人生和歌集 -風ー(1)

多谷昇太

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風吹かず…止みて終わるか?

怖いぞ人間止めるぞ

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苦しきは胃カメラ飲みに内視鏡身もて知らるる不摂生の報い
※「ほら、こっから先行かないよ」とばかり面白げに(?)ドクターが助手に云う。必死で飲み込んだ胃カメラの先をトントンとばかり私の内臓に出来た異物に打ちつけながら。専門的な用語はわからないがどうも膵頭部とか云うあたりにガンの塊り、細胞群があって内視鏡のそれ以上の進行を止めているようだ。打ちつけられる度に痛く、吐き気をもよおす。拷問そのものでありうめき声やら態度でそれを訴えるが医者は「うん、うん」と肯くばかりで、どこかさらなるカメラの進入可能口はないかと探しているようだ…。この胃カメラや内視鏡検査など本当に「苦」そのもので、今までの不摂生を、日60本の喫煙やら過食・暴食を後悔しまくるが、その一方で誰からも、何の助けも得られなかった、あの、悲惨なストーカー災禍を受けまくったせいなんだあ…と心中で絶叫する自分もいたのです。しかしその反動をなぜ、〝わが肉体〟で受けねばならなかったのか、そこにぶつけねばならなかったのか…そのことを、「おのれの弱さ」こそを逆に肉体から詰問されているような塩梅でもあったのでした。

人仕舞ひ終(つい)はこれかよ重病棟痛いぞ怖いぞ人間止めるぞ
※審査腹腔鏡という検査、というか手術(レベル)を受ける為に重病棟内の手術室に入りました。腹に小さな穴を開けてそこから内視鏡を入れて腹腔内を探るのですが、その折の肉体的苦痛やら、恐怖するみっともない様をこう詠んだ次第。

こや重病棟(ここ)にまたも来むとは思はねどあざなふ縄の終りに来べし
※隣にICUやらまた霊安室までもが遠からぬ所にあった(と記憶しているが定かではない)ような重病棟の雰囲気は怖いし、嫌だった。しかし誰でもいつかここに来るんだなあと、いや、いま来たんだなあと実感したことでした。

湯島なる梅は咲くらむ病床ゆ我魂(わがぐ)いざなへ白梅太鼓
※重病棟から一般病棟にもどることが出来て、改めて今の季節を思い出したかのようにこう詠んだ。湯島天神の白梅太鼓が好きだったのです…。

いつの世も東大生らはともしかり湯島キャンパスお蔦・主税ぞ
※ほんと東大キャンパスはいい所にあって、劇団新派がそこにまつわるいい劇をつくったものです。「お蔦、俺と別れちゃくれまいか」「別れろ切れろは芸者の時に云うことば…」日本の主役となるべき彼ら東大生らはこの悲恋話を心の糧として、それぞれの学問やら立身出世の核としていただきたい。

               【湯島の白梅】
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