妖魔は言った「それでも世界は美しい」

たき火

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10. マーガレット

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「目が覚めたようね。傷口は消毒したわ。弾丸は貫通していたから安心して。安静にしてれば治るはずよ」

 声がする方へ顔を向けると、アリスが椅子に座っていた。そして立ち上って私の額に手をのせた。少し潤んだ瞳が安心した笑みに変わっていく。
 銃で撃たれた左肩は包帯でしっかりと固定されていた。腕を動かすと激痛が走るが、気にせず傷口の状態を確かめた。そんなに酷くないみたいだ。

「いつ意識を失ったんだ?」

 喉が乾燥し声がかすれている。炎の煙を吸ったからなのか少し口の中が苦い。その様子を見てアリスはビンに入った水をコップに注いで渡してくれた。

「車に乗ってるときよ」

 そうだ、私は祭りの会場から車に乗って脱出したのだ。あの時は会場が燃えて関係者たちが騒いでいた。消防車のサイレンも聞こえた気がする。窓から統括者を探したが見つからず、そしてそこからの記憶がない。
 少し錯乱していて頭が痛い。頭に手をやり目を閉じる。どこからか花の香りがした。その香りはゆっくりと私の心を落ち着かせてくれた。
 ベットの反対側へ目をやると、青色の花瓶に黄色い花が生けられていた。
 この花は・・・ なんだっけ。
 
「マーガレットね」

 アリスがフフフと笑って教えてくれた。

「なんで笑うんだ?」

「だって難しい顔して花を見ていたから」

 花の名前を思い出せず困った顔がアリスを愉快にさせていたらしい。
 普段アリスは花屋で働いている。丁寧にまるで自分の子どもの様に優しく花の世話をする姿は、何人もの男たちの心を奪っていた。なぜ花屋で働いているのか聞いたことがある。ただ花が好きだからとだけ言っていた。

「どれくらい意識を失っていたんだ?」

「3日間よ」

「ウソだろ! 3日間も!?」

「ウソ。1時間よ」

 意識を失っていたのは3日間ではなく1時間だった。
 なぜ冗談だと気づかなかったんだろう。アリスの服は炎の煙で汚れ、頬も黒くなっている。よく見ればすぐにウソだと気づく。アリスは昔から冗談を言って私をからかう。

「やっぱりダーチはいいね」

 目を細め私を見ている。

「なにが?」

 私に近づいて顔を覗く。そしてほっぺたに指をあてる。人差し指が氷のように冷たい。

「あなたのびっくりして驚いた顔がだよ」

 後ろに振り返り椅子に座ると、ボトルからコップに水を注いで飲む。

「そうなんだ」

 理解できなかったがとりあえず返事をした。

「怒った?」

「別に怒ってないよ」

 怒る理由はない。

「よかった」

 外からパトカーのサイレンが聞こえる。多分祭りをめちゃくちゃにした私たちを探しているんだろう。

「みんなは?」

「下にいるわ。みんな無事よ」

 窓のカーテンを少し開けて外を眺めながら答える。

「・・・ここはどこなんだ?」

「レイラの店よ」

「レイラ?」

「さっき車で駆け付けてきてくれた人よ」

「そうか」

 私は部屋を見渡した。
 綺麗に片付いた部屋には女性の服がハンガーに掛けられていた。

「どう?女の人のベットは」

 振り向いてニヤリと笑って聞いてくる。

「別に普通だよ」

「そう言うと思った」

 ケタケタ笑って私の寝ているベットに腰を下ろした。
 顔がよく見え普段より近い距離から目に映る容姿は、今まで会った人間の誰よりも美しく思える。
 じっと見つめられている状況に耐えられず話題を変えた。

「シナ、手から炎を出していたな。あれが魔力なのか?」

「そうみたい。凄かったね」

 そう言うとアリスは両手から炎を出す真似をする。
 あんな炎今まで見たことない。会場まで約100m程あるにもかかわらず燃やし尽くしていた。

「家族を殺した船長をシナが燃やしたんだな」

 燃える船長を思いだす。

「自分が倒したかった」

「うん」

「自分がもっと強かったら・・・」

 私は独り言のように呟いていた。

「うん。次会った時にはもっと強くなっていないとね」

 包帯が巻かれていない右肩をポンと叩かれた。

「え?」

「船長まだ生きているみたいよ」

 がんばれ!と顔が言っている。

「これもウソだろ」

「本当よ」

 優しい目が真剣な目つきに変わる。

「ほんとうに本当なの?」

「本当です」

 信じられないけど本当みたいだ。

「やっぱりびっくりして驚いた顔いいね」

 そう言いながらアリスは右肩をポンポン叩いていた。

 

 

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