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ダンジョンへ
第40話 お忍び
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「さて、何処に行こうかな……」
ソアラによる午前の猛訓練が終わり、昼食後彼女が城に用事があると言って出掛けたので今日はフリーだ。
体を清め、部屋で着替えた俺は考える。
「イモ兄妹は学校だし、かと言ってダンジョンはなぁ……」
レベル上げ優先した方が後々楽なのは確かだが、午前の訓練で結構疲れているので今からダンジョンへ行く気にはなれない。
「魔法書があれば魔法を覚えてもいいんだけど、それもまだだし」
ゼッツさんが国から借りて来てくれる予定なのだが、まだ屋敷には届いていない。
昨日も家に帰って来てなかったからな、あの人。
どうやら親衛隊は忙しい様だ。
まあ国の最VIP関連の護衛な訳だから、当たり前っちゃ当たり前か。
「ま、とりあえずゴロゴロしとくか……」
休める時はしっかり休むべきだ。
どっかの誰かがそんな事を言っていた筈。
それでなくともここは猛獣のテリトリーなのだ。
鬼の居ぬ間に命の洗濯をしとかないとな。
「失礼します」
「どうぞ」
部屋がノックされ、返事を返すとケイトさんが入って来る。
「大変申し訳ないのですが、出来れば掃除の方をさせて頂ければと……」
「分かりました」
ケイトさんの仕事には、俺の泊っている部屋の掃除が含まれていた。
一日中部屋にいたのではその邪魔をしてしまう事になる。
「申し訳ありません」
「いやいや構いませんよ。だいたい、若者が真昼間からゴロゴロしてるのもあれですから。ここは無軌道な子供らしく、外に出かけて来るとします」
謝るケイトさんに、ちょっと冗談めかして言う。
「ふふ。なんだかその喋り方、少しおじさんっぽいですね」
「ははは、そうですか」
中身はもう軽く40を超えて50近いので、その意見は否定できない。
本来なら五十路肩とかで苦しんでてもおかしくない年齢だと言うのに、こうやって元気いっぱいな事に感謝だ。
「じゃあ掃除お願いします」
目的は特にないが、俺は屋敷を出て街に行く。
そういや服とか最低限しか持って来てないし、その辺りを買いに行くのも悪くないな。
取りあえず洋服屋を探して歩きまわる。
そこで――
「あれ?ゼッツさんじゃないですか?こんな所で何をしてるんですか?」
私服のゼッツさんと遭遇する。
この人仕事中だと思ってたが、実は今日って休みだったのだろうか。
「ああ、アドル君か。実は――」
ゼッツさんが視線を動かす。
その先には、白い日傘をさした小さな女の子の姿があった。
「ん?」
あれ、彼女は――
「レアンおう――むぐっ!?」
レアン王女と言おうとして、ゼッツさんに急に口をふさがれてしまう。
驚いて彼の方を見ると、人差し指を口元に立てる仕草をする。
周囲を見まわすと、レアン王女の周りには体格の良さそうな男性が何人か立っていた。
成程。
どうやら王女様は、お忍びのお出かけ中の様だ。
「すいません。お邪魔しちゃったみたいですね。それじゃ俺は――」
「あ、あの……アドルさん」
公務の邪魔をするのもあれかと思い、その場を去ろうとしたら王女に呼び止められた。
「はい」
「私……その……服を見に行こうと思ってまして。もしよかったら、アドルさんもご一緒にどうですか?」
チラリとゼッツさんの方を見ると、彼はそんな俺の視線に頷いてみせる。
どうやら同行しても問題ない様だ。
「ええ、是非」
断るのも失礼だと思い快諾する。
まあ俺も丁度服を買いに行くところだったからな。
しかし王女様、何で態々街で服なんて飼うんだろうな?
