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第87話 絶叫
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――とある山荘。
「くそっ!なんなんだあの化け物は!」
その一室で、帝真一がヒステリックに叫ぶ。
彼は自らの勝利を確信していた。
にもかかわらず、ターゲットはそれを容易くぶち抜いてしまう。
常に人の上に立ち、周囲をコントロールする生き方をしてきた真一にとって、今回の馬鹿げたと言ってもいい程のイレギュラーに、動揺を隠せないのも無理はない。
「くそくそくそ……むっ」
彼が呻いていると、扉がノックされる。
「お客様をお連れしました」
「入って貰え」
「失礼します」
真一が許可を出すと扉が開き、黒服を着た男と、杖を突いた白髪の老人が室内へと入ってきた。
「お久しぶりですのう。ぼっちゃん」
「ご足労頂きありがとうございます。豪山先生」
真一は椅子から立ちあ上がって、丁寧にお辞儀する。
ただの老人に彼は礼を尽くしたりなどしない。
真一のその態度から、現れた老人が真一にとってどれ程重要な人物かが窺う事が出来た。
――豪山断崖。
彼はかつて、帝真グループ総帥の護衛を務めていた人物だ。
その腕前と忠誠心を買われ、ただの護衛としてだけではなく、実質右腕の様な働きをしていた。
年齢による能力の衰えを理由に、5年ほど前に引退したとはいえ、真一からすれば決して侮れない人物だ。
「こんな老いぼれに態々連絡を寄越したという事は、余程の事があったようですな」
「はい。実は――」
事の経緯を真一は説明する。
その話を聞き、豪山は眉根を顰めた。
「随分とまた……厄介な相手に手を出してしまわれましたな。恐らく相手は、大魔導士レベルでしょう。それもその中でも、上位に入るレベルの」
一定以上の力を持つ魔法使いは、その界隈では、敬意を込めて大魔導士と呼ばれていた。
そしてその呼称で呼ばれる様な人物達はどれも、一筋縄に行かない強者となっている。
「せ、先生のお力で何とか収めて頂けないでしょうか?」
「無茶をおっしゃる。ご存じの通り、ワシはその世界から引退し久しい身じゃ。せめて5年前ならばともかく、今のワシに大魔導士の相手なぞ務まりません」
「そんな……」
気孔闘士4段にして、偉大な父が、荒事のほぼ全てを任せていた程の人物。
そんな老人なら何とかしてくれる。
そう期待していたからこそ、彼は真っ先に豪山に連絡したのだ。
そんな期待していた相手に無理と言われ、真一の顔色が悪くなる。
「御父上に相談されてはどうか?総帥様なら、相手が大魔導士であろうと如何様にでもしてくださるじゃろう」
「それは……」
「失態を知られたくないという気持ちは良く分かる。じゃが、命あっての物種ですぞ。殺されてしまっては、後継者争いも何もあった物ではありますまい」
真一が父親に救いを求めないのは、それをすれば、自身が無能である事を曝け出すのに等しい行為だからだ。
失態を犯すだけではなく、その後始末も出来ないとなれば、後継者レースに大きな支障をきたす事となるのは目に見えていた。
「……」
「まあ、そう深刻に考えめさるな。なにせ想定外の相手。大魔導士相手に後れを取ったとしても、詮無い事でしょう。総帥も、その辺りは考慮してくださるはずじゃ」
「分かりました」
そうだ。
豪山先生の言う通りだ。
今回は相手が悪すぎた。
これは仕方のない事で、大きな失点にはならないはず。
そう思う事にした真一は、父親に救いを求める事を決める。
「うん、じゃったらワシの方から連絡してやろう。直通の連絡手段をわしは持っておるからの」
帝真グループ総帥は、息子であってもそう簡単に連絡を取る事は出来ない。
その術を豪山が持っている事から、引退しなお、グループに対して大きな影響力を持っている事が窺える。
「先生、お気遣いありがとうございます。一刻を争う事態ですので、ぜひよろしくお願いします」
真一が頭を大きく下げる。
失態は屈辱である。
だが、もうこれで安心だ。
そう思って彼は顔を上げる。
「——は?」
――そして間抜けな声を上げる。
そこあるはずの豪山の笑顔。
それが無かったからだ。
――彼は首から上を失っており、首元から大量の血が噴き出していた。
「あ、あぁ……」
首を失った豪山の横には、人型をした闇があった。
その手には、先ほどまで好々爺とした笑顔を見せていた顔が、頭部が掴まれている。
「よ!お近づきの印に、サッカーでもする?」
闇が豪山の首を放り投げ、その頭部を膝で蹴り上げる。
まるでリフティングするかのように。
そしてその横で、首から血を噴き出しながら崩れていく豪山の肉体。
その悪夢の様な現実は、真一のキャパシティを超えてしまっていたのだろう。
「あ……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
