだろ?
いやまあ、そんな事には絶対ならないとは思うが。
一応念のため。
「さて、じゃあ行くか」
俺は汚れてもいい拷問用の服に着替え、帝真グループの支部へと向かう。
佐藤という男と面談する為に。
321
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる