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花火(昴成視点)
……デートってわけじゃない! ってあれだけ言うてた瀬奈やのに、花火大会当日──待ち合わせの地下鉄の改札に、バッチリ浴衣で現れてくれた。
ほんまに瀬奈はいちいち俺のツボをついてて俺は倒れ込みそう。
花火大会前の激混みしてる人波の中、浴衣姿の瀬奈はキラキラ輝いて見えて──
(……あー、分かった)
瀬奈は可愛さで俺を殺す気や。いやマジで。
(なんなん!)
可愛くセットしてある髪とかぐちゃぐちゃにしながら匂い嗅いで押し倒してめちゃくちゃに抱きたい気持ちをグッとこらえる。
いやなんでこう可愛いんや……
「──可愛い」
ぽろっと言葉が勝手に零れた。目ん玉が飛び出そうなくらいに目を見開いた瀬奈の頬は、りんご飴並に紅い。
「──っ! ち、違う、楢村くんのために着てきたわけじゃないんだからっ」
どうやら俺のために着てきてくれたらしい。手でパタパタ自分扇いどる。
あー、クソ可愛いんやけどこれどうしたらええんや……
「瀬奈」
「な、なに!」
「好き。可愛い。めっちゃ好き」
瀬奈の頬だけじゃなくて額だとか耳だとか、とにかく全部が真っ赤に染まる。そのままシオシオと瀬奈は俯いた。
「なんでそんなこと言うの……」
「本心やから」
「嘘」
「嘘やない」
ああ──
俺はほんまに昔の俺をブチ殺さなあかんと思う。
瀬奈は泣きそうな顔で俺を見上げる。潤んだ瞳。
俺はどんだけこの人を傷つけたんやろ。自分勝手な愛情──もどきで、初めてできた恋人に頭がいっぱいで、思いやる余裕なんかなくて。
(──ブチ殺す)
そう、殺す。瀬奈の中にいる、昔の俺を。
「ほんまに瀬奈のこと好き」
「だ、からっ──」
「愛しとる」
瀬奈の左手を取って、その薬指に唇を押し当てる。
「結婚してくれ」
「──っ、も、もうっ、……い、行こう! かき氷売り切れちゃうからっ」
「売り切れるわけないやん」
「売り切れちゃうのっ!」
ズンズン歩いて行く瀬奈の右手は、ぎゅっと俺の左手を握りしめて──いて。
(う、わ)
心臓が爆発しそうに痛い。なんなん。なんなんこれ。嬉し可愛い。やば。
(瀬奈から手を繋いでくれた──!)
からんころんと瀬奈の下駄の音が鳴る。髪が纏められてるせいで思いっきり晒されてる瀬奈のうなじ──その雪みたいな肌が、血の色を透かしてほんのり赤い。
(あー、理性ブチ切れそう)
瀬奈の手を引いて、抱き寄せる。そのまま柱の影に連れ込んだ。
「な、楢村くん?」
蜜に吸い寄せられる虫みたいに、自然にそのうなじに唇が寄る。ちゅ、と触れるだけのキスをしたあと──強く吸い付いた。
「っ、あぅ」
瀬奈が甘えた声を上げる。俺は嗜虐的な喜びに腰が甘く疼いた。
「待っ、待って」
煽るだけのそんな台詞は無視して、ついでに軽く甘噛みをした。繋いだ手に力が入る。
「はぁ……っ」
瀬奈のうなじから唇を離す。うなじにハッキリと残ったキスマーク。ちょっと満足して見つめていると、瀬奈が唇をもにゃもにゃとさせながら俺を睨む。
「っ、も、もう……っ! ひ、人前で何すんのっ」
「……人前やなかったらいいん?」
「そ、そういう問題じゃな……ひゃん!」
真っ赤になって文句を言う瀬奈が可愛すぎて、ついでに首筋にもキスをした。
「も、バカ……っ」
瀬奈の声はめちゃくちゃエロいけど、そろそろガチで怒られそうなのでやめる。顔見ると花火も見ずにラブホ連れ込みそうやから、まっすぐ前だけ向いて瀬奈の手を引いた。
花火は綺麗やった(──と思う)。全く記憶にないのは、チラチラ横目で瀬奈を見ていたせい。
花火を見上げる瀬奈はほんまに可愛かった。ほんの少し開いた唇。綺麗な瞳に、色とりどりの花火が反射して──
ぱっと花開いた、輝く炎の粒──ほんの少しの時間差で、火薬の音がして。解けていく、夏の花。
(あー)
来年も一緒に見れたらなあ。
握りしめていた、瀬奈の手をさらに強く握る。
瀬奈の指先が、少し迷ったように揺れてから──握り返して、くれて。
