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第88話 歪み
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「いい加減にしろ!国の一大事だと言っているだろうが!」
俺がいやいやしていると、痺れを切らしたのかガイオスが一喝してきた。
「お前も仮にも王家の血を引いているのなら、国を守るために戦う気概を見せろ」
追放されて王家を名乗れなくなった辺境の男爵にそれを求めるのは、流石に酷じゃね?
そう思ったが、まあ黙っておく。
言っても聞かなさそうだし。
「気概は兎も角として……ガイオス王子がおっしゃられるのなら、一応お話をお伺いしましょう」
「では、私の方から説明させていただきます……最近、隣国グラント帝国に不穏な動きがある事を王家の諜報部が突き止めておりまして」
「グラント帝国が?」
グラント帝国。
ポロロン王国の北西に位置する大国だ。
両国間の仲は、交易こそあるものの、良好と呼べる程ではなかった。
なにせ50年ほど前、現在の皇帝に代替わりするまでは何十年も小競り合いが続いていた間柄だからな。
和解を結んだとは言え、さあ仲良くしようとはならない。
とは言え、最近まではずっとお互い過度に干渉せずにのスタンスで上手くやってきているのだ。
急に相手さんに怪しい動きがあると言われても、正直ピンとこない。
「はい。軍備の増強が急激に進んでおり、我が国との和平条約を破って攻め込んでくるのは時間の問題かと思われます」
「軍備の増強か……」
軍備ってのは、ぶっちゃけ金食い虫だ。
勿論、国の運営上絶対必要な物ではあるのだが、目的のない過度な備えは浪費にしかならないので、どこの国も無駄に増やしたりしないものである。
必要なければ増強させない。
裏を返せば必要だから増強させた。
そしてその目的は、ほぼ間違いなく戦争である。
「しかし……軍備を増強したからと言って、ポロロン王国に攻めて来るとは限らないんじゃないか?」
帝国の周りにある国は、内だけじゃない。
バロネッサ王国もそうだし、でかい国なので他にも5つほどの国が隣接している。
なので必ずしも、ポロロン王国に攻め込んでくるとは限らない。
「いえ、実は……少し前に、グラント帝国皇帝より我が国にある交渉があったのです」
「交渉?」
「はい。それは太陽石を譲って欲しいという物でした」
太陽石。
それはポロロン王国の至宝だ。
それには建国時の激戦に奇跡を起こし、初代国王を勝利に導いたとされる逸話もある。
当然、そんな物を寄越せと言われて渡せる訳もない。
「石が手に入らないから王国に攻めて来る?流石にそれは無理がないか?」
特別な逸話のある石とは言え、いくら何でもそんな理由で攻めて来るとは考えづらい。
戦争には多大なリスクが伴うのだから。
「皇帝がご高齢なのは、エドワード様も知っていらっしゃると思います。そして情報によると、もうそれ程長くない様でして……」
皇帝は30歳で帝位につき、それから50年間帝国のトップとして君臨してきた。
なのでその年齢は80歳だ。
残りの人生がそれ程長くないと言うのは、まあ間違いないだろう。
「それと太陽石に何の関係があるんだ?」
「ふ、皇帝も人の子だ。老いぼれて、少しでも長生きしたいと言う欲が湧いたんだろうな」
ガイオスが馬鹿にした様に鼻で笑う。
老いぼれてなお生に執着する姿を滑稽だとでも思っているのだろう。
ま、俺は別にそう思わないけど……
誰だって、長生きしたいと考えるのが普通だから。
「皇帝はその事で、どうやら神聖エルロンド教へと相談へ行った様です」
「神頼りなど国のトップがする事ではない。これだから老いぼれは……」
ガイオスがちょくちょく悪口を挟んでくる。
老人が嫌いなのか。
もしくは皇帝本人が気に食わないのか。
……まあどうでもいいけど。
「新しく聖女に就かれたペカリーヌ様は歴代聖女の中で最も力が強く、エルロンド教が特別と認めているお方です。そんな方なら、自分の寿命を何とかできるのではないかと、そう考えたのでしょう」
「聖職者共のくだらない煽りに乗せられるとは、哀れとしか言い様がないな」
「……」
ガイオスの言う様に、鵜呑みにするのは愚かだが……溺れる者は藁をも掴むと言うからな。
皇帝が縋るのも無理からぬ話なのかもしれない。
まあだけど……ここまでの話だと、全然太陽石関係ないんだが?
「そこでペカリーヌ様に見ていただいた所……特別な方法でなら延命できるとなったそうです」
「へぇ……凄いな」
人の寿命まで伸ばせるとなれば、ペカリーヌ王女の力は本物と言わざるえない。
俺のランクアップは死者すらも蘇らせる事が出来るが、生命力としての寿命を延ばしたりは出来ないからな。
大した物である。
「ええ、確かにすごい事です。ですが……問題はその方法です。それを行うには、どうやら太陽石が必要となるそうで」
……ああ、ここで太陽石に繋がるのか。
寿命を延ばすには太陽石が必要。
だが、ポロロン王国は至宝なの当然手放さない。
だから戦争をおこして、力尽くで奪おうって訳か。
いくら何でも自分勝手すぎるだろ。
皇帝。
俺の知る限りじゃ、名君だったはずなんだけどなぁ……
まあ人ってのは代わる生き物だからな。
長く生きた事で、色々と歪んでしまったんだろう。
きっと。
俺がいやいやしていると、痺れを切らしたのかガイオスが一喝してきた。
「お前も仮にも王家の血を引いているのなら、国を守るために戦う気概を見せろ」
追放されて王家を名乗れなくなった辺境の男爵にそれを求めるのは、流石に酷じゃね?
