ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~白

榊与一

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王都へ

第31話 最強との試験

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「君の噂は聞いている」

王都の散策を終えた翌日、俺はゼッツさんと一緒に王城へとやって来ていた。
ダンジョン入場の許可を得るために。

本来、外部の人物がダンジョンに入るには何日も審査ががかかる物である。
だが俺は実力を見せる事さえできれば、もう今日からでも中に入る事が出来た。
それはゼッツさんが探索の許可申請を事前にしてくれていたお陰だ。

俺から頼むまでもなく気を聞かせてくれる当たり、出来る人物と言えるだろう。
少し前まで下っ端と思ってたのが申し訳なくなる。

そして俺の実力を審査する人物は、長髪黒髪の壮年の男性――

王国最強の騎士、ゾーン・バルターだった。

騎士学園の学生でも一定レベルに達していれば入る事の出来るダンジョンの実力確認に、王国最強騎士が出張って来るなど普通ならあり得ない話だ。
にもかかわらずそんな人物が俺の実力審査の相手を務めるのは、まあ考えるまでもなくゼッツさんとソアラのせいだろう。

第二のゾーン・バルターとか大げさなこと吹聴されてりゃな……
まあそうなるわ。

「初めまして。アドルと申します」

騎士達の訓練場。
向かい合う俺とゾーン・バルターの周囲には、大勢の人垣が出来ていた。

相当な人数だ。
お前らこんなとこで野次馬してないで、ちゃんと城の仕事しろよと思わずにいられない。
まあ言わないけど。

「勇者の相棒としての力。見せて貰おう」

「ああいや、俺はそんな大げさな人間じゃないんで……」

「謙遜しなくていい。ソアラ君やゼッツが絶賛している程だ。だからこそ、私がここにいる。君の全力を受け止める為にな」

この衆人環視の中。
しかも俺の力を測る為に、王国最強が試験管になってる状況。

許可が出る程度に適当に戦ってってのは、やっぱあれだよなぁ……

俺的にはこの程度かよってがっかりして貰った方が有難いのだが、でもそれだとソアラやゼッツさんの顔に盛大に泥を塗ってしまう事になってしまう。
まあこの際ソアラは良いんだが――後でこっぴどくしごかれるだろうが――世話をしてくれてるゼッツさんに恥をかかせるのはどうしても躊躇われる。

……全力でやるしかないか。

ドンドンとスローライフが遠ざかっていく感覚。
ソアラと言う蟻地獄の巣に落ちた気分だ。

ああ、そういや、今はベニイモって言う蟻地獄もいるな。

母親連中もそれに近い物があるし。
こういうのを女運が悪いと言うのだろうか。

いや、違うか。

「では、始めるとしようか」

ゾーン・バルターが剣を構えた。
その瞬間、彼の存在が希薄になる。

……気配がまるでない。

まるで実体のない陽炎を目の前にした様な感覚。
まだ発展途上とは言え勇者であるソアラと引き分け、王国最強の騎士と言われる人物。
その強さの一端が、その構え一つで伝わって来る。

……こりゃ絶対勝てんな。

まあソアラと互角な時点で分かりきってはいた事だが、剣を合わせるまでもなくそれを強く実感させられてしまう。
正に看板に偽りなしである。

「胸をお借りします」

俺は最初っから全開で突っ込む。
そして勢いのまま、手にした剣を上段から振り下ろす。

「――っ!?」

その一撃はゾーン・バルターの手にした剣で綺麗に捌かれてしまう。
まあ捌かれるのは当然予想していた。
俺が驚いたのは、その時剣と剣が触れた感触――衝撃が全く発生しなかった事だ。

……とんでもないな。

今の俺ではどうやったらそんな真似が出来るのか、皆目見当もつかない。
それ程までに凄まじい剣の技量。

「良い動きだ。今の鋭い一撃だけで、君の実力が話通りだと言う事が分かる。噂に偽り無しだな」

こっちとしては全く手応えなしだったのだが、まあ動き自体には及第点を頂けたみたいだ。

「えーっと……て事は、これで試験終了って事でしょうか?」

「ふ……まさか。君の全力はこんなもんじゃないだろう?ソアラ君は君が自分と互角の力を持っていると言っていたぞ」

「いやそれは半年以上前の話で、今の彼女と俺じゃ相当差がありますから」

確かに村を旅立った時点でなら、互角はアレだが、いい勝負が出来る程度の実力差だった。
だがソアラは王都でレベル上げをして急激に成長してしまっている。
今の俺と彼女とでは、天と地ほどの差があると言っても過言ではない。

