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第36話 タニヤン
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――屋敷にある池の前。
「さて……本当にいいんだな?」
「覚悟はできておりますので、お気になさらないで下さい」
「うぅ……死ぬほど嫌ですけど、ジャガリックに置いて行かれるのは嫌なので……」
穏やかな表情のジャガリックと、物凄く嫌そうな顔のカッパー。
これでもかと、明暗分かれる反応である。
反応としては、まあカッパーの方が正しい物と言えるだろう。
なにせ、まあ丸一日気絶する様なレベルの苦痛な訳だから。
俺なら絶対にしない。
「じゃあ上げるぞ」
「お願いいたします」
「私は頑張れる子。私はやれば出来る子。私は凄い。私は……」
カッパーが私は私はと、念仏の様にぶつぶつ呟きだす。
正直、そんなに嫌なら止めておけばいいのにと思うのだが……まあ本人なりの拘りがあるのだろう。
「ぐぅ……」
「うぎぎぎぎぎ……」
俺がランクアップさせると、ジャガリックが苦悶の表情にかわり、カッパーは歯ぎしりする。
二人とも苦しそうではあるが……
「なんかそれほどでもない様な?」
確かに苦しそうではあるのだが、雄叫び上げて気絶した前回に比べれば相当軽く見える。
なにせ二人とも倒れる事なく耐えれてるわけだし。
「前回は2段階一気に上げて、今回は1段階だから大した事ないのかな?いやでも……」
それにしてもやはり軽過ぎる気がする。
ランクアップはランクが上がれば上がる程体への負担が上がって行く訳だし、2段階同時上げでないとはいえ、もっと苦しまないとおかしい気がしてならない。
「ふぉっふぉっふぉ。精霊としての壁を超えるのと、ただ力が上がるのとでは、大きな差が生まれるのでしょうな」
「え?」
急に背後からしわがれた声を掛けられ、俺は驚いて振り返る。
するとそこには――
「なんだ!?魔物か!?」
デカい巻貝を背負った、宙に浮く、髭が触手様に長い白髪の皺だらけの老人の姿があった。
そのシュールな姿に、俺は咄嗟にそれを魔物と判断して飛びのく。
「わしは精霊ですじゃ。風の精霊タニヤンと申します」
「せ、精霊……って事は、カッパーやジャガリックの知り合いって事か?」
「そうなります」
どうやら二人の知り合いの精霊の様だ。
まあ相手の言葉だけを鵜呑みにする気はないのでちゃんと鑑定もしたが、確かに種族は精霊となっていた。
タニヤンはランクDの、風の大精霊だ。
「はぁ……はぁ……なんでタニヤンがここにいるんです?」
ランクアップによる痛みが終わったのだろう。
カッパーが荒い息を整えつつ、何故この場にいるのかとタニヤンに向かって尋ねた。
「ふぉっふぉっふぉ。久しぶりじゃのう、カッパーよ。わしがここに来たのは、ジャガリックから知らせがあったからじゃ。不思議に惹かれる力を持った人間がいるとな」
不思議に惹かれる力の持ち主って、俺の事だろうか?
まさかタゴルやアリンって事もないだろうし。
人にない特殊な力って言うと、やっぱ神様から貰ったランクアップだよな。
これって精霊を惹き付ける効果もあったって事か。
ジャガリックの俺に対する過度な忠誠心っぽい物も、その辺りが影響してそうだな……
まあカッパーからは微塵も感じないわけだが。
好意的な物を。
まあその辺りは、精霊も人間同様個体差があるって事なんだろうな。
「むむむ……ジャガリックは私がタニヤンを苦手なこと知ってるのに、裏切られた気分です」
どうやらカッパーはタニヤンが苦手な様だ。
「カッパー。今現在、マイロードには少しでも多くの力が必要です。そのためにタニヤン様をお呼びしたのですよ。伝えなかったのは、あなたが反対するのが目に見えていたからです」
「はぁ……ジャガリックは大精霊になって小賢しくなってしまって残念です。あのじゃがじゃが言っていた、純朴な頃が懐かしくなってきました」
「すべてはマイロードのため」
カッパーが非難気な目を向けるが、ジャガリックは涼しい顔だ。
まあじゃがじゃが言ってるのが好ましいかどうかはともかく、確かにジャガリックは激変したよな。
見た目だけのカッパーと違って、中身も色々と。
「ふぉっふぉっふぉ。若者同士の軽妙なやり取りは見てて心が若返りますなぁ」
「何が『若返りますなぁ』ですか。タニヤンと私達は、一つしか年齢が変わらないでしょ」
「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃったな」
タニヤンの見た目は老人にしか見えない――まあ顔だけだが――が、どうやら年齢は一つしか変わらない様だ。
まあ彼らは精霊だからな。
若い姿のカッパーと、壮年のジャガリックも同い年と聞いているので、その辺りは気にしても仕方ないのだろう。
「という訳で……我らを惹き付ける不思議な力を持つお方よ。貴方に非常に興味があります故、この老体をお傍に置いていただけるとありがたい。もちろん、このタニヤンの名に懸けて貴方の役に立つ事をお約束いたしましょう」
「ああ、まあ……役に立ってもらえるならこっちとしては大歓迎だけど……」
ちらりと意見を求める様、俺はカッパーの方を見た。
彼女の降雨は、今のところ必要な能力だ――なしだとポイントを垂れ流さないとならない。
なのでもし二択になるようなら、不本意ながら俺はカッパーを選ばざるえないのだ。
それに、どこかに行かれてこいつに使ったポイントが無駄になるのも腹立たしいし……
「むむむ……仕方ありませんね。断腸の思いで受け入れましょう。その代わり……お小言はなしですよ!」
お小言ね……まあこいつ、自由気ままやりたい放題だからな。
「ふぉっふぉっふぉ。それはカッパー次第じゃよ。わしは年長者として、若者に問題があれば指摘するだけじゃ」
「ぬぬぬ……」
タニヤンの正論に、カッパーが顔を歪める。
どうやら小言を辞めるつもりはない更々ない様だ。
「ご安心ください。カッパーも本気でタニヤン様を嫌っている訳ではないので、出て行く様な事は御座いません。何より、彼女はああ見えて義理を大事にする性格ですので。恩を踏み倒してマイロードの元を去ったりは致しませんよ」
「まあ……それならいいけど」
カッパーは嫌そうだったが、こうして我がスパム領に風の大精霊が加入する事となる。
「さて……本当にいいんだな?」
「覚悟はできておりますので、お気になさらないで下さい」
「うぅ……死ぬほど嫌ですけど、ジャガリックに置いて行かれるのは嫌なので……」
穏やかな表情のジャガリックと、物凄く嫌そうな顔のカッパー。
これでもかと、明暗分かれる反応である。
反応としては、まあカッパーの方が正しい物と言えるだろう。
なにせ、まあ丸一日気絶する様なレベルの苦痛な訳だから。
俺なら絶対にしない。
「じゃあ上げるぞ」
「お願いいたします」
「私は頑張れる子。私はやれば出来る子。私は凄い。私は……」
カッパーが私は私はと、念仏の様にぶつぶつ呟きだす。
正直、そんなに嫌なら止めておけばいいのにと思うのだが……まあ本人なりの拘りがあるのだろう。
「ぐぅ……」
「うぎぎぎぎぎ……」
俺がランクアップさせると、ジャガリックが苦悶の表情にかわり、カッパーは歯ぎしりする。
二人とも苦しそうではあるが……
「なんかそれほどでもない様な?」
確かに苦しそうではあるのだが、雄叫び上げて気絶した前回に比べれば相当軽く見える。
なにせ二人とも倒れる事なく耐えれてるわけだし。
「前回は2段階一気に上げて、今回は1段階だから大した事ないのかな?いやでも……」
それにしてもやはり軽過ぎる気がする。
ランクアップはランクが上がれば上がる程体への負担が上がって行く訳だし、2段階同時上げでないとはいえ、もっと苦しまないとおかしい気がしてならない。
「ふぉっふぉっふぉ。精霊としての壁を超えるのと、ただ力が上がるのとでは、大きな差が生まれるのでしょうな」
「え?」
急に背後からしわがれた声を掛けられ、俺は驚いて振り返る。
するとそこには――
「なんだ!?魔物か!?」
デカい巻貝を背負った、宙に浮く、髭が触手様に長い白髪の皺だらけの老人の姿があった。
そのシュールな姿に、俺は咄嗟にそれを魔物と判断して飛びのく。
「わしは精霊ですじゃ。風の精霊タニヤンと申します」
「せ、精霊……って事は、カッパーやジャガリックの知り合いって事か?」
「そうなります」
どうやら二人の知り合いの精霊の様だ。
まあ相手の言葉だけを鵜呑みにする気はないのでちゃんと鑑定もしたが、確かに種族は精霊となっていた。
タニヤンはランクDの、風の大精霊だ。
「はぁ……はぁ……なんでタニヤンがここにいるんです?」
ランクアップによる痛みが終わったのだろう。
カッパーが荒い息を整えつつ、何故この場にいるのかとタニヤンに向かって尋ねた。
「ふぉっふぉっふぉ。久しぶりじゃのう、カッパーよ。わしがここに来たのは、ジャガリックから知らせがあったからじゃ。不思議に惹かれる力を持った人間がいるとな」
不思議に惹かれる力の持ち主って、俺の事だろうか?
まさかタゴルやアリンって事もないだろうし。
人にない特殊な力って言うと、やっぱ神様から貰ったランクアップだよな。
これって精霊を惹き付ける効果もあったって事か。
ジャガリックの俺に対する過度な忠誠心っぽい物も、その辺りが影響してそうだな……
まあカッパーからは微塵も感じないわけだが。
好意的な物を。
まあその辺りは、精霊も人間同様個体差があるって事なんだろうな。
「むむむ……ジャガリックは私がタニヤンを苦手なこと知ってるのに、裏切られた気分です」
どうやらカッパーはタニヤンが苦手な様だ。
「カッパー。今現在、マイロードには少しでも多くの力が必要です。そのためにタニヤン様をお呼びしたのですよ。伝えなかったのは、あなたが反対するのが目に見えていたからです」
「はぁ……ジャガリックは大精霊になって小賢しくなってしまって残念です。あのじゃがじゃが言っていた、純朴な頃が懐かしくなってきました」
「すべてはマイロードのため」
カッパーが非難気な目を向けるが、ジャガリックは涼しい顔だ。
まあじゃがじゃが言ってるのが好ましいかどうかはともかく、確かにジャガリックは激変したよな。
見た目だけのカッパーと違って、中身も色々と。
「ふぉっふぉっふぉ。若者同士の軽妙なやり取りは見てて心が若返りますなぁ」
「何が『若返りますなぁ』ですか。タニヤンと私達は、一つしか年齢が変わらないでしょ」
「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃったな」
タニヤンの見た目は老人にしか見えない――まあ顔だけだが――が、どうやら年齢は一つしか変わらない様だ。
まあ彼らは精霊だからな。
若い姿のカッパーと、壮年のジャガリックも同い年と聞いているので、その辺りは気にしても仕方ないのだろう。
「という訳で……我らを惹き付ける不思議な力を持つお方よ。貴方に非常に興味があります故、この老体をお傍に置いていただけるとありがたい。もちろん、このタニヤンの名に懸けて貴方の役に立つ事をお約束いたしましょう」
「ああ、まあ……役に立ってもらえるならこっちとしては大歓迎だけど……」
ちらりと意見を求める様、俺はカッパーの方を見た。
彼女の降雨は、今のところ必要な能力だ――なしだとポイントを垂れ流さないとならない。
なのでもし二択になるようなら、不本意ながら俺はカッパーを選ばざるえないのだ。
それに、どこかに行かれてこいつに使ったポイントが無駄になるのも腹立たしいし……
「むむむ……仕方ありませんね。断腸の思いで受け入れましょう。その代わり……お小言はなしですよ!」
お小言ね……まあこいつ、自由気ままやりたい放題だからな。
「ふぉっふぉっふぉ。それはカッパー次第じゃよ。わしは年長者として、若者に問題があれば指摘するだけじゃ」
「ぬぬぬ……」
タニヤンの正論に、カッパーが顔を歪める。
どうやら小言を辞めるつもりはない更々ない様だ。
「ご安心ください。カッパーも本気でタニヤン様を嫌っている訳ではないので、出て行く様な事は御座いません。何より、彼女はああ見えて義理を大事にする性格ですので。恩を踏み倒してマイロードの元を去ったりは致しませんよ」
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