そう思ったが、まあ黙っておく。
言っても聞かなさそうだし。
「気概は兎も角として……ガイオス王子がおっしゃられるのなら、一応お話をお伺いしましょう」
「では、私の方から説明させていただきます……最近、隣国グラント帝国に不穏な動きがある事を王家の諜報部が突き止めておりまして」
「グラント帝国が?」
グラント帝国。
ポロロン王国の北西に位置する大国だ。
両国間の仲は、交易こそあるものの、良好と呼べる程ではなかった。
なにせ50年ほど前、現在の皇帝に代替わりするまでは何十年も小競り合いが続いていた間柄だからな。
和解を結んだとは言え、さあ仲良くしようとはならない。
とは言え、最近まではずっとお互い過度に干渉せずにのスタンスで上手くやってきているのだ。
急に相手さんに怪しい動きがあると言われても、正直ピンとこない。
「はい。軍備の増強が急激に進んでおり、我が国との和平条約を破って攻め込んでくるのは時間の問題かと思われます」
「軍備の増強か……」
軍備ってのは、ぶっちゃけ金食い虫だ。
勿論、国の運営上絶対必要な物ではあるのだが、目的のない過度な備えは浪費にしかならないので、どこの国も無駄に増やしたりしないものである。
必要なければ増強させない。
裏を返せば必要だから増強させた。
そしてその目的は、ほぼ間違いなく戦争である。
「しかし……軍備を増強したからと言って、ポロロン王国に攻めて来るとは限らないんじゃないか?」
帝国の周りにある国は、内だけじゃない。
バロネッサ王国もそうだし、でかい国なので他にも5つほどの国が隣接している。
なので必ずしも、ポロロン王国に攻め込んでくるとは限らない。
「いえ、実は……少し前に、グラント帝国皇帝より我が国にある交渉があったのです」
「交渉?」
「はい。それは太陽石を譲って欲しいという物でした」
太陽石。
それはポロロン王国の至宝だ。
それには建国時の激戦に奇跡を起こし、初代国王を勝利に導いたとされる逸話もある。
当然、そんな物を寄越せと言われて渡せる訳もない。
「石が手に入らないから王国に攻めて来る?流石にそれは無理がないか?」
特別な逸話のある石とは言え、いくら何でもそんな理由で攻めて来るとは考えづらい。
戦争には多大なリスクが伴うのだから。
「皇帝がご高齢なのは、エドワード様も知っていらっしゃると思います。そして情報によると、もうそれ程長くない様でして……」
皇帝は30歳で帝位につき、それから50年間帝国のトップとして君臨してきた。
なのでその年齢は80歳だ。
残りの人生がそれ程長くないと言うのは、まあ間違いないだろう。
「それと太陽石に何の関係があるんだ?」
「ふ、皇帝も人の子だ。老いぼれて、少しでも長生きしたいと言う欲が湧いたんだろうな」
ガイオスが馬鹿にした様に鼻で笑う。
老いぼれてなお生に執着する姿を滑稽だとでも思っているのだろう。
ま、俺は別にそう思わないけど……
誰だって、長生きしたいと考えるのが普通だから。
「皇帝はその事で、どうやら神聖エルロンド教へと相談へ行った様です」
「神頼りなど国のトップがする事ではない。これだから老いぼれは……」
ガイオスがちょくちょく悪口を挟んでくる。
老人が嫌いなのか。
もしくは皇帝本人が気に食わないのか。
……まあどうでもいいけど。
「新しく聖女に就かれたペカリーヌ様は歴代聖女の中で最も力が強く、エルロンド教が特別と認めているお方です。そんな方なら、自分の寿命を何とかできるのではないかと、そう考えたのでしょう」
「聖職者共のくだらない煽りに乗せられるとは、哀れとしか言い様がないな」
「……」
ガイオスの言う様に、鵜呑みにするのは愚かだが……溺れる者は藁をも掴むと言うからな。
皇帝が縋るのも無理からぬ話なのかもしれない。
まあだけど……ここまでの話だと、全然太陽石関係ないんだが?
「そこでペカリーヌ様に見ていただいた所……特別な方法でなら延命できるとなったそうです」
「へぇ……凄いな」
人の寿命まで伸ばせるとなれば、ペカリーヌ王女の力は本物と言わざるえない。
俺のランクアップは死者すらも蘇らせる事が出来るが、生命力としての寿命を延ばしたりは出来ないからな。
大した物である。
「ええ、確かにすごい事です。ですが……問題はその方法です。それを行うには、どうやら太陽石が必要となるそうで」
……ああ、ここで太陽石に繋がるのか。
寿命を延ばすには太陽石が必要。
だが、ポロロン王国は至宝なの当然手放さない。
だから戦争をおこして、力尽くで奪おうって訳か。
いくら何でも自分勝手すぎるだろ。
皇帝。
俺の知る限りじゃ、名君だったはずなんだけどなぁ……
まあ人ってのは代わる生き物だからな。
長く生きた事で、色々と歪んでしまったんだろう。
きっと。
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