王家なら専用の仕立て屋なんかがいてそうな物だが。
「それで――ええっと、何とお呼びすれば?」
レアン王女と呼ぶのはお忍びなのでアウトだ。
そこで何と呼べばいいのか尋ねる。
「レアとお呼び下さい。それと、敬語ではなく普通に喋っていただければ」
再びゼッツサンの方を見て確認する。
普通に考えたら王女様に溜口はあれなのだが、どうやら問題ない様だ。
まあお忍びだからこその措置だな。
「……分かったよ、レア」
「よ、よろしくお願いします……アドルさん」
「レアも溜口でいいよ」
平民の俺だけ溜口で、お忍びとは言え王族のレアンが丁寧語ってのは少し違和感がある。
なので彼女にも溜口で話しす様に言ったのだが。
「い、いえ……私の方が年下ですから……そう言う訳には……」
「あー……うん、まあそうだな」
まあ確かに、目上の人間には敬語が基本だ。
俺だってそうする。
「そういやレアっていくつなんだ?」
「私は今年9歳になりました。アドルさんは……ソアラさんと同じ12歳なんですよね?」
「ああ、残念な事にね」
同い年の幼馴染。
お陰でソアラにロックオンされてしまった訳だ。
いやまあ、いくつか年齢が違った程度なら結局心眼でクラスの事バレてただろうから一緒か。
一回り以上違うとか、そもそも生まれる場所が離れてないと。
「なんというかその……ソアラさんに比べて、アドルさんは凄く大人っぽいです」
「そう?まあ理不尽な幼馴染に振り回されて来たせいかな。あ、今のはソアラには内緒で頼むよ」
実際は中身がおっさんなだけだが、此処はソアラに悪者を被って貰うとする。
実はおっさんでーす。
とは言えないし。
「ふふ、わかりました。では二人だけの秘密ですね」
「ははは」
直ぐ横に立っているゼッツさんは元より、たぶん他の変装してる護衛の人も聞いてるから全然二人だけの秘密ではないんだけど。
まあ野暮な突っ込みは止めておく。
「それで、行く服屋は決まってるの?」
「あ、はい。以前、ソアラさんとご一緒した店があるんです」
「そっか、じゃあ道案内を頼むよ」
俺はレアン王女に連れられ、服屋へと向かう。
ソアラによる午前の猛訓練が終わり、昼食後彼女が城に用事があると言って出掛けたので今日はフリーだ。
体を清め、部屋で着替えた俺は考える。
「イモ兄妹は学校だし、かと言ってダンジョンはなぁ……」
レベル上げ優先した方が後々楽なのは確かだが、午前の訓練で結構疲れているので今からダンジョンへ行く気にはなれない。
「魔法書があれば魔法を覚えてもいいんだけど、それもまだだし」
ゼッツさんが国から借りて来てくれる予定なのだが、まだ屋敷には届いていない。
昨日も家に帰って来てなかったからな、あの人。
どうやら親衛隊は忙しい様だ。
まあ国の最VIP関連の護衛な訳だから、当たり前っちゃ当たり前か。
「ま、とりあえずゴロゴロしとくか……」
休める時はしっかり休むべきだ。
どっかの誰かがそんな事を言っていた筈。
それでなくともここは猛獣のテリトリーなのだ。
鬼の居ぬ間に命の洗濯をしとかないとな。
「失礼します」
「どうぞ」
部屋がノックされ、返事を返すとケイトさんが入って来る。
「大変申し訳ないのですが、出来れば掃除の方をさせて頂ければと……」
「分かりました」
ケイトさんの仕事には、俺の泊っている部屋の掃除が含まれていた。
一日中部屋にいたのではその邪魔をしてしまう事になる。
「申し訳ありません」
「いやいや構いませんよ。だいたい、若者が真昼間からゴロゴロしてるのもあれですから。ここは無軌道な子供らしく、外に出かけて来るとします」
謝るケイトさんに、ちょっと冗談めかして言う。
「ふふ。なんだかその喋り方、少しおじさんっぽいですね」
「ははは、そうですか」
中身はもう軽く40を超えて50近いので、その意見は否定できない。
本来なら五十路肩とかで苦しんでてもおかしくない年齢だと言うのに、こうやって元気いっぱいな事に感謝だ。
