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スローライフはいずこ?
第2話 幼馴染
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――この世界にはクラスとレベルが存在している。
レベルは経験値を稼いで上げる、ゲーム的な例のアレだ。
上がると能力が上昇し、スキルポイントを得る事が出来る様になっている。
ゲームだと経験値取得は魔物を狩って行う物だが、この世界ではそれ以外にも、ランニングや素振りなどの鍛錬を行う事で手に入れる事が出来る様だった。
クラスの方は、生まれ持っての資質的な適正だ。
その系統は生まれつき決まっており、残念ながら変更は効かない。
レベルが30になると下級から上級クラスへと覚醒し、才能の有る者は50で更に上のクラスへと覚醒する様になっている。
但し伝説級である勇者は生まれつき固定の様で、レベルによる覚醒は発生しない仕様だ。
神様曰く、俺に与えたスキルマスターはその伝説級をも超える神話級のクラスらしい。
ま、死ぬ程どうでもいい事だが。
だってスローライフするし。
――俺のアンニュイな人生に変化が訪れたのは、転生してから2年と半年程過ぎた頃だった。
「初めまして!あたしソアラ!」
俺の家に、お隣さんが子供を連れてやって来た。
肩までのピンクの髪と、透き通る様な青い瞳をした可愛らしい少女で、2歳児とは思えない程ハツラツとした活舌で挨拶してくる。
彼女の名はソアラ。
伝説クラスである勇者の資質を持つ、生まれながらにしての天才少女だ。
子供は生まれてすぐに資質を調べられるので、彼女が勇者である事はご近所でも周知の事実だった。
当然、それは隣の家である我が家にも伝わって来ている。
俺は事前に父親からその話を聞かされていたので、初対面の彼女が勇者である事を知っていたという訳だ。
「初めまして、ソアラ。僕はアドルです」
俺はソアラに笑顔で挨拶を返した。
2歳児としては少々礼儀正しすぎる気もするが、中身30超えたおっさんが子供の振りをし続けるのは流石にきつい。
よって2歳になった辺りから子供っぽい振る舞いは卒業し、今は利発な少年路線でやらせて貰っている。
偶にいるよね。
凄く利発な子供って。
要はそれだ。
まあちょっと、利発ぶりを発揮するには少し早すぎる気はしなくもないが。
ま、気にしたら負けだ。
細かい事は考えないようにする。
「じゃ、悪いけどしばらくこの家に滞在するから」
ソアラの父親――ゴリラの様な大男が外にいる騎士達に声をかける。
その言葉に「分かりましたと」彼らは短く返事を返した。
「勇者ってのも大変ねぇ」
「まったく。どこに連れていくにも付いて来ようとするんだもの、全然気が休まらないわ」
外にいる騎士達は、国が寄越したソアラの護衛だ。
その行動にソアラの母親――アデリンが愚痴をこぼす。
100年に1度出るかどうかの勇者の資質を持つ者は、国にとっては貴重な存在だ。
本来ならこんな小さな村ではなく、首都にある専門の施設に入れられてしかるべきだろう。
だがそれを彼女の両親が大反対し、せめて12歳まではこの村で暮らすという条件を勝ち取っている。
そのため、ソアラにその期間万一が無い様、遣わされたのが外の騎士達という訳だ。
因みに、一般市民でしかないソアラの両親の主張が通ったのは、肉親を怒らせると後々国と勇者との間に禍根が残ると考えた為だと思われる。
そうでもなきゃ、個人の主張で国の行動が覆される様な事はないだろう。
「アドル。出来れば家の娘の友達になってやってくれねぇか」
ソアラの父親であるゴリアテがしゃがみ、俺に目線を合わせてそう頼んだ。
護衛の騎士達のせいで人づきあいがし辛いので、彼女に友達が出来ない事を心配しての行動だろう。
「はい。もちろんです」
正直、2歳児の相手など面倒くさいからしたくもないのだが、ゴツイおっさんに真っすぐに目を見て言われたら断り辛い。
まあ早々毎日顔を会わせるわけじゃないので、適当に相手してやるぐらいならいいだろう。
「あんがとよ。じゃ、仲良くしてやってくれ」
ゴリアテはニカっと笑って俺の頭を撫でると、母親に抱かれていたソアラ受け取り、俺の前に立たせた。
そして娘を残して、彼は父の向かい側のテーブルに座る。
子供同士、よろしくやれという事だろう。
子供が生まれる前までは良く家族で交流していたそうで、気心の知れた二人は真昼間から母が用意した酒を飲みだした。
「ソアラ。絵本でも読みますか?」
外に出ると騎士が居る。
出たら彼らの視線が気になりそうなので、本を読もうと誘ってみた。
「うん!勇者の出る本がいい!」
勇者が勇者の物語を読むのか?
