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5章
42話:汲み取ることと書けるということの違い
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『なるほどね、小説読んでもらってたんだ。アタシは人工物だから小説の良し悪しってわかんないんだけど、実際ヤクルの小説って面白いの?』
「面白いというか独創的だな。あんなアプローチから力の支配への陳腐さを訴求するっていうのはなかなかないと思ったぞ。まぁ正しく伝わっているかはともかくな」
いつものように食卓テーブルを囲み、三人は話した。
『ふぅん、でも陳腐さをアピールするんだったらさ、この作品は陳腐だーって台詞か地の文で示さないと陳腐なままなんじゃないの? それが狙いってこともあるかもしれないけど、このままじゃ読者にとっても陳腐だと思うんだけど』
「お、お前、案外小説のことわかるんだな……まぁ俺もヤクルの小説を読んで、表現不足だとは感じるが」
『さすがにアタシくらいにもなればこれくらいわかるよ……これ読むのに感性や感受性を必要としないし……』
「まぁそれをいうなら、匂わせたりはっきり描写しないことに趣を感じる人もいるからな。そういう意味なら好みがあるから案外わかんねぇぞ」
ナナジマの言葉にヤクルは一層なびいた。鼻をふんっ、ふんっ、と鳴らし、燦燦とした眼差しで拝聴しているが、ルルカはその表情を気持ち悪そうに見ていた。またナナジマから鼻をかんでもらうつもりかと見受けていた。
『ふーん、でもナナジマだったらあの作品をそのまま世に出そうとは思わないでしょ?』
「まぁそうかもなぁ……俺なら例えば、ゾゾゾ帝国とウググ帝国には、なまりや言い回しに差があるようにするかな。そうすれば会話が簡単には通じなくなるから、それだけで陳腐ってところにフォーカスが行きやすくなる。描写を増やす必要があるがな。本文のなかで陳腐って言語化するにしろしないにしろ、こういうアプローチはアリだろ」
『なるほど。うんうん』
「あとは陳腐さと真逆の……ロジカルな思考を味方のゾゾゾ帝国のボスに持たせるかな。ゾゾゾ帝国が陳腐なウググ帝国を倒したときに、なんだったんだアイツらは、陳腐だなぁってロジカルに振り返るような構図にする狙いだ。で、ウググ内にはいじめの風潮を匂わせると」
『あぁなるほどね。それでウググ帝国を倒したときにいじめはよくないよっていいながら、力での支配は陳腐だと強調するわけかぁ……まぁただ、ロジカルさを信仰してようと、陳腐さを信仰してようと、結局は力の支配の話になりそうだし、支配って言葉から抜け出さないと前進しない気がするけど。アタシにはそういう発想や面白さが理解できないから、もし書けるなら素直にすごいかも』
「まぁただ、そうなると言葉が通じないのにどうやって本文内で意思疎通を図るのかとか、そもそも陳腐な題材でどう陳腐さをを表すのかとか、いろいろ問題はあるが……まぁこれ以上いうとヒント出し過ぎだし、ネタの根幹に触れちまうからここまでだ。こういう構図とか図式なんかを考えるのは本来大衆小説寄りのことだろうから、俺より和久井姉妹のほうがうまいと思うぞ」
ナナジマとルルカが話している最中、ヤクルの頭から煙が吹き始めた。
「ちょちょちょちょ……ナナジマ先生のアイディアすごすぎて頭が追いつかな……どわああああああ!!!」
ヤクルの頭部が爆発し、破片が散らばった。
『また爆発した』
「ヤクルの顔面が爆発するのにも慣れたもんだな……」
『……のゐるちゃんまだ部屋から出てこないの?』
「あぁ。いまこんだけ能天気なヤクルだって、ようやく昨日今日すこし調子を取り戻したくらいだからな。あっちは声掛けても全然ウンともスンともいってくれねぇし、まだ掛かるだろうよ」
『そっか……まぁ無理ないよ。のゐるちゃんの場合、もともとgスポーツで学校推薦を狙おうとしていて……親指の骨を折って以来逃げるように小説の世界に入ってきたんだから。彼女もヤクルと同じでいじめられて生きてきたみたいだし、いまならヤクルよりも苦しい想いをしているかもしれない……はぁ、書けなくなるように導いたのはアタシだから、アタシを恨んでくれたらいいのに……謝ったほうがいいかなぁ……そしたらかえって責任感じさせちゃうかなぁ……』
「おい、お前わざわざ恨まれたがって鉄塔壊すのを煽ってたのかよ。のゐる先生に生きる目標持たせるために……? すげぇ先見の明だな……ってかあの子gスポーツの才能もあんのか。てっきり小説一本の小説バカって感じなのかと思ってたぞ」
