妖魔は言った「それでも世界は美しい」

たき火

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6.何はともあれ

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「シナ、お祭りって知ってる?」

 食事を終えテーブルの上でアリスはシナに身体の模様を見せてもらい、私も妖魔だったらよかったとウソなのか本気なのかわからないことを嘆いたあと、お祭りの話題に突然移動した。

「知ってるわ。魔界にもあるよ。あれ楽しい時間よね」

 シナは模様が綺麗だと言われてとても嬉しいようで足を揺らしながら笑顔で答えている。

「今夜あるの。一緒に行かない?」

「うん、行きたい!」

 私は魔界にも祭りがあるのに驚いた。祭とは、感謝や祈り、慰霊のために神仏および祖先をまつる行為(儀式)である。(Wiki)
 魔界には魔神がいるのだろうか。
 ・・・あまり想像したくない。きっと人間界の神とはあまり仲良くないと思う。

「アリス、本当はジータと行きたいんじゃないのか?」

 ジェイクがニヤけながらアリスにちょっかいを出し始める。しかしアリスはジェイクを見もしない。

「そんなことないわ。ジータのこと好きよ。でもシナと行きたい。シナ、祭りには屋台がたくさんあるんだよ。屋台にはね美味しい物がいくつも売っているんだよ。今日は好きな物食べようね!多分今まで見たことがない物がたくさんあるから絶対に楽しいよ!金魚もいるんだよ!」

 アリスはシナにこの街のこと、人間界のことを教えてあげようと意気込んでいる。
 そしてシナもワクワクして目を輝かせている。魔界のことを教えるとも言っている。
 なんだか二人が姉妹のように見えるからおもしろい。最後には、オシャレをしようとアリスがシナを自分の部屋へ連れていった。パタパタとスリッパで走って二階へ上がる足音がなんだかご機嫌な気分を伝えている。

 二人きりになるとジェイクは静かに話し始めた。

「今年国王が死んだだろ。でもそんなことお構い無しに祭りはやるんだよ。マリと首都アイリーンの考えは違うからね。たとえ自粛を求められても開催するだろうね。工業地ラフロイグで働くマリの住人は誇りを持っている。武器を作りこの国を守ることを正義だと思っているんだよ。俺は全く思ってないけど」

 ジェイクは笑って話を続ける。

「アイリーンの連中はそんなマリの住人を、何の取り柄もない人間たち、誰でもできる単調な作業をする人間たちだと思っている。この国を守るのは管理する者であり、武器を作る者は指示に従うだけでそこに正義などないって」

 ロンドラ王国は武器の国といってもいい。
 工業地ラフロイグを中央にして、北部に首都アイリーン、東部に海へ面した貿易都市アバンテイラ、西部に隣国と戦う都市ガリシカ、そして南部に工業地ラフロイグの労働者が住む都市、マリがある。
 武器を輸出し富を蓄え、領土を広げようと戦争を続ける国がロンドラ王国だ。

「まさか絶滅した妖魔がまだ存在していたとはね。それにジータが助けるなんて驚いたよ。もっと冷たい奴かと思ってた。・・・きっとそういうギャップにアリスは惹かれたのかもな」

「自分でもあの時どうしてシナを助けたのか不思議なんだ。面倒なことにはあまり関わりたくないからね。きっと弟とシナが重なったんだ。今では奴隷になった弟もシナも助け出したいと思ってる」

「そっか。去年おまえの爺さんが亡くなったとき、これからは弟を探す旅に出るって言いてたしな。バイクを用意して、爺さんから習った武道も鍛錬して、今度は弟だけでなくシナも助け出そうとするのか。お前はすげーよ」

「すごいって? なにが?」

「いやなんとなく、なんかさ、すげーなって」

 爺さんは人間不信に陥った私を救ってくれた。盗みを繰り返してその日その日を凌ぎ、警察に捕まらないよう住処を転々とする、まるで野良犬のように生きていた私を救ってくれたのだ。それはもう一度人間に戻してくれたといっても過言ではない。壁にかかっている鏡を見ると、短髪の自分の顔が写っている。青い目は以前の鋭く尖った目ではなくなっていた。ジェイクは昔の私の目は獣の目だったと言っている。
 私はただ強くなりたかった。弱い自分が許せなくて生きる価値はないと思っていた。しかし空腹には耐えられず食べ物を盗んでいた。その行為は弱く身勝手で矛盾を孕み、それ自体に自分は気づいているのに見ないふりをしていた。

「みなさーん、お待たせでーす」

 アリスたちが二階から降りてきた。
 そこには浴衣を着たシナが笑顔で巾着袋をぶら下げている。白い生地の上に紺色のツツジの花が幾つも咲いていて、腰には赤茶の帯を巻いていた。

 もしかしたらシナと出会ったとき、私は昔の自分と重ねていたのかもしれない。
 助けるための口実を色々と付けたくはないが、何はともあれ人間界に迷い込んだシナの笑顔を守ってやりたい。
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