ライターズワールドオンライン~非戦闘ジョブ「アマ小説家」で最弱スキル「ゴミ拾い」の俺が崩壊世界でなりあがる~

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5章

43話:目的

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 ナナジマはヤクルを気遣った。

「そんなことねぇよ、別にヤクルの所為じゃねぇだろ」

「だってナナジマ先生……俺が塔の電波を止めちゃったから、のゐる先生小説のアイディアが浮かばなくなっちゃったんですよ。実質俺の所為だと思うんです。俺がのゐる先生の小説に過度の期待を寄せちゃったから……たぶん、俺が気負いさせちゃったんですよ……」

「おいおいそんなこというなよ。塔を壊さなかったら、みんなまだこの世界が滅んでもしょうがねぇって受け入れたままだったんだぞ? 俺だってこうして自分や誰かの思考が汚染されてるなんて、実感を得ることもできなかった。少なくとも俺は感謝してるんだぞ? いまはのゐる先生にはきっかけがないだけで、すぐにまた元気になるって。な?」

「そうかもしれないですけど……」

 ナナジマはこれまで口にしてこなかったが、彼がヤクルに小説を教えようと思ったのは、ヤクルが気負いしてしまっていたのを見かねてのことだ。ナナジマはのゐるを傷つけてしまった責任がヤクルの肩にのしかかってきていたことを察していたのだった。

 合理性だけではない、優しさに目覚めたナナジマの想い……とは別に、ルルカがこらえきれずに吹き出した。

『ぶふっ……ぷぷぷ……やっぱりヤクルの顔面いちいち爆発してたら見てる側キツいなぁ……シリアスなこと話してるのに顔面くっついてないとか、絶対吹き出しちゃうよ……!』

「この爆発機能必要なのかよ! ポンコツジラジラ娘!」

『う、うううううるさいわ! ポンコツじゃないわ! って、違う違う。こんなこと話してるつもりじゃないんだった……今日はちょっと話があるんだよ』



 ヤクルの飛び散った顔面が修復され、話が再開した。

『畑に和久井姉妹と教団員行っててアタシたちしかいないけどさ――あのくちばしマスクゴーレムが、どうしてこの先のディストピアを生きていく人たちに小説家だけを選んだかについて話そうよ』

 ルルカが映像を複数展開した。クリスタルが映写した映像に、数日前ヤクルが倒した機龍の映像が流れた。

「飛行船のなかで見たときと全然違う姿だな……これが正体かよ」

『いや、正体というか機能拡張に近いかな。周りの骸骨ゴーレムたちと合体してドラゴンみたいな形になってるんだ。それよりちょっとこれ見てよ。ゴーレムが興味深いことをいってたんだよ』

 ルルカが話すと映像は巻き戻された。ゴーレムが話している場面が再生される。

『――我々はいま迷っています。あなたたち人類を、生かすべきか殺すべきか。の必要性について決めあぐねています。確かに合理的であることは正しい。しかし合理的を極めたところで、我々は人間を越えたと言えるのでしょうか』

 また別の場面が再生される。 

『ですから生き延びる人類としてのです。貴方たち作家は合理的な発想と感情的な発想を紡ぎ合わせて物語をつくる。我々機械族にとって創作それは無益ですが、到底できないことでもあるのです』

 ……映像はここで止まる。すかさずナナジマが話した。

「あぁ、ゴーレムがこんなこと話してたってヤクルから聞いてたぞ。ヤクルの話じゃあよくわからんかったが、これを見るとよくわかるな。まぁ、いっても意味はよくわからんが。っつーか映像なんか録画できたのかよ」

『うん。これはクリスタルとヤクルが記録した映像。自分語りみたいな言い方で、機械族が合理的な考え方をするのは正しいと自己弁護しながら、ディストピアを生きる人類として理由について触れてきている』

 ルルカは真剣な眼差しで話すが、ヤクルにはよく理解できなかった。

「……? ルルカ、どういうこと? 俺さっぱりわからないよ。そもそも機械族がわかんない」

『いや機械族がわかんないのは置いてかれ過ぎだけど……一応言うと、妖精たちとそれを埋め込まれたゴーレムたち、あんたみたいな人造人間を全部ひっくるめて機械族って呼ぶのね。あと……さっき機械妖精回路は小説について正しく理解することができないってすこし触れてたよね。それがいま映像でゴーレムがいってた、感情と人間の必要性について決めあぐねているってところと繋がってるんだ』

「あぁなんか。以前も似たようなこと話してた気がする」

『そう。それでどうして小説を正しく理解できないかというと、妖精回路が持っている感情っていうのは人間の脳に似せた設計でもって疑似的に再現されたものだからなんだよ』

 妖精回路は命令された処理を実行することしかできない。経験や知識を得たところで、自らの感情をより豊かに再現するには、感情を設計し直す必要がある。そもそも感受性のあり方が人間とは違い過ぎるため、人間が共感するような発想ができない。

 そのため妖精回路は、を用いて進化していった。新しい経験や知識を蓄積するたびに自身を書き換えることができる魔力素子の集合体だ。実際にルルカはヤクルやナナジマと話すうえでも、これまでの人間や機械同士の会話の蓄積を基に言葉を選んでいる。

『小説にピントを合わせて話すなら、機械は小説について自己研鑽することが磨きをかけたりする意味がないって訳。例えば妖精を作った人間に賞を取れるほど小説の技量があれば、それと似たような文章を生み出して賞を取ることはできるのかもしれないけれど、まぁ……意味ないよね。そもそも機械は娯楽を必要としないんだから。それに、均一した価値観をよしとする機械族には理解しがたい。無個性こそよかれだからね。だから妖精は人間の小説を越えられない。理解できないというか、理解することが機械のあり方に反してるんだよね。ましてや評価するの人間だし』

 ……しかしその感情は人間を完全に再現できている訳ではないため、小説を言語としてそれらしく理解することはできても、人間ほど複雑に読み取ることはできないのだとルルカは続けた。

「人間の感情を再現かぁ……昔のことだけど、すごいことするなぁ……」

『で、おさらいすると、それ妖精回路の感情を世界で初めて作ったのがアタシのお母さんの出雲楓……当時、情状酌量を汲んだ死刑の判決を下すのと、刑を執行するためにアタシは作られた。ヤクルは知ってるよね?』

 それを聞いたナナジマは驚いた声を上げて飛び上がった。ルルカからすれば当たり前のことに過ぎないが、ナナジマにとっては衝撃的な事実であった。

「おいおい、出雲楓つったらの天才設計者じゃねぇか……というか、出雲楓が一五〇〇年ちかく前につくった妖精がお前ってことかよ……!」
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