彼はパニックから絶叫した。
「くそっ!なんなんだあの化け物は!」
その一室で、帝真一がヒステリックに叫ぶ。
彼は自らの勝利を確信していた。
にもかかわらず、ターゲットはそれを容易くぶち抜いてしまう。
常に人の上に立ち、周囲をコントロールする生き方をしてきた真一にとって、今回の馬鹿げたと言ってもいい程のイレギュラーに、動揺を隠せないのも無理はない。
「くそくそくそ……むっ」
彼が呻いていると、扉がノックされる。
「お客様をお連れしました」
「入って貰え」
「失礼します」
真一が許可を出すと扉が開き、黒服を着た男と、杖を突いた白髪の老人が室内へと入ってきた。
「お久しぶりですのう。ぼっちゃん」
「ご足労頂きありがとうございます。豪山先生」
真一は椅子から立ちあ上がって、丁寧にお辞儀する。
ただの老人に彼は礼を尽くしたりなどしない。
真一のその態度から、現れた老人が真一にとってどれ程重要な人物かが窺う事が出来た。
――豪山断崖。
彼はかつて、帝真グループ総帥の護衛を務めていた人物だ。
その腕前と忠誠心を買われ、ただの護衛としてだけではなく、実質右腕の様な働きをしていた。
年齢による能力の衰えを理由に、5年ほど前に引退したとはいえ、真一からすれば決して侮れない人物だ。
「こんな老いぼれに態々連絡を寄越したという事は、余程の事があったようですな」
「はい。実は――」
事の経緯を真一は説明する。
その話を聞き、豪山は眉根を顰めた。
「随分とまた……厄介な相手に手を出してしまわれましたな。恐らく相手は、大魔導士レベルでしょう。それもその中でも、上位に入るレベルの」
一定以上の力を持つ魔法使いは、その界隈では、敬意を込めて大魔導士と呼ばれていた。
そしてその呼称で呼ばれる様な人物達はどれも、一筋縄に行かない強者となっている。
「せ、先生のお力で何とか収めて頂けないでしょうか?」
「無茶をおっしゃる。ご存じの通り、ワシはその世界から引退し久しい身じゃ。せめて5年前ならばともかく、今のワシに大魔導士の相手なぞ務まりません」
「そんな……」
気孔闘士4段にして、偉大な父が、荒事のほぼ全てを任せていた程の人物。
そんな老人なら何とかしてくれる。
そう期待していたからこそ、彼は真っ先に豪山に連絡したのだ。
そんな期待していた相手に無理と言われ、真一の顔色が悪くなる。
「御父上に相談されてはどうか?総帥様なら、相手が大魔導士であろうと如何様にでもしてくださるじゃろう」
「それは……」
「失態を知られたくないという気持ちは良く分かる。じゃが、命あっての物種ですぞ。殺されてしまっては、後継者争いも何もあった物ではありますまい」
真一が父親に救いを求めないのは、それをすれば、自身が無能である事を曝け出すのに等しい行為だからだ。
失態を犯すだけではなく、その後始末も出来ないとなれば、後継者レースに大きな支障をきたす事となるのは目に見えていた。
「……」
「まあ、そう深刻に考えめさるな。なにせ想定外の相手。大魔導士相手に後れを取ったとしても、詮無い事でしょう。総帥も、その辺りは考慮してくださるはずじゃ」
「分かりました」
そうだ。
豪山先生の言う通りだ。
今回は相手が悪すぎた。
これは仕方のない事で、大きな失点にはならないはず。
そう思う事にした真一は、父親に救いを求める事を決める。
「うん、じゃったらワシの方から連絡してやろう。直通の連絡手段をわしは持っておるからの」
帝真グループ総帥は、息子であってもそう簡単に連絡を取る事は出来ない。
その術を豪山が持っている事から、引退しなお、グループに対して大きな影響力を持っている事が窺える。
「先生、お気遣いありがとうございます。一刻を争う事態ですので、ぜひよろしくお願いします」
真一が頭を大きく下げる。
失態は屈辱である。
だが、もうこれで安心だ。
そう思って彼は顔を上げる。
「——は?」
――そして間抜けな声を上げる。
そこあるはずの豪山の笑顔。
それが無かったからだ。
――彼は首から上を失っており、首元から大量の血が噴き出していた。
「あ、あぁ……」
首を失った豪山の横には、人型をした闇があった。
その手には、先ほどまで好々爺とした笑顔を見せていた顔が、頭部が掴まれている。
「よ!お近づきの印に、サッカーでもする?」
闇が豪山の首を放り投げ、その頭部を膝で蹴り上げる。
まるでリフティングするかのように。
そしてその横で、首から血を噴き出しながら崩れていく豪山の肉体。
その悪夢の様な現実は、真一のキャパシティを超えてしまっていたのだろう。
「あ……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
彼はパニックから絶叫した。
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