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後輩女子の月見うた

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 大学の食堂で鴨そばをすすっていると、目の前に小柄な女子が遠慮なく掛けた。



「先輩、ここいいですか?」



 僕の返事を待つ様子もなくオムライスを机に並べる。彼女は選択講義が被っている1学年下の後輩だった。白のふりふりしたブラウスに黒いサスペンダースカート。地雷系ファッションが大好きだと語っていたことを思い返す。顔立ちの良さから完璧な着こなしに見えるが、良くも悪くも目立っていた。



 待ち合わせしているわけでもないのに、時々こうして食事時に現れる変わったやつだ。



「飽きないんですか? それ」



「月見こそいつもオムライスだろうに」



 僕はコスパ優先で300円のそばを選ぶことがほとんどだ。安いし美味い、選ばない理由がない。



「はぁ~わかってないですね……。今日のはビーフストロガノフオムライスですよ!」



「ん? 昨日も同じだろ?」



「ぜっんぜん違いますから。昨日は天使のふわとろオムライスです」



 僕からするとどちらも大して違いがないように思えるけど、月見にとってはこだわりがあるらしい。



 選択講義や最近流行りのドラマの話など、中身のない会話をしながら食べ終えようとするとき。月見の唇がなにか言いたげに開きかける。が、再び閉じられてしまい、変な沈黙ができる。



「なんだよ」



「……あの、なにかあったんですか」



 月見はトーンを落とした声で戸惑いがちに口を開いた。



 すーっと脳から冷たい液体が流れ落ち、食堂の喧騒が遠く感じられる。



「……いや。特になにも」



 自分自身で声が固くなっているのが丸わかりだ。これじゃ明らかに隠し事をしているようで、自分の嘘の吐けなさを恨むしかなかった。



 それなのに、月見はそうですか、と呟いて追求されることはなかった。年下の女子に完全に気を使ってもらっている。



 どこか気まずい空気の中、食器を片付けに2人で立ち上がる。僕も月見も互いに口数が減っていた。



「それじゃ」



「私で良ければいつでも相談に乗りますから」



 別れ際に、月見はそう言うと僕の返答も待たず早足で行ってしまう。そんなに酷い表情をしていただろうか、自覚は全然なかったが月見にとって僕は深刻そうに見えてしまったのだろう。変な気を使わせてしまった申し訳なさと、気にかけつつも深く追求してこない距離感が今の僕にはありがたかった。



 一人になるとぐつぐつと復讐の熱が湧き上がる。佐鳥先輩を、いや佐鳥を殴ってしまいたい衝動に駆られるが、暴力に訴えるのは効果が薄い。一時的にスッキリするかもしれないが、それだけだ。そんなたやすく終わりにしてはならない。生きるのを後悔するくらい辛い目に合わせてやらねば気がすまない。



 軽く深呼吸して意識的に冷静さを保つ。まず復讐するにしても事前準備や順番など計画を立てる必要がある。



 復讐案『佐鳥先輩の内定先にタレコミする。』を実行するのにあたり、僕は佐鳥の内定先を知らない。サークル内で大手に内定が決まったことを、自慢げにでかい声で本人が語っているから耳に入っただけである。さすがにどの企業までかはわからなかった。



 だから、僕がまず行うのは佐鳥の内定先の調査だ。



 焦らなくていい、じっくり確実に潰してやる。
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