素行不良で僻地に追いやられた第4王子、自分が転生者だった事を思い出す~神様から貰ったランクアップで楽々領地経営~

榊与一

文字の大きさ
37 / 158

第36話 タニヤン

しおりを挟む
――屋敷にある池の前。

「さて……本当にいいんだな?」

「覚悟はできておりますので、お気になさらないで下さい」

「うぅ……死ぬほど嫌ですけど、ジャガリックに置いて行かれるのは嫌なので……」

穏やかな表情のジャガリックと、物凄く嫌そうな顔のカッパー。
これでもかと、明暗分かれる反応である。

反応としては、まあカッパーの方が正しい物と言えるだろう。
なにせ、まあ丸一日気絶する様なレベルの苦痛な訳だから。
俺なら絶対にしない。

「じゃあ上げるぞ」

「お願いいたします」

「私は頑張れる子。私はやれば出来る子。私は凄い。私は……」

カッパーが私は私はと、念仏の様にぶつぶつ呟きだす。
正直、そんなに嫌なら止めておけばいいのにと思うのだが……まあ本人なりの拘りがあるのだろう。

「ぐぅ……」

「うぎぎぎぎぎ……」

俺がランクアップさせると、ジャガリックが苦悶の表情にかわり、カッパーは歯ぎしりする。

二人とも苦しそうではあるが……

「なんかそれほどでもない様な?」

確かに苦しそうではあるのだが、雄叫び上げて気絶した前回に比べれば相当軽く見える。
なにせ二人とも倒れる事なく耐えれてるわけだし。

「前回は2段階一気に上げて、今回は1段階だから大した事ないのかな?いやでも……」

それにしてもやはり軽過ぎる気がする。
ランクアップはランクが上がれば上がる程体への負担が上がって行く訳だし、2段階同時上げでないとはいえ、もっと苦しまないとおかしい気がしてならない。

「ふぉっふぉっふぉ。精霊としての壁を超えるのと、ただ力が上がるのとでは、大きな差が生まれるのでしょうな」

「え?」

急に背後からしわがれた声を掛けられ、俺は驚いて振り返る。
するとそこには――

「なんだ!?魔物か!?」

デカい巻貝を背負った、宙に浮く、髭が触手様に長い白髪の皺だらけの老人の姿があった。
そのシュールな姿に、俺は咄嗟にそれを魔物と判断して飛びのく。

「わしは精霊ですじゃ。風の精霊タニヤンと申します」

「せ、精霊……って事は、カッパーやジャガリックの知り合いって事か?」

「そうなります」

どうやら二人の知り合いの精霊の様だ。
まあ相手の言葉だけを鵜呑みにする気はないのでちゃんと鑑定もしたが、確かに種族は精霊となっていた。

タニヤンはランクDの、風の大精霊だ。

「はぁ……はぁ……なんでタニヤンがここにいるんです?」

ランクアップによる痛みが終わったのだろう。
カッパーが荒い息を整えつつ、何故この場にいるのかとタニヤンに向かって尋ねた。

「ふぉっふぉっふぉ。久しぶりじゃのう、カッパーよ。わしがここに来たのは、ジャガリックから知らせがあったからじゃ。不思議に惹かれる力を持った人間がいるとな」

不思議に惹かれる力の持ち主って、俺の事だろうか?
まさかタゴルやアリンって事もないだろうし。

人にない特殊な力って言うと、やっぱ神様から貰ったランクアップだよな。
これって精霊を惹き付ける効果もあったって事か。

ジャガリックの俺に対する過度な忠誠心っぽい物も、その辺りが影響してそうだな……

まあカッパーからは微塵も感じないわけだが。
好意的な物を。
まあその辺りは、精霊も人間同様個体差があるって事なんだろうな。

「むむむ……ジャガリックは私がタニヤンを苦手なこと知ってるのに、裏切られた気分です」

どうやらカッパーはタニヤンが苦手な様だ。

「カッパー。今現在、マイロードには少しでも多くの力が必要です。そのためにタニヤン様をお呼びしたのですよ。伝えなかったのは、あなたが反対するのが目に見えていたからです」

「はぁ……ジャガリックは大精霊になって小賢しくなってしまって残念です。あのじゃがじゃが言っていた、純朴な頃が懐かしくなってきました」

「すべてはマイロードのため」

カッパーが非難気な目を向けるが、ジャガリックは涼しい顔だ。
まあじゃがじゃが言ってるのが好ましいかどうかはともかく、確かにジャガリックは激変したよな。
見た目だけのカッパーと違って、中身も色々と。

「ふぉっふぉっふぉ。若者同士の軽妙なやり取りは見てて心が若返りますなぁ」

「何が『若返りますなぁ』ですか。タニヤンと私達は、一つしか年齢が変わらないでしょ」

「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃったな」

タニヤンの見た目は老人にしか見えない――まあ顔だけだが――が、どうやら年齢は一つしか変わらない様だ。

まあ彼らは精霊だからな。
若い姿のカッパーと、壮年のジャガリックも同い年と聞いているので、その辺りは気にしても仕方ないのだろう。

「という訳で……我らを惹き付ける不思議な力を持つお方よ。貴方に非常に興味があります故、この老体をお傍に置いていただけるとありがたい。もちろん、このタニヤンの名に懸けて貴方の役に立つ事をお約束いたしましょう」

「ああ、まあ……役に立ってもらえるならこっちとしては大歓迎だけど……」

ちらりと意見を求める様、俺はカッパーの方を見た。

彼女の降雨は、今のところ必要な能力だ――なしだとポイントを垂れ流さないとならない。
なのでもし二択になるようなら、不本意ながら俺はカッパーを選ばざるえないのだ。

それに、どこかに行かれてこいつに使ったポイントが無駄になるのも腹立たしいし……

「むむむ……仕方ありませんね。断腸の思いで受け入れましょう。その代わり……お小言はなしですよ!」

お小言ね……まあこいつ、自由気ままやりたい放題だからな。

「ふぉっふぉっふぉ。それはカッパー次第じゃよ。わしは年長者として、若者に問題があれば指摘するだけじゃ」

「ぬぬぬ……」

タニヤンの正論に、カッパーが顔を歪める。
どうやら小言を辞めるつもりはない更々ない様だ。

「ご安心ください。カッパーも本気でタニヤン様を嫌っている訳ではないので、出て行く様な事は御座いません。何より、彼女はああ見えて義理を大事にする性格ですので。恩を踏み倒してマイロードの元を去ったりは致しませんよ」

「まあ……それならいいけど」

カッパーは嫌そうだったが、こうして我がスパム領に風の大精霊が加入する事となる。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

処理中です...