元アンティーク修復家の異世界転生 - 人質として帝国に差し出された俺がチート能力【アイテム転生】で、皇女と釣り合う男に成り上がるまで -

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
24 / 41

・血の残劇、皇女を狙う暗殺者

しおりを挟む
 皇帝陛下は奇跡的に一命を取り留めた。
 ソーミャ皇女は涙を流して回復を喜び、皇后様も皇太子殿下も家族に一目会おうと赤竜宮に帰ってきた。

 どちらも無事を喜んでいたが、一方で当てが外れた表情を混じらせていた。皇帝陛下は弱り果て、会話どころか筆談すら不可能なほどに追いつめられていた。

『あれでは戴冠式を行えない。皇帝としての命令すら下せない。弟ども貴族派は譲らないだろう』

『この母が貴方を支えます。貴方が成さんとする政策は痛みをともなうものですが、これ以上、大貴族たちの台頭を許すわけにはまいりません』

『アルヴェイグ、ソーミャ、父上を頼む。必ずこの争いに勝利し、安定した世を築くと約束する』

『はい、オラフ王が息子として、父の代わりに皇太子殿下の夢をお支えします』

『親子そろって頼もしいことだ。私はよき友人を持った』

 皇帝は政務に復帰不可能。この事実が戴冠式には必要だった。
 これから10日以内に戴冠式を行い、争いを終わらせてみせると皇太子殿下は俺に約束した。

 しかしそれは逆に言うと、具体的な危険が差し迫ってきているということ。
 戴冠式の妨害。内戦への誘導のために、手段を選ばない暴挙が実行に移されることが、確定したも同然だった。

 そしてその暴挙はこの赤竜宮でも起きた。真夜中の寝室、互いに眠れない夜をソーミャ皇女と過ごしていると、争いの物音が寝室の外から響いた。

「まあ、大変……わたくしの命の危機にございます」

「そこのクローゼットに入って。守りながらだとやりにくい」

「臆することはございません、貴方はわたくしが祝福を与えた方です。宇宙の大魔王が訪れようとも負けるはずがございませんわ」

 ソーミャ皇女がクローゼットに隠れ、俺が扉の死角に隠れた。
 扉を開くのは勝利を収めた近衛兵か、あるいは暗殺者か、様子をうかがった。

「ソーミャ様、ご安心下さい。賊は討ち取られました」

 ほどなくして争いの物音が静まり、声が響いた。イントネーションになまりのある、聞いたことのない声だった。

「お休み中でございますか? ソーミャ様、ソーミャ様……?」

 その者は恐らく近衛兵ではなかった。ソーミャ皇女の名前しか呼ばなかったのだ。そこにアリラテの王子が護衛として張り付いていることを知らないようだった。

「非常事態です、お許しを」

 そう前置くと、暴力的な騒音が扉から響き渡った。頑丈な鍵のかかった扉を侵入者は手斧でぶち破ろうとした。

 試みは成功し、ドアノブの隣から腕が伸びた。施錠が外され、男が室内に侵入した。男は血塗れの姿で近衛兵の剣を握っていた。

「隠れていてもわかりますよ、ソーミャ皇女。貴方の首には大金貨750枚がかけられているのです、逃がしませんよ」

 むせかえるような血の臭いだった。通常ならば震え上がってしまうような状況だ。
 しかし血の臭いのする男に抱かれて育った俺には、それが懐かしい家族の匂いにすら感じられた。

「ああ、そこですか、ソーミャ皇――」

 クローゼットからの物音に暗殺者は気付き、恐れ多くも皇族の寝室に侵入した。ヤツは大金貨750枚の報酬に目がくらみ、暗がりに潜伏する少年に気付かなかった。

「がっっ?!!」

 俺は剣を使わない。殺さずに暗殺者を無力化して情報を引き出したい。
 始祖の時代より続く宝が生まれ変わりし最強の相棒、【武神王のバンテージ】を握り締め、必殺の一撃を暗殺者のわき腹に叩き込んだ。

「下に鎖かたびらですか」

「なんだ子供かっ、邪魔をするなら貴様も――うっ、がっ、がはぁっっ?!」

 相手が剣を振るよりも先に連打を叩き込んだ。

 敵は赤竜宮の女官の格好をしていた。その衣服の下に鎖かたびらを仕込んでいた。
 服を奪った女官を暗殺者が生かす道理はどこにもない。情け容赦の必要なんてひと欠片もなかった。

「誰に暗殺を頼まれたのですか?」

「その答えは、死ね小僧だっっ!!」

 プロの暗殺者の刃が少年の喉を狙った。
 武器を持たない子供の殺害なんて、彼からすればリンゴの皮をむくより簡単だ。

 しかし彼の刃は空振りした。ステップを軽く弾ませるだけで、俺はリーチ外に易々と逃げることができる。この時点でもはやちょっとした魔法だった。

「な、なんだ、このガキは……っ!? なっ、がはぁぁっっ?!!」

 踏み込みも同様だ。格闘の間合いまで一瞬で距離をつめ、ボディブローを叩き込んだ。

「つ、強い……っ、だ、だが……この間合いならっっ!!」

 【無限のポーチ】は敵の行動を先読みする力がある。【武神王のバンテージ】は、絶対に打ち負けないという守りに長じた力を持っている。

「と、止めた……!? バカなっっ?!!」

 銀色のバンテージに包まれた俺の手は、敵の刃を指先の間で受け止めた。このバンテージが手元にある限り、俺は絶対に打ち負けない。どんな攻撃も、たとえ素手であろうとも、止められる。

