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第参章 死と仕事は隣合わせ
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「ああ…あー。暇!暇だ、ひ、まー!!」
凛の叫びである。
「依頼、あれから来ないからね。」
“あれから”とは聖の依頼の事である。
「そういうお前はせっせと何してんだ?ゲーム?」
月の弄っているパソコンを除き込む。
「そんなわけないでしょ。仕事してるの。」
「仕事?これ何?」
「これはここのホームページだよ。」
「ほーむぺーじ?」
凛は首を傾げる。
「えーと…ここの探偵事務所の情報をパソコンを使って宣伝するの。インターネットていう機能を使う人がそれを見てここに依頼に来れるようにしてるのよ。」
「はー。頭良いな。流石俺の下僕。」
「…助手。」
月は時々思う。
凛は本当に探偵なのかと。
「そういえば凛はどうして探偵なったの?」
「シャーロックホームズがカッコイイからだ。よって、その血を受け継ぎし俺もカッコイイからな!」
出た、凛の十八番(厨二病)。
「つまりシャーロックホームズに憧れてなったのね。」
「まあ似たようなもんだな。あとは俺様が選ばれし者だからだな。」
「…そういえば、私が来るまではどんな依頼があったの?」
凛の厨二をスルーして月は話題を変える。
「ないぞ。」
「は?」
「だから、0なんだって。この前の聖のやつが初。」
「嘘…」
「本当だ。」
何故か凛はドヤ顔。
(いや、ドヤ顔するトコじゃないから。)
「凛、威張ることじゃないからね?」
そしてふとした疑問が頭を過ぎる。
「今まで依頼なかったのにどうやって生活してたの?エンゲル係数的に。」
「えんじぇるけーすー?」
「エンゲル係数…。生活に使うお金のことだよ。」
「んー、キュウリは自給自足。他のは山南に出して貰ってた。」
「マジで…?」
「マジだ。」
(もしかして私を探偵にした理由って妖怪の住処ってより凛を働かせる為なんじゃ…。)
そんなことを考えていると、パソコンに1通のメールが受信されたと表示される。
「あ!」
月はそのメールを見て目を見開く。
「凛っ!!仕事!仕事だよ!!」
「は?」
「ホームページのメールボックスに依頼が来たの。」
「めえるぼっくす??」
「え?分かんない?」
「んー、そのなんちゃらぼっくす?がハイテクなのは分かる。」
「え…と、…と、とにかく依頼。仕事!」
もはや説明を放棄し基諦めた月。
依頼を読み上げる。
『極道みたいな奴の依頼でも受けてくれるか?大丈夫なら、今日の夕方の18時にBAR legendへ来てくれ。』
というのがメールの内容。
「嫌だ。」
「は?」
凛の拒否に月は驚く。
「だって危ないだろ。」
確かに極道って時点で危ない気しかしない。
「…話をまず聞かないとわからないよ。私が行くからここにいて良いよ。」
「駄目だって!!」
言い合いの末、河童が人間に根負け。
2人で依頼人の待つバーへと向かった。
❇︎
「やあ、いらっしゃい。」
ハスキーボイスの店員が迎え入れてくれる。
約束の時間だが店内には店員以外月と凛しかいない。
「もしかしてイタズラ?」
「よし、じゃあ帰ろう!」
そう言って帰ろうとする凛を捕まえてカウンターに座らせる。
「依頼人が遅れてるかもしれないでしょ。」
そう言う月の言葉にバーテンダーが反応する。
「もしや君達が探偵かい?」
「そうですが、そう聞いてきたということは貴女が依頼人?」
「ああ、そうさ。僕は“神風護明(かみかぜ ごみょう)”。まあ、ヤクザの親玉ってとこかな。妖組って組の頭だ。それにしても…」
護明は月の手を握る。
「探偵がこんなに可愛らしい子猫ちゃんだとは驚いた。」
「こ、子猫?」
戸惑う月と楽しそうにしている護明。
「んで、依頼は何だよ。」
凛がそこに割って入る。
「私の身内がとある妖怪に捕まってね。救助の手助けをして欲しいんだよ。」
「断わ、ゲフっ!?」
凛は月から肘鉄をもらう。
「勿論、引き受けます。」
強制的に凛を黙らせた月は笑顔でそう言う。
凛は納得のいかないという顔で月を睨む。
「そのかわりどこまで協力できるかは分かりません。」
「ああ、それで構わないよ。」
「まずは何をしましょう?」
「まずは敵地の場所を調べて欲しい。」
「それはおやすいご用だけど。」
月は早速雪女を召喚する。
「敵地の場所、他にも風神、雷神がどんな状態で捕まっているかも調べてきてくれないかい?2人とも私の身内なんだ。従姉妹なんだよ。」
「…神風さんは妖怪なんですか?今、風神、雷神って…。」
「ああ、妖怪だよ。私は“神野悪五郎”っていう妖怪でね。妖組は妖怪のカタギの集まり。それを私と”山本五郎左エ門“とまとめている。風神、雷神は可愛い妹分であり従姉妹なのだよ。」
