ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~黒

榊与一

文字の大きさ
49 / 68

第49話 強くなりたい

しおりを挟む
「あの……私もアドルさんに忠誠を誓います!」

イモ兄妹をエリクシル化した所で、急にエンデさんに真剣な表情でそう宣言されてしまい、俺は目をパチクリさせる。

驚くべき事に、スキルは彼女にも反応を示した。
それは言葉だけではなく、俺に心の底からエンデが忠誠を誓った証だ。

いや……意味が分からないんだが?

「私は……強くなりたいんです!だから力をください!!」

「強くなりたいってのは分かる。でも、説明を聞いてたよね?」

エリクシル化には、大きなリスクが伴う。
一度変化すれば、主の命令には絶対逆らえなくなるのだ。
それは言ってしまえば、俺に一生を捧げるに等しい。

いくら力が手に入るとは言え、普通の人間なら絶対にそんな契約は望まないだろう。

「勿論です。アドルさんの命令に逆らいません。だから……」

エンデが硬い意志の籠った瞳で、真っすぐに俺を見つめる。
その目を見る限り、覚悟は決まっている様だった。
いや、スキルが反応しているのだから目を見るまでも無い事だが。

「えーっと……話を聞かせて貰っていいかな?何でそんなに力が欲しいのかを」

何故エンデがそこまでして力を欲するのか?
俺はそれが気になって尋ねた。

正直、ホイホイ他人の人生を背負うつもりにはなれない。
彼女をエリクシル化するかは、その内容次第だ。

「はい。私は――」

エンデが自分の事を話しだす。

「……」

彼女は王国最強と称えられるゾーン・バルターの娘としては、極極平凡な存在だ。
偉大なる父親と、その平凡な娘。
本来ならば直ぐに期待が薄れる筈の条件だったが、周囲は彼女に期待し続けた。

――何故なら、エンデの父親であるゾーン・バルターも又遅咲きだったからだ。

そしてエンデ自身も、努力し続ければいつかきっと父親の様になれる。
そう信じ、血の滲む様な努力を続けた。
だがある日、エンデは父親から告げられてしまう。

「エンデ。お前がこの先どれ程努力しようとも、私の様にはなれん。無理をしてまで戦士の道を進まなくてもいい。お前の生きたい様に生きなさい」

王国最強であり、崇拝してやまなかった父親からの自身に対する無能宣告。
それはエンデを失意のどん底へと突き落としてしまう。

だが、彼女はそれでも諦めなかった。
諦められなかった。

父に認められたい。
その一心で、エンデはそれからも必死に努力し続けた。
だが努力すれば努力する程、自分に才能がない事を彼女は痛感させられてしまう。

以前ならば、それでも自分はゾーン・バルターの娘なのだからと、信じて頑張る事が出来た。
だが父親にその才能を否定されてしまった以上、彼女にとって努力は、ただ絶望と言うゴールに進むだけの物へと変わってしまっていた。

――それでも。
――ひょっとしたら。

そんな思いから、エンデは諦めず努力し続ける。
本当は無駄だと分かっていながらも。

「私は、父に認められたいんです。どうか、お願いします」

そう言って、彼女は深く頭を下げた。

「……」

エンデの目的は父親に認められる事。
そんな事の為に、リスクの高い契約を結ぶなんて愚かな事だ。

けど――

俺の前世は、働き過ぎの過労死だった。
死に追いつめられる程の労働。

実際問題、俺自身それが異常な状態だという事には気づいていた。
それでも俺がその環境から逃げずださず、無為とも言える努力をし続けたのは、親の遺した――「真面目に頑張れば、絶対に報われる」――と言う言葉を信じたからだ。

だが思う。
異常だと気づいていながらも、それでも親の言葉を信じて頑張ったのは、天国で見ている両親を失望させたくなかったからではないか、と。

努力しきらず、逃げだす様な無様な姿を晒したくなかった。
天国で再会する事があったなら「よく頑張った。お前は自分達の誇りだ」と言って欲しかった。

だから俺は死に物狂いで、それこそ死ぬまで頑張ったのだと、今ならそれがハッキリと分かる。

なんて事は無い。
結局は俺も、親に認められたくて無茶し続けてた訳だ。

……そう言う意味では、俺とエンデは似てると言えるな。

もし仮に俺がエリクシル化を断っても、エンデはきっとこの先も諦める事無く努力を続けるだろう。
父親に認められるという、叶う可能性の低い願望に向かって。

「……」

俺の時は、努力が絵にかいた様なバッドエンドだった。
だがエンデのラストは、俺次第である程度変えてやる事が出来るのかもしれない。
そう考えると――

「やれやれ……」

……共通項を見つけてしまうと、ついついその相手の事を応援してやりたくなってしまうな。

けど、このまま無条件と言う訳にはいかない。
最終確認はさせて貰う。

「エンデの気持ちは分かった。けど、俺はとんでもない理不尽な命令を下すかもしれないぜ?気に入らない奴を殺せって」

「この2週間……アドルさんと一緒にやって来て、そんな人じゃないって事は分かっています。戦闘は今一でも、人を見る目だけはあるつもりですから。私」

「……それはどうだろうな?」

俺は袋から冷凍用のズタ袋を取り出し、その中身を彼女に見せた。

「――っ!?」

それはザーン親子の死体だ。
トラブルがあったせいで、まだ処理できていなかった。
彼女はそれを見て、顔を強張らせる。

「こいつらは、俺と敵対したから殺した」

ベニイモが何か言おうとしたが、俺はそれを手で制す。
事情は敢えて伝えない。

――これはテストである。

どんな状況でも、俺を強く信頼してくれるかどうかの。
もし本気で俺を信じるというのなら、その時は責任を持って彼女の面倒を見ようと思う。

けどここで揺らぐ様なら、残念ながらそこまでだ。
エンデの力になってやりたいとは思うが、俺にもやるべき事がある。
中途半端な関係の相手の為に、腐心してやれる余裕はない。

「きっと何か事情があったんだって……私は判断します。だって無暗に人を殺すような人を、ベニイモさん達が心から信頼する訳ありませんから」

エンデは笑ってそう答える。
考えは変わらない様だ。

とは言え、表面上だけかもしれないので確認する。

「エンデさん。もう一度、俺に忠誠を誓って貰っていいかい?」

もし考えが変わったなら、スキルの反応が変わる筈だ。

「はい!私はアドルさんに忠誠を誓います」

だが、スキルは変わらず彼女に反応する。
口先だけではない様だ。

「わかった。君に力を――」

俺はエンデさんに、エリクシルのスキルを発動させる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...