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バカな私と新着通知
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なんか無理矢理、大学の時の同級生(しかもセフレっぽい関係だった)の謎彼女にされてしまった。なんなのマジで……
(好きとか言うけどさぁ、全然そんな感じじゃないし)
顔とか無表情じゃん、ほぼ。むしろ無愛想? よくそれで告白してるつもりになれるよね。少しは照れたりしたらいいのに。
(そうしたら──信じられるかも、しれないのに)
そう考えて、慌てて首を振る。振ったついでにパソコンのディスプレイを眺めた。編集中の記事の画面。
大学四回の時にイギリスに留学して、そこでデザインに興味をもって、帰国後転部してデザイン勉強したりしたけれど──できれば書籍デザイナーになりたかった──まぁなかなかそんな仕事はなくって、一度は都内で金融機関に勤めたけれど、やっぱり諦めがつかなかった。
そんな中見つけたのが、神戸のミニコミ誌の編集兼記者兼デザイナー。要は何でも屋。
神戸自体には馴染みがある。大学が芦屋を挟んでお隣の西宮にあったから、ちょいちょい遊びに来ていたのです。おかげでなんとなく──学生時代に戻ったような気分になっていたり──きっとそのせいで、忘れていたはずの楢村くんとあんなことになったんだ。うん、きっとそう。
(まだ感情を引きずってるなんて──ことは、ないはず)
どきりとする。
うん、そう。好きとか言われたけど、ちゃんと折りを見て別れ話を切り出そう。
そうしないと──今度こそ、感情が死んでしまう。
(死んでしまう、か……)
私は目線を上げて、それから取材のメモを見直した。……あった、これだ。
『菌によって菌を殺す』
よくできたものだと思う。
日本酒が発酵する過程で──雑菌は乳酸菌によって殺される。その乳酸菌は、酵母から発生したアルコールで殺菌されて……
ふと思う。
人の感情にも似たところがあるのかもしれない。
私の理性は、いつも恋心によって殺されて──
「道重ちゃーん、入稿できそ?」
先輩の声に現実に引き戻された。
窓の向こうには、梅雨明けの瑞々しい青空。夏の雲が眩しい。
「あ、はい、間に合います!」
記事の色彩を調整しながら返事をする。
先輩はちょっと探るみたいな顔で「なんかあった?」とか聞いてくれるけれど、私は笑って首を振る。変な顔はしていなかった、……よね?
「いえ、なにも?」
「……そ?」
私はもう一回笑ってみせて、またディスプレイに視線を戻す。
写真に写っているのは、やけに整った顔の私の──彼氏(?)になった楢村くん。気難しい顔をして、でも噛み砕いて酒蔵について説明してくれる姿が、目に焼き付いて──なんかいないんだから! やだもう、消えろおおお! なんで鮮明に思い出せちゃうの!? もうやだ!
(でも、なんていうか。働く男の人、だったなぁ……)
お米にもお水にも拘っていて──六甲の花崗岩から浸み出した水にはミネラルが多いこと、それが日本酒作りに向いてるってこと。相性がいいのは、同じ水で育てられたお米だって楢村くんは言う。専門の農家さんと契約してお米を作ってもらっていて──
(……そのお酒を飲ませてくれるっていうから)
ほいほいその言葉にのせられて、気がついたら組み敷かれていた。いや抵抗というか、自分からついていったんだけれど──ほんとに自分が分からない。
楢村くんといると、私は私じゃなくなる。頭の芯が痺れてしまって思考能力がめちゃくちゃ落ちる。
理性は殺されて。
感情が暴走する。
そのせいでセフレみたいにされて──
それが嫌で、逃げたのに。
──まだ私は、彼が好きなんだろうか。あんな風に遊ばれて、辛かったはずなのに。
(……今度は結婚したいだとか、わけわかんないな)
少なくとも私のことを好きなわけではない──と思う。多分。
でもなんかさっきからすごいトークアプリの通知がすごい。連続で送られてきているのは、なにやらデートプランらしい。
『どれがいい? どこ行きたい?』
私は呆れてスマホを見つめる──なに、こいつ。彼女にはマメな男だったわけ? ムカつく!