そう話しているといつの間にか雪女が戻って来ていた。
「風神、雷神は無傷。でも…妖力を吸い取られて弱ってる。」
「妖力って吸い取れるの?」
「はい、一部の妖怪には可能です。」
「つまり敵は妖怪で、妖力を吸い取ることができる…。」
「はい。…ちなみに敵は“鵺”という妖怪でかなりの強敵です。」
「…相手が悪いな。」
と、護明は苦笑する。
「でも…お2人を助けないと。」
「ああ、そうだね。ふふ、頼もしいお嬢さんだ。」
「私が誰かを召喚して、鵺を引きつける。その隙に護明さんは2人を救出ってどう?」
「ふむ、それなら私の戦友、山ン本五郎座衛門を呼ぶと良い。あいつの剣の腕は確かだ。」
「分かりました。」
月が本を開き、召喚する。
すると、本の中から綺麗な黒髪を一つに束ねた少女が現れた。
「…随分若いんですね。」
「そう見えるだろう?童顔過ぎる、それが彼女の悩みでね。」
「ちょっ!?そういうことは最初に言って下さいよ!つまり私、めっちゃ失礼な事言った人じゃないですか!」
「大丈夫、気にしてない。…君は護明の友人かな?」
「あ、いえ…私は」
探偵として仕事を依頼されただけ、と言おうとしたが…
「私の愛しい人だよ。」
と言う護明の言葉に遮られる。
「初耳なのですが?」
「おやおや、釣れない反応だね、子猫ちゃん。」
「…失礼ですが護明さんって女性ですよね?」
「嗚呼、勿論だとも。」
「女ったらしの女性ってことですか?」
「ふふ、どうかな。」
「護明、主君を困らせないでください。」
「可愛い子を見るとつい、ね。」
「…それはともかく、貴女に力を貸して欲しくて呼んだのですが…。」
月は呼んだ理由を話した。
「なるほど、承知しました。…改めまして、私は山本文湖(やまもとふみこ)。主君の剣となりましょう。どうぞ、私をお使い下さい。」
月は少し驚いていた。
他の妖怪達はゴウイングマイウェイ過ぎる人ばかりでフランクな性格ばかりだったから。
なんだかブシドーって言葉が似合いそうな妖怪だ。
「…あ、ありがとう。」
月はそう思いながら差し出された手を握り返すのだった。
そして次の日の夕方、月達は敵陣へと来ていた。
作戦としては、月と凛、文湖が正面から乗り込み、鵺達の気を逸らす。
その隙に、零と護明が風神雷神を助け出す、というものだ。
零は月にお願いがあると言う。
「天井裏から2人の救出に向かいますので、“天井くだり”を召喚してください。」
「天井くだり?」
「私の相棒で、天井裏での仕事を好み、得意とします。」
「なるほど、隠密作戦に打ってつけって訳ね。」
月は鞄から本を取り出す。
「天井くだり…。」
呼ぶと幼い少女が出てきた。
「なに?何か用?」
気怠げな口調な少女。
「私が主にお願いしたの。」
「雪姉か。ってことは仕事?」
「うん、管李ちゃんの力必要。貸して?」
「ま、雪姉の頼みなら…。えっと…主、私は天井くだりの天宮管李(あまみやくだり)。ま、よろしくー。」
「基本的に良い子…ですがめんどくさがりでサボり癖があるのが傷でして…。でも実力は確かですから。」
「なるほど、秘めし力を封印してるとみた。俺と同類だな。」
「秘めし力…封印…。」
ピクリと管李は反応する。
「何それ、カッコいい…。」
「だろ♪」
厨二同士だった様で2人は意気投合。
握手して頷き合っている。
「あのさ、そろそろ作戦開始するからね?」
「頼もう!!」
バンっと勢いよくドアを開ける文湖。
「なンだ、オ前ハ?」
低い声が響く。
銀髪に背には無数の蛇。顔には傷。
どうやら鵺で間違いないようだ。
「主君、お下がり下さい。鵺は戦闘狂でとても危険です。例え味方であろうが攻撃します。」
そう言って文湖は月を背に庇う。
「オレガコワイカ?」
「…。」
(なんだろう…。寂しそうに見える。)
「…鵺、どうして風神と雷神を捕まえたの?」
「オレハ、山ン本トカ神野トカ、強エ奴ト闘イタイダケダ。…デモ、断レチマッタカラナ。コイツら利用シテ闘ッテくれる様ニシた訳ワケダ。」
「そんな事の為にお二人を…。」
文湖は怒りを剥き出しにしている。
「オ前ニハソンな事デモ、オレハ違ウ!!」
一方の鵺も怒りに満ちている。
「…もしかして、鵺にとっては戦闘って友達と遊ぶことと同じなのかも。」
「なっ!?主君は本気でおっしゃられているのですか!?」
月の呟きに文湖は激怒する。
「っ、ご、ごめん。」
月は謝る事しかできない。
「っ!!すいません、冷静さに欠てました。」
文湖は月が怯えているのに気づき慌てて謝罪すると、鵺の方へ向き、刀を構える。
「いざ、参る!!」
ものすごいスピードで文湖は鵺へ攻撃する。
しかし、どれもかわされていく。
「オソイ…。鈍ッテル。」
鵺はそのまま文湖に蹴りを入れる。
「ぐっ!!」
お腹と背中に…計2発をくらってしまう。
「前ヨリモ弱くナッテる…。」
「っ…ゲホ、強い。」
「期待ハズレダナ。」
その様子を見て凛の顔が青ざめていく。
「月…相手が悪過ぎる。」
「でも、人質は今解放されたから依頼は達成したよ。」
隠密に動いていた護明、零、管李の3人は風神、雷神を解放し、抱えていた。
「駄目だ…2人共、妖力を吸われ過ぎて衰弱しきっている…。」
護明の声が微かに震える。
「嗚呼、腹減ッタ時ツイ吸っちマッタ。」
「っ!!2人共、私の妹分を頼んだよ。」
そう言って護明は刀を構えると鵺に向かって走っていく。
「…何ダ?オ前モ遅クナッタナ?」
「ぐっ!?」
さらりと攻撃をかわされ、攻撃を受けて床に叩き付けられる。
「…あ?」
ピクリと、護明が異変を感じ取る。
「く、やばい、私の妖力まで吸われ始めた。」
「何っ!?」
凛はさっきまで鵺と闘っていた文湖を見る。
「くっ、不甲斐ない…。」
文湖も同様に妖力を吸い取られている。
「お…おいおい、かなりやべえじゃん…。」
凛の顔がどんどん青ざめていく。
「………。」
月はゆっくりと鵺に近づく。
「お…おい、月?危ねえぞ!!」
凛が叫ぶが月はそのまま近づいてフワリと鵺を抱きしめた。
「ア?何ダ、オ前?」
「私は月。琴歌月、人間だよ。あなたは?」
「…俺ハ妖怪、バケモンだゾ?怖くナイノカ?」
「少し怖いけど…お話したくて。ねえ、お名前はないの?」
「名前…鵺。」
「…それ、妖怪名だよね?」
「鵺…とシカ呼バレタ事がナイ。」
「…ねえ、私と友達になって?」
「トモダチ?」
「そう、友達。」
「俺ハ…」
鵺は暫く黙り込む。
「そ…ソンナ生温イのハ…い、イラナイっ!!」
「っあ!?」
鵺の爪が月の背に食い込む。
「月っ!!」
「大丈夫…。怖くない、怖くないよ。」
「ウルサイっ!!」
「かはっ…!!」
背がそのまま引き裂かれる。
「くっ、待ってろ。今、助けを呼んでくるっ!!」
そう言って凛は走っていった。
「は…っあ…。」
身に走る激痛に耐えながら月は立ち上がる。
「だ、大丈夫…だよ。」
再度、月は鵺を優しく抱きしめ、頭を撫でる。
「友達がいると、ね…1人じゃ出来なかった事が、出来る…んだよ。だから…ゲホッ…ね?」
「…トモ、ダチ…ナル?」
「うん、なろう?」
しばらく沈黙が続き、やがて鵺が口を開く。
「…トモダチ、ナル。」
ニカっと鵺は笑う。
「ゲホ…じゃあ、名前、私が付けて…あげるね。」
そこで月は限界来たようで倒れてしまった。
「月っ、助けを連れてき…なっ!?」
丁度その時、凛が戻ってきた。
月は血塗れで横たわっている。
「そ、そんな…っ!!よくも…俺の相棒をっ!!」
「待ちなさい。」
怒りに身を任せて飛び出そうとするのを凛に連れてこられた聖に止められる。
「でもよっ!!」
「わざわざ私を呼びに来たくらいだから貴女だけじゃ歯が立つわけないでしょ。」
「クソっ!!」
2人が話ていると、鵺が月を抱えて歩いてきた。
「…ワルカッタナ。医者の所迄連レテ行ク。道…教えテ欲シイ。」
「医者には俺が連れていく。お前はこいつを傷つけたんだぞ…。信用出来るかよ!!」
「…ソレは……」
「私が案内するわ。」
「はあああっ!?聖!!何考えてんだよっ!!」
「落ち着きなさい。彼女からは戦意喪失が見えているわ。とりあえず、凛はそこの2人の目撃者と一緒に倒れている人達を病院に運んで。」
「目撃者?」
凛が疑問に思っていると聖が後方を指指す。
振り返ると零と管李がいた。
「お前ら…月がこんなになるまで傍観してたのかよっ!?」
凛の怒鳴り声が響き、2人は身を寄せ合い震える。
「八つ当たりはやめなさい。貴女だって何もできなかったから私を呼びに来たんでしょ。」
「っ!!」
聖の一言に凛は言い返せなかった。
「ほら、早く病院に連れて行くわよ。
それからは誰も口を開くことなく病院へと向かった。
「…月だけ多量出血で昏睡してる。他は無事だ。」
「つまり血が必要なんだなっ!!俺のいくらでもやるっ!!」
「俺ノもヤル。ダカラ…。」
「まあ、待て。血液型が合わん事には輸血できん。」
「何型が必要なの?凛にそう言うってことは少なくともBじゃない様ね。」
聖の言葉に湊は頷く。
「調べてみたらABだったよ。」
「あー、私と一緒だわー。…あげるよ、怠惰の血。」
そう言ったのは管李。
「…私も」
奥の方から風神がそう言って歩いて来た。
「風神は衰弱していたんだ。大事を取れ。管李から貰う。良いか?」
「ん…。」
管李は腕を差し出す。
「すまんな、助かる。」
湊は管李を連れて手術室へと戻った。
「ん…。」
月が目を覚ますと嗅ぎ慣れた消毒液の匂いが鼻腔をくすぐり、視界には白い天井と顔を覗き込んでいる鵺が居た。
「起きタカ。」
「…ここは?」
「ビョーイン。俺…オマエ、傷ツケタ。…怪我、サセタ。ゴメン、痛カッタ。」
悲しそうに目をふせる鵺に月は微笑み、頭を撫でる。
「大丈夫だよ、ありがとう。」
「無理、シテナイな?…ソレデ、話の途中ダッタナ。俺の名前、くれる約束。」
「ふふ、そうだったね。貴女は庚魅那(かのえみな)。庚が苗で魅那が名なの。」
「ソウカ…ありがとう!」
鵺は…いや、魅那はニカっと笑うと月に擦り寄る。
どうやら懐かれた様だ。
とー
コンコンー。
ドアのノック音が鳴り響く。
それからドアが開き、凛、湊、聖、護明の4人が入って来た。
「なっ!?」
凛は入って来るなり魅那に掴みかかる。
「オイっ!!月から離れろ!!」
そう叫び如何にも暴れ出しそうな勢いで叫ぶ凛。
次の瞬間、凛に湊のゲンコツが落ちる。
「病院で叫ぶな。」
「でもよ…月が…。」
「危ないとでも思っているのか?たわけ、アレが危険に見えるのか?」
「今は見えねえ…けど…。」
「…少し、私に話をさせて貰える?」
そう言って聖は一歩前へ出る。
「貴女、名前は?」
「俺ハ魅那。良い名前ダロ?へへ♪月が付ケテくれたンダ。」
「そう…それで、何故その月を傷つけたの?」
「…ワカラナイ。」
「はあっ!?分かんねえ訳ねえだろっ!!」
「凛、黙って。わからない?」
「おそらく、私や山ン本、風神、雷神の妖力の吸い過ぎだろうね。」
魅那が答えない代わりに護明がそう答える。
「どういう事だよ?俺にも分かる様に言ってくれ。」
「私達の妖力は強大だ。それを衰弱するまで吸い取ったんだ。力が制御出来なくておかしくないない。」
「つまり、力が暴走して自我を失ってた訳ね。力を支配しようとして逆に支配されるなんて、ね…。」
「…皆、この子を許してあげて。」
「はあっ!?」
月の言葉凛は目を見開く。
「お…お前、殺されかけたんだぞっ!?」
「でも、それはこの子の意志じゃない。この子は寂しがり屋でただ遊んで欲しかっただけ。でも不器用で方法を間違えちゃっただけなの。もう危なくないから。」
「全く、君には敵わないな。良いよ、私はお姫様に免じて身内を危険に晒した鵺を許そう。」
護明はそう言って優しい笑みを浮かべる。
「…………月がそう言って護明もそう言うなら。」
渋々とだが凛もそう言ってくれる。
「…しかし」
湊は月を睨む。
「お前は少々怪我し過ぎだ。」
「ごめんなさい。」
「…いや、悪かった。致死ギリギリの傷を受けたんだ。今はゆっくりと休め。」
湊はそう言って優しく月の頭を撫で、病室を出て行った。
「これからは無茶して怪我する前に私を召喚してちょうだい?私そこそこ強いから役に立つはずよ。」
聖はウィンクをしてそう残し部屋を後にする。
「私達も君はの助力は惜しまないよ。あ、私だけは用が無くともいつでも呼んでくれて構わないからね。」
護明はそう言いながら月の手を握り、何かを握らされる。
「お守り?」
握らされたお守りをまじまじと見ると何故か“家内安全”の文字。
「んん?家内安全?」
「そうだよ。君もうちのファミリーになるんだからね。」
「えっと…私マフィアにはならないけど?」
「プ…クク、アハハっ!!」
護明は月の言葉に笑い出す。
「違う違う、確かに私はヤクザみたいなもんだけど、そうじゃなくて。口説いたんだが…遠回しすぎたかな。」
「え?」
「私の家族…伴侶になって欲しいと思ってね。」
「なっ!?」
「ハハ、顔を真っ赤にして、きみh本当に可愛いな。」
護明は月の手を取り、手の甲へキスを落とす。
「すまなかったね、君を危険な目に遭わせて…。これからは私が全力で守るから頼って欲しい。」
そう言い残し、護明は病室を後にした。
「この前といい、今回といい…俺は無力だった。もうお前が怪我しない様に俺、強くなるから。」
そう言って凛も病室を出た。
「俺モ月守ル。約束!!」
ニカっと魅那は笑ってそう告げると窓から姿を消した。
「大人しく寝てろ。」
「私の事も忘れないで呼んでね。」
湊と聖も病室を出、病室には月一人になる。
「皆優しすぎるよ。一番無力で迷惑かけてるのは私なのに…。」
(自分のせいで皆が自分を責めているのが辛い。)
「っ!!」
自分の無力差が悔しくて、月は堪えきれず涙を零す。
「私の主様が泣いてる…。どうして…。」
何者かがそう呟いた。
それは誰の耳にも届かない小さなものだった。
入院から約一週間が過ぎた頃、すっかり回復し、月は凛の待つ探偵事務所に復帰した。
「心配かけてごめんね。私、軽い気持ちで仕事してたんだと思う。凛は危ないって止めてくれたのに聞かないで…。これからはこの仕事は死と隣合わせって事、頭に入れて仕事にあたる。」
「ああ、俺も…守ってやれなくて、怖い思いさせて悪かった。」
「ううん、大丈夫。」
「そういえば、この前の報酬と一緒に怪我の詫びって事で護明からお前宛になんか届いたぞ。」
凛はそう言って綺麗にラッピングされた少し大きな箱を差し出す。
ラッピングを丁寧に剥がし、箱を開けてみると一枚の手紙とやたらと可愛らしい服が入っていた。
ー君に似合いそうな服を見つけてね。
お詫びも兼ねて送らせて貰うよ。
叶うなら今後、これを着て私とデートをして欲しいな。
神風 護明ー
と、手紙には書いてあった。
「ふふ、護明さんらしいね。」
「だな。」
2人はそう笑い合うのだった。
凛の叫びである。
「依頼、あれから来ないからね。」
“あれから”とは聖の依頼の事である。
「そういうお前はせっせと何してんだ?ゲーム?」
月の弄っているパソコンを除き込む。
「そんなわけないでしょ。仕事してるの。」
「仕事?これ何?」
「これはここのホームページだよ。」
「ほーむぺーじ?」
凛は首を傾げる。
「えーと…ここの探偵事務所の情報をパソコンを使って宣伝するの。インターネットていう機能を使う人がそれを見てここに依頼に来れるようにしてるのよ。」
「はー。頭良いな。流石俺の下僕。」
「…助手。」
月は時々思う。
凛は本当に探偵なのかと。
「そういえば凛はどうして探偵なったの?」
「シャーロックホームズがカッコイイからだ。よって、その血を受け継ぎし俺もカッコイイからな!」
出た、凛の十八番(厨二病)。
「つまりシャーロックホームズに憧れてなったのね。」
「まあ似たようなもんだな。あとは俺様が選ばれし者だからだな。」
「…そういえば、私が来るまではどんな依頼があったの?」
凛の厨二をスルーして月は話題を変える。
「ないぞ。」
「は?」
「だから、0なんだって。この前の聖のやつが初。」
「嘘…」
「本当だ。」
何故か凛はドヤ顔。
(いや、ドヤ顔するトコじゃないから。)
「凛、威張ることじゃないからね?」
そしてふとした疑問が頭を過ぎる。
「今まで依頼なかったのにどうやって生活してたの?エンゲル係数的に。」
「えんじぇるけーすー?」
「エンゲル係数…。生活に使うお金のことだよ。」
「んー、キュウリは自給自足。他のは山南に出して貰ってた。」
「マジで…?」
「マジだ。」
(もしかして私を探偵にした理由って妖怪の住処ってより凛を働かせる為なんじゃ…。)
そんなことを考えていると、パソコンに1通のメールが受信されたと表示される。
「あ!」
月はそのメールを見て目を見開く。
「凛っ!!仕事!仕事だよ!!」
「は?」
「ホームページのメールボックスに依頼が来たの。」
「めえるぼっくす??」
「え?分かんない?」
「んー、そのなんちゃらぼっくす?がハイテクなのは分かる。」
「え…と、…と、とにかく依頼。仕事!」
もはや説明を放棄し基諦めた月。
依頼を読み上げる。
『極道みたいな奴の依頼でも受けてくれるか?大丈夫なら、今日の夕方の18時にBAR legendへ来てくれ。』
というのがメールの内容。
「嫌だ。」
「は?」
凛の拒否に月は驚く。
「だって危ないだろ。」
確かに極道って時点で危ない気しかしない。
「…話をまず聞かないとわからないよ。私が行くからここにいて良いよ。」
「駄目だって!!」
言い合いの末、河童が人間に根負け。
2人で依頼人の待つバーへと向かった。
❇︎
「やあ、いらっしゃい。」
ハスキーボイスの店員が迎え入れてくれる。
約束の時間だが店内には店員以外月と凛しかいない。
「もしかしてイタズラ?」
「よし、じゃあ帰ろう!」
そう言って帰ろうとする凛を捕まえてカウンターに座らせる。
「依頼人が遅れてるかもしれないでしょ。」
そう言う月の言葉にバーテンダーが反応する。
「もしや君達が探偵かい?」
「そうですが、そう聞いてきたということは貴女が依頼人?」
「ああ、そうさ。僕は“神風護明(かみかぜ ごみょう)”。まあ、ヤクザの親玉ってとこかな。妖組って組の頭だ。それにしても…」
護明は月の手を握る。
「探偵がこんなに可愛らしい子猫ちゃんだとは驚いた。」
「こ、子猫?」
戸惑う月と楽しそうにしている護明。
「んで、依頼は何だよ。」
凛がそこに割って入る。
「私の身内がとある妖怪に捕まってね。救助の手助けをして欲しいんだよ。」
「断わ、ゲフっ!?」
凛は月から肘鉄をもらう。
「勿論、引き受けます。」
強制的に凛を黙らせた月は笑顔でそう言う。
凛は納得のいかないという顔で月を睨む。
「そのかわりどこまで協力できるかは分かりません。」
「ああ、それで構わないよ。」
「まずは何をしましょう?」
「まずは敵地の場所を調べて欲しい。」
「それはおやすいご用だけど。」
月は早速雪女を召喚する。
「敵地の場所、他にも風神、雷神がどんな状態で捕まっているかも調べてきてくれないかい?2人とも私の身内なんだ。従姉妹なんだよ。」
「…神風さんは妖怪なんですか?今、風神、雷神って…。」
「ああ、妖怪だよ。私は“神野悪五郎”っていう妖怪でね。妖組は妖怪のカタギの集まり。それを私と”山本五郎左エ門“とまとめている。風神、雷神は可愛い妹分であり従姉妹なのだよ。」
そう話しているといつの間にか雪女が戻って来ていた。
「風神、雷神は無傷。でも…妖力を吸い取られて弱ってる。」
「妖力って吸い取れるの?」
「はい、一部の妖怪には可能です。」
「つまり敵は妖怪で、妖力を吸い取ることができる…。」