そんな無粋な事は口にせず、両親に断って、俺は彼女を奥の書斎へと連れていく。
書斎には扉が付いてないので、2歳児でも問題なく中に入れる様になっている。
「わぁ!凄い!」
書斎には、母が趣味で集めた本が棚に大量に並んでいた。
既にこの世界の言語は習得済み――と言うか、転生時にチートとして言語知識を与えられている――なので、俺は問題なく文字を読める。
常識的に考えれば不自然極まりない学習速度だった訳だが、両親は俺が天才だと大喜びするだけで、一切不思議に思っていない様だった。
ちょろくて助かるぜ。
「大勇者ガイウスのお話でいいかい?」
「それがいい!」
絵本系は全て棚の下の方に入っている。
好きに読める様にと、母の俺に対する気配りだ。
まあ俺としては絵本なんか読む気は更々ないので、逆に普段は、頑張って台を使って上の方から本を取る羽目になってしまっているが。
俺は下の段にある勇者物絵本を手に取り、床に敷いてあるマットの上に座る。
ソアラもその横に並んで座り、開いた絵本を覗き込んだ。
「えーっと、昔々――」
キラキラと目を輝かせるソアラに絵本を読んであげようとしたら、彼女は自分で絵本に書かれている文字を読みだした。
「え!?」
「ん?どうしたの?」
思ってもいなかった展開に、思わず変な声が出てしまう。
そんな俺を、ソアラは不思議そうに見つめる。
「ああ、いや。何でもないよ」
……正直驚いた。
チートを貰っている俺はともかくとして、まだ2歳の幼い女の子が、既に文字を読めるとは夢にも思わなかったからだ。
伝説級の才能の持ち主であるこの子は、どうやらお頭の出来も伝説級の様である。
流石勇者。
さすゆう。
「じゃあ、続きを読むね!」
ソアラが絵本を読むのに合わせて、俺はページをめくる。
内容は在り来たりで、子供向けのシンプルな物だった。
魔王がお姫様を攫い。
勇者が賢者等の仲間達と力を合わせて魔王を倒し、それを救出するという物語。
「勇者凄い!」
どちらかと言うと男児向けの内容だが、最期まで読み終わったソアラは興奮して勇者凄いを連発する。
「私も大きくなったら魔王を倒す!」
ソアラが立ち上がり、右手を突き出すポーズを取る。
絵本の中で、勇者が魔王を倒した時のポーズだ。
ま、絵本の勇者は右手に剣を握っていたが。
「その時はアドルも一緒だよ!」
彼女は目をキラッキラさせて、こっちを見て来る。
俺はスローライフ目当てなので、そういう面倒くさそうなのは自分一人で願いします。
ま、そもそも現状、数十年近く魔族とは境界線付近で小競り合いが続いているだけの状態だ。
何か余程の事でも起こらない限り、魔王を討伐に向かうなんて事にはならないだろう。
「ははは。僕のクラスは市民だから」
「ん?」
ソアラが俺の言葉に、不思議そうに首を捻る。
最弱クラスである市民の事を、彼女は把握していないのだろうか?