「これがプロの暗殺者ですか、なんて恐ろしい。これ以上暴れられる前に、貴方を無力化します」

「いったい、これは、どうなっている……!? なぜ、こちらの全力を止められ――バ、バカなァァッッ?!!」

 突きも薙ぎも袈裟斬りも、全力の乱舞を全て止めて見せると暗殺者の顔色が真っ青になった。

 俺の力は人殺しには向かない。成長途上の体格もあって攻撃力にもやや欠けている。
 この暗殺者に逃げられる前に行動不能にするには、このオーラカフスの特性を出し惜しまずに使うしかない。

 何かを見つけたのか、庭園を哨戒をする近衛兵たちが騒がしくなった。

「くっ、時間をかけ過ぎたか……! かくなる上は……っ」

「逃がしません、必ず情報を吐いてもらいます」

 明らかに遠い不自然な間合いから、俺は及び腰の敵に拳を突き込んだ。
 敵から見れば当たるはずのない意味不明の動作だ。

「おごっっ?!!」

 しかし現実ではオーラの拳が80センチ伸びて、鎖かたびら越しのミゾオチに突き刺さった。

「連続でいきます、お覚悟を」

「なっ、なんっ、手、手が、伸びるだと……!? うっ、うがっ、ぬああああーっっ?!!」

 そこからラッシュをかけた。顎を狙い、脳震盪を誘発して運動能力を奪った。オーラのローキックが鞭のように逃げ足を傷付けた。質よりも量の怒濤のオーラジャブがガードの隙間をぬって、凶悪な暗殺者を無力化させていった。

 単騎で忍び込んで近衛兵を片付けてしまうほどの凶悪な暗殺者を、崩した表現で言うところのフルボッコにしてやった。

「子供に、負け…………あり得、ない……。ぅ……うが……っ、は…………」

 暗殺者は前のめりに倒れた。その手首を後ろに回してカーテンタッセルで縛ると、俺の役目は近衛兵の救援の到着により終わった。

「なんということだ……。アルヴェイグ殿下、ご無事でございますか?」

「同感、なんてことだ。これはソーミャには見せられない。俺はソーミャのところに戻ります。近衛兵の皆さんは、申し訳ないけど、同僚の――」

 凄惨な死体と血の海を片付けてもらわなければならない。

「は、これが我々の仕事、お気づかなく。死んでいった同僚たちのためにも、皇太子殿下には一刻も早く帝位を継いでいただき、この歪んだ帝国を正していただけなければ……」

 同僚の死体でいっぱいの廊下に近衛兵さんたちを残し、俺は戦いの血を拭いてソーミャ皇女のところに戻った。

 クローゼットを開けると、歯をガチガチと鳴らして震えるソーミャ皇女がいた。
 天使であった頃には感じられなかった恐怖が、人間である今は強く感じられる。彼女は最近よくそう言っていた。

「わ、わたくし……アル様が、今……っ、イ、イケメンの、ス、ススス、スバダリにっ、見えますの……っっ!」

「それは果たして、歯を鳴らしながら言うセリフでしょうか」

「生きるとは、大変な、試練……なのですね……。わたくし、とても……とてもとても怖かったです……」

 その姫君はクローゼットから倒れ込むように下りてきた。
 護衛として俺はそれを当然として抱き留めて、やせ我慢のお姫様抱っこでベッドに運んだ。

 あれだけ強い暗殺者を生け捕りにしたのに、スーパーヒーローみたいに軽々とはいかなかった。
 今後の課題は筋力、攻撃力だ。それを高める装備が欲しい。

「まだ怖いです……」

「当然ですよ、殺されかけたんですから」

「子供じみた言葉なのは重々承知なのですが、すみません、一緒にくっついて、朝まで隣にいてくれませんか……?」

「俺もちょっと怖かったです。朝までソーミャと一緒に、くっついていたい気分です」

 呼び捨てにするとソーミャ皇女は嬉しそうに笑う。立場上、連発するわけにはいかないから、こういう時のとっておきだった。

「では、そういたしましょう、わたくしのナイト様。生きるとは、つらく恐ろしいことなのですね……」

「そうですね、俺もそう思います」

「貴方に看取られるのは、もう少し後がよいかと、ここに訂正いたします……」

「またそんなことを言って……。落ち着くまでずっと隣にいますから、安心して下さい」

 ソーミャとくっついてベッドに寝そべって、掛け布団をかけて、怖い記憶を消すために一緒に目を閉じた。
 ほとんど眠れなかったけど、ちょっと甘くていい夜になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...