ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

海野宵人

文字の大きさ
9 / 29
ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

9

しおりを挟む
 さらに二年後、二人目の子どもが産まれる。今度は男の子で、フィリップと名付けた。
 この子は私に似ている。顔だけでなく、性格も。やんちゃで、とにかく負けん気が強い。

 ルシールは、フィリップが産まれたときから彼にべったりだ。
 フィリップもルシールが一緒にいると機嫌がよいので、子守りが楽で助かった。ただし、よちよち歩きしかできない幼子が赤んぼうを抱っこしようとするさまは、見ていて心臓によいものではない。

 ちょっと。首締まってない? ────どう見てもルシールの腕に首が引っかかって締まってるのに、不思議とフィリップはご機嫌だ。
 ねえ、ルル。その子はあなたのクマちゃんとは違うの。縫いぐるみじゃなくて、生きものなの。お願いだから、もっと、そうっと大事にしてちょうだい。お母さま、こわくて息がとまりそうよ。

 利かん気なフィリップは、いけないことをしたときに叱ってもなかなか言うことを聞かない。
 なのになぜか、ルシールが言い聞かせると素直に聞く。納得がいかない。
 そんな愚痴をジョルジュにこぼすと、彼は「僕の言うことだって聞きやしないよ」と笑った。少し安心した。

 子どもたちが熱を出すたびに、町医者をしている上の妹の旦那さまにはお世話になった。
 「具合が悪くなったら、夜中でも気にせず連れてきてください」との言葉に甘えて、本当に夜中に何度も連れて行った。上の妹には、頭が上がらない。

 子どもたちは二人とも、私の母の話を聞くのが好きだ。
 母から聞いた、彼女の女優時代の話をすると、二人とも目を輝かせて聞き入る。
 ルシールが「私もお祖母さまみたいな女優になりたいな」と言うと、フィリップも「ぼくも! ぼくもなる!」とすぐ張り合う。そんなとき私は、自分が母にかけられた言葉をそっくりそのまま子どもたちに伝えるのだ。

「なれるわ。なれますとも。ただし一流の女優になりたいなら、しっかりお勉強なさい」

 そう言うと、二人とも競うように本を読み始めるから面白い。
 もっとも、フィリップ、あなたはどう頑張っても女優にはなれないんだけど。

 ジョルジュをはめた人たちは彼の不幸を望んでいたかもしれないけれど、おあいにくさま、私たちはしあわせに暮らしていた。食べるのに困りさえしなければ、しあわせになるのにお金はかからないのよ。
 ただしこの後、私たちのしあわせはあっという間に崩れてしまう。

 ルシールが六歳、フィリップが四歳になった頃、不穏なうわさが流れてきた。幼い子どもを狙ったひとさらいが出ると言うのだ。幼い二人の子を持つ親としては、神経質にならざるを得ない。

 子どもたちには「知らない人から声をかけられたら、すぐに逃げなさい」と言い聞かせた。それだけでは不安だったので「万が一、つかまってしまったら大声を出しなさい」と教えて、大声を出す練習もさせた。練習している間、どれだけ大きな声を出しても叱られないのがうれしいのか、子どもたちは妙に楽しそうだった。危機感のなさに、力が抜ける。

 ピリピリした気持ちで日々を送っていたが、ひと月ほどしたある日、養父から「ひとさらいの組織を摘発した」との知らせが届いた。養父の領地内で憲兵隊と協力して動いた結果、首謀者の特定に至ったらしい。
 末端の者まで完全にすべての身柄を確保したわけではないだろうから、気を抜くわけにはいかないものの、だいぶ気は楽になった。

 ところがこの半年ほど後、子どもたちは二人とも流行り病であっけなくこの世を去る。一度に二人の子を失い、私は魂が抜けたようになってしまった。
 知らせを聞いた養父母はすぐに駆けつけ、弔いを手伝ってくれた。

 子どもたちの弔いが済んで数日が過ぎた頃、私にも流行り病の症状が出た。
 ジョルジュは青ざめた顔をして、上の妹の旦那さまを呼びに行き、診察をお願いした。体力があれば乗り切れたのかもしれないが、心身ともに消耗していた私は病に負けてしまったというわけだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった

みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。 この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。 けれど、運命になんて屈しない。 “選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。 ……そう決めたのに。 彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」 涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

【完結】何度でもやり直しましょう。愛しい人と共に送れる人生を。

かずえ
恋愛
入学式の日に前回の人生を思い出す。短いけれど、幸せな一生だった。もう一度この気持ちを味わえるなんて、素晴らしいと大喜び。けれど、また同じことを繰り返している訳ではないようで……?

ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。 その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。 拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、 諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

処理中です...