「あのね。市民ってのは、クラスの中で一番弱いんだよ。僕にはソアラみたいな力はないんだ。だから、僕以外の人を仲間に――」
俺は市民がどういう物か彼女に教えてやる。
魔王を倒すかどうかはともかく、仲間が欲しいのなら他の奴を誘え。
それが俺からのアドバイスだ。
「ん?でもアドルって、スキルマスターだよね?」
「……は?」
ソアラの一言に、俺は固まる。
「私のカンテーでね、勇者より凄いって出てるよ?」
これは後で知った事だが、どうやら勇者には初期から使えるスキルがあった様だ。
そのうちの一つが鑑定眼。
これはありとあらゆる情報――しかも真実の情報を見抜くスキルだった。
レベルは経験値を稼いで上げる、ゲーム的な例のアレだ。
上がると能力が上昇し、スキルポイントを得る事が出来る様になっている。
ゲームだと経験値取得は魔物を狩って行う物だが、この世界ではそれ以外にも、ランニングや素振りなどの鍛錬を行う事で手に入れる事が出来る様だった。
クラスの方は、生まれ持っての資質的な適正だ。
その系統は生まれつき決まっており、残念ながら変更は効かない。
レベルが30になると下級から上級クラスへと覚醒し、才能の有る者は50で更に上のクラスへと覚醒する様になっている。
但し伝説級である勇者は生まれつき固定の様で、レベルによる覚醒は発生しない仕様だ。
神様曰く、俺に与えたスキルマスターはその伝説級をも超える神話級のクラスらしい。
ま、死ぬ程どうでもいい事だが。
だってスローライフするし。
――俺のアンニュイな人生に変化が訪れたのは、転生してから2年と半年程過ぎた頃だった。
「初めまして!あたしソアラ!」
俺の家に、お隣さんが子供を連れてやって来た。
肩までのピンクの髪と、透き通る様な青い瞳をした可愛らしい少女で、2歳児とは思えない程ハツラツとした活舌で挨拶してくる。
彼女の名はソアラ。
伝説クラスである勇者の資質を持つ、生まれながらにしての天才少女だ。
子供は生まれてすぐに資質を調べられるので、彼女が勇者である事はご近所でも周知の事実だった。
当然、それは隣の家である我が家にも伝わって来ている。
俺は事前に父親からその話を聞かされていたので、初対面の彼女が勇者である事を知っていたという訳だ。
「初めまして、ソアラ。僕はアドルです」
俺はソアラに笑顔で挨拶を返した。
2歳児としては少々礼儀正しすぎる気もするが、中身30超えたおっさんが子供の振りをし続けるのは流石にきつい。
よって2歳になった辺りから子供っぽい振る舞いは卒業し、今は利発な少年路線でやらせて貰っている。
偶にいるよね。
凄く利発な子供って。
要はそれだ。
まあちょっと、利発ぶりを発揮するには少し早すぎる気はしなくもないが。
ま、気にしたら負けだ。
細かい事は考えないようにする。
「じゃ、悪いけどしばらくこの家に滞在するから」
ソアラの父親――ゴリラの様な大男が外にいる騎士達に声をかける。
その言葉に「分かりましたと」彼らは短く返事を返した。
「勇者ってのも大変ねぇ」
「まったく。どこに連れていくにも付いて来ようとするんだもの、全然気が休まらないわ」
外にいる騎士達は、国が寄越したソアラの護衛だ。
その行動にソアラの母親――アデリンが愚痴をこぼす。
100年に1度出るかどうかの勇者の資質を持つ者は、国にとっては貴重な存在だ。
本来ならこんな小さな村ではなく、首都にある専門の施設に入れられてしかるべきだろう。
だがそれを彼女の両親が大反対し、せめて12歳まではこの村で暮らすという条件を勝ち取っている。
そのため、ソアラにその期間万一が無い様、遣わされたのが外の騎士達という訳だ。
因みに、一般市民でしかないソアラの両親の主張が通ったのは、肉親を怒らせると後々国と勇者との間に禍根が残ると考えた為だと思われる。
そうでもなきゃ、個人の主張で国の行動が覆される様な事はないだろう。
「アドル。出来れば家の娘の友達になってやってくれねぇか」
ソアラの父親であるゴリアテがしゃがみ、俺に目線を合わせてそう頼んだ。
護衛の騎士達のせいで人づきあいがし辛いので、彼女に友達が出来ない事を心配しての行動だろう。
「はい。もちろんです」
正直、2歳児の相手など面倒くさいからしたくもないのだが、ゴツイおっさんに真っすぐに目を見て言われたら断り辛い。
まあ早々毎日顔を会わせるわけじゃないので、適当に相手してやるぐらいならいいだろう。
「あんがとよ。じゃ、仲良くしてやってくれ」
ゴリアテはニカっと笑って俺の頭を撫でると、母親に抱かれていたソアラ受け取り、俺の前に立たせた。
そして娘を残して、彼は父の向かい側のテーブルに座る。
子供同士、よろしくやれという事だろう。
子供が生まれる前までは良く家族で交流していたそうで、気心の知れた二人は真昼間から母が用意した酒を飲みだした。
「ソアラ。絵本でも読みますか?」
外に出ると騎士が居る。
出たら彼らの視線が気になりそうなので、本を読もうと誘ってみた。
「うん!勇者の出る本がいい!」
勇者が勇者の物語を読むのか?
