ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

海野宵人

文字の大きさ
10 / 29
ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

10

しおりを挟む
 ジョルジュに「後を追わずに生きる」と約束させたからには、もう思い残すことは何もない。
 心安らかに、子どもたちのもとへ旅立とう。
 後は養父がよろしくやってくれるはずだ。

 養父はまず、私が十八歳になったときに教えてくれたもうひとつの話をジョルジュにもするだろう。
 それは私の実父にまつわることだ。

 私の実父は、侯爵だった。それも、私に意地悪をしてきたお嬢さまの家の当主だった。
 と言ってももちろん「彼女と私が実は異母姉妹だった」なんて話ではない。私と彼女は、親が違う。私の実父は、現当主の兄だった。だから現当主は、私にとっては叔父にあたる。叔父は事故を装って実父を殺し、当主の座を手に入れた。そのときお腹の中に私がいた母は、叔父に殺されそうになったところを家令に助けられて、市井に逃れて隠れ暮らした。
 だから母が元女優というのは、言ってみれば比喩だった。彼女の舞台は、社交界だったのだ。

 母を助けた家令は、私の養父である男爵の従弟だった。
 養父は従弟である家令の頼みを快く引き受け、母の暮らしを手助けした。貸家の管理人という職は、養父が用意したものだったらしい。母亡き後は、私を養女として迎えて何不自由なく養育してくれた。

 その間、家令は正統な嫡子である私が成人したらすぐに手続きできるよう、叔父の不正や犯罪の記録を着々と集めていた。本来なら十八歳になった時点で、その手続きをとる算段だった。
 ところがその前に、私はジョルジュと結婚させられてしまった。

 十八歳になったとき、養父は私にふたつの選択肢を示した。ジョルジュと離縁して侯爵家を取り戻すか、このままジョルジュと一蓮托生となるか。
 私は、ジョルジュと人生を共にする道を選んだ。

 私の選択を受けて、養父と侯爵家の家令は第二王子を追い落とす方策を探すことになる。
 どうしてそこまでしてくれるのかと養父に尋ねたことがある。彼は、私の実父には返しきれない恩があるのだと言った。それが何だか詳しくは尋ねなかったが、たぶん養父の従弟が家令であることと何か関わりがあったのだろう。

 でも実を言えば、第二王子も侯爵家も、私にとってはどうでもよかった。
 小さな領地でかつかつの暮らしをしていても、ジョルジュは私をしあわせにしてくれたし、私はその暮らしに十分満足していた。彼らがこのまま私たちを放っておいてくれるなら、私も彼らを放っておいてあげてもいい。そう思っていた。

 なのに、あの人たちは私の大切な宝物である子どもたちに手を出した。決して越えてはならない一線を越えてしまったのだ。おおかた保身のために直系の王位継承者をつぶそうと考えたのだろうけど。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

恋人の気持ちを試す方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ 死んだふりをしたら、即恋人に逃げられました。 ベルタは恋人の素性をほとんど知らぬまま二年の月日を過ごしていた。自分の事が本当に好きなのか不安を抱えていたある日、友人の助言により恋人の気持ちを試す事を決意する。しかしそれは最愛の恋人との別れへと続いていた。 登場人物 ベルタ 宿屋で働く平民 ニルス・パイン・ヘイデンスタム 城勤めの貴族 カミラ オーア歌劇団の団員 クヌート オーア歌劇団の団長でカミラの夫

【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう

冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」 セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。 少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。 ※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。 さくさく進みます。

銀鷲と銀の腕章

河原巽
恋愛
生まれ持った髪色のせいで両親に疎まれ屋敷を飛び出した元子爵令嬢カレンは王城の食堂職員に何故か採用されてしまい、修道院で出会ったソフィアと共に働くことに。 仕事を通じて知り合った第二騎士団長カッツェ、副団長レグデンバーとの交流を経るうち、彼らとソフィアの間に微妙な関係が生まれていることに気付いてしまう。カレンは第三者として静観しているつもりだったけれど……実は大きな企みの渦中にしっかりと巻き込まれていた。 意思を持って生きることに不慣れな中、母との確執や初めて抱く感情に揺り動かされながら自分の存在を確立しようとする元令嬢のお話。恋愛の進行はゆっくりめです。 全48話、約18万字。毎日18時に4話ずつ更新。別サイトにも掲載しております。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...