ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~黒

榊与一

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第27話 襲撃者

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「やれやれ」

ゼッツさんに手紙を出してから3日ほど経つが、その間返事は帰って来なかった。
明日当たりもう一度城を訪ねようかと考えていた訳だが……

――深夜遅く、望まぬ来客に俺はベッドから飛び起きる。

「アサシンの察知を取っておいて、ホント良かった」

察知は敵意を持つ者や、魔物の気配を事前に知らせてくれるスキルだ。
ソロ狩りで休息している時に奇襲されない様に取った物だが、まさか王都での就寝中にこのスキルのお世話になるとは夢にも思わなかった。

「タロイモベニイモ起きろ!」

素早く身支度を整えた俺は部屋から出て、イモ兄妹の寝ている部屋の扉をガンガンとノックする。
反応が悪い様なら扉を蹴破ろうかとも思ったが、直ぐに中から返事が返って来た。

「こんな夜中にどうしたんですか師匠?」

「敵襲だ。さっさと準備しろ」

「ええ!?」

「いったい何が!?」

「分からん。だが急げ」

「わかりました」

2人は俺の言葉に頷き、急いで身支度を整え終える。

「昨日から、俺達以外の客の姿が見えないとは思っていたが……」

イモ達の部屋の扉を激しく叩いたにも関わらず、周囲の部屋からは全く反応がない。
この階――いや、恐らくこの宿には俺達以外は誰も泊っていないのだろう。

「どうやら、周到に用意されてたみたいだな。襲撃者も10人以上いるみたいだし」 

邪魔を排除して大人数での襲撃。
確実に俺達を始末しにかかっている。

しかし、襲撃される様な心当たりが俺には全然ないんだが……

「私達が狙いって事ですか?一体誰がそんな真似を?」

「大人数か……考えられるとしたらエブスだな」

どうやらタロイモには心当たりがある様だった。
まあ彼らもこの5年で色々あったのだろう。

「いくらエブスでも、それはないんじゃ……」

「大人数の暗殺者を動かせる人間は限られる。ゼッツさんから返事がない事を考えると、何らかの形で奴に握りつぶされたと考えた方が自然だ」

「そいつと何か揉めたのか?」

「あ、はい。実は騎士学校の卒業の時に少しあって。私達のせいで、すいません師匠」

「気にしなくていいさ。それより、来るぞ」

階段を忍び足で上がって来る複数の殺気。
どれだけ足音を殺しても、察知が殺意を感知するので相手の行動は丸分りだった。

ほんと、便利なスキルだ。
取っててよかった。

「基本俺が相手するけど、万一お前らの所に行ったら――」

「大丈夫です。自分の身は自分で守れますから」

「問題ない」

頼もしい返事だ。
まあ不意打ちを喰らうならともかく、最上級クラスの彼女達が正面切って戦う以上、そう簡単にやられる事はないだろう。

「よう」

階段を上がって来た、黒尽くめの男と目が合う。
俺達が準備万端で待ち受けているとは思わなかったのだろう、そいつは此方を見て驚きに目をく。

「我等に……気付いていたのか」

「まあな」

男の背後から、ぞろぞろと同じような格好をした男達が階段を上がって来る。
奇襲自体は失敗した訳だが、だからといって撤退するつもりは更々ない様だ。
男達は手にショートソードを構え、戦闘態勢に入った。

「素直に逃げればいい物を……愚かな」

取り敢えず、俺は剣は抜かず素手のまま構えた。
格闘系のマスタリーも取っているので、これで十分だろう。

因みに武器を使わないのは、誤って相手を殺してしまうのを防ぐためだ。
まあこっちを暗殺しに来た奴らの命の心配なんて本来する必要は無いんだが、人殺しは出来れば避けたい所だからな。

「剣を抜かぬ気か……」

「雑魚相手に必要ないさ」

「我等を侮った事!あの世で後悔するがいい!」

男達が先端の尖った針状の物を、獲物を持っていない方の手で一斉に投擲してきた。
結構な数だったが、俺は飛んで来たそれらを全て叩き落とす。
流石にこんな攻撃を喰らってやるほど、今の俺は甘くない。

「投擲って事は……」

恐らく今攻撃してきた奴らは、全員盗賊系のクラスだ。
投擲攻撃のマスタリーがあり、気配を殺すスキルもあるので、そう考えて間違いないだろう。

「ちっ!かかれ!」

遠距離攻撃だけでは意味がないと早々に判断したんだろう。
先頭の男が号令をかけた。

俺達の泊ってる宿は結構いい所なので、通路は大人三人ぐらい余裕で並べる広さだ
指示を受けた黒尽くめどもが、一斉に突っ込んで来る。

「やれやれ……」

取り敢えず、俺は近づく相手を片っ端からローキックで蹴り飛ばしてやる。

「がぁぁ……」

「ぐうぅぅ……」

折るのではなく完全に骨を粉砕しているので、ポーションでも簡単に回復させる事は出来ないだろう。

「来ないのか?」

一瞬で地面に転がされた仲間達を見て、後続の奴らが動きを止めた。
そして明らかにリーダーっぽい最後尾の奴に、「どうします」的な視線を送る。

「迂闊に飛び込むな。囲む様に間合いを詰めろ」

流石にここまで実力差を見せつけたら逃げ出すかと思ったが、そんな事はない様だ。

……奇襲待ちって所か。

察知の効果で、一部が外壁を伝って通路奥の窓から侵入しようとしている事には気づいている。
その別動隊による挟み撃ちで何とかしようと考えているのだろう。
甘すぎる考えだ。

「後ろの窓から追加が飛び込んで来るから、背後は任せたぞ」

「はい!」

「わかった」

イモ兄妹の返事とほぼ同時に窓が突き破られ、襲撃者が数人飛び込んで来る。
そいつらは2人に任せ、俺は前に突っ込んだ。
態々相手が仕掛けて来るのを待ってやる謂れはないからな。

「貴様!?」

「遅い!」

襲撃者達は、此方のスピードに全く対応出来ていない。
棒立ちに近いノロマな奴らの足を、俺は素早く粉砕して周る。
当然リーダーと思しき相手も同じだ。

「ぐうぅぅぅ……」

全員が転がった所で後ろを振り返ると、タロイモとベニイモが敵を斬り殺している姿が見えた。
彼らは人を殺す事にためらいがない様だ。

まあ平和な日本で生きた前世を持つ俺と、魔物の居る様な世界で生まれて騎士を目指した彼らとでは、基準となる価値観が違うのだろう。
寧ろ戦いの世界に身を置く癖に、同じ人間というだけで殺す事にためらいを見せる俺の方が異端なのかもしれない。

「終わりました」

ベニイモ達も、早々に背後の襲撃者を片付けて終わせる。
もう他の殺気は感じないので、これで終わりだろう。

「さて、じゃあ誰の命令で襲ったのか――」

それを訪ねるよりも早く、襲撃者達は全員、手にした武器で自分の胸を迷わず突いた。
一瞬回復魔法やポーションをと考えたが、彼らは手当てする間もなく息絶えてしまう。

「普通、自害するかよ……」

「まあ憲兵に突き出されれば、暗殺者の末は死刑が待っているだけですから」

同じ死ぬのなら、さっさとって事か。
俺自身が手を下したわけではないが、正直後味が悪い。

「ま、取り敢えず宿の人間から話を聞くとするか」

他の宿泊客を締め出している以上、何も知らないって事はないだろう。
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