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【高校編】分岐・山ノ内瑛

【side瑛父】まもる

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「結論から言うとやな、写真についてた指紋はお前ともう1人分だけやった」

 瑛から預かった写真ーー華さんと笑さんが写っているそれーーを、俺はビニールのパケ越しに眺めた。
 瑛は眉を潜める。
 この写真についていた指紋は、きっちり2人分。瑛ともう1人……は、つまり華さんだろう。

(ということは)

 この写真を送った人物は、きっちりと自分の指紋を拭き取っているということ。
 指紋が残るとまずい人間だということ。

「……オトン、そろそろちゃんと教えてや」

 瑛はぽつりと言った。
 仕事から帰宅してすぐ、とはいえもう時計の針はテッペンを過ぎようとしている、そんな時刻。珍しく起きて待っていた瑛は、指紋の話を聞くなりそう言った。

「華の、母親の事件。ネットで見た感じやとよう分からん。なんか気がついたんやろ」

 ぐ、と俺を見つめる目はもう一人前の男の目で、俺は少し感慨深く瑛を見つめた。

(あの瑛が)

 泣いてた瑛が。窓から離れんかった瑛が、抱っこせんと寝ぇへんかった瑛が、一丁前なカオしとる。

「……華さんにはまだいうなよ」

 頷く瑛に、俺は自分の考えを話す。おそらく、最初から犯人の狙いは華さんだったであろう、ということ。
 瑛は黙ってその話を聞いていた。
 俺が話し終えるやいなや、瑛は立ち上がる。

「なにするんや」
「華んとこ行くんや」
「アホかお前が行ってなんの役に立つんや」

 あえて呆れた声を出す。

「よしんば役に立ったとして、怪我でもしてみい。華さん一生悔やむで」
「……せやけど」

 瑛は唇を噛む。

「……華のばーさんは知ってはるん」
「知らん」
「なんでや」

 少し、声が上ずる。

「そんなん、はよなんか……警察に警護してもらうとか、なんかあるやないか」
「確定やない。証拠はなんもない」

 言いながら思う。母娘の写真。写真の中央にいるのは華さん。見切れているのが笑さん。

(見切れている。狙う人間を、わざわざこんなふうに写すだろうか)

 奴がファインダー越しにみていたのは、彼女たちのどちらだったのかーー。

「それに」

 安心させるように、俺はあえて穏やかに言葉を続ける。

「華さんには護衛がついとる。安心せえ」
「護衛?」
「華さんには気づかれへんようにこっそり、らしいわ。せやから屋外でだけらしいねんけど……誘拐事件、あったやろ」
「……ああ」

 瑛が少しだけ目を逸らす。うん、聞いた時は呆れと怒りでくらくらした。

(子供だけで助けに行くなんて)

 先に警察を呼べ警察を。
 瑛は少しだけ気まずそう。

「……知ってたん?」
「知らんかったわ。最近常盤さんから聞いたんや」
「あー、まぁ」

 瑛は妙な顔をして黙る。

「まぁそれでやな、それ以降ついてはるらしいわ」
「……ほんならええけど」
「ええの?」

 少し意外に思って、俺は聞く。

「華さんといちゃついてるとことか見られてるかもなんやで?」
「外でそんないちゃついてへんし」

 ふん、と瑛は眉を寄せた。それからふ、と笑う。

「でもこれからはいちゃついたろうかな。見せつけたんねん」
「なんでや、アホか。つうか……ほんまに気ぃつけや、デキ婚はあかんとは言わんが大変やで、ほんま苦労かけるわ」
「せやからしてへんて……」

 瑛はじろりと俺を睨んでくる。

「一緒にせえへんといて」
「せやけどなぁ」
「くどいな! ……まぁ、とにかく華は安全なんやな?」
「一応は。せやけどほんまに注意しとかなあかん」
「了解。……なぁおとん」
「?」

 少しトーンが変わった声に、俺は首を傾げた。

「あんな、学生んとき。勉強とか、どうやってた?」
「ん? どうした急に。落第しそう?」
「そんなんちゃうわ、平均はとってるわ。……せやけど」

 瑛はぽつりと言う。

「それじゃ、足りへんと思って」
「なにに」
「……司法試験」

 瑛から出ると思ってなかった言葉に、俺はぽかんと口を開く。

「なんやその顔」
「いや、その……どうしたんや急に」

 瑛は少し迷った顔をして、それからぽつりと話し出した。

「ほんまはな」
「うん」
「駆け落ち予定やったんや、俺ら」
「は」

 駆け落ち!?
 またもやそんな言葉に呆然としつつ、せやけど前のまんまやったらそれしか無かったんかもしれん、とは思う。
 華さんに許婚がいるまま、では。
 さまざまな要因から、破棄されたそれ。

「どこ行く気やったん」
「アメリカ」
「……アメリカぁ?」
「ん」

 瑛は頷く。

「アメリカの大学でバスケ続ける気やった」
「……なるほどなぁ」
「せやけど、駆け落ちせんでもいいってなって、色々考えたんや」

 瑛はハッキリと続けた。

「強ならなあかん」
「強く?」

 せや、と瑛は頷いた。

「華を守り切れるくらいに」
「守る?」
「ほんで」

 瑛が小さく言う。

「……俺の知ってる限りで、誰かを守る仕事してんの、オトンやったから……色々考えて。検事とか弁護士とか、そういう……や、一番はプロバスケ選手なんやけど。せやけど」

 目線は合わない。全然違う方見とる。
 やがてこちらに視線を向けて、ギョッとした顔をした。

「……なんで泣いとんの」
「泣いとらん」
「えぇ……」

 引くねんけど、と瑛は少しだけ照れたように笑った。
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