そんな無粋な事は口にせず、両親に断って、俺は彼女を奥の書斎へと連れていく。
書斎には扉が付いてないので、2歳児でも問題なく中に入れる様になっている。
「わぁ!凄い!」
書斎には、母が趣味で集めた本が棚に大量に並んでいた。
既にこの世界の言語は習得済み――と言うか、転生時にチートとして言語知識を与えられている――なので、俺は問題なく文字を読める。
常識的に考えれば不自然極まりない学習速度だった訳だが、両親は俺が天才だと大喜びするだけで、一切不思議に思っていない様だった。
ちょろくて助かるぜ。
「大勇者ガイウスのお話でいいかい?」
「それがいい!」
絵本系は全て棚の下の方に入っている。
好きに読める様にと、母の俺に対する気配りだ。
まあ俺としては絵本なんか読む気は更々ないので、逆に普段は、頑張って台を使って上の方から本を取る羽目になってしまっているが。
俺は下の段にある勇者物絵本を手に取り、床に敷いてあるマットの上に座る。
ソアラもその横に並んで座り、開いた絵本を覗き込んだ。
「えーっと、昔々――」
キラキラと目を輝かせるソアラに絵本を読んであげようとしたら、彼女は自分で絵本に書かれている文字を読みだした。
「え!?」
「ん?どうしたの?」
思ってもいなかった展開に、思わず変な声が出てしまう。
そんな俺を、ソアラは不思議そうに見つめる。
「ああ、いや。何でもないよ」
……正直驚いた。
チートを貰っている俺はともかくとして、まだ2歳の幼い女の子が、既に文字を読めるとは夢にも思わなかったからだ。
伝説級の才能の持ち主であるこの子は、どうやらお頭の出来も伝説級の様である。
流石勇者。
さすゆう。
「じゃあ、続きを読むね!」
ソアラが絵本を読むのに合わせて、俺はページをめくる。
内容は在り来たりで、子供向けのシンプルな物だった。
魔王がお姫様を攫い。
勇者が賢者等の仲間達と力を合わせて魔王を倒し、それを救出するという物語。
「勇者凄い!」
どちらかと言うと男児向けの内容だが、最期まで読み終わったソアラは興奮して勇者凄いを連発する。
「私も大きくなったら魔王を倒す!」
ソアラが立ち上がり、右手を突き出すポーズを取る。
絵本の中で、勇者が魔王を倒した時のポーズだ。
ま、絵本の勇者は右手に剣を握っていたが。
「その時はアドルも一緒だよ!」
彼女は目をキラッキラさせて、こっちを見て来る。
俺はスローライフ目当てなので、そういう面倒くさそうなのは自分一人で願いします。
ま、そもそも現状、数十年近く魔族とは境界線付近で小競り合いが続いているだけの状態だ。
何か余程の事でも起こらない限り、魔王を討伐に向かうなんて事にはならないだろう。
「ははは。僕のクラスは市民だから」
「ん?」
ソアラが俺の言葉に、不思議そうに首を捻る。
最弱クラスである市民の事を、彼女は把握していないのだろうか?
「あのね。市民ってのは、クラスの中で一番弱いんだよ。僕にはソアラみたいな力はないんだ。だから、僕以外の人を仲間に――」
俺は市民がどういう物か彼女に教えてやる。
魔王を倒すかどうかはともかく、仲間が欲しいのなら他の奴を誘え。
それが俺からのアドバイスだ。
「ん?でもアドルって、スキルマスターだよね?」
「……は?」
ソアラの一言に、俺は固まる。
「私のカンテーでね、勇者より凄いって出てるよ?」
これは後で知った事だが、どうやら勇者には初期から使えるスキルがあった様だ。
そのうちの一つが鑑定眼。
これはありとあらゆる情報――しかも真実の情報を見抜くスキルだった。
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