その両手に顔面のパーツを集め切ったヤクルが、残念そうな表情を浮かべずに返事する。
「うーん……俺、のゐる先生のこと、やっぱり傷つけちゃったのかなぁ……」
「面白いというか独創的だな。あんなアプローチから力の支配への陳腐さを訴求するっていうのはなかなかないと思ったぞ。まぁ正しく伝わっているかはともかくな」
いつものように食卓テーブルを囲み、三人は話した。
『ふぅん、でも陳腐さをアピールするんだったらさ、この作品は陳腐だーって台詞か地の文で示さないと陳腐なままなんじゃないの? それが狙いってこともあるかもしれないけど、このままじゃ読者にとっても陳腐だと思うんだけど』
「お、お前、案外小説のことわかるんだな……まぁ俺もヤクルの小説を読んで、表現不足だとは感じるが」
『さすがにアタシくらいにもなればこれくらいわかるよ……これ読むのに感性や感受性を必要としないし……』
「まぁそれをいうなら、匂わせたりはっきり描写しないことに趣を感じる人もいるからな。そういう意味なら好みがあるから案外わかんねぇぞ」
ナナジマの言葉にヤクルは一層なびいた。鼻をふんっ、ふんっ、と鳴らし、燦燦とした眼差しで拝聴しているが、ルルカはその表情を気持ち悪そうに見ていた。またナナジマから鼻をかんでもらうつもりかと見受けていた。
『ふーん、でもナナジマだったらあの作品をそのまま世に出そうとは思わないでしょ?』
「まぁそうかもなぁ……俺なら例えば、ゾゾゾ帝国とウググ帝国には、なまりや言い回しに差があるようにするかな。そうすれば会話が簡単には通じなくなるから、それだけで陳腐ってところにフォーカスが行きやすくなる。描写を増やす必要があるがな。本文のなかで陳腐って言語化するにしろしないにしろ、こういうアプローチはアリだろ」
『なるほど。うんうん』
「あとは陳腐さと真逆の……ロジカルな思考を味方のゾゾゾ帝国のボスに持たせるかな。ゾゾゾ帝国が陳腐なウググ帝国を倒したときに、なんだったんだアイツらは、陳腐だなぁってロジカルに振り返るような構図にする狙いだ。で、ウググ内にはいじめの風潮を匂わせると」
『あぁなるほどね。それでウググ帝国を倒したときにいじめはよくないよっていいながら、力での支配は陳腐だと強調するわけかぁ……まぁただ、ロジカルさを信仰してようと、陳腐さを信仰してようと、結局は力の支配の話になりそうだし、支配って言葉から抜け出さないと前進しない気がするけど。アタシにはそういう発想や面白さが理解できないから、もし書けるなら素直にすごいかも』
「まぁただ、そうなると言葉が通じないのにどうやって本文内で意思疎通を図るのかとか、そもそも陳腐な題材でどう陳腐さをを表すのかとか、いろいろ問題はあるが……まぁこれ以上いうとヒント出し過ぎだし、ネタの根幹に触れちまうからここまでだ。こういう構図とか図式なんかを考えるのは本来大衆小説寄りのことだろうから、俺より和久井姉妹のほうがうまいと思うぞ」
ナナジマとルルカが話している最中、ヤクルの頭から煙が吹き始めた。
「ちょちょちょちょ……ナナジマ先生のアイディアすごすぎて頭が追いつかな……どわああああああ!!!」
ヤクルの頭部が爆発し、破片が散らばった。
『また爆発した』
「ヤクルの顔面が爆発するのにも慣れたもんだな……」
『……のゐるちゃんまだ部屋から出てこないの?』
「あぁ。いまこんだけ能天気なヤクルだって、ようやく昨日今日すこし調子を取り戻したくらいだからな。あっちは声掛けても全然ウンともスンともいってくれねぇし、まだ掛かるだろうよ」
『そっか……まぁ無理ないよ。のゐるちゃんの場合、もともとgスポーツで学校推薦を狙おうとしていて……親指の骨を折って以来逃げるように小説の世界に入ってきたんだから。彼女もヤクルと同じでいじめられて生きてきたみたいだし、いまならヤクルよりも苦しい想いをしているかもしれない……はぁ、書けなくなるように導いたのはアタシだから、アタシを恨んでくれたらいいのに……謝ったほうがいいかなぁ……そしたらかえって責任感じさせちゃうかなぁ……』
「おい、お前わざわざ恨まれたがって鉄塔壊すのを煽ってたのかよ。のゐる先生に生きる目標持たせるために……? すげぇ先見の明だな……ってかあの子gスポーツの才能もあんのか。てっきり小説一本の小説バカって感じなのかと思ってたぞ」
その両手に顔面のパーツを集め切ったヤクルが、残念そうな表情を浮かべずに返事する。
「うーん……俺、のゐる先生のこと、やっぱり傷つけちゃったのかなぁ……」
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