「じゃあ掃除お願いします」
目的は特にないが、俺は屋敷を出て街に行く。
そういや服とか最低限しか持って来てないし、その辺りを買いに行くのも悪くないな。
取りあえず洋服屋を探して歩きまわる。
そこで――
「あれ?ゼッツさんじゃないですか?こんな所で何をしてるんですか?」
私服のゼッツさんと遭遇する。
この人仕事中だと思ってたが、実は今日って休みだったのだろうか。
「ああ、アドル君か。実は――」
ゼッツさんが視線を動かす。
その先には、白い日傘をさした小さな女の子の姿があった。
「ん?」
あれ、彼女は――
「レアンおう――むぐっ!?」
レアン王女と言おうとして、ゼッツさんに急に口をふさがれてしまう。
驚いて彼の方を見ると、人差し指を口元に立てる仕草をする。
周囲を見まわすと、レアン王女の周りには体格の良さそうな男性が何人か立っていた。
成程。
どうやら王女様は、お忍びのお出かけ中の様だ。
「すいません。お邪魔しちゃったみたいですね。それじゃ俺は――」
「あ、あの……アドルさん」
公務の邪魔をするのもあれかと思い、その場を去ろうとしたら王女に呼び止められた。
「はい」
「私……その……服を見に行こうと思ってまして。もしよかったら、アドルさんもご一緒にどうですか?」
チラリとゼッツさんの方を見ると、彼はそんな俺の視線に頷いてみせる。
どうやら同行しても問題ない様だ。
「ええ、是非」
断るのも失礼だと思い快諾する。
まあ俺も丁度服を買いに行くところだったからな。
しかし王女様、何で態々街で服なんて飼うんだろうな?
王家なら専用の仕立て屋なんかがいてそうな物だが。
「それで――ええっと、何とお呼びすれば?」
レアン王女と呼ぶのはお忍びなのでアウトだ。
そこで何と呼べばいいのか尋ねる。
「レアとお呼び下さい。それと、敬語ではなく普通に喋っていただければ」
再びゼッツサンの方を見て確認する。
普通に考えたら王女様に溜口はあれなのだが、どうやら問題ない様だ。
まあお忍びだからこその措置だな。
「……分かったよ、レア」
「よ、よろしくお願いします……アドルさん」
「レアも溜口でいいよ」
平民の俺だけ溜口で、お忍びとは言え王族のレアンが丁寧語ってのは少し違和感がある。
なので彼女にも溜口で話しす様に言ったのだが。
「い、いえ……私の方が年下ですから……そう言う訳には……」
「あー……うん、まあそうだな」
まあ確かに、目上の人間には敬語が基本だ。
俺だってそうする。
「そういやレアっていくつなんだ?」
「私は今年9歳になりました。アドルさんは……ソアラさんと同じ12歳なんですよね?」
「ああ、残念な事にね」
同い年の幼馴染。
お陰でソアラにロックオンされてしまった訳だ。
いやまあ、いくつか年齢が違った程度なら結局心眼でクラスの事バレてただろうから一緒か。
一回り以上違うとか、そもそも生まれる場所が離れてないと。
「なんというかその……ソアラさんに比べて、アドルさんは凄く大人っぽいです」
「そう?まあ理不尽な幼馴染に振り回されて来たせいかな。あ、今のはソアラには内緒で頼むよ」
実際は中身がおっさんなだけだが、此処はソアラに悪者を被って貰うとする。
実はおっさんでーす。
とは言えないし。
「ふふ、わかりました。では二人だけの秘密ですね」
「ははは」
直ぐ横に立っているゼッツさんは元より、たぶん他の変装してる護衛の人も聞いてるから全然二人だけの秘密ではないんだけど。
まあ野暮な突っ込みは止めておく。
「それで、行く服屋は決まってるの?」
「あ、はい。以前、ソアラさんとご一緒した店があるんです」
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俺はレアン王女に連れられ、服屋へと向かう。
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