「確かに、基本の動きなら半年前のソアラ君と同程度だ。だが……彼女には勇者のスキルがある。そんな勇者を相手に互角に戦った君の力が、この程度の筈がない。違うかね?」

むう……

確かに、スキル無しのハンデキャップでいい勝負したからと言って普通は互角とは言わない。
スキルありのソアラと俺が戦えてこそ、その表現は使われる物だ。

「それに聞くところによると……君はユニークスキルを持っているのだろう?」

「どうしてそれを……」

昨日考えた嘘が既に、ゾーン・バルターの耳に入っている。
その情報収集能力に驚きを隠せない。

とか一瞬思ってしまったが――

よくよく考えて、彼の娘であるエンデさんに話してるんだからそら一瞬で伝わってもおかしくはないと言う事に気付く。

「それが勇者の強さに対抗できる力なのだろう?是非見せて欲しい」

見せて欲しいとか笑顔で言ってるが、言葉には絶対見せろって強い圧が込められているのを感じる。
ベニイモ達の様に、秘密ですは絶対通らなさそうだ。

「わかりました」

一応、昨日一晩でどういう能力にするかはざっくり考えてある。
もう少し推敲したかったんだが、まあ仕方ない。

俺の考えた架空のユニークスキル。
それは急成長の理由たりえ、更に、最悪ソアラに武器を作った事がバレても筋を通せる物。

「つかいます!」

俺はスキルを発動させる。
勇者の代表的スキルである、ブレイブオーラを。

「ほう……それは、勇者スキルのブレイブオーラか?」

「はい」

ブレイブオーラを発動させた俺の体からは、青いオーラが溢れ出す。
それを見たゾーン・バルターが目を細め。
周囲の人間が騒めく。

「俺のユニークスキルは……スキルの模倣です。同時に模倣できるのは最大四つで、他にも勇者スキルの強力な物を三つ模倣して今の状態になっています」

勇者のマスタリーを模倣しているから凄くステータスが高い。
これなら俺の強さもある程度自然に感じられるはず。
まあちょっとチート臭い能力な気もするが、この程度なら超天才と思われてるのとそう大差はないだろう。

……多分。

「成程。勇者であるソアラ君に迫るその強さ……そんなユニークスキルがあるなら納得のいくものだな。君の様な優秀な人材には、是非この国で腕を振るって貰いたいものだ」

「将来の夢は家を継ぐ事なんで、遠慮しときます」

スローライフを目指してる俺にとって、国仕えなど迷惑な勧誘でしかない。
誰が騎士になったりなどする物か。

「そうか、残念だ。では、効果時間の都合もある。続きといこうか」

ブレイブオーラの効果は3分間。
もしこのまま延々喋っていたら、それだけで効果が切れてしまうだろう。
そうなったら何のために発動させたんだって話になる。

「はい。行きます」

再びゾーン・バルターに斬りかかる。
ステータスが二倍になった俺の攻撃を、彼は巧みな剣さばきで受け流す。

……こんどは手ごたえがあるな。

先程はまるで空を斬らされた様な感触だったが、今度はちゃんと剣と剣のぶつかる衝撃が手に伝わって来た。
彼はとんでもない技量の達人だが、流石に今の2倍になった俺のステータスの攻撃をさっきみたいに完全な形で捌く事は出来ない様だ。

「ふっ!はぁっ!」

「ふん!」

だがそれでも当たらない。
速度は確実に此方が圧倒しているにもかかわらず、だ。

まあ全力を出した。
ブレイブオーラを使ったであろうソアラと引き分けているのだから、当たり前の事ではあるが。
だがこうやって実際目の当たりにすると、その強さをいやという程実感させられてしまう。

市民でこの強さ。
どれ程膨大な努力をすればこの域に辿り着けるのか、正直想像もできない。
まったくとんでもない人物である。

「ふぅ……参りました」

ブレイブオーラの効果が切れた所でギブアップ。
ステータス2倍の状態で完全に裁かれていたのだ。
この状態じゃ話にならない。
まあ完敗だ。

「見事だった。本当に騎士になる気はないか?」

ゾーン・バルターが握手を求めて来る。
俺はそれを握り返し――

「遠慮しときます」

――と、笑顔で答えた。
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