「瀬奈」
「な、なに!?」
「──好き」
溢れてきた正直な感情を言葉にすれば、瀬奈は真っ赤になって俯いた。
どん、と花火の音がする。
瀬奈は何かを言いかけたよう、だった。
「──ごめん、花火で聞こえんかった。なんて?」
「……っ、な、なんでもないっ」
瀬奈はそう言いながら、また視線を空に向けた。
祭りが終わる喧騒のなかを、なんだか無言でふたりで歩く。
生温い人熱、どこか気怠い喧騒が続いて行く。夏の虫がじいじいと鳴いて、潮風が夏の夜を包み込んで吹き抜けた。
「……あのさ」
瀬奈がぽつり、と口を開く。
「エリ、さんって」
俺は瀬奈の唇から零れた、他の男の名前に明瞭と苛立つ。
「──エリがどないしたん」
低くなった声に、瀬奈がびくりと俺を見上げた。
──いや俺、余裕なさすぎやろ。
「や、その……仲良いのかな、って」
「良くない」
「え、あ、そう……なの? でもイトコなんでしょう」
「なんで急にエリの話になったん」
「あ……」
瀬奈は小さく首を傾げて、それから曖昧に笑った。
「なんでも、ないよ。ちょっと気になった──だけ」
「気になるってなに」
息苦しい。
エリは、──エリは目立つ。
ハーフということを差し引いても顔立ちが整っとる方やし──そもそもエリの立場で杜氏を目指すというのは珍しいから、いままでもメディアの取材を受けたことはある。
そういうので、瀬奈がエリを見かけたこともあるんやろうか。エリ目当てで見学にくる人らもおるくらいや。
(……瀬奈も、もしかしたら)
石を飲み込んだような感覚になって、ただ瀬奈を見下ろす。なんでウチに取材決めたん? エリがおるから?
嫉妬で頭がぐちゃぐちゃになりながら、駅まで向かうし瀬奈を家まで送る。道中、どんな話をしていたんか記憶にないし話なんかしとらんかったんかもしれん。
玄関先で瀬奈を押し倒す。
ひんやりした廊下。玄関のぼんやりした照明に、組み敷いた瀬奈がただ戸惑いの表情を浮かべた。
「楢村、くん。どうしたの……」
「……なあ瀬奈。エリのこと、知っとったん?」
ほんまに瀬奈はいちいち俺のツボをついてて俺は倒れ込みそう。
花火大会前の激混みしてる人波の中、浴衣姿の瀬奈はキラキラ輝いて見えて──
(……あー、分かった)
瀬奈は可愛さで俺を殺す気や。いやマジで。
(なんなん!)
可愛くセットしてある髪とかぐちゃぐちゃにしながら匂い嗅いで押し倒してめちゃくちゃに抱きたい気持ちをグッとこらえる。
いやなんでこう可愛いんや……
「──可愛い」
ぽろっと言葉が勝手に零れた。目ん玉が飛び出そうなくらいに目を見開いた瀬奈の頬は、りんご飴並に紅い。
「──っ! ち、違う、楢村くんのために着てきたわけじゃないんだからっ」
どうやら俺のために着てきてくれたらしい。手でパタパタ自分扇いどる。
あー、クソ可愛いんやけどこれどうしたらええんや……
「瀬奈」
「な、なに!」
「好き。可愛い。めっちゃ好き」
瀬奈の頬だけじゃなくて額だとか耳だとか、とにかく全部が真っ赤に染まる。そのままシオシオと瀬奈は俯いた。
「なんでそんなこと言うの……」
「本心やから」
「嘘」
「嘘やない」
ああ──
俺はほんまに昔の俺をブチ殺さなあかんと思う。
瀬奈は泣きそうな顔で俺を見上げる。潤んだ瞳。
俺はどんだけこの人を傷つけたんやろ。自分勝手な愛情──もどきで、初めてできた恋人に頭がいっぱいで、思いやる余裕なんかなくて。
(──ブチ殺す)
そう、殺す。瀬奈の中にいる、昔の俺を。
「ほんまに瀬奈のこと好き」
「だ、からっ──」
「愛しとる」
瀬奈の左手を取って、その薬指に唇を押し当てる。
「結婚してくれ」
「──っ、も、もうっ、……い、行こう! かき氷売り切れちゃうからっ」
「売り切れるわけないやん」
「売り切れちゃうのっ!」
ズンズン歩いて行く瀬奈の右手は、ぎゅっと俺の左手を握りしめて──いて。
(う、わ)
心臓が爆発しそうに痛い。なんなん。なんなんこれ。嬉し可愛い。やば。
(瀬奈から手を繋いでくれた──!)
