46 / 70
竜将軍大会第四回戦:ヌードファイター・クルシュ VS カペラ座のロシュ
・兄弟子ナフィの挑戦状
しおりを挟む
「ん……? アンタ、誰だ?」
控え室には先客があった。
それは黒い西洋鎧をまとった背の高い剣士だった。
落ちくぼんだ目とその痩せた頬は、カロン先生が描いたロシュの似顔絵とは似ても似付かない。まず別人だろう。
「待っていた、ククルクルスのクルシュ。俺はナフィという者だ」
勝手に人の控え室で待ち伏せしていたくせに、その男には愛想が感じられなかった。
「ナフィ……? ん、最近どこかで、聞いたような……」
「お前の準決勝の対戦相手だ」
「準決勝? ……おいおい、まだ俺は勝ち上がってすらいないぜ?」
「ロシュなら問題ない」
「はぁ……? そりゃどういう意味だよ?」
嫌に淡々とした男だった。
私がどう言葉を返しても、感情のない注目を相手に向けるばかりで、少しも動じなかった。
「以前相手をしたが、カペラ座のロシュという男はつかみどころがないようで、行動原理は単純だ」
「んなこといきなり言われてもなぁ……。なんだってんだよ、アンタ?」
陰気くさい男だ。
試合に集中しなければならない私には、ナフィの言葉はただのノイズにしかならない。
「さっきからその口調、どことなくイーラジュ様に似ているな。影響されたか?」
「これが俺の素だ。悪いけどよ、話なら試合が終わってからにしてくれねぇ?」
「ロシュの恋人を知っているか?」
「知らねーよ、んなの。……アンタか?」
指を指してやってもナフィは冷たい表情を崩さない。
「ロシュの恋人は金とスリル。あの男はそれ以外に興味などない」
「いや、つまりどういうことだよ……?」
「この試合、お前の勝利は揺るがない。ゆえに今のうちに会いにきた」
「止めてくれよ、試合前にんなこと言われたら闘志が鈍る」
「準決勝で待つ。そこで思い上がりもはなはだしいお前の夢を打ち砕く。イーラジュ様にも伝えるがよい」
要するにこれはライバル宣言だろうか。
そして自分は千竜将軍イーラジュと繋がりがあると、黒騎士ナフィはそう言いたいのだろうか。
「アンタ、イーラジュのジジィのなんなんだよ?」
ナフィは私の問いに答える気はなさそうだ。
この会話にならない客人を、どうやって追い出したものやら私は困らされた。
すると控え室の扉が開いた。
扉の向こうから、和服をまとった女性が私の前にやってきて、深々とお辞儀をした。
「試合前に対戦相手に会うなんて、貴方には常識というものがないのですか?」
「言われるまでもない。全て承知の上でのこと」
「クルシュ殿、このたびはこの男がご迷惑をおかけしました。この男はまだ、そちらの道場に未練をたらたらと抱え込んでいるようでございまして」
この女性、どこかで会っただろうか。
雰囲気、たたずまい、芯の強さにどこか既視感を覚える。
髪は黒。艶のあるそれを腰まで伸ばす姿はまるで日本人形のようだ。
「そちらの道場とは、どういった意味でしょうか?」
「この男は破門されたのです、イーラジュ様の道場を」
さすがにこれには怒るだろうと、ナフィの顔をのぞき見た。
ナフィは苦そうに口元を歪めていた。
「彼は私の兄弟子でしたか」
「違います。破門は破門、もはやそちらの人間とは赤の他人も同然です」
「そ、そういうものでしょうか……?」
彼女はナフィ選手のなんなのだろうか。
恋人や伴侶にしては、ずいぶんと言葉に棘がある。
「……クルシュ様、これからもココロと仲のいいお友達でいてやって下さいね」
「な、なんと……っ?!」
ココロさんを知る和装の女性は、迷惑な黒騎士の背中を押す。
「準決勝で待つ。上がってこい、そこでお前の夢を砕いてやる」
「お、おう……せいぜい待ってろ」
美女と黒騎士が部屋を去り、やっと私の元に平穏が戻った。
「おこんにちわーっ、クルシュちゃーんっ! あら、どーしたのぉー? しなびたモヤシみたいにゲッソリしちゃってぇー?」
「試合に集中したい。出ていってくれないか……?」
「いーやっ♪」
私は試合開始の寸前まで、濃ゆい実況アーツ・モーリに根ほり葉ほりインタビューされた。
