元アンティーク修復家の異世界転生 - 人質として帝国に差し出された俺がチート能力【アイテム転生】で、皇女と釣り合う男に成り上がるまで -

ふつうのにーちゃん

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・退廃の帝国

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 ベルナディオ皇太子殿下は聡明な方だ。あの方が世継ぎならばアザゼリア帝国は安泰だろう。
 しかしアザゼリアの宮殿に住まう魔物たちは、分別のある皇太子殿下とは正反対だった。

「奥様ご覧になって、アリラテ王国の方のあの見すぼらしいお姿を……」

「まあっ、なんて古めかしい……! あれはどこのゴミ捨て場から拾ってきたお召し物なのかしら!」

 馬車に乗るために宮殿を出ようとすると、俺たちはその道中、宮廷社会の洗礼を受けた。

「あらご存じではありませんの? あの子たちは、あの血染めのオラフの子供たちですのよ」

「あの怪物の? やだわっ、いきなり噛みつかれたりしないかしら……!?」

「オラフは倒した魔物の生肝を喰らうそうよ。そんな怪物の子供たちが、血塗れのドレスや鎧でこなかったのがわたくしには驚きですわ」

「ふふっ、あのお召し物はただ貧しいだけじゃないのかしら!」

「まあそれはそうね、貧乏でなければ、あんな恥ずかしい格好はしないわ」

「おかわいそうな王子様……!」

「おかわいそうなお姫様……!!」

 到底、俺たちには理解できない人たちだった。
 彼らは貧相な姿で現れた姉弟を蔑み、隠しもせずに笑いたてた。

「奥様方、オラフ王は祖父の代より続く平民の血筋。彼らに洗練された貴族階級の暮らしなど、理解できるはずがなかろう」

「あら酷いですわ、子爵様」

「酷いものか。辺境国など蛮族の国と何もかわらぬよ。聞けば彼らの国では玉ネギを生でかじるそうだ!」

 父上が息子の運命をはかなんでいたわけが今わかった気がする。
 宮殿の空気は濁り切っていた。貴族の誇りなんてものはどこもなく、あるのは虚飾に溺れた者たちの悪意と背比べ・・・だけだった。

 貴族から女官まで、ジメジメした怪物が集う宮廷を抜けて馬屋までやってくると、とうに馬車の準備ができていた。

「はぁっっ、なんなんですの、あの方たちはっ!! 父上も母上も民のために身を粉にする立派な王者ですっ! アリラテは蛮族の国ではありません!!」

 黒塗りの立派な馬車に乗り込むと、姉さんが抱え込んでいた鬱憤を吐き出した。

「あまり気にしねぇ方がいいですよ、やつらは誰にだってああですんで」

「あら、口が利けましたのね、貴方!」

「へい、下級騎士のゴルドーと言いやす。オラフ王殿下とは、遠征で何度か」

 その眉毛がキリリとした護衛は、堅物そうに見えてフランクなおじさんだった。

「まあっ、父をご存じなのですか?」

「何度か肩を並べて魔物と戦いやした。やつらわかっちゃいねぇんですよ、オラフ王のあの武勇で、どれだけの兵士が救われたのか、まるでわかっちゃいねぇ」

「ですが家ではやさしい普通の父親ですわ。時々、全身血まみれで帰ってくるところ以外は」

「姉さん、その時点でやさしい普通の父親、とは呼べないかと思います」

「はははっ、違いねぇや!」

 ゴルドーさんは向かいの馬車席で警備の目を光らせながら、俺たちを城下の屋敷に連れていってくれた。

 帝都は広く、豊かで、大通りは人でごった返すほどにたくさんの人々が暮らしていた。
 搾取されている祖国とは大違いの、立派な服を着た人たちが大勢いた。

 オシャレな洋菓子店やカフェ、宝飾店に仕立て屋。馬車が目的地に近付くにつれて、故郷にはない贅沢な店が増えていった。

「到着しやした」

「…………え?」

「到着って、こ、ここ……ですの……?」

 俺たちの屋敷は貴族街の中でも、特に大きな屋敷がひしめく一角にあった。
 広い庭に囲まれた絢爛豪華なお屋敷の前で、乗っていた馬車が止まり、門で待機していた使用人たちに迎えられた。

 その数、庭師も含めて4名もいた。

「ようこそ、アルヴェイグ王子殿下。ここが貴方様の新しい城、ですぜ」

「え、ええええ…………!?」

「さあ、メイドたちが茶と菓子の支度をして殿下をお待ちしておりやす」

「えっ、これで全員じゃないんですか!?」

「庭師が2、メイド含む使用人が4、それを束ねる執事長が1、そしてここに護衛のおっさんが1名おりやす」

 聞かされて気が遠くなった。
 これまでの清貧生活とは正反対の環境を俺は与えられた。

「ここで暮らせばもう2度と、故郷に帰りてぇなんて思えなくなりやすぜ」

「アルはうちの子ですっ!! 必ず帰ってきます!! でも、本当に、すごいお屋敷……」

 俺たちは中へと招かれ、甘いマドレーヌと紅茶で迎えられた。
 ここまで露骨だと、アザゼリアの魂胆を推理するまでもない。

 あのとき父上が『故郷の家族のことを忘れた』と言ったのは、きっとこの生活があってのことだ。
 アザゼリア帝国は属国の世継ぎに贅沢で恵まれた生活をさせて、心の底までアザゼリア人の文化に染め込む。大方そんな魂胆に見えた。
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