からんころんと瀬奈の下駄の音が鳴る。髪が纏められてるせいで思いっきり晒されてる瀬奈のうなじ──その雪みたいな肌が、血の色を透かしてほんのり赤い。
(あー、理性ブチ切れそう)
瀬奈の手を引いて、抱き寄せる。そのまま柱の影に連れ込んだ。
「な、楢村くん?」
蜜に吸い寄せられる虫みたいに、自然にそのうなじに唇が寄る。ちゅ、と触れるだけのキスをしたあと──強く吸い付いた。
「っ、あぅ」
瀬奈が甘えた声を上げる。俺は嗜虐的な喜びに腰が甘く疼いた。
「待っ、待って」
煽るだけのそんな台詞は無視して、ついでに軽く甘噛みをした。繋いだ手に力が入る。
「はぁ……っ」
瀬奈のうなじから唇を離す。うなじにハッキリと残ったキスマーク。ちょっと満足して見つめていると、瀬奈が唇をもにゃもにゃとさせながら俺を睨む。
「っ、も、もう……っ! ひ、人前で何すんのっ」
「……人前やなかったらいいん?」
「そ、そういう問題じゃな……ひゃん!」
真っ赤になって文句を言う瀬奈が可愛すぎて、ついでに首筋にもキスをした。
「も、バカ……っ」
瀬奈の声はめちゃくちゃエロいけど、そろそろガチで怒られそうなのでやめる。顔見ると花火も見ずにラブホ連れ込みそうやから、まっすぐ前だけ向いて瀬奈の手を引いた。
花火は綺麗やった(──と思う)。全く記憶にないのは、チラチラ横目で瀬奈を見ていたせい。
花火を見上げる瀬奈はほんまに可愛かった。ほんの少し開いた唇。綺麗な瞳に、色とりどりの花火が反射して──
ぱっと花開いた、輝く炎の粒──ほんの少しの時間差で、火薬の音がして。解けていく、夏の花。
(あー)
来年も一緒に見れたらなあ。
握りしめていた、瀬奈の手をさらに強く握る。
瀬奈の指先が、少し迷ったように揺れてから──握り返して、くれて。
「瀬奈」
「な、なに!?」
「──好き」
溢れてきた正直な感情を言葉にすれば、瀬奈は真っ赤になって俯いた。
どん、と花火の音がする。
瀬奈は何かを言いかけたよう、だった。
「──ごめん、花火で聞こえんかった。なんて?」
「……っ、な、なんでもないっ」
瀬奈はそう言いながら、また視線を空に向けた。
祭りが終わる喧騒のなかを、なんだか無言でふたりで歩く。
生温い人熱、どこか気怠い喧騒が続いて行く。夏の虫がじいじいと鳴いて、潮風が夏の夜を包み込んで吹き抜けた。
「……あのさ」
瀬奈がぽつり、と口を開く。
「エリ、さんって」
俺は瀬奈の唇から零れた、他の男の名前に明瞭と苛立つ。
「──エリがどないしたん」
低くなった声に、瀬奈がびくりと俺を見上げた。
──いや俺、余裕なさすぎやろ。
「や、その……仲良いのかな、って」
「良くない」
「え、あ、そう……なの? でもイトコなんでしょう」
「なんで急にエリの話になったん」
「あ……」
瀬奈は小さく首を傾げて、それから曖昧に笑った。
「なんでも、ないよ。ちょっと気になった──だけ」
「気になるってなに」
息苦しい。
エリは、──エリは目立つ。
ハーフということを差し引いても顔立ちが整っとる方やし──そもそもエリの立場で杜氏を目指すというのは珍しいから、いままでもメディアの取材を受けたことはある。
そういうので、瀬奈がエリを見かけたこともあるんやろうか。エリ目当てで見学にくる人らもおるくらいや。
(……瀬奈も、もしかしたら)
石を飲み込んだような感覚になって、ただ瀬奈を見下ろす。なんでウチに取材決めたん? エリがおるから?
嫉妬で頭がぐちゃぐちゃになりながら、駅まで向かうし瀬奈を家まで送る。道中、どんな話をしていたんか記憶にないし話なんかしとらんかったんかもしれん。
玄関先で瀬奈を押し倒す。
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