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第二章 希望を求めて

第二十四話 悪夢

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「はっ!?」

夢か……
嫌な夢を見た。
彩音に問答無用でぶっ飛ばされる夢だ。

体を起こすとガートゥと目が合う。

「よう。起きたか」
「……どこだここ?」
「城だよ城」

そう言われて皇帝と謁見する為にドラグーン城に来ていた事を思い出す。
しかし解せん。

「何で俺はこんな所で寝てるんだ?」

確か皇帝と謁見の最中だったはず。

「謁見中になんか倒れたらしいぞ?」
「倒れた?」

……
………
…………思い出した!

糞大臣の質の悪いジョークでリンが暴れようとした事。
ソラスさんの胸が大きかった事。
そしてなんとか場が収まって……それから……右頬に凄い衝撃が……

あれ?
俺ひょっとして誰かにぶん殴られたんじゃね?
だとしたら誰にだ?リンはあり得ないよな。
まさか衛兵にか?あの状況で?

考えれば考える程答えが出ない。
その場に居たリンに聞くのが一番手っ取り早い事に気づき、辺りを見回す。

「そういやリンは?」
「リンならケロと一緒に皇帝とランチしてるぞ」
「……え?」
「俺も誘われたけど、飯食わねーから断って主の見舞いをしてやってたんだ。感謝の印に覚醒させてくれてもいいんだぜ?」
「感謝もしないし、覚醒もさせん!」
「ケチくせーなぁ」

見舞いのお礼に自分の寿命削るわけねーだろ。
まったく、諦めの悪い奴だ。

「で?何で罪人のはずの俺達が皇帝とのランチに誘われるんだ?」
「皇帝がリンを気に入ったらしいぞ?」
「ああ、そうか……」

皇帝がリンを嫁にすると宣言していたのを思い出す。

そう言えばあの時リンは好きな相手がいるからって断ってたなぁ。
でも好きな相手って誰だ?

考えられるとすればレインかガートゥあたりだろうか。
だがリンがその二人に気のある素振りをしていた記憶はない。
他に相手などいたっけかなと、腕を組んで頭を捻るが浮かばない。
まあ体のいい断り文句として使ったのだろう。

リンは色気より食い気だしな。
あれで誰かが好きとか笑けるわ。

リンが必死の形相でケーキに喰らいつく姿を思い出し、思わず苦笑いする。

「その様子じゃもう大丈夫そうだし、行くか」
「は?行くってどこに?」
「皇帝のとこだ。話が聞きたいんだとよ」




衛兵によって扉が開かれると、そこは庭園だった。
目も眩まんばかりの色とりどりの花が視界を覆い尽くし、甘い香りが鼻腔を擽る。

「あ!たかしさん!」
「パパー!」

庭園に出てきた俺に気づいたのか、リンとケロが大きく手を振る。
俺は軽く手を上げてそれに答えた。

「おう!やっと目覚めおったか!早速話を聞かせるのじゃ!!リンの話は何と言うか情報が断片的過ぎて分かり辛いんじゃ!」
「ええ!?酷いよエリンちゃん!」

だろうね。
しかし渾名呼びとか随分仲良くなってるな。

「さ!早くこっちへ来るのじゃ!!」

リンの抗議などどこ吹く風と言わんばかりに、満面の笑みで皇帝は椅子に立ち上がりピョンピョン跳ねる。
飛び跳ねる度にスカートが跳ね上がり、青いパンツが丸見えだ。

なんと言うかアホっぽいな。
この皇帝も。

「陛下。下着が丸見えです。はしたないのでお座りください」
「何を言うクラウスよ。パンツを見せているのはわざとじゃ。これから外の話をしてくれるたかしへの褒美じゃ」

わざとかよ!
ていうかガキのパンツに興味なんざねーよ!

どういう思想で下着を見せる事が褒美と思ったのか謎で仕方がない。

「話は罪科との引き換えですから、それ以上の褒美は必要御座いません」
「そこは童の度量じゃ度量!さ!早うそこに座れ!」

テーブルの傍に控えていたメイドの一人がリンの横の空いた椅子を二つ引いてくれたので、俺とガートゥはそこへ腰かけた。

「さて!それでは話せ!」
「陛下いくら何でも話を端折りすぎです」
「そうか?」
「彼は無様に気絶していたわけですから、ちゃんと説明はすべきでしょう」

何か言葉に棘があるな?
クラウスに何かした覚えはないのだが。
何故か敵意を感じる。

「ではクラウスよ手短に説明するのだ」
「畏まりました。端的に説明すると、密入国者は国外の話を陛下にする事でその罪を赦免される事になっている。以上だ」

成程。本当に端的だな。
まあ分かり易くていいけど。

「童にとって外の話は何よりの娯楽じゃからな。さあ早う!」
「早うって言われましても、何から話せばいいものやら」
「ああ、ため口で構わんぞ!何せリンと童はズットモじゃからな!」

ズットモってなんだ?

「とりあえずルグラントの話を聞かせるのじゃ!」

うん分かってた。
無駄だってのは分かってた。

リンの方を見ると、不思議そうに首を傾げる。
よく見ると口周りがクリームでべとべとだ。
さぞ腹いっぱいケーキを食べたのだろう。

リンには以前、迂闊にルグラントの事を話すなと釘を指した事があるのだが。
目の前のあほ面をみて覚えていな事は一目瞭然だった。

まあ皇帝には大精霊探索の力添えを頼むつもりだから、別にいいんだけどな。

頼みの過程で話す必要が出てくる可能性は高い。
今回は見逃してやろう。

「二人で見つめ合いおっていやらしいのう」
「ええええええええ!?見つめ合うだなんてそんな!?」

皇帝に揶揄われたリンが大声で立ち上がり。
その拍子に膝の上にいたケロが転げ落ちそうになったので、咄嗟にキャッチする。

「何やってんだ、リン」
「あ……ご、ごめんなさいね。ケロちゃん」
「おもしろかったー」

当のケロは楽しかったのか、俺の膝の上できゃっきゃきゃっきゃと弾んでいる。

まあ落とした所で今のケロは固有契約ユニークコンタクトの影響でレベル130もあるから、怪我一つしないだろうけど。

それでも迂闊な行動には逐一注意する必要がある。
リンの行動でいつ自分が酷い目に遭うか分からない以上、直せるものは直しておくことに越した事はないからだ。

「とりあえず―――」

ルグラントの事。
邪悪の事。
何故この国に来たのか。

そういったこれまでの経緯を、俺は掻い摘んで皇帝に説明した。
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