ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

海野宵人

文字の大きさ
29 / 29
ざまぁされちゃった王子の回想録

29(終)

しおりを挟む
 こうしてすべてが片付くまでには、半年近くかかった。

 すべてが終わるまでミミにも子どもにも会えないと覚悟していたのに、彼女たちは三か月ほどで帰国した。どうやら子どもたちが「おうちにかえる」と毎日のように騒ぐので、ミミが根負けしたらしい。

 昼の間は、祖父母である国王夫妻に機嫌よく甘えているくせに、夕方が近くなるとルルとフィリップは二人とも「おうちにかえる」と言って聞かず、国王夫妻をがっかりさせていたそうだ。「はやく帰らないと、お父さまがかわいそう」と言いながら自分たちが泣き出すのだ、とミミは笑いながら教えてくれた。
 この話を聞いたとき、私のほうが泣きそうになった。

 ミミたちが帰国した日のことは、生涯忘れないだろう。

 宮殿の正面玄関の前で馬車から降りてきた彼女は、初めて夜会で会ったときと同じように光り輝いていた。思わず駆け寄って抱き上げると、彼女は「こういうときは、子どもを先に抱き上げるものでしょう」と呆れた顔をする。でも子どもたちは、乳母と従者に手を引かれているじゃないか。
 小言を聞き流して、キスをする。

「今日も女神のようにきれいだ」

 するとミミは「当たり前よ。手間暇かかってるのよ」と真面目な顔で諭すように返してくるので、笑ってしまう。

 ああ。ミミだ。ミミが帰ってきた。子どもたちも。

 今回の事件を片付ける中で、私は初めて父の愛を実感することができた。橋渡しをしてくれたミミや義父には感謝しかない。

 けれどもやはり、あれから一年以上も経った今でも、ミミを失ったあの日の絶望を思い出し、じっとりと冷や汗をかいて夜中に目が覚めることがある。そんなとき、隣に眠る柔らかな体にそっと手を伸ばす。彼女の体温を感じると、やっとホッと安心して眠りに戻れるのだ。

 寝室の暗がりの中で健やかな寝息をたてる妻を起こさないよう、そっとキスを落とす。
 ミミ、愛してる。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

うさ
2022.02.15 うさ
ネタバレ含む
解除
dragon.9
2022.01.23 dragon.9
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

恋人の気持ちを試す方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ 死んだふりをしたら、即恋人に逃げられました。 ベルタは恋人の素性をほとんど知らぬまま二年の月日を過ごしていた。自分の事が本当に好きなのか不安を抱えていたある日、友人の助言により恋人の気持ちを試す事を決意する。しかしそれは最愛の恋人との別れへと続いていた。 登場人物 ベルタ 宿屋で働く平民 ニルス・パイン・ヘイデンスタム 城勤めの貴族 カミラ オーア歌劇団の団員 クヌート オーア歌劇団の団長でカミラの夫

【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう

冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」 セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。 少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。 ※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。 さくさく進みます。

銀鷲と銀の腕章

河原巽
恋愛
生まれ持った髪色のせいで両親に疎まれ屋敷を飛び出した元子爵令嬢カレンは王城の食堂職員に何故か採用されてしまい、修道院で出会ったソフィアと共に働くことに。 仕事を通じて知り合った第二騎士団長カッツェ、副団長レグデンバーとの交流を経るうち、彼らとソフィアの間に微妙な関係が生まれていることに気付いてしまう。カレンは第三者として静観しているつもりだったけれど……実は大きな企みの渦中にしっかりと巻き込まれていた。 意思を持って生きることに不慣れな中、母との確執や初めて抱く感情に揺り動かされながら自分の存在を確立しようとする元令嬢のお話。恋愛の進行はゆっくりめです。 全48話、約18万字。毎日18時に4話ずつ更新。別サイトにも掲載しております。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。