控え室には先客があった。
それは黒い西洋鎧をまとった背の高い剣士だった。
落ちくぼんだ目とその痩せた頬は、カロン先生が描いたロシュの似顔絵とは似ても似付かない。まず別人だろう。
「待っていた、ククルクルスのクルシュ。俺はナフィという者だ」
勝手に人の控え室で待ち伏せしていたくせに、その男には愛想が感じられなかった。
「ナフィ……? ん、最近どこかで、聞いたような……」
「お前の準決勝の対戦相手だ」
「準決勝? ……おいおい、まだ俺は勝ち上がってすらいないぜ?」
「ロシュなら問題ない」
「はぁ……? そりゃどういう意味だよ?」
嫌に淡々とした男だった。
私がどう言葉を返しても、感情のない注目を相手に向けるばかりで、少しも動じなかった。
「以前相手をしたが、カペラ座のロシュという男はつかみどころがないようで、行動原理は単純だ」
「んなこといきなり言われてもなぁ……。なんだってんだよ、アンタ?」
陰気くさい男だ。
試合に集中しなければならない私には、ナフィの言葉はただのノイズにしかならない。
「さっきからその口調、どことなくイーラジュ様に似ているな。影響されたか?」
「これが俺の素だ。悪いけどよ、話なら試合が終わってからにしてくれねぇ?」
「ロシュの恋人を知っているか?」
「知らねーよ、んなの。……アンタか?」
指を指してやってもナフィは冷たい表情を崩さない。
「ロシュの恋人は金とスリル。あの男はそれ以外に興味などない」
「いや、つまりどういうことだよ……?」
「この試合、お前の勝利は揺るがない。ゆえに今のうちに会いにきた」
「止めてくれよ、試合前にんなこと言われたら闘志が鈍る」
「準決勝で待つ。そこで思い上がりもはなはだしいお前の夢を打ち砕く。イーラジュ様にも伝えるがよい」
要するにこれはライバル宣言だろうか。
そして自分は千竜将軍イーラジュと繋がりがあると、黒騎士ナフィはそう言いたいのだろうか。
「アンタ、イーラジュのジジィのなんなんだよ?」
ナフィは私の問いに答える気はなさそうだ。
この会話にならない客人を、どうやって追い出したものやら私は困らされた。
すると控え室の扉が開いた。
扉の向こうから、和服をまとった女性が私の前にやってきて、深々とお辞儀をした。
「試合前に対戦相手に会うなんて、貴方には常識というものがないのですか?」
「言われるまでもない。全て承知の上でのこと」
「クルシュ殿、このたびはこの男がご迷惑をおかけしました。この男はまだ、そちらの道場に未練をたらたらと抱え込んでいるようでございまして」
この女性、どこかで会っただろうか。
雰囲気、たたずまい、芯の強さにどこか既視感を覚える。
髪は黒。艶のあるそれを腰まで伸ばす姿はまるで日本人形のようだ。
「そちらの道場とは、どういった意味でしょうか?」
「この男は破門されたのです、イーラジュ様の道場を」
さすがにこれには怒るだろうと、ナフィの顔をのぞき見た。
ナフィは苦そうに口元を歪めていた。
「彼は私の兄弟子でしたか」
「違います。破門は破門、もはやそちらの人間とは赤の他人も同然です」
「そ、そういうものでしょうか……?」
彼女はナフィ選手のなんなのだろうか。
恋人や伴侶にしては、ずいぶんと言葉に棘がある。
「……クルシュ様、これからもココロと仲のいいお友達でいてやって下さいね」
「な、なんと……っ?!」
ココロさんを知る和装の女性は、迷惑な黒騎士の背中を押す。
「準決勝で待つ。上がってこい、そこでお前の夢を砕いてやる」
「お、おう……せいぜい待ってろ」
美女と黒騎士が部屋を去り、やっと私の元に平穏が戻った。
「おこんにちわーっ、クルシュちゃーんっ! あら、どーしたのぉー? しなびたモヤシみたいにゲッソリしちゃってぇー?」
「試合に集中したい。出ていってくれないか……?」
「いーやっ♪」
私は試合開始の寸前まで、濃ゆい実況アーツ・モーリに根ほり葉ほりインタビューされた。
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる