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ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯
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さらに二年後、二人目の子どもが産まれる。今度は男の子で、フィリップと名付けた。
この子は私に似ている。顔だけでなく、性格も。やんちゃで、とにかく負けん気が強い。
ルシールは、フィリップが産まれたときから彼にべったりだ。
フィリップもルシールが一緒にいると機嫌がよいので、子守りが楽で助かった。ただし、よちよち歩きしかできない幼子が赤んぼうを抱っこしようとするさまは、見ていて心臓によいものではない。
ちょっと。首締まってない? ────どう見てもルシールの腕に首が引っかかって締まってるのに、不思議とフィリップはご機嫌だ。
ねえ、ルル。その子はあなたのクマちゃんとは違うの。縫いぐるみじゃなくて、生きものなの。お願いだから、もっと、そうっと大事にしてちょうだい。お母さま、こわくて息がとまりそうよ。
利かん気なフィリップは、いけないことをしたときに叱ってもなかなか言うことを聞かない。
なのになぜか、ルシールが言い聞かせると素直に聞く。納得がいかない。
そんな愚痴をジョルジュにこぼすと、彼は「僕の言うことだって聞きやしないよ」と笑った。少し安心した。
子どもたちが熱を出すたびに、町医者をしている上の妹の旦那さまにはお世話になった。
「具合が悪くなったら、夜中でも気にせず連れてきてください」との言葉に甘えて、本当に夜中に何度も連れて行った。上の妹には、頭が上がらない。
子どもたちは二人とも、私の母の話を聞くのが好きだ。
母から聞いた、彼女の女優時代の話をすると、二人とも目を輝かせて聞き入る。
ルシールが「私もお祖母さまみたいな女優になりたいな」と言うと、フィリップも「ぼくも! ぼくもなる!」とすぐ張り合う。そんなとき私は、自分が母にかけられた言葉をそっくりそのまま子どもたちに伝えるのだ。
「なれるわ。なれますとも。ただし一流の女優になりたいなら、しっかりお勉強なさい」
そう言うと、二人とも競うように本を読み始めるから面白い。
もっとも、フィリップ、あなたはどう頑張っても女優にはなれないんだけど。
ジョルジュをはめた人たちは彼の不幸を望んでいたかもしれないけれど、おあいにくさま、私たちはしあわせに暮らしていた。食べるのに困りさえしなければ、しあわせになるのにお金はかからないのよ。
ただしこの後、私たちのしあわせはあっという間に崩れてしまう。
ルシールが六歳、フィリップが四歳になった頃、不穏なうわさが流れてきた。幼い子どもを狙ったひとさらいが出ると言うのだ。幼い二人の子を持つ親としては、神経質にならざるを得ない。
子どもたちには「知らない人から声をかけられたら、すぐに逃げなさい」と言い聞かせた。それだけでは不安だったので「万が一、つかまってしまったら大声を出しなさい」と教えて、大声を出す練習もさせた。練習している間、どれだけ大きな声を出しても叱られないのがうれしいのか、子どもたちは妙に楽しそうだった。危機感のなさに、力が抜ける。
ピリピリした気持ちで日々を送っていたが、ひと月ほどしたある日、養父から「ひとさらいの組織を摘発した」との知らせが届いた。養父の領地内で憲兵隊と協力して動いた結果、首謀者の特定に至ったらしい。
末端の者まで完全にすべての身柄を確保したわけではないだろうから、気を抜くわけにはいかないものの、だいぶ気は楽になった。
ところがこの半年ほど後、子どもたちは二人とも流行り病であっけなくこの世を去る。一度に二人の子を失い、私は魂が抜けたようになってしまった。
知らせを聞いた養父母はすぐに駆けつけ、弔いを手伝ってくれた。
子どもたちの弔いが済んで数日が過ぎた頃、私にも流行り病の症状が出た。
ジョルジュは青ざめた顔をして、上の妹の旦那さまを呼びに行き、診察をお願いした。体力があれば乗り切れたのかもしれないが、心身ともに消耗していた私は病に負けてしまったというわけだ。
この子は私に似ている。顔だけでなく、性格も。やんちゃで、とにかく負けん気が強い。
ルシールは、フィリップが産まれたときから彼にべったりだ。
フィリップもルシールが一緒にいると機嫌がよいので、子守りが楽で助かった。ただし、よちよち歩きしかできない幼子が赤んぼうを抱っこしようとするさまは、見ていて心臓によいものではない。
ちょっと。首締まってない? ────どう見てもルシールの腕に首が引っかかって締まってるのに、不思議とフィリップはご機嫌だ。
ねえ、ルル。その子はあなたのクマちゃんとは違うの。縫いぐるみじゃなくて、生きものなの。お願いだから、もっと、そうっと大事にしてちょうだい。お母さま、こわくて息がとまりそうよ。
利かん気なフィリップは、いけないことをしたときに叱ってもなかなか言うことを聞かない。
なのになぜか、ルシールが言い聞かせると素直に聞く。納得がいかない。
そんな愚痴をジョルジュにこぼすと、彼は「僕の言うことだって聞きやしないよ」と笑った。少し安心した。
子どもたちが熱を出すたびに、町医者をしている上の妹の旦那さまにはお世話になった。
「具合が悪くなったら、夜中でも気にせず連れてきてください」との言葉に甘えて、本当に夜中に何度も連れて行った。上の妹には、頭が上がらない。
子どもたちは二人とも、私の母の話を聞くのが好きだ。
母から聞いた、彼女の女優時代の話をすると、二人とも目を輝かせて聞き入る。
ルシールが「私もお祖母さまみたいな女優になりたいな」と言うと、フィリップも「ぼくも! ぼくもなる!」とすぐ張り合う。そんなとき私は、自分が母にかけられた言葉をそっくりそのまま子どもたちに伝えるのだ。
「なれるわ。なれますとも。ただし一流の女優になりたいなら、しっかりお勉強なさい」
そう言うと、二人とも競うように本を読み始めるから面白い。
もっとも、フィリップ、あなたはどう頑張っても女優にはなれないんだけど。
ジョルジュをはめた人たちは彼の不幸を望んでいたかもしれないけれど、おあいにくさま、私たちはしあわせに暮らしていた。食べるのに困りさえしなければ、しあわせになるのにお金はかからないのよ。
ただしこの後、私たちのしあわせはあっという間に崩れてしまう。
ルシールが六歳、フィリップが四歳になった頃、不穏なうわさが流れてきた。幼い子どもを狙ったひとさらいが出ると言うのだ。幼い二人の子を持つ親としては、神経質にならざるを得ない。
子どもたちには「知らない人から声をかけられたら、すぐに逃げなさい」と言い聞かせた。それだけでは不安だったので「万が一、つかまってしまったら大声を出しなさい」と教えて、大声を出す練習もさせた。練習している間、どれだけ大きな声を出しても叱られないのがうれしいのか、子どもたちは妙に楽しそうだった。危機感のなさに、力が抜ける。
ピリピリした気持ちで日々を送っていたが、ひと月ほどしたある日、養父から「ひとさらいの組織を摘発した」との知らせが届いた。養父の領地内で憲兵隊と協力して動いた結果、首謀者の特定に至ったらしい。
末端の者まで完全にすべての身柄を確保したわけではないだろうから、気を抜くわけにはいかないものの、だいぶ気は楽になった。
ところがこの半年ほど後、子どもたちは二人とも流行り病であっけなくこの世を去る。一度に二人の子を失い、私は魂が抜けたようになってしまった。
知らせを聞いた養父母はすぐに駆けつけ、弔いを手伝ってくれた。
子どもたちの弔いが済んで数日が過ぎた頃、私にも流行り病の症状が出た。
ジョルジュは青ざめた顔をして、上の妹の旦那さまを呼びに行き、診察をお願いした。体力があれば乗り切れたのかもしれないが、心身ともに消耗していた私は病に負けてしまったというわけだ。
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