「はい。…ちなみに敵は“鵺”という妖怪でかなりの強敵です。」
「…相手が悪いな。」
と、護明は苦笑する。
「でも…お2人を助けないと。」
「ああ、そうだね。ふふ、頼もしいお嬢さんだ。」
「私が誰かを召喚して、鵺を引きつける。その隙に護明さんは2人を救出ってどう?」
「ふむ、それなら私の戦友、山ン本五郎座衛門を呼ぶと良い。あいつの剣の腕は確かだ。」
「分かりました。」
月が本を開き、召喚する。
すると、本の中から綺麗な黒髪を一つに束ねた少女が現れた。
「…随分若いんですね。」
「そう見えるだろう?童顔過ぎる、それが彼女の悩みでね。」
「ちょっ!?そういうことは最初に言って下さいよ!つまり私、めっちゃ失礼な事言った人じゃないですか!」
「大丈夫、気にしてない。…君は護明の友人かな?」
「あ、いえ…私は」
探偵として仕事を依頼されただけ、と言おうとしたが…
「私の愛しい人だよ。」
と言う護明の言葉に遮られる。
「初耳なのですが?」
「おやおや、釣れない反応だね、子猫ちゃん。」
「…失礼ですが護明さんって女性ですよね?」
「嗚呼、勿論だとも。」
「女ったらしの女性ってことですか?」
「ふふ、どうかな。」
「護明、主君を困らせないでください。」
「可愛い子を見るとつい、ね。」
「…それはともかく、貴女に力を貸して欲しくて呼んだのですが…。」
月は呼んだ理由を話した。
「なるほど、承知しました。…改めまして、私は山本文湖(やまもとふみこ)。主君の剣となりましょう。どうぞ、私をお使い下さい。」
月は少し驚いていた。
他の妖怪達はゴウイングマイウェイ過ぎる人ばかりでフランクな性格ばかりだったから。
なんだかブシドーって言葉が似合いそうな妖怪だ。
「…あ、ありがとう。」
月はそう思いながら差し出された手を握り返すのだった。
そして次の日の夕方、月達は敵陣へと来ていた。
作戦としては、月と凛、文湖が正面から乗り込み、鵺達の気を逸らす。
その隙に、零と護明が風神雷神を助け出す、というものだ。
零は月にお願いがあると言う。
「天井裏から2人の救出に向かいますので、“天井くだり”を召喚してください。」
「天井くだり?」
「私の相棒で、天井裏での仕事を好み、得意とします。」
「なるほど、隠密作戦に打ってつけって訳ね。」
月は鞄から本を取り出す。
「天井くだり…。」
呼ぶと幼い少女が出てきた。
「なに?何か用?」
気怠げな口調な少女。
「私が主にお願いしたの。」
「雪姉か。ってことは仕事?」
「うん、管李ちゃんの力必要。貸して?」
「ま、雪姉の頼みなら…。えっと…主、私は天井くだりの天宮管李(あまみやくだり)。ま、よろしくー。」
「基本的に良い子…ですがめんどくさがりでサボり癖があるのが傷でして…。でも実力は確かですから。」
「なるほど、秘めし力を封印してるとみた。俺と同類だな。」
「秘めし力…封印…。」
ピクリと管李は反応する。
「何それ、カッコいい…。」
「だろ♪」
厨二同士だった様で2人は意気投合。
握手して頷き合っている。
「あのさ、そろそろ作戦開始するからね?」
「頼もう!!」
バンっと勢いよくドアを開ける文湖。
「なンだ、オ前ハ?」
低い声が響く。
銀髪に背には無数の蛇。顔には傷。
どうやら鵺で間違いないようだ。
「主君、お下がり下さい。鵺は戦闘狂でとても危険です。例え味方であろうが攻撃します。」
そう言って文湖は月を背に庇う。
「オレガコワイカ?」
「…。」
(なんだろう…。寂しそうに見える。)
「…鵺、どうして風神と雷神を捕まえたの?」
「オレハ、山ン本トカ神野トカ、強エ奴ト闘イタイダケダ。…デモ、断レチマッタカラナ。コイツら利用シテ闘ッテくれる様ニシた訳ワケダ。」
「そんな事の為にお二人を…。」
文湖は怒りを剥き出しにしている。
「オ前ニハソンな事デモ、オレハ違ウ!!」
一方の鵺も怒りに満ちている。
「…もしかして、鵺にとっては戦闘って友達と遊ぶことと同じなのかも。」
「なっ!?主君は本気でおっしゃられているのですか!?」
月の呟きに文湖は激怒する。
「っ、ご、ごめん。」
月は謝る事しかできない。
「っ!!すいません、冷静さに欠てました。」
文湖は月が怯えているのに気づき慌てて謝罪すると、鵺の方へ向き、刀を構える。
「いざ、参る!!」
ものすごいスピードで文湖は鵺へ攻撃する。
しかし、どれもかわされていく。
「オソイ…。鈍ッテル。」
鵺はそのまま文湖に蹴りを入れる。
「ぐっ!!」
お腹と背中に…計2発をくらってしまう。
「前ヨリモ弱くナッテる…。」
「っ…ゲホ、強い。」
「期待ハズレダナ。」
その様子を見て凛の顔が青ざめていく。
「月…相手が悪過ぎる。」
「でも、人質は今解放されたから依頼は達成したよ。」
隠密に動いていた護明、零、管李の3人は風神、雷神を解放し、抱えていた。
「駄目だ…2人共、妖力を吸われ過ぎて衰弱しきっている…。」
護明の声が微かに震える。
「嗚呼、腹減ッタ時ツイ吸っちマッタ。」
「っ!!2人共、私の妹分を頼んだよ。」
そう言って護明は刀を構えると鵺に向かって走っていく。
「…何ダ?オ前モ遅クナッタナ?」
「ぐっ!?」
さらりと攻撃をかわされ、攻撃を受けて床に叩き付けられる。
「…あ?」
ピクリと、護明が異変を感じ取る。
「く、やばい、私の妖力まで吸われ始めた。」
「何っ!?」
凛はさっきまで鵺と闘っていた文湖を見る。
「くっ、不甲斐ない…。」
文湖も同様に妖力を吸い取られている。
「お…おいおい、かなりやべえじゃん…。」
凛の顔がどんどん青ざめていく。
「………。」
月はゆっくりと鵺に近づく。
「お…おい、月?危ねえぞ!!」
凛が叫ぶが月はそのまま近づいてフワリと鵺を抱きしめた。
「ア?何ダ、オ前?」
「私は月。琴歌月、人間だよ。あなたは?」
「…俺ハ妖怪、バケモンだゾ?怖くナイノカ?」
「少し怖いけど…お話したくて。ねえ、お名前はないの?」
「名前…鵺。」
「…それ、妖怪名だよね?」
「鵺…とシカ呼バレタ事がナイ。」
「…ねえ、私と友達になって?」
「トモダチ?」
「そう、友達。」
「俺ハ…」
鵺は暫く黙り込む。
「そ…ソンナ生温イのハ…い、イラナイっ!!」
「っあ!?」
鵺の爪が月の背に食い込む。
「月っ!!」
「大丈夫…。怖くない、怖くないよ。」
「ウルサイっ!!」
「かはっ…!!」
背がそのまま引き裂かれる。
「くっ、待ってろ。今、助けを呼んでくるっ!!」
そう言って凛は走っていった。
「は…っあ…。」
身に走る激痛に耐えながら月は立ち上がる。
「だ、大丈夫…だよ。」
再度、月は鵺を優しく抱きしめ、頭を撫でる。
「友達がいると、ね…1人じゃ出来なかった事が、出来る…んだよ。だから…ゲホッ…ね?」
「…トモ、ダチ…ナル?」
「うん、なろう?」
しばらく沈黙が続き、やがて鵺が口を開く。
「…トモダチ、ナル。」
ニカっと鵺は笑う。
「ゲホ…じゃあ、名前、私が付けて…あげるね。」
そこで月は限界来たようで倒れてしまった。
「月っ、助けを連れてき…なっ!?」
丁度その時、凛が戻ってきた。
月は血塗れで横たわっている。
「そ、そんな…っ!!よくも…俺の相棒をっ!!」
「待ちなさい。」
怒りに身を任せて飛び出そうとするのを凛に連れてこられた聖に止められる。
「でもよっ!!」
「わざわざ私を呼びに来たくらいだから貴女だけじゃ歯が立つわけないでしょ。」
「クソっ!!」
2人が話ていると、鵺が月を抱えて歩いてきた。
「…ワルカッタナ。医者の所迄連レテ行ク。道…教えテ欲シイ。」
「医者には俺が連れていく。お前はこいつを傷つけたんだぞ…。信用出来るかよ!!」
「…ソレは……」
「私が案内するわ。」
「はあああっ!?聖!!何考えてんだよっ!!」
「落ち着きなさい。彼女からは戦意喪失が見えているわ。とりあえず、凛はそこの2人の目撃者と一緒に倒れている人達を病院に運んで。」
「目撃者?」
凛が疑問に思っていると聖が後方を指指す。
振り返ると零と管李がいた。
「お前ら…月がこんなになるまで傍観してたのかよっ!?」
凛の怒鳴り声が響き、2人は身を寄せ合い震える。
「八つ当たりはやめなさい。貴女だって何もできなかったから私を呼びに来たんでしょ。」
「っ!!」
聖の一言に凛は言い返せなかった。
「ほら、早く病院に連れて行くわよ。
それからは誰も口を開くことなく病院へと向かった。
「…月だけ多量出血で昏睡してる。他は無事だ。」
「つまり血が必要なんだなっ!!俺のいくらでもやるっ!!」
「俺ノもヤル。ダカラ…。」
「まあ、待て。血液型が合わん事には輸血できん。」
「何型が必要なの?凛にそう言うってことは少なくともBじゃない様ね。」
聖の言葉に湊は頷く。
「調べてみたらABだったよ。」
「あー、私と一緒だわー。…あげるよ、怠惰の血。」
そう言ったのは管李。
「…私も」
奥の方から風神がそう言って歩いて来た。
「風神は衰弱していたんだ。大事を取れ。管李から貰う。良いか?」
「ん…。」
管李は腕を差し出す。
「すまんな、助かる。」
湊は管李を連れて手術室へと戻った。
「ん…。」
月が目を覚ますと嗅ぎ慣れた消毒液の匂いが鼻腔をくすぐり、視界には白い天井と顔を覗き込んでいる鵺が居た。
「起きタカ。」
「…ここは?」
「ビョーイン。俺…オマエ、傷ツケタ。…怪我、サセタ。ゴメン、痛カッタ。」
悲しそうに目をふせる鵺に月は微笑み、頭を撫でる。
「大丈夫だよ、ありがとう。」
「無理、シテナイな?…ソレデ、話の途中ダッタナ。俺の名前、くれる約束。」
「ふふ、そうだったね。貴女は庚魅那(かのえみな)。庚が苗で魅那が名なの。」
「ソウカ…ありがとう!」
鵺は…いや、魅那はニカっと笑うと月に擦り寄る。
どうやら懐かれた様だ。
とー
コンコンー。
ドアのノック音が鳴り響く。
それからドアが開き、凛、湊、聖、護明の4人が入って来た。
「なっ!?」
凛は入って来るなり魅那に掴みかかる。
「オイっ!!月から離れろ!!」
そう叫び如何にも暴れ出しそうな勢いで叫ぶ凛。
次の瞬間、凛に湊のゲンコツが落ちる。
「病院で叫ぶな。」
「でもよ…月が…。」
「危ないとでも思っているのか?たわけ、アレが危険に見えるのか?」
「今は見えねえ…けど…。」
「…少し、私に話をさせて貰える?」
そう言って聖は一歩前へ出る。
「貴女、名前は?」
「俺ハ魅那。良い名前ダロ?へへ♪月が付ケテくれたンダ。」
「そう…それで、何故その月を傷つけたの?」
「…ワカラナイ。」
「はあっ!?分かんねえ訳ねえだろっ!!」
「凛、黙って。わからない?」
「おそらく、私や山ン本、風神、雷神の妖力の吸い過ぎだろうね。」
魅那が答えない代わりに護明がそう答える。
「どういう事だよ?俺にも分かる様に言ってくれ。」
「私達の妖力は強大だ。それを衰弱するまで吸い取ったんだ。力が制御出来なくておかしくないない。」
「つまり、力が暴走して自我を失ってた訳ね。力を支配しようとして逆に支配されるなんて、ね…。」
「…皆、この子を許してあげて。」
「はあっ!?」
月の言葉凛は目を見開く。
「お…お前、殺されかけたんだぞっ!?」
「でも、それはこの子の意志じゃない。この子は寂しがり屋でただ遊んで欲しかっただけ。でも不器用で方法を間違えちゃっただけなの。もう危なくないから。」
「全く、君には敵わないな。良いよ、私はお姫様に免じて身内を危険に晒した鵺を許そう。」
護明はそう言って優しい笑みを浮かべる。
「…………月がそう言って護明もそう言うなら。」
渋々とだが凛もそう言ってくれる。
「…しかし」
湊は月を睨む。
「お前は少々怪我し過ぎだ。」
「ごめんなさい。」
「…いや、悪かった。致死ギリギリの傷を受けたんだ。今はゆっくりと休め。」
湊はそう言って優しく月の頭を撫で、病室を出て行った。
「これからは無茶して怪我する前に私を召喚してちょうだい?私そこそこ強いから役に立つはずよ。」
聖はウィンクをしてそう残し部屋を後にする。
「私達も君はの助力は惜しまないよ。あ、私だけは用が無くともいつでも呼んでくれて構わないからね。」
護明はそう言いながら月の手を握り、何かを握らされる。
「お守り?」
握らされたお守りをまじまじと見ると何故か“家内安全”の文字。
「んん?家内安全?」
「そうだよ。君もうちのファミリーになるんだからね。」
「えっと…私マフィアにはならないけど?」
「プ…クク、アハハっ!!」
護明は月の言葉に笑い出す。
「違う違う、確かに私はヤクザみたいなもんだけど、そうじゃなくて。口説いたんだが…遠回しすぎたかな。」
「え?」
「私の家族…伴侶になって欲しいと思ってね。」
「なっ!?」
「ハハ、顔を真っ赤にして、きみh本当に可愛いな。」
護明は月の手を取り、手の甲へキスを落とす。
「すまなかったね、君を危険な目に遭わせて…。これからは私が全力で守るから頼って欲しい。」
そう言い残し、護明は病室を後にした。
「この前といい、今回といい…俺は無力だった。もうお前が怪我しない様に俺、強くなるから。」
そう言って凛も病室を出た。
「俺モ月守ル。約束!!」
ニカっと魅那は笑ってそう告げると窓から姿を消した。
「大人しく寝てろ。」
「私の事も忘れないで呼んでね。」
湊と聖も病室を出、病室には月一人になる。
「皆優しすぎるよ。一番無力で迷惑かけてるのは私なのに…。」
(自分のせいで皆が自分を責めているのが辛い。)
「っ!!」
自分の無力差が悔しくて、月は堪えきれず涙を零す。
「私の主様が泣いてる…。どうして…。」
何者かがそう呟いた。
それは誰の耳にも届かない小さなものだった。
入院から約一週間が過ぎた頃、すっかり回復し、月は凛の待つ探偵事務所に復帰した。
「心配かけてごめんね。私、軽い気持ちで仕事してたんだと思う。凛は危ないって止めてくれたのに聞かないで…。これからはこの仕事は死と隣合わせって事、頭に入れて仕事にあたる。」
「ああ、俺も…守ってやれなくて、怖い思いさせて悪かった。」
「ううん、大丈夫。」
「そういえば、この前の報酬と一緒に怪我の詫びって事で護明からお前宛になんか届いたぞ。」
凛はそう言って綺麗にラッピングされた少し大きな箱を差し出す。
ラッピングを丁寧に剥がし、箱を開けてみると一枚の手紙とやたらと可愛らしい服が入っていた。
ー君に似合いそうな服を見つけてね。
お詫びも兼ねて送らせて貰うよ。
叶うなら今後、これを着て私とデートをして欲しいな。
神風 護明ー
と、手紙には書いてあった。
「ふふ、護明さんらしいね。」
「だな。」
2人はそう笑い合うのだった。
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