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第26話 言伝
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「ここが王都か」
巨大な城門を抜け、俺は初めて王都に足を踏み入れる。
異世界であるため文明水準は日本に比べるとどうしても劣るが、それでも綺麗に舗装された石畳の道に立ち並ぶレンガ造りの町並みは、故郷の村や他の都市部に比べて遥かに立派な物だった。
……ここがソアラが最後に生活していた場所。
彼女は語彙が少々不足している傾向があり、手紙に書かれてあった王都の街並みは、とにかくすごいの一文で綴られていた事を思い出す。
「ベニイモ達もここで生活してたんだよな?」
「ええ。まあ私達は騎士学校か近郊のダンジョンへの遠征が大半だったんで、余り王都を散策なんかはしてませんけど」
まあイモ兄妹は立派な騎士になる為、王都へやって来ていた訳だからな。
彼女達のレベルからも分るが、相当努力したのだろうと思われる。
「じゃあ、武器を売れそうな場所には心当たりはない訳か」
「すいません」
失敗作とは言え、俺の作った物は世間では魔剣として扱われるレベルの物だ。
そのため金額的に手が出ず、これまでは買取り拒否の店なんかも多かった。
だから数を捌くには、かなり力のある商店でないと厳しい。
「別に謝らなくてもいいさ。まあ観光がてら探すとするか」
無駄に時間はかかるだろうが、これからの事も考えるとそう言った店を見つけておいて損はない筈だ。
「師匠。ゼッツさんに聞いてみてはどうでしょう?師匠の作った剣なら、王家が買い取ってくれるかもしれませんし。例えそれがダメでも、あの人なら買ってくれそうな貴族なんかを紹介してくれるかもしれませんよ」
「ゼッツさんって、そんなに偉いのか?」
ソアラの護衛騎士の隊長をしていたぐらいの認識しか俺にはなかった。
だが騎士団の装備品に口出し出来たり、貴族へのパイプがあるのなら、そこそこ偉いという事になる。
「ゼッツさんは、王家に仕える親衛隊の人間だ」
「それに、伯爵家の次男なんですよ」
「えぇ……伯爵家の次男で王族警護が仕事の親衛隊を、ソアラの護衛に付けてたのか」
正直、ゼッツさんが思った以上の大物でちょっと驚いた。
そんな人間を護衛に付けていたという事は、それだけ王家がソアラに期待していた証なのだろう。
「じゃあゼッツさんに会いに行くか」
「あ、じゃあその前に宿を取っておきましょう」
「ん?何でだ?」
「ゼッツさんは立場のある人ですから、私達が訪ねても、多分直ぐには会えないと思うんですよ。だから言伝を頼む際の住所があった方がいいと思って」
「ああ、成程」
城の前で何時間も待ちぼうけは馬鹿らしいからな。
だから返事を送れる場所を言伝て、会う日時や場所を相手に指定して貰おうという訳か。
「流石、騎士学校主席卒業者だけはあるな」
「へへ、一応優秀な騎士目指して頑張ってましたから。礼儀作法や常識も頭に叩き込んでます」
昔のベニイモは兄であるタロイモ程ではなかったが、かなり脳筋寄りだった。
だがこの5年間で、大分頭が回る様になった様だ。
特にこの世界の常識は、田舎暮らしだけだった俺には圧倒的に足りない物だからな。
こう言う風に意見してくれる相手がいるのは有難い。
俺達はまず宿を見つけ、それから王城へと向かう。
そこで門番に言伝として、手紙をゼッツさんに渡す様頼んだ。
これで明日には返事が届くだろう。
そう思っていたのだが――
◆◇◆◇◆◇◆
「ん?何だ貴様?封筒など持って何処へ行くつもりだ?」
城内の通路を行く、封筒を手にした兵士を一人の貴族風の男が呼び止める。
その男の胸元には、王国第三軍の将校の記章が付けられていた。
「自分は親衛隊であるゼッツ様への言伝をお持ちする所であります!」
男に呼び止められ兵士は、背筋を伸ばし敬礼して質問に答えた。
その反応から、立場の差がハッキリと分る。
「親衛隊への言伝だと?」
「はい!本日訪ねて来た者から、この封筒を渡す様頼まれました!」
それを聞いて男が眉根を顰めた。
「お前はどこの馬の骨とも分からん奴から渡された手紙を、親衛隊に届けるつもりか?」
「あ……いえ、騎士学校の卒業生という事でしたので。それも、今年の主席卒業者の証を持っておりまして」
「なんだと!見せろ!」
主席卒業者の証と聞いて、カッと男の目が見開かれた。
そして兵士の手にした手紙を素早くひったくり、書き込まれた名前を見て肩を震わせる。
「あの……」
「……この手紙は、俺が親衛隊に届けておいてやる。お前は仕事に戻れ」
「はぁ……」
男の豹変に戸惑いながらも、兵士は素直にその言葉に従う。
立場上、違和感を感じても一兵士が口を挟める相手ではないからだ。
「ベニイモめ。大方騎士にならなかった事を後悔して、親衛隊の伝手で騎士団に入ろうという腹積もりだろうが……そんな真似、このエブスが許さん」
エブスは力を籠め、手にした封筒を引き裂こうとする。
だが――
「いや、待てよ。これにはあの女の居場所が書いてある筈だ」
彼はニヤリと嫌らしく笑うと、封を開けその中身を確認する。
「くくく……ベニイモ、このエブス・ザーン様に恥をかかせた事をあの世で後悔するがいい」
そう呟くと、今度こそエブスは封書をビリビリに引き裂いた。
巨大な城門を抜け、俺は初めて王都に足を踏み入れる。
異世界であるため文明水準は日本に比べるとどうしても劣るが、それでも綺麗に舗装された石畳の道に立ち並ぶレンガ造りの町並みは、故郷の村や他の都市部に比べて遥かに立派な物だった。
……ここがソアラが最後に生活していた場所。
彼女は語彙が少々不足している傾向があり、手紙に書かれてあった王都の街並みは、とにかくすごいの一文で綴られていた事を思い出す。
「ベニイモ達もここで生活してたんだよな?」
「ええ。まあ私達は騎士学校か近郊のダンジョンへの遠征が大半だったんで、余り王都を散策なんかはしてませんけど」
まあイモ兄妹は立派な騎士になる為、王都へやって来ていた訳だからな。
彼女達のレベルからも分るが、相当努力したのだろうと思われる。
「じゃあ、武器を売れそうな場所には心当たりはない訳か」
「すいません」
失敗作とは言え、俺の作った物は世間では魔剣として扱われるレベルの物だ。
そのため金額的に手が出ず、これまでは買取り拒否の店なんかも多かった。
だから数を捌くには、かなり力のある商店でないと厳しい。
「別に謝らなくてもいいさ。まあ観光がてら探すとするか」
無駄に時間はかかるだろうが、これからの事も考えるとそう言った店を見つけておいて損はない筈だ。
「師匠。ゼッツさんに聞いてみてはどうでしょう?師匠の作った剣なら、王家が買い取ってくれるかもしれませんし。例えそれがダメでも、あの人なら買ってくれそうな貴族なんかを紹介してくれるかもしれませんよ」
「ゼッツさんって、そんなに偉いのか?」
ソアラの護衛騎士の隊長をしていたぐらいの認識しか俺にはなかった。
だが騎士団の装備品に口出し出来たり、貴族へのパイプがあるのなら、そこそこ偉いという事になる。
「ゼッツさんは、王家に仕える親衛隊の人間だ」
「それに、伯爵家の次男なんですよ」
「えぇ……伯爵家の次男で王族警護が仕事の親衛隊を、ソアラの護衛に付けてたのか」
正直、ゼッツさんが思った以上の大物でちょっと驚いた。
そんな人間を護衛に付けていたという事は、それだけ王家がソアラに期待していた証なのだろう。
「じゃあゼッツさんに会いに行くか」
「あ、じゃあその前に宿を取っておきましょう」
「ん?何でだ?」
「ゼッツさんは立場のある人ですから、私達が訪ねても、多分直ぐには会えないと思うんですよ。だから言伝を頼む際の住所があった方がいいと思って」
「ああ、成程」
城の前で何時間も待ちぼうけは馬鹿らしいからな。
だから返事を送れる場所を言伝て、会う日時や場所を相手に指定して貰おうという訳か。
「流石、騎士学校主席卒業者だけはあるな」
「へへ、一応優秀な騎士目指して頑張ってましたから。礼儀作法や常識も頭に叩き込んでます」
昔のベニイモは兄であるタロイモ程ではなかったが、かなり脳筋寄りだった。
だがこの5年間で、大分頭が回る様になった様だ。
特にこの世界の常識は、田舎暮らしだけだった俺には圧倒的に足りない物だからな。
こう言う風に意見してくれる相手がいるのは有難い。
俺達はまず宿を見つけ、それから王城へと向かう。
そこで門番に言伝として、手紙をゼッツさんに渡す様頼んだ。
これで明日には返事が届くだろう。
そう思っていたのだが――
◆◇◆◇◆◇◆
「ん?何だ貴様?封筒など持って何処へ行くつもりだ?」
城内の通路を行く、封筒を手にした兵士を一人の貴族風の男が呼び止める。
その男の胸元には、王国第三軍の将校の記章が付けられていた。
「自分は親衛隊であるゼッツ様への言伝をお持ちする所であります!」
男に呼び止められ兵士は、背筋を伸ばし敬礼して質問に答えた。
その反応から、立場の差がハッキリと分る。
「親衛隊への言伝だと?」
「はい!本日訪ねて来た者から、この封筒を渡す様頼まれました!」
それを聞いて男が眉根を顰めた。
「お前はどこの馬の骨とも分からん奴から渡された手紙を、親衛隊に届けるつもりか?」
「あ……いえ、騎士学校の卒業生という事でしたので。それも、今年の主席卒業者の証を持っておりまして」
「なんだと!見せろ!」
主席卒業者の証と聞いて、カッと男の目が見開かれた。
そして兵士の手にした手紙を素早くひったくり、書き込まれた名前を見て肩を震わせる。
「あの……」
「……この手紙は、俺が親衛隊に届けておいてやる。お前は仕事に戻れ」
「はぁ……」
男の豹変に戸惑いながらも、兵士は素直にその言葉に従う。
立場上、違和感を感じても一兵士が口を挟める相手ではないからだ。
「ベニイモめ。大方騎士にならなかった事を後悔して、親衛隊の伝手で騎士団に入ろうという腹積もりだろうが……そんな真似、このエブスが許さん」
エブスは力を籠め、手にした封筒を引き裂こうとする。
だが――
「いや、待てよ。これにはあの女の居場所が書いてある筈だ」
彼はニヤリと嫌らしく笑うと、封を開けその中身を確認する。
「くくく……ベニイモ、このエブス・ザーン様に恥をかかせた事をあの世で後悔するがいい」
そう呟くと、今度こそエブスは封書をビリビリに引き裂いた。
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