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ふつうのにーちゃん

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竜将軍大会第四回戦:ヌードファイター・クルシュ VS カペラ座のロシュ

・兄弟子ナフィの挑戦状

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「ん……? アンタ、誰だ?」

 控え室には先客があった。
 それは黒い西洋鎧をまとった背の高い剣士だった。

 落ちくぼんだ目とその痩せた頬は、カロン先生が描いたロシュの似顔絵とは似ても似付かない。まず別人だろう。

「待っていた、ククルクルスのクルシュ。俺はナフィという者だ」

 勝手に人の控え室で待ち伏せしていたくせに、その男には愛想が感じられなかった。

「ナフィ……? ん、最近どこかで、聞いたような……」
「お前の準決勝の対戦相手だ」

「準決勝? ……おいおい、まだ俺は勝ち上がってすらいないぜ?」
「ロシュなら問題ない」

「はぁ……? そりゃどういう意味だよ?」

 嫌に淡々とした男だった。
 私がどう言葉を返しても、感情のない注目を相手に向けるばかりで、少しも動じなかった。

「以前相手をしたが、カペラ座のロシュという男はつかみどころがないようで、行動原理は単純だ」
「んなこといきなり言われてもなぁ……。なんだってんだよ、アンタ?」

 陰気くさい男だ。
 試合に集中しなければならない私には、ナフィの言葉はただのノイズにしかならない。

「さっきからその口調、どことなくイーラジュ様に似ているな。影響されたか?」
「これが俺の素だ。悪いけどよ、話なら試合が終わってからにしてくれねぇ?」

「ロシュの恋人を知っているか?」
「知らねーよ、んなの。……アンタか?」

 指を指してやってもナフィは冷たい表情を崩さない。

「ロシュの恋人は金とスリル。あの男はそれ以外に興味などない」
「いや、つまりどういうことだよ……?」

「この試合、お前の勝利は揺るがない。ゆえに今のうちに会いにきた」
「止めてくれよ、試合前にんなこと言われたら闘志が鈍る」

「準決勝で待つ。そこで思い上がりもはなはだしいお前の夢を打ち砕く。イーラジュ様にも伝えるがよい」

 要するにこれはライバル宣言だろうか。
 そして自分は千竜将軍イーラジュと繋がりがあると、黒騎士ナフィはそう言いたいのだろうか。

「アンタ、イーラジュのジジィのなんなんだよ?」

 ナフィは私の問いに答える気はなさそうだ。
 この会話にならない客人を、どうやって追い出したものやら私は困らされた。

 すると控え室の扉が開いた。
 扉の向こうから、和服をまとった女性が私の前にやってきて、深々とお辞儀をした。

「試合前に対戦相手に会うなんて、貴方には常識というものがないのですか?」
「言われるまでもない。全て承知の上でのこと」

「クルシュ殿、このたびはこの男がご迷惑をおかけしました。この男はまだ、そちらの道場に未練をたらたらと抱え込んでいるようでございまして」

 この女性、どこかで会っただろうか。
 雰囲気、たたずまい、芯の強さにどこか既視感を覚える。

 髪は黒。艶のあるそれを腰まで伸ばす姿はまるで日本人形のようだ。

「そちらの道場とは、どういった意味でしょうか?」
「この男は破門されたのです、イーラジュ様の道場を」

 さすがにこれには怒るだろうと、ナフィの顔をのぞき見た。
 ナフィは苦そうに口元を歪めていた。

「彼は私の兄弟子でしたか」
「違います。破門は破門、もはやそちらの人間とは赤の他人も同然です」

「そ、そういうものでしょうか……?」

 彼女はナフィ選手のなんなのだろうか。
 恋人や伴侶にしては、ずいぶんと言葉に棘がある。

「……クルシュ様、これからもココロと仲のいいお友達でいてやって下さいね」

「な、なんと……っ?!」

 ココロさんを知る和装の女性は、迷惑な黒騎士の背中を押す。

「準決勝で待つ。上がってこい、そこでお前の夢を砕いてやる」
「お、おう……せいぜい待ってろ」

 美女と黒騎士が部屋を去り、やっと私の元に平穏が戻った。

「おこんにちわーっ、クルシュちゃーんっ! あら、どーしたのぉー? しなびたモヤシみたいにゲッソリしちゃってぇー?」
「試合に集中したい。出ていってくれないか……?」

「いーやっ♪」

 私は試合開始の寸前まで、濃ゆい実況アーツ・モーリに根ほり葉ほりインタビューされた。
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