(……てことは、やっぱり学生時代は遊んでたわけか)
私で。
会うのはウチばっかり。学校終わったら楢村くんが家にいて、すぐ押し倒されて──出かけるのは近くのファミレスとか、なんなら大学の学食とか、それくらい。
(実家が酒蔵なのも、知らなかった──)
当時、私たちはなんの話をしていたっけ? ただ身体を重ねるばかりだった気がする。
(そりゃ、……そっか)
だってセフレだったんだもの。
セックスできれば、それでオーケーだったんだもんね。楢村くんは。
(チョロかっただろうなあ)
もしかして、いまも。
悔しくて胸が黒いモヤでいっぱいになる。同時に「今は」彼女として扱われていることに、喜びを感じてもいて──ああもう、やだ。楢村くん嫌い。感情がめちゃくちゃになるから嫌い。大嫌い。
泣きそうになるから既読無視して、私は原稿に集中する。
その日の夜に既読無視してた楢村くんから鬼電が来る。いい加減無視するのも面倒くさくなって、スマホのディスプレイをタッチした。
『どれが良かった』
「見てない」
『見といて』
ぶっきらぼうに楢村くんはそう言って、通話が切れた。
「……それだけ?」
呆れて、でもそのままスクロールして楢村くんがトークアプリに送ってきてたURLをみる。
大阪にあるアミューズメント施設だの、京都の水族館だの、神戸の美術館だの脱出ゲームだの。
「……どれでもいいや」
どうせお別れ、するんだから。
とりあえず、最後に来てたホラー&ミステリー系な脱出ゲームをリプライして「これ」とメッセージを送る。
送った後で、自分がなんで「それ」を選んだのか分かってしまって、ちょっと悔しくなった。
「ふー……」
アプリは閉じたのに、私はロック画面を見つめたまま。
そうやって新着通知を待っている私は、きっと馬鹿なんだろうと思う。
けれど、それでも、分かっててもなお──ぴろん、って鳴るその音を、心臓を潰しそうになりながら私はじっと待っている。
大嫌いって思いながら、じっと待っている。
(好きとか言うけどさぁ、全然そんな感じじゃないし)
顔とか無表情じゃん、ほぼ。むしろ無愛想? よくそれで告白してるつもりになれるよね。少しは照れたりしたらいいのに。
(そうしたら──信じられるかも、しれないのに)
そう考えて、慌てて首を振る。振ったついでにパソコンのディスプレイを眺めた。編集中の記事の画面。
大学四回の時にイギリスに留学して、そこでデザインに興味をもって、帰国後転部してデザイン勉強したりしたけれど──できれば書籍デザイナーになりたかった──まぁなかなかそんな仕事はなくって、一度は都内で金融機関に勤めたけれど、やっぱり諦めがつかなかった。
そんな中見つけたのが、神戸のミニコミ誌の編集兼記者兼デザイナー。要は何でも屋。
神戸自体には馴染みがある。大学が芦屋を挟んでお隣の西宮にあったから、ちょいちょい遊びに来ていたのです。おかげでなんとなく──学生時代に戻ったような気分になっていたり──きっとそのせいで、忘れていたはずの楢村くんとあんなことになったんだ。うん、きっとそう。
(まだ感情を引きずってるなんて──ことは、ないはず)
どきりとする。
うん、そう。好きとか言われたけど、ちゃんと折りを見て別れ話を切り出そう。
そうしないと──今度こそ、感情が死んでしまう。
(死んでしまう、か……)
私は目線を上げて、それから取材のメモを見直した。……あった、これだ。
『菌によって菌を殺す』
よくできたものだと思う。
日本酒が発酵する過程で──雑菌は乳酸菌によって殺される。その乳酸菌は、酵母から発生したアルコールで殺菌されて……
ふと思う。
人の感情にも似たところがあるのかもしれない。
私の理性は、いつも恋心によって殺されて──
「道重ちゃーん、入稿できそ?」
先輩の声に現実に引き戻された。
窓の向こうには、梅雨明けの瑞々しい青空。夏の雲が眩しい。
「あ、はい、間に合います!」
記事の色彩を調整しながら返事をする。
先輩はちょっと探るみたいな顔で「なんかあった?」とか聞いてくれるけれど、私は笑って首を振る。変な顔はしていなかった、……よね?
「いえ、なにも?」
「……そ?」
私はもう一回笑ってみせて、またディスプレイに視線を戻す。
写真に写っているのは、やけに整った顔の私の──彼氏(?)になった楢村くん。気難しい顔をして、でも噛み砕いて酒蔵について説明してくれる姿が、目に焼き付いて──なんかいないんだから! やだもう、消えろおおお! なんで鮮明に思い出せちゃうの!? もうやだ!
(でも、なんていうか。働く男の人、だったなぁ……)
お米にもお水にも拘っていて──六甲の花崗岩から浸み出した水にはミネラルが多いこと、それが日本酒作りに向いてるってこと。相性がいいのは、同じ水で育てられたお米だって楢村くんは言う。専門の農家さんと契約してお米を作ってもらっていて──
(……そのお酒を飲ませてくれるっていうから)
ほいほいその言葉にのせられて、気がついたら組み敷かれていた。いや抵抗というか、自分からついていったんだけれど──ほんとに自分が分からない。
楢村くんといると、私は私じゃなくなる。頭の芯が痺れてしまって思考能力がめちゃくちゃ落ちる。
理性は殺されて。
感情が暴走する。
そのせいでセフレみたいにされて──
それが嫌で、逃げたのに。
──まだ私は、彼が好きなんだろうか。あんな風に遊ばれて、辛かったはずなのに。
(……今度は結婚したいだとか、わけわかんないな)
少なくとも私のことを好きなわけではない──と思う。多分。
でもなんかさっきからすごいトークアプリの通知がすごい。連続で送られてきているのは、なにやらデートプランらしい。
『どれがいい? どこ行きたい?』
私は呆れてスマホを見つめる──なに、こいつ。彼女にはマメな男だったわけ? ムカつく!
(……てことは、やっぱり学生時代は遊んでたわけか)
私で。
会うのはウチばっかり。学校終わったら楢村くんが家にいて、すぐ押し倒されて──出かけるのは近くのファミレスとか、なんなら大学の学食とか、それくらい。
(実家が酒蔵なのも、知らなかった──)
当時、私たちはなんの話をしていたっけ? ただ身体を重ねるばかりだった気がする。
(そりゃ、……そっか)
だってセフレだったんだもの。
セックスできれば、それでオーケーだったんだもんね。楢村くんは。
(チョロかっただろうなあ)
もしかして、いまも。
悔しくて胸が黒いモヤでいっぱいになる。同時に「今は」彼女として扱われていることに、喜びを感じてもいて──ああもう、やだ。楢村くん嫌い。感情がめちゃくちゃになるから嫌い。大嫌い。
泣きそうになるから既読無視して、私は原稿に集中する。
その日の夜に既読無視してた楢村くんから鬼電が来る。いい加減無視するのも面倒くさくなって、スマホのディスプレイをタッチした。
『どれが良かった』
「見てない」
『見といて』
ぶっきらぼうに楢村くんはそう言って、通話が切れた。
「……それだけ?」
呆れて、でもそのままスクロールして楢村くんがトークアプリに送ってきてたURLをみる。
大阪にあるアミューズメント施設だの、京都の水族館だの、神戸の美術館だの脱出ゲームだの。
「……どれでもいいや」
どうせお別れ、するんだから。
とりあえず、最後に来てたホラー&ミステリー系な脱出ゲームをリプライして「これ」とメッセージを送る。
送った後で、自分がなんで「それ」を選んだのか分かってしまって、ちょっと悔しくなった。
「ふー……」
アプリは閉じたのに、私はロック画面を見つめたまま。
そうやって新着通知を待っている私は、きっと馬鹿なんだろうと思う。
けれど、それでも、分かっててもなお──ぴろん、って鳴るその音を、心臓を潰しそうになりながら私はじっと待っている。
大嫌いって思